表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/8

5 女騎士編②

カン、と乾いた音が鍛錬場に響いた。

わざわざ見にきていたギャラリーたちも、誰も何も言葉を発しなかった。


「さあ、これで約束通り諦めてくれるね」


息一つ乱さずに、サリエル様が笑った。



その試合は、放課後に早速行われることになった。事故防止ということで木剣を使い、剣術の先生の監督のもと行われた。


向き合ってしばらくは無言の時間が続いた。誰もが息を呑んだ瞬間のこと。私には、どちらも同時に動いたように見えたけれど、その一瞬の間にサリエル様の木剣がイベリア様の剣を弾いた。

カラカラと、剣がギャラリーとは反対方向に飛んでいった。

信じられない、という顔をするイベリア様に、剣術の先生が深くため息を吐いた。


「勝てるわけないだろう。サリエル殿下の師は前騎士団長だぞ」

「前騎士団長……!?」


イベリア様が目を丸くした。それには私も、驚いてしまった。

前騎士団長といえば、歴代最強と言われているお方だ。今は隠居されていると聞くけれど、退くその日まで、誰にも負けることはなかったという。そんな人が、サリエル様を、教えていたなんて。


「……殿下は、手加減されましたね」


悔しげに顔を歪めて、イベリア様が言う。サリエル様が困ったように眉を下げた。


「令嬢相手に怪我をさせるわけにもいかないからね」

「っ、私は騎士です!」

「わかっているよ。でもそれと同時に、マルコット侯爵家の令嬢でもあるだろう」


確かに、いくら騎士だとはいえ、貴族家の令嬢としていつかはどこかの家に嫁ぐことになるだろう。傷をつけるわけにはいかない。

だからこそサリエル様は、木剣を一撃で飛ばすことで、勝負をつけたのだ。


「何故……、貴女様の横に立てるのは、お飾りではなく、強い者であるべきなのに……!」


納得がいかないのか、イベリア様が拳を握る。ギャラリーはざわざわと、その様子を窺っていた。

ふう、とため息を一つ吐く。私も、言われっぱなしではいられない。


「お言葉ですが、イベリア様」

「……なんでしょう、ブリーゼ様」

「私は幼い頃から厳しい王太子妃教育を受けてまいりました。そこで、この国を、そしてサリエル様を守るものは武力だけではないと学びました」

「何が言いたいのですか」


訝しげに睨まれる。その迫力に、負けそうになる心を奮い立たせた。


「王太子妃、ひいては王妃というものは、外交や内政、そしてその身で産む子によって国の繁栄を守るのです。その身を挺して守るなど、あってはならないのです」

「……!」


王太子妃として学んだこと、それは、この国の繁栄のために国王となられる王太子、サリエル様を支えるということだった。王太子妃は外交を任される。国内の貴族夫人たちを束ねなければならない。そして、子を産むことにより未来にバトンをつないでいくのだ。

身を挺して王太子殿下を守り、自らは傷付き動けなくなることなど、あってはならない。


「独りよがりで、ただ武力のみを誇る貴女は、王太子妃に相応しいのでしょうか」


私の言葉に、イベリア様が息をのんだ。

それから、ふらり、と立ち上がる。私よりも高い身長を見上げれば、また、目が合った。


「……私は、間違っていたのでしょうか」

「王太子殿下をお守りしたいという気持ちは、間違っていなかったと思います」

「そうか……」


くるりと踵を返して、イベリア様がサリエル様のところに向かった。そしてその前で、今朝のように跪いた。


「大変失礼しました。……私はまだまだ未熟者でした」

「騎士として、素晴らしい気概だと思ったよ」

「これからは臣下として、殿下と、……そして、王太子妃となられるブリーゼ様をお守りするべく、鍛錬を積みます」

「ああ、お願いするよ」


その言葉に、ギャラリーからぱちぱちと拍手が起こった。勝負が、ついた。

私はほっと息をつく。やっぱり、緊張していたのだろう、肩の力が抜けたような感覚がした。


「ブリーゼ」

「サリエル様、お疲れさまでした」

「ありがとう。心配かけてごめんね」

「いえ、……はい、心配、しました」


サリエル様は思慮深い方だから、こんな大事なことを勝算なくされる方じゃない。それはわかっている。でも、不安になるのはどうしようもなかった。


「ごめんね、ブリーゼ」


ふわ、とサリエル様の手が、私の髪を撫でた。


「君のことを言われて、我慢が出来なかったんだ」

「サリエル様……」

「さっきの言葉、とても嬉しかったよ。……彼女も、君を認めてくれたみたいだ」


さっきの、言葉。

王太子妃教育を受けてきてよかった、と思った。私には取り立てて誇れるような特技はないけれど、サリエル様の隣に立って、いずれは国を発展させていきたいという気持ちは誰にも負けない自信がある。


「……はい、これからも、頑張ります」

「ああ、僕も、君に相応しくあれるよう頑張るよ」


二人で視線を合わせて、どちらともなく笑った。

これからも、サリエル様の隣を歩いていきたいと、強く思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ