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12 優等生編③

「それ、前回の授業でやってましたよ」


「基本の公式も忘れちゃったんですか?」


「はあ、ブリーゼ様って意外と『忘れん坊さん』なんですね」


——嫌味、嫌味、嫌味のオンパレード。

あの図書館の一件以来、私を目の敵にしているらしく、勉強をしているときに現れてはそんなことを言って去っていく。ツンデレってこういうものだったかしら、と思うときもあるけれど、さすがに私だって鬱憤が溜まっていく。


一度サリエル様が注意をしようとしてくれたことがあったけれど、それは私が止めた。サリエル様に守ってもらっても、きっとあれはなくならないだろう。成績で見返さねばならない。私はいっそう魔法学の勉強に努めた。


「大丈夫かい、ブリーゼ、僕が言い出したことだけれど、無理はしていない?」

「いいえ、大丈夫です。私たちで上位を占めましょう、サリエル様」

「……ふふ、そっか。じゃあ僕も頑張らないと」


放課後の教室で、二人で勉強をしながらそんな話をした。サリエル様はきっと一位を取られる。だから、そのすぐ下に名前を並べたい。そう思えばこそ、勉強を頑張れた。


もちろん、魔法学以外の勉強も怠らなかった。どうせなら、いつも以上に頑張って、それらの成績も上げて、文句なしにジュディ様に勝ちたいという気持ちが芽生えていた。

そんなある日のことだった。


「う~ん……」


図書室に魔法学の参考書を借りにいったときのこと、端のほうのテーブルで頭を抱えているジュディ様の姿を見つけた。どうしたのかしら、と少し近づいてみると、どうやら先日出された薬学の課題で悩んでいるようだった。


「……そちらの答え、【月光草】と【火蜥蜴の血】の精製手順が逆ですね」

「えっ、ブ、ブリーゼ様?」

「月光草は冷却作用が強いので火属性である火蜥蜴と一緒に煮出すと成分が壊れてしまうって授業で習いました」

「う、えっと」

「ですから、先に火蜥蜴の血を精製してから、最後に月光草の抽出液を混ぜるのが正解ですね」


ちょうど昨日終わった課題だったし、薬学は得意な方なので意趣返しのつもりで声を掛けた。

嫌味な、と怒られるかと思っていたけれど、ジュディ様の反応は私の予想していないものだった。


「う、その、あの、……ありがとう、ございます」


小さく、本当に小さく、ジュディ様が私に対してお礼を言った。思わず耳を疑う。耳まで真っ赤にして、うつむきながら。それは、本当に、なんといか、……可愛らしかった。

プレイヤーから「子リスちゃん」なんて言われるのも納得である。


「ええと、いえ、お力になれて何よりです」


私が答えると、ジュディ様は、ハッとしてから教科書とノートをばさばさとかき集めて立ち上がった。


「で、でも、魔法学じゃ負けませんからっ……!」


そう言い捨てて走って行ってしまった。図書室の入り口辺りで躓いているのが見えた。なんというか、憎めないところのある人だと、そう思った。



その出来事から数日後、期末試験が行われた。今回は特に力を入れて勉強したからどの教科も自信があったけれど、問題は魔法学の成績だった。自分の成績ももちろん気になるけれど、サリエル様に一番になってほしいという気持ちが強かった。

それはジュディ様のルートに入ってほしくないという気持ちもあるけれど、それよりも、あんなに勉強を頑張っていたのだから、結果に表れてほしいと思ってしまう。


「ブリーゼ、結果が出たそうだよ」

「はい、見に行きましょうか」


試験からさらに数日が経って、各教科の成績表が貼りだされる日になった。昼休みになって、サリエル様と一緒にホールに向かう。

そこにはすでに人だかりができていて、それぞれが悲喜こもごもの表情を浮かべていた。

少しだけ人がばらけるのを待っていると、その人だかりからジュディ様が出てきた。結果はどうだったのだろう、と思ったけれど、その表情で察してしまった。

ジュディ様は、泣きそうな顔をしていた。


「さあ、確認しようか」


サリエル様と一緒に、掲示板を見る。各教科の成績を確認して、それから、最後に魔法学。その成績表の一番上には、サリエル様の名前があった。ほっと、息を吐く。


「サリエル様、おめでとうございます」

「うん、ありがとう。でもブリーゼもおめでとう、だよね」

「え?……あっ」


指を差された方を見ると、サリエル様の名前のすぐ下に、私の名前があった。順位は、二番。そして、その下にジュディ様の名前。順位は、同じく二番だった。


「君たちは同点だったみたいだね」

「そう、みたいですね……」


そう言って、サリエル様はちらりとジュディ様を見た。俯いているけれど、泣いているかどうかはわからなかった。


「さて、ジュディ嬢、結果が出たみたいだけど」

「っ……、わ、私の負けです……」

「そうだね。さて、僕が勝ったのだから、お願いを聞いてもらってもいいかな?」


サリエル様が言った。お願い、なんて何を言うつもりなのだろう。首を傾げていると、笑顔のサリエル様と目が合った。


「ブリーゼに失礼なことを言ったのを謝ってもらおうか」

「えっ」

「えっ」

「テスト期間は随分とお世話になったからね」


それは予想外のことで、私もジュディ様も同時に声がでた。私に謝ってほしい、だなんて。そんなことをずっと考えてくださっていたのだろうか。胸がきゅう、となる。嬉しい。


「あの、サリエル様、私なら大丈夫ですから」

「だめ。ブリーゼは優しいから許すだろうけれど、僕が嫌なんだ」


確かに当たりの強さに辟易としていたけれど、私もそれなりにやり返していたし、途中からはどこか可愛らしさを感じてしまう自分も居た。でもそれを、折角私のためにと言ってくださっているサリエル様には言えない。


「も、申し訳、ありませんでしたっ……」


ぎゅう、とスカートを握って、また泣きそうな顔をするジュディ様に一歩近づく。


「謝罪を受け入れます。……今度は、普通に魔法学を教えてくださいね」


ハンカチを差し出すと、ジュディ様はそれを恐る恐る手に取って、それから「ブリーゼ様……」と小さく呟いた。


「はい、どうしました」


名前を呼ばれたのかと思って返事をすると、ばっとジュディ様が顔をあげた。その目は、きらきらと輝いている。え、と思ったのと同時に、サリエル様が「あ」と言った。


「ブリーゼ様にならっ、勉強、教えて差し上げてもいいですよっ!」

「……それは、ありがとうございます」

「その代わり、ほかの教科もまた教えてくださいね!」


ぎゅう、と腕にジュディ様が抱き着いてくる。……まさか、こんな展開になるなんて。私の横でジュディ様はまるで猫のようにニコニコと笑っているし、それを見てサリエル様が、また笑っている。……機嫌の悪い方の、笑顔で。


「ジュディ嬢、僕の婚約者から離れてくれるかな」

「いやです。ブリーゼ様、私たち、二位でお揃いですねっ」


サリエル様に対する態度が、もはやツンではなく、そっけなくなってしまった。

これでジュディ様ルートは潰れたということでいいんだろうけれど、本当に何もかもが予想がつかないことばかりだ。


最高学年になってシナリオが始まって、ヒロインたちがそれぞれサリエル様を好きになっては、ことごとくルートが潰れてきた。

きっと最後のヒロインが来ても、大丈夫。今までと同じように、サリエル様といれば何も大きな問題はない。


そう、信じていた。


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