11 優等生編②
試験前の図書室は、テスト勉強をする生徒でにぎわっている。試験前ということもあって、多少の騒がしさは許されているのか、特に司書の先生も注意をする様子はなかった。
私とサリエル様も、勉強をするために図書室に来ていた。魔法学だけじゃなく、他の教科もまんべんなく勉強しようとすると、到底時間が足りない。だからさっそく取り組もうとしていた。
「アルベルトさまあ、ここわかんないです~」
「ああ、ここは……」
「わかりやすい!さすがアルベルトさま!」
しかし、先ほどから集中力はだいぶ削がれていた。なぜか私たちの前に座る二人によって。
アルベルト様はサリエル様の側近として今もおそばに居るけれど、ランチの時間や放課後は離れることもあるようになった。それはサリエル様も承知のことで、むしろ「四六時中一緒なんて息が詰まるよね」なんて言っていたほどだ。
ではサリエル様のおそばに居ないときは何をしているのか。これがその答えである。
「二人は本当に仲がいいね」
サリエル様がにこにこと微笑んでいる。これは、あまりご機嫌のよくないときの表情だ。それに気づいたのか、アルベルト様の表情がさっと変わる。短期間一緒に居ただけで、その表情変化に気付いたらしい。さすがサリエル様が選んだお方だ。
妙な感心をしていると、アルベルト様が慌ててキャンディ様に「もう少し声を抑えよう」と言った。
「はあい!」
可愛らしい笑顔を浮かべて、キャンディ様が元気よく返事をした。そういうお方なのだろう。悪気はないらしい。アルベルト様はまた顔色を悪くしたけれど、サリエル様は諦めたのか、教科書を開いてこちらを見た。
「大丈夫かい、ブリーゼ。騒がしいのが苦手なら場所を変えるけれど」
「いいえ、大丈夫です、サリエル様こそ集中できないのでは?」
「僕は大丈夫。ブリーゼが問題ないのなら、このままここで勉強しよう」
そう言ってくださるサリエル様に頷いて、私も教科書を開いた。どの教科も、どちらかといえばいい方ではあるのだけれど、トップを取れるほどではない。サリエル様は「王太子妃教育もあるから」と優しく言ってくれるけれど、可能ならば、彼と並んでも遜色ない成績を取りたい、と思う自分も居る。
今回はいい機会だ。自分にできることを頑張ろう、と目標を決めて勉強に取り組むことにした。
「……あの、サリエル様、ここなんですけど……」
魔法学の問題でわからないところがあって、隣に座るサリエル様に声をかけた。その瞬間、後ろから鋭い声が飛んできた。
「そんな問題もわからないんですか?」
「え……?」
私のノートをのぞき込みながら、わざとらしくため息を吐くジュディ様に呆気にとられる。私とジュディ様は面識がない。つい先日、サリエル様に宣戦布告したときだって、私など眼中にないような態度だった。
それが今は、椅子に座る私を見下ろしながら、これでもかというほどに呆れた顔をしている。
「教科書を見たらわかるじゃないですか、答えは記録魔法と飛行魔法の応用です」
「あ、ありがとうございます」
「成績が良くないと、勉強の効率も悪くなるんですか?」
「……はい?」
ふん、と鼻を鳴らして言うジュディ様に言葉を失う。あまりにも、あたりが強すぎないだろうか。たしかにジュディ様ルートにおいて彼女がデレるまではだいぶツン要素が強いとは言われていたけれど、それが私に発揮されるとは夢にも思わなかった。いざ言われると、結構胸に来るものがある。
「……ジュディ様、魔法学以外の成績はいかがですか?」
「えっ」
「私、自分より上の成績の方は把握しています。今回、魔法学以外でそのお名前を見かけなかったような気がします。気のせいでしょうか」
こちらもわざとらしく嫌味を言う。魔法学以外のジュディ様の成績は、中の上から上の下ほどだ。しかし魔法学が大変秀でているということで、彼女は成績優秀な優等生として通っている。サリエル様ほどではないけれど。
それを突くのは性格が悪いことだという自覚はある。しかし、サリエル様の婚約者として、言われっぱなしではいられないのだ。
「う、う……っ、ま、魔法学ではわたしより下じゃないですか……!」
「そうですね、ですから今勉強をしている最中です。邪魔をされてしまいましたが」
「う~~……!そんなことしたって、無駄なんですからねっ!私に勝てるわけないんですからッ!」
そう言い捨てて、ジュディ様は図書室から出て行ってしまった。どうしてこうも、「君花」のヒロインは猪突猛進なのだろう。
それにしても少々言い過ぎたかしら、と思っていると、隣のサリエル様がお腹を抱えて、かみ殺すように笑っていた。
「……サリエル様、笑いすぎです」
「ごめん、……ふふっ、君があんなふうに貴族然とした態度をとるなんて中々ないからね。ふ、ふふ、いいものを見させてもらったよ」
「少し言い過ぎました。反省します」
「いや、いいよ。彼女も言い過ぎだったからね」
ああおかしい、とサリエル様は目じりに浮かんだ涙を拭って、また教科書に向かった。
「わからないことはいつでも聞いていいからね」
「はい、……ありがとうございます」
優しい笑みに、とげとげしていた気持ちが凪いでいく。結局、サリエル様の一言で私は一喜一憂してしまう。
勉強に戻ろうと体勢を戻すと、アルベルト様とキャンディ様が驚いたようにこちらを見ていた。
「すっごおい、ブリーゼ様って、あんな言い方できるんですね!かっこいい!」
「さすがはサリエル様のご婚約者ですね」
「……ありがとうございます」
一応は、誉め言葉として受け取っておこう。




