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グルメ猫ファンタジー  作者: 万年亀
第九話 カジノ船の依頼

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ビュッフェエリア

食事描写少なくてごめんな。

スフィア、ブル、そしてマーガレットの三人が向かった先は、カジノエリアの隣に設けられた広大なビュッフェスペースだ。


高い天井には天窓があり、そこから陽の光がのぞいている。

穏やかなピアノの生演奏が流れる空間には長いテーブルがいくつも並び、その上には所狭しと料理が並べられていた。


「スゲー!」


スフィアの目がカジノで『777』を見た時以上に輝く。


ここにあるのはコインではない。

すべてが食べ物だ。


ローストビーフの山、氷の上に鎮座する新鮮な魚介類、色とりどりの果実、湯気を立てるスープの大鍋。

まさに食の宝庫である。


マーガレットが、まるで自分の庭を案内するかのように言う。


「これは全部、好きなものを好きなだけ取って食べていいぞ。ビュッフェエリアの入場料に含まれているからな」


「マジ!?」


「食べ放題!? ルール無し!?」


スフィアはもちろんとして、ブルもまた興奮で鼻息を荒くする。

普段の食堂では懐具合と相談しながら注文するが、ここには制限がない。


「強いて言えば、食べきれる分だけ取るのがマナーだ。残飯にはするなよ? 料理人への冒涜になるからな」


「わかった! 俺、食いもん残したことねえし!」


「ようし、食べるぞ! いただきまーす!」


二人は大皿を手に取り、料理の海へと突撃していった。


「ふふ、食い意地の張ったやつらだ」


マーガレットは苦笑しつつ、自分用の小皿にチーズとオリーブ、そして年代物の赤ワインを注ぎ、窓際の席に腰を下ろした。


――数分後。


スフィアとブルが席にやってきた。

その手には、皿からこぼれ落ちんばかりの山盛りの料理が乗せられている。


スフィアの皿は肉と魚のオンパレードだ。

香草と共に焼き上げられた羊の腿肉、バターソースが絡んだ白身魚のソテー、肉汁滴る厚切りのステーキ。


野菜の緑色はほとんど見当たらない。

まさに肉食獣の晩餐である。


一方、ブルの皿は打って変わって緑一色。

山盛りのシーザーサラダ、温野菜の盛り合わせ、カボチャのグリル、そしてキノコの香草焼き。


草食獣としての本能に従ったチョイスだが、その量は半端ではない。


「おいおい……食べきれるのか?」


流石のマーガレットも目を丸くするが、スフィアたちは意に介さない。


「大丈夫だ!」


スフィアが骨付き肉にかぶりつく。

ガツガツという擬音が聞こえてきそうな勢いだ。


「平気です! 野菜は別腹なんで!」


ブルも大きなフォークでサラダをすくい、口へと放り込む。

シャキシャキと新鮮な野菜が咀嚼される音が響く。


「ならいいが……見ていて気持ちが良い食いっぷりだな」


マーガレットはワインを揺らしながら、二人を肴に飲み始めた。


スフィアは竜王魚のステーキを頬張りながら、ふと思い出したように口を開く。

ステーキは赤身をレアで焼いたもので、噛むたびに濃厚な味が染み出て美味い。


「んぐ、むぐ……そういやメリアの母ちゃん。あんたハーフエルフなら、親はエルフと人間なのか?」


「ん、私の親に興味があるのか?」


「あんた強そうだし、親も強いのかなと思って」


「強かったぞ。とはいえ父は人間ゆえ、随分昔に寿命で死んだがな。私が五十そこそこの時だったか」


マーガレットの目は、遠い過去を見つめるように細められた。

三百年の時を生きる彼女にとって五十歳での別れは昨日のことのようでもあり、遥か彼方の記憶のようでもある。


「母は……エルフでも天才と呼ばれた魔術師だったんだが、そのせいで昔、少しばかり尖っていた時期があったらしくてな。父とはその時期に出会ったとか聞いた」


「尖ってた?」


ブルが黄金カボチャのグリルを飲み込みながら首を傾げる。

若気の至りというやつだろうか。

ちなみにカボチャのグリルは、大変ほくほくした甘みが口に広がるようで癖になる味だ。


「ああ。なんでも、物語のような出会いだったそうだ」


マーガレットは少し遠い目をして、かつて母から聞いた昔語りを口にする。




『この世は嘆きに満ちている! 我が名はシルヴァリア! 世界を支配し、浄化する者! 愚かな人間を滅ぼし、この世を救済することこそ我が使命なのだァ!!』


『そんなことはさせん! シルヴァリア、俺がお前を止めてみせる!!』


『来るがいいアルトリウス! 貴様が真に我を止められるというのならばなァ!!』




「……そんな感じで出会ったらしい」


マーガレットは肩をすくめて話を締めくくった。


「……」


スフィアとブルは、フォークを止めて顔を見合わせた。


「世界の危機じゃないですか」


「物語は物語でも、恋愛ものじゃなくて英雄物語じゃね?」


ブルが真っ当なツッコミを入れ、スフィアも呆れたように言う。


出会いが「世界征服の阻止」とは、無駄にスケールが大きすぎる。

その状況からどうやって恋仲に異次元移動したのだろうか。


「つーか、そんな魔王みたいな女止めるあんたの親父、何もんだよ」


「母と出会う前のことはあまり教えてくれなくてなあ……私としても割と謎だ。ただの放浪の剣士だと言っていたが」


マーガレットはワインを一口含む。


「昔、父を訪ねてきた者がいた気がするが……もう二百五十年以上前で覚えておらんし、父を知る者も現代で生きているか微妙だな」


もうお分かりの者もいるだろうが、彼女の父こそ先代勇者アルトリウス。

邪神竜ヴァルノスと戦い、封じ込めた英雄である。


彼は邪神竜との戦いの後でエルフの女魔王と戦い、紆余曲折あって結婚して子供を作った。

それこそが『女帝』マーガレット。

血統書付きの最強種だ。


なお、そうなるとメリアは勇者アルトリウスの直系の孫という事になるのだが、それを把握している者はこの世に誰もいなかったりする。

メリアに直接会った事のある聖竜ルミナス以外は。


「マーガレットさんの強さは、そのご両親譲りなんですね」


ブルが納得したように頷く。


「そうなるな。メリアには受け継がれなかったようだが……これはこれでよかろう」


「なんでだ? 強けりゃもっと安心じゃねえの?」


スフィアが岩海老の香草焼きの殻をバリバリと噛み砕きながら尋ねる。

彼自身の価値観では、強さこそが生存の鍵だ。

ちなみにこの海老、肉厚プリプリで超美味い。


「半端に強いと、鉄火場で前に出たがってしまうだろう?」


マーガレットが静かに諭す。


「己の力を過信する、しないにかかわらず強者というのはそういうものだ。力があれば使いたくなる。誰かを守ろうとして、あるいは功名心に駆られて、危険な場所へと踏み込んでしまう」


彼女の言葉には長年冒険者として生きてきた実感が伝わるようだ。

力あるが故に散っていった者たちを嫌というほど見てきたのだろう。


「母親としては強い娘が戦いの前線に出るより、弱くて安全地帯に行ってくれる方が安心できるのだよ」


「……なるほどな」


「あの娘は賢い。戦いはお前らに任せて後ろでサポートなり、いざとなれば逃げるなりしているだろう?」


「それは、まあそうだな。あいつ逃げ足は速いし」


スフィアが頷く。


メリアは基本的に戦闘には参加しない。

その代わり物資の管理や交渉、情報の分析でパーティを支えている。

それはそれで立派な役割だ。


「俺と会う前はワイバーンに遭遇して狩られかけてヤバかったけどな」


そう、メリアが一人でワイバーンに襲われていたところをスフィアが助けたのが出会いのきっかけだった。


瞬間、マーガレットが持っていたワイングラスに亀裂が入る。

室内の温度が五度くらい下がった気がする。


「……どこのワイバーンだ? 山ごと消し炭にしてやろう」


「俺が仕留めてメリアと一緒に食っちゃった」


「そうか、ならばよし。よくやった」


マーガレットの怒気がスッと引く。

出会ってまだ間もないが、やるかやらないかで言えば間違いなくやるのが怖いところである。


「ともあれ幸い、ロゼの方に似てくれたようで一安心だな。頭は回るし口も上手い。どこでもやっていけるバイタリティもある」


マーガレットは先の娘の成長を思い出し、目を細める。


「それに、魔法の才能があったら私が煩く指摘してしまいそうだ。嫌われたくはないものでな」


「そういえば魔法にこだわりがあるって聞きました。弟子が泣いて逃げるとか」


ブルが恐る恐る尋ねる。


「性分でな……半端な使い方を見るとどうにも……つい口を出してしまう」


悩まし気にマーガレットは額を抑える。

天才ゆえの苦悩というやつだろう、たぶん。


「メリアの父ちゃんといえば、商会の名前あんたの名前にしてたなー!」


「そうそう! 今や有名な『マーガレット商会』ですもんね! 仲がおよろしいんですね!」


ブルもニコニコしながら同意する。

妻の名前を商会名にしたと聞いた時は呆れたが、同時に愛妻家の極みだと微笑ましく思ったものだ。


パァン!!


乾いた破裂音が響く。


マーガレットの手の中で、先ほど亀裂が入ったワイングラスが粉々に砕け散っていた。

赤い液体がまるで鮮血のように彼女の手から滴り落ちる。


スフィアとブルの動きが止まる。


そしてスフィアが咥えていた肉がポロリと皿に落ちた。


「……そうだな。それがあった」


マーガレットの声のトーンが地獄の底まで落ちていた。

先ほどの悩まし気な空気は霧散し、代わりに彼女の背後からどす黒いオーラのようなものが立ち上っている。


なにあれなんか出てる。

超怖い。


「私の名前を勝手に商会の名前にするなど……いささか勝手が過ぎると思わんか、二人とも」


その瞳は笑っているが、奥底は絶対零度だ。


夫婦仲は良いかもしれない。

しかし何かを踏み越えたのだろう。


「故郷の知り合いに会うたびに『微笑ましい』だの『夫婦仲が良くて何より』だの。からかわれる身にもなれというのだ、なあ?」


なるほど。

いちいち茶化されるとは確かに恥ずかしい。

それで怒りの臨界点が突破したというわけだ。

これはロゼが悪い。


「……そっすね」


「……おっしゃる通りだと思います」


スフィアとブルは思わず背筋を伸ばし即答する。


ロゼが悪いのは間違いないが、戯れでも否定すると死ぬ危険がある。

なんで食事中に死ぬ危険が出てくるんでしょうね。


「ロゼには直々に会って色々言わなければならんなあ……そう、色々となァ……」


マーガレットがハンカチで手のワインを拭う。

その仕草は返り血を拭う暗殺者のそれに見えなくもない。


いったい夫であるロゼはどうなってしまうのか。

メリアにお悔やみ申し上げますと言ってあげるべきか。


スフィアとブルは察した。


この話題を続けるとマズイ。

物凄い地雷の気配がする。


咄嗟にブルは、絶対に安牌そうな話題をひねり出した。


「そ、そういえばメリアさんがマーガレットさんのことちょっと言ってましたよ!」


その瞬間にマーガレットは殺気を霧散させ、こちらの話題に食いついた。


「メリアから私のことを聞いているのか? なんと言っていた?」


家出同然で飛び出した娘が仲間たちに自分をどう語っているのか。

気にならない親はいまい。


スフィアとブルは顔を見合わせ、意を決して答えた。


「凄く優しいって言ってたな」


「ほう」


とはいえ、本当に優しいかはスフィアは内心疑問に思っている。

だってこの人超怖い。


「あと、強くてかっこいいって」


ブルが付け加える。

それは先ほどからのカジノでの振る舞いを見れば、誰もが認めるだろう。


「ふふふ、そうかそうか」


マーガレットの頬が緩む。

嬉しそうだ。


「んで、大好きっつってたな」


スフィアがトドメの一言を放つ。

馬車の中でのメリアの言葉だ。


『強くて、かっこよくて、私大好きなんです!』


そう言っていた。


「ふふふ……ふふふふふ……いやあ、そうかそうか! んふふふふふ」


崩壊した。

女帝の威厳が、ガラガラと音を立てて崩れ去った。


マーガレットは顔を両手で覆い、だらしなくニヤけている。

どうやら肩を震わせて喜びを噛み締めているようだ。


「……」


スフィアとブルは見てはいけないものを見たような顔をする。

どうやらマーガレットは相当な親馬鹿であるらしい。

娘に好かれているという事実だけで世界征服を始めそうな勢いだ。


ひとまず命の危機は脱したらしい。

二人は安堵の息を吐く。


「よし! 追加で酒でも飲むか? 奢ってやろう!」


マーガレットが上機嫌で給仕を呼ぶ。


「マジ!? あんた良い人だな!」


スフィアの目が輝く。

単純な猫さんである。


「じゃあゴチになりまーす! 高いワイン飲んでみたかったんです!」


ブルも遠慮なく乗っかる。


「うむうむ、飲むがいい。遠慮はいらんぞ。ふふふ、大好きか。ふふふふふ」


マーガレットはワインボトルを追加注文し、スフィアたちのグラスに並々と注ぐ。

その顔は先ほどの冷徹な表情とは別人のように、ただただ幸せそうだった。


その後、スフィアとブルはマーガレットの奢りでしこたま飲み食いするのであった――。

物凄いサラブレッドの血筋を持ちながら、その血筋に宿る素質をほぼ受け継がなかったメリアさん。

でもそんなの問題にならんほど優秀。

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