カジノ見物
分割すると各々の描写が半端になるので一括で。
長くてごめんなさいね。
カジノ客船、クレセント号。
その内部は外観の壮麗さを裏切らない――いや、それすらも凌駕する異空間であった。
一歩足を踏み入れた瞬間、スフィアたちの視界を覆い尽くしたのは目が眩むほどの黄金の輝きと、人々の欲望が生み出す熱気。
高い天井からはシャンデリアが無数に吊り下げられ、磨き上げられた床は大理石で敷き詰められている。
壁には名画の如きタペストリーが飾られ、あちこちに配置された観葉植物は見たこともないような極彩色の花を咲かせている。
そして何より、音。
コインがぶつかり合う金属音、ルーレットが回る乾いた音。
勝者の歓声と敗者のため息。
それらが混然一体となり、独特の音楽となって空間を満たしている。
「うおー! すっげー!」
スフィアが目を丸くして感嘆の声を上げる。
視覚と聴覚を同時に揺さぶるこの圧倒的な「非日常」は、彼の冒険者としての本能を強烈に刺激したらしい。
「すっごいねえ……! まるでお祭りだ!」
ブルもまた、サングラス越しに目を輝かせている。
最近色々な場所に訪れる機会はあったが、この空間のスケール感には圧倒されるばかりだ。
「このクレセント号は魔法国メギストスでも最大のカジノ船だそうです。内装も素晴らしいですが、遊技施設も最上級。この船で遊んだというだけで、貴族の間では自慢になるとかいう最高の社交場で……」
メリアはまるでガイドのように説明を始める。
ここに来るまでに予習してきた情報を披露し、二人にこの場所の凄さを理解してもらおうとしたのだが。
「……あれ? 二人とも?」
ふと横を見ると、そこには誰もいなかった。
スフィアとブルの姿は影も形もない。
「えっ、ちょっ……!?」
メリアが慌てて周囲を見回す。
だが、広大なフロアには無数の人々が行き交い、二人の姿など瞬時に埋もれてしまっていた。
彼らの好奇心は、メリアの解説など待ってはいられなかったのだ。
「もう……! 仕事なんだから勝手な行動しないでくださいよ!」
メリアは溜息をつき、とりあえず二人が行きそうな場所――つまり、一番騒がしいエリアや何か食べ物がありそうな場所を探し始めるのだった――。
◆◆◆◆
場面は変わり、カジノの一角にあるスロットエリア。
ここでは魔法仕掛けの機械がずらりと並び、人々が一攫千金を夢見てコインを投入し続けている。
その一台の前で一人の男が頭を抱えていた。
身なりはそこそこ良いが、その表情は悲壮感に満ちている。
「くそ、もうコイン数が全然ねえ……」
男の手のひらに残されたコインは、わずか二枚。
これを失えば今日の勝負は終わりだ。
いや、今月の生活費すら危ういかもしれない。
震える手で一枚のコインを投入口に入れる。
カシャンという音が響き、目の前のスロットが起動する。
「来てくれよ、頼むから……ん?」
ふと横の気配に気づいて顔を向けると、そこには見慣れない小柄な人影があった。
黒いスーツを着込み、サングラスをかけ、口にビスケットをくわえた猫獣人だ。
そいつは食い入るようにこちらのスロット画面を見つめている。
「なあ、このゲーム何だ?」
猫獣人――スフィアが、ビスケットを噛み砕きながら尋ねる。
「ああ? スロット知らねえのか。カジノの基本ゲームだろ」
そう言いながら男はレバーを引く。
するとリールが高速で回転を始める。
男は苛立ち交じりに答えるが、スフィアの純粋な眼差しに少しだけ毒気を抜かれた。
どうせ負けそうなのだ、最後に講釈を垂れるくらいの余裕は見せてもいいだろう。
「ほれ、この三つのリールに描かれた絵柄が回るだろ? これをボタンで止めて、組み合わせ表通りに図柄を揃えればコインが出るんだ。一番デカい当たりが『777』だ」
「ふーん。単純だな」
「あー! くそ、話してたら押し損ねて外れちまったぜ!」
男はボタンを押すタイミングを逸し、リールが自然に止まるが当然のように絵柄は揃わない。
無情にもコインが飲み込まれていく。
「くそ、最後の一枚か……。頼むぜ聖竜ルミナス様、女神様……!」
男は祈るように最後の一枚を投入し、レバーを引いた。
ギュルルルル! とリールが回る。
男の手が汗ばみ、ボタンを押すタイミングを計りかねて震える。
ここだ、いやまだだ、と迷っているうちに時間は刻一刻と過ぎていく。
「ええい、ままよ!」
男が意を決してボタンに指を伸ばした、その瞬間。
バシッ、バシッ、バシッ!
横から伸びてきた小さな手が、目にも止まらぬ速さで三つのボタンを連続で叩いた。
「な、なにしやがんだテメエ!」
男が激昂して怒鳴り、スフィアの胸ぐらを掴もうとする。
人の勝負に横槍を入れるなどカジノでは御法度だ。
だが、その怒声はすぐに別の音によって遮られた。
ファンファーレだ。
けたたましいほどに陽気な音楽が鳴り響き、スロットマシンの上部にあるパトランプが激しく明滅する。
「え?」
男が振り返ると、そこには信じられない光景があった。
『7・7・7』
三つのリールには完璧に整列した数字の7が並んでいた。
最高の大当たりだ。
ジャラジャラジャラジャラ!
払い出し口から、まるで滝のように大量のコインが溢れ出してくる。
「嘘……だろ……?」
男は呆然と立ち尽くす。
あの一瞬で?
回転するリールの動きなど、目視できるはずもない速度だったのに?
「ちょっとやっていいか?」
スフィアが、溢れたコインの一枚を摘まみ上げながら言う。
「あ、はい……どうぞ……」
男は目の前の光景に茫然としながら席を譲り、スフィアの横に立つ。
スフィアは男の代わりに席に座ると慣れない手つきでコインを投入し、レバーを引く。
ギュルルルル!
リールが回る。
スフィアのサングラスの奥の瞳が、僅かに細められる。
タン、タン、タン。
迷いのない、軽快なリズムでボタンが押される。
『7・7・7』
ファンファーレ。
再びコイン投入、レバーオン。
ギュルルルル。
タン、タン、タン。
『7・7・7』
ファンファーレ。
「……」
止まらない。
スフィアの手元には、あっという間にコインの山が築き上げられていく。
周囲の客たちも異変に気づき、ざわめきながら集まってくる。
――説明しよう。
まず、猫獣人の動体視力は人間のそれより倍ほども高い。
彼らは基本的に肉食の狩猟種族であり、素早く動き回る獲物を捕らえるために、動くものを捉える能力が極限まで進化している。
獲物の一瞬の方向転換、筋肉の収縮、風の揺らぎ。
それらを瞬時に読み取り、身体が反応する。
それが彼らの生存戦略であり本能だ。
そしてスフィアは、そんな猫獣人の中でも突出した実力者である。
数多の魔獣と戦い死線を潜り抜け、疾風に近い攻撃すら見切ってきた彼にとって、規則的に回転するスロットのリールなど止まって見えるに等しい。
むしろ遅すぎてあくびが出るレベルなのだ。
スフィアにとってスロットの目押し程度、呼吸をするのと同じくらい簡単な作業なのである。
だが、そんなスフィアにも致命的な欠点があり、スロットで稼ぎ続けることはできない。
何故なら――。
「飽きた」
スフィアはとても飽きっぽかった。
単調作業など彼が最も嫌うものの一つだ。
獲物が抵抗し、駆け引きがあるから狩りは面白いのであって、ただボタンを押して当たりが出るだけの機械になど何の感慨も湧かない。
スフィアはコインの山をそのままに席を立つ。
そして興味の対象が移ったのか、てててっと小走りに次のエリアへと向かってしまう。
「ま、待ってくれ! もう数回! あと一回だけでいいから777を出していってくれ――!!」
男は必死に叫び、追いすがろうとする。
だが、スフィアの足は速い。
あっという間に人混みの中へと消えてしまった。
たまたまその様子を見ていたカジノのフロアマネージャーは冷や汗を拭いながら手帳にメモを取った。
『目押しができない、完全確率方式のスロット開発が急務』と。
半年後、魔法国メギストスのスロットマシンが総入れ替えになり、多くのスロットプロが廃業することになるのだが、スフィアたちにはもう関係のない話であった――。
◆◆◆◆
再び場面は変わり、ルーレットエリア。
ここはスロットとは違い優雅で落ち着いた空気が流れている。
緑色の羅紗が張られたテーブルを囲み、紳士淑女たちが静かにチップを賭けている。
その中の一人、魔法国の貴族らしき男が回るルーレットをぼんやりと眺めていた。
手元のチップは減りつつあり、表情には焦燥というよりは諦観が漂っている。
「うーむ……今回はイマイチ当たらんなあ」
今日は運に見放された日なのだろうか。
そろそろ潮時かと溜息をつき、ふと隣を見る。
そこには自分と同じようにルーレット盤を凝視する、黒いスーツの巨漢――牛獣人が立っていた。
「うお!?」
見上げるほどの巨体に男は思わずのけぞってしまう。
「あ、すいません。お構いなく」
だが、ブルはサングラス越しに柔和な笑みを向け、軽く会釈をする。
この牛獣人、威圧的な見た目に反して腰が低い。
「お、おう……」
男は気圧されつつも、悪い奴ではなさそうだと判断し再びゲームに戻った。
しばらく時間が経過する。
ブルはチップを賭けることもなく、ただひたすらに回るルーレットとディーラーの動作を見つめ続けていた。
不意にブルが尋ねる。
「これ、なんてゲームですか?」
「ん? これはルーレットっつってな。ディーラーが球を放った瞬間から数字の書かれたポケットに入るまでの間に、どのポケットに入るか予想して賭けるんだ」
男は基本的なルールを説明する。
赤か黒か、奇数か偶数か、あるいは特定の数字か。
賭け方によって配当が変わることなどを教える。
「あんちゃんは賭けたりしないのかい?」
「コイン無いので……」
ブルが正直に答える。
彼はスフィアと違って他人のコインを強奪したりはしない。
とても真面目で常識的なのである。
「じゃあ一枚だけやろう。ほれ」
男は気まぐれに手元のチップを一枚、ブルに弾いてやった。
どうせ負け越しているのだ、一枚くらい減っても変わらない。
それに、この巨漢が喜ぶ顔が見てみたかったのかもしれない。
「え、いいんですか。やったあ」
ブルは素直に喜び、チップを受け取った。
こう素直に喜んでくれれば男も悪い気はしないというものだ。
「配当の倍率は、ほら。色が一番倍率低くて2倍。赤か黒のどっちか当てるだけだ。数字の単一賭けが一番難しくて36倍だな」
男はテーブルの端にある配当表を指差す。
「あとは細かい賭け方があるが、口頭じゃ教えきれん。まあ、お試しなら色当てが無難……」
「なるほどー、ありがとうございます」
ブルは礼を言い、テーブルに近づく。
ディーラーが球を放る。
「赤の14っと……」
ブルは迷わずチップを数字の『14』、赤色の枠の上に置いた。
「おいおい単勝賭けか? 豪気だなあ。まあ、ビギナーはそういう夢を見たがるもんだが」
男は苦笑する。
単勝など滅多に当たるものではない。
捨て金にするには惜しいが、まあ経験としては悪くないか。
カラカラカラ……コトン。
球が盤上を跳ね、一つのポケットに吸い込まれる。
――赤の14だ。
「……は?」
男が目を剥く。
「わあ、当たった」
ブルが無邪気に喜ぶ。
配当は36枚。
一枚のチップが、小さな山となって戻ってきた。
周囲で「おおー……」と感嘆の声が上がる。
「マジか。ビギナーズラックってやつだな。羨ましいこって」
男は感心半分、嫉妬半分で呟く。
ディーラーが再び球を放る。
「……次は黒の35……っと」
ブルは戻ってきた36枚のチップを、全て『黒の35』に積み上げた。
「おいおい! また単勝狙いか? しかも全額!? 何度も当たるもんじゃ……」
カラカラカラ……コトン。
――黒の35だ。
「……」
周囲がどよめく。
36枚の36倍。
つまり1296枚。
チップの小山が、タワーへと変わる。
「よしよし、当たった」
ブルは満足げに頷く。
「……マジ?」
男は頬をつねりたくなる衝動に駆られた。
二連続単勝的中。
確率で言えば千分の一以下だ。
ただの偶然で片付けるには、あまりにも出来すぎている。
ディーラーの顔から表情が消えた。
プロとしての動揺を隠そうとしているが、球を持つ指先に微かな緊張が走る。
球が放たれる。
「……黒の22かな」
ブルが呟き、1296枚のチップを『黒の22』にドサリと置いた。
「……」
男は、まさかと思いつつも黙って見守るしかなかった。
周囲の客たちも息を呑み、回転する盤面を見つめる。
カラカラカラ……コトン、コトン……スポッ。
――黒の22、である。
静寂。
その直後、爆発的な歓声が上がったわけではない。
あまりの事態に、全員が言葉を失っていたのだ。
配当は46,656枚。
テーブルの上はチップで埋め尽くされんばかりの惨状となっている。
「うん、良い感じ」
ブルだけが、平然としていた。
「あんちゃん……あんた、入るポケットがわかるのか?」
男が震える声で問う。
「え、はい。まあだいたいは」
ブルは事もなげに答える。
「ここでしばらく見てたんで。ディーラーさんの筋肉の感じと力の入り方、球の速さとルーレットの回転速度、盤面の摩擦係数……あと勘で、だいたい八割くらいは」
「八割!?」
男が素っ頓狂な声を上げる。
八割。
それはもはやギャンブルではない。
未来予知だろうどう考えても。
「あ、ごめんなさいちょっと盛りました。えっと……六~七割? くらいかな?」
「それでもバケモンだよ!」
男は絶句する。
牛獣人の彼が歴戦で鍛え上げた動体視力と空間把握能力、そして野生の勘。
それらが融合し、物理法則の演算結果を弾き出しているのだ。
ディーラーの顔が引きつっている。
冷や汗が額を伝うのが見える。
震える手でディーラーが次の球を放る。
「んー、赤の5で」
ブルが呟く。
男と周囲の客たちは一斉に唾を飲んだ。
46,656枚全額、数字単一賭け36倍ならば――1,679,616枚。
もはや見たことのない金額になるだろう。
カラカラカラ……。
球が速度を落とす。
赤いポケットに向かって転がっていく。
『5』の数字が近づく。
コトン。
入った。
赤の5。
「うおおおおおおおお!!!!」
男と周囲が爆発的な歓声を上げる。
客たちが抱き合い、興奮に打ち震える。
カジノの歴史に残る瞬間だ。
「すげえぜ、あんちゃん! こりゃ俺たち全員、あんたの言うポケットに賭け……」
男が振り返り、勝利の女神ならぬ勝利の猛牛を称えようとした。
だが。
そこには誰もいなかった。
チップの山だけを残してブルの姿は消えていた。
「あんちゃん?」
男が視線を彷徨わせると、少し離れた通路で銀髪の少女に手を引っ張られている牛獣人の背中が見えた。
「もう! スフィアさんといいブルさんといい……勝手にどこかに行ったらダメじゃないですか!」
メリアが頬を膨らませて怒っている。
「ごめんなさーい。ちょっと遊んでただけだよ~」
ブルが情けない声で謝りながら引きずられていく。
彼はチップを換金することなど忘れているようだ。
単に当てるゲームを楽しんだだけで金銭への執着は皆無だったらしい。
「待ってくれあんちゃああああん!!」
「俺たちを導いてくれええええええ!!!」
「っつーかこの払い戻しコインどうすんだよ!!!」
男たちの絶望の叫びが木霊する。
ちなみに受取人不在のため、大量のチップはカジノの規定により回収されたという――。
◆◆◆◆
更に再び場面は変わり、ポーカーエリア。
ここは知略と心理戦の戦場であり、カジノの中でも特に張り詰めた空気が漂う場所だ。
「スフィアさんも勝手にどっか行ったらダメですよ。ここ広いんですから」
メリアが確保したスフィアとブルを引き連れて歩く。
まるで迷子案内所のお姉さんだ。
スフィアが悪びれもせず笑う。
「わりーわりー。目移りしちゃってさ」
「賑やかで楽しいところだねえ。またやりたいな」
ブルもニコニコしている。
「もう……。ここは貴族や富豪が集まる場所なんですから、粗相がないようにしてくださいね」
メリアが釘を刺そうとした時、ふと少し離れたVIPテーブルに人だかりができているのに気付く。
そこでは、一人の女性がテーブルを支配していた。
銀髪を結い上げ、背中の大きく開いた真紅のドレスを纏った美女。
美貌と圧倒的なオーラを放つその女性は、気だるげに頬杖を突きながらカードを見つめている。
ディーラーが緊張した面持ちでカードを開く。
「ストレートです」
なかなかの手だ。
しかし、美女はふん、と鼻で笑う。
「悪くない。……だが」
彼女は手札を、まるで花を活けるように優雅にテーブルに並べた。
「ストレートフラッシュ」
スペードの10からAまでが完璧な配列で並んでいる。
美女の圧倒的勝利だ。
「おおー……」
周囲から感嘆と畏怖の混じった溜息が漏れる。
そして、割れんばかりの拍手が巻き起こった。
美女は満足げにチップの山を引き寄せると、ふと顔を上げる。
そして、少し離れた位置にいるスフィアたちの方へ、ゆっくりと視線を向けた。
その瞬間。
「ッ!?」
スフィアとブルの全身の毛が逆立った。
二人は本能的に弾かれたように後ろへ大きく飛び退き、瞬時に戦闘の構えを取った。
スフィアは腰を落とし、低い唸り声を上げる。
ブルも拳を握りしめ冷や汗を流して身構える。
「え? え? どうしたんです? 急に」
そしてメリアだけが、わけがわからず取り残されていた。
スフィアが脂汗を流しながら呟く。
「マジかよ、あの距離でこの殺気……」
ただ目が合った、それだけだ。
それだけで喉元に刃物を突きつけられたような錯覚を覚えた。
あの女は、ただ者ではない。
魔獣で例えれば竜より格上の捕食者の気配。
「ハッ、反応は上々のようだな」
「!?」
声は、目の前からではなかった。
いつの間にか、美女はスフィアとブルの背後に立っていたのだ。
音もなく。
気配もなく。
瞬間移動したかのような速さで。
「うおっ!?」
二人は思わず勢いよく振り返り、距離を取る。
その様子に、美女は楽しそうに不敵な笑みを浮かべた。
「だが、まだまだ青い。実戦なら、お前らは今の隙で三回は死んでいるぞ?」
その言葉に嘘偽りはないとスフィアの本能が告げていた。
――勝てない。
二人がかりで100回やって、100回ボロ負けする相手だ。
格が違う。
「あんた……何もんだ?」
スフィアが警戒心を最大にして問う。
このカジノ船に、こんな化け物が潜んでいたとは。
美女は意外そうに眉を上げる。
「なんだ、何も聞いていないのか?」
「え?」
ブルが困惑する中、メリアがのんきに美女に歩み寄る。
そして、あろうことか無警戒に抱きついたのだ。
「お母さん! 久しぶり!」
「おお、メリア。久しいな。二年ぶりくらいか?」
美女――マーガレットは先ほどの殺気が嘘のように柔和な、しかし慈愛に満ちた母の顔になり、娘を抱きしめ返した。
「元気そうで何よりだ。少し背が伸びたか?」
「もう止まったって。お母さんも相変わらず綺麗だね」
仲良さげに笑い合う二人。
その光景に、スフィアとブルのアゴが外れそうになる。
「メリアお前……お母さんって……」
メリアが振り返り、にっこりと笑う。
「あ、スフィアさん、ブルさん、紹介します。こちらが私のお母さんで……」
マーガレットがメリアの言葉を引き継ぐ。
「冒険者階級第一位マーガレット、魔術師だ。『女帝』とも呼ばれているな。よろしく頼むぞ小僧ども」
その事実は、スフィアとブルにとって、今日一番の衝撃となって突き刺さった。
第一位。
それは冒険者ランクの頂点にして最高位。
ついにメリアの母親が衝撃的な登場を果たすのであった――。
覇王系女子。




