Enemy or Sister(7)
超能力の一つ弾道予測により、心臓目がけて放たれたことがわかる。
スローモーションの中で決して目を瞑らずに最後まで回避動作を行う。
しかしながらそれは間に合わず、そのまま死ぬ予定であった。
――――――――シュン!!!!
放たれた漆黒の槍は一瞬にして消失し、俺はスロー世界から離脱する。
真横から何かが飛んできたのだ。
銃弾でも槍でも、ブーメランでもない小さな塊、何であったのかは漆黒の槍同様に高速であったためわからない。
――――何が起きている?
目の前まで来た槍が消失した。
あれほどの破壊能力を持っている漆黒があんな小さな何かで相殺されたのだ。
シルもそれに驚いのか攻撃をせず目を見開いている。
辺りを見回すと、左前方に人影があったのだ。
次第に月明かりで姿が写しだされる。
「京四郎くんにしては頑張った方かな? でもお姉さんからしてみればまだまだひよっこね。基本が全然なってない」
黒髪で短髪、軍服に身を包み、右肩に『Beretta Rx4 Storm』、左手でダイヤモンドのような小さな結晶体を投げてはキャッチしている。
いつもは優しいそうな人だが、今日は一段と目つきが鋭い。
「その声は明日香姉さん!?」
「ピンポーン!! 大正解!! 京四郎くんも大好き明日香お姉さんだよ」
そう、この陽気なお姉さんは春風明日香さん、俺の母さんの10歳下の妹、つまりおばさんにあたるのだが、まだ20代なこともあり、とても若く美しい。
子供の頃から姉感覚で付き合ってきたので、今でもそういう風に呼んでいる。
決して強制されているわけではない。
そして苗字からもわかる通り、シルと同じ『春風』の苗字も持っている。
明日葉姉さんはシルシィの後見人というか、今では法律上でも家族であるが、二人はとても仲が良い。
「タイミングはばっちりですね」
「別に合わせて登場してわけではないのよ」
「どうしてここがわかったんですか?」
それにしても都合がよすぎる。
「それはもちろん監視してたからよ」
「俺の?」
指で自分を指し名ながら言った。
「違うわ、シルちゃんの方よ」
大きく膨らんだ胸ポケットから携帯を出す。
「GPSですか」
地図上に赤く点滅するマークが表示されており、その位置と現在位置がほぼ重なっている。
「そうよ、でも詳しい話は三人でしましょう、京四郎くんは下がってなさい。ここからはプロの仕事よ」
「わかりました」
すぐに後退し二人の様子を見守ることにした。
今の自分にできることはない。
しばらくアクションを起こさなかったシルだが、今度は標的を俺ではなく明日香姉さんに向けられている。
漆黒が形成するのはエストックではなく大剣だった。
相手によって戦闘スタイルを変えている。
あの状態であってもシルの元々の能力、性格、基本戦術、思考回路は同じであるようで、普通に知能を持っている。
ただ標的を消滅させる人形と化しているわけではない。影でコントロールしている状態に近い。
再び高く飛び上がり重力加速度を利用し漆黒の大剣を振り下す。
「考えは正しいけど、『消滅(Vanish)』に質量はないのよね~」
ベルトについている黒い革製のナイフケースからエッジが黒く刃の中央に試験管のような液体が充填されているガラス管のついたコンバットナイフで軽々しくガードする。
そのまま少し強引に押し返し、シルが後ろに飛ばされるが、大剣で地面を抉り取り近くで踏みとどまるが、大剣は地面の土を消滅させたことで漆黒が小さくなっており、形状を細く槍のように尖らせて突いたが、これもコンバットナイフで軽く下からすくい上げるように顔の横に槍の先が来るようにガードした。
漆黒による攻撃を受けるたびにコンバットナイフのガラス管の液体が減少している。
これが漆黒により消滅力を無効化しているのだろう。
「これは予想以上に強い」
そう呟き空いている右手で『Beretta Rx4 Storm』をフルオートで連射するがバックステップと槍の高速回転で銃弾を全て防ぐ。
距離が開いた瞬間に左手でスタングレネードを投げつけた。
シルは反射的に目を隠したのが見えた後に俺も目を隠す。
その隙にさっき俺を守ってくれた何かの結晶を投げつける。
シルの顔面に命中したそれは漆黒とは正反対に明るい光を放つ。それはスタングレネードが発火しているよりも明るく眩しくない光だったのだ。
「痛い、い、痛い、痛い痛い痛い――――」
シルが突然叫び出しその場にしゃがみ込み結晶が命中した額を押さえている。
その隙を見逃さずに接近し首元に注射器で何かを撃ち込んだとたんに喋らなくなり明日香姉さんに寄りかかるように倒れた。
「まったく、この子は私に心配しかさせないんだから」
シルの頭を愛おしそうに撫でたあと静かに抱きかかえて戻って来る。
「シルは大丈夫なんですか?」
「もしかして注射器のこと? それならノープログラム、あれは『消滅(Vanish)』とは逆の性質をもつマテリアル、それで中和しただけよ。中和した後でシルちゃんの意識がないとうことは、能力の暴走時点から意識はなかったってことになるわね」
ついでに言えばあの結晶も注射器の中のマテリアルを固形化させたもので液体の数億倍の容量を持っているらしく、超高価なものらしい。
「それにしても相変わらずね」
「何がですか?」
「その巻き込まる体質のことよ」
「直したいんですけど、治そうとし治るものじゃありませんね。そんなことよりも明日香姉さんは随分間がいいですね、それによくシルが暴走状態にあったことが分かりましたね」
軍事省の部隊が撤退したときいていた。
明日香姉さんは軍事省美咲南第一機甲師団所属で階級は大尉で分隊長を務めているはずだ。
「さっきGPSの話したよね」
「ああ」
「そのGPSは特注品でね、シルちゃんの能力を常に計測する装置は取り付けられているの」
「理解しました」
「お姉さんも流石に焦ったわ、シルちゃんったら能力発動12秒で『限界値(Limmt)』を超えちゃうんだもん」
噴水がある中央通りからものすごいエンジン音で何かが接近してくる。それは生い茂る草を踏み潰し、細い木をなぎ倒し一直線に進んでいる。
「焦りの余り、戦車で来ちゃった♪」
キャタピラを唸らせ、巨大な戦車が俺たちの横に停車した。
これは第二次大戦で活躍したドイツ戦車IV号戦車H型である。
どこで見つけたのかというくらいの貴重なものだ。性能としては大戦以降の戦車にかなり劣るが、この都市では正規ルートで手に入らないので、裏で古い戦車を安く買ったりしたのだろう。
指令塔から顔を出している軍服を着た女性が素早く降り立つ。
「大尉ご無事ですか!!」
「無事だよ、作戦は成功だ」
「よかったです~」
目をウルウルさせながら擦り寄り頭を撫でられている。
「それでは私たちはこれで失礼するよ。シルは君に任せる」
明日香姉さんの口調が一変し礼儀正しくなった。部下の前では恰好つけたいのだろう。 それになりに様になっている。
抱きかかえていたシルを受け取り、Ⅳ号に乗り込む。
「まだ風紀省の部隊が展開しているようだ、気を付けなさい、それとこれは君あげよう」
「おっと」
投げ渡されたのはあの特殊形状のコンバットナイフだ。
「もしもの時は君に任せることにするよ、それじゃあ」
Ⅳ号はまたうるさいエンジン音を上げて来た道を引き返して行ったのだ。




