Enemy or Sister(5)
~KYOSHIRO Side~
京四郎は『翠光館』の裏庭に生い茂る木々をかき分けながら、敵のシルを見失わないように直進する。
発光する人影は常に移動し、交互に場所が入れ変わる。
激しい戦いだ。
銃声も止むことはなく鳴り続け、まるで中東にでもいるような気持ちだ。
さらに近づくにつれて、裏に何かよくわからないが真っ暗な霧のようなものが地面を漂っているように見えた。
俺の能力で見える発光する人影をそれが遮って、所々人影が霞んで見える。
これはどういう現象だ?
俺の能力を無効にする影だ。しかもそれは黒くわずかに発光しており、本当のブラックホールのような漆黒には見えない。
裏庭まで数十メートルというところで一人がこちらを無理向いたのだ。
そのまま風紀省の正式採用自動拳銃『H&K USP』を発砲したのだ。
「チッ」
俺は態勢を低くしスライディングする。
9mmパラべラム弾は俺の頭上を通過し、さらに風紀省の一人のアクションでもう一人が発砲して来る。
生憎夜の暗がりのせいで俺の回避起動までは読まれなかったようで、俺の頭上をさらに数発が通過する。
今度はこっちの番だ。俺にははっきりと敵が見える。
スライディングした態勢のままこちらも『H&K USP』で反撃に出る。
狙いは銃だけだ。
俺が思考を始めた時、時間が突然ゆっくりと流れだし、次第に俺の世界は静止した。
いや、正確には動いている、普通の人間の1秒の十五分の一の速さで。
数学は得意だ。物理も得意だ。
すぐに弾頭の計算をし、俺の時間で数秒と考えず発砲する。二連射だ。
二発共に銃に命中し激しい金属音でスライドが吹き飛びばねが飛び出す。
だがそれでうろたえることはなく、すぐに壊れた銃を捨てロングソードに切り替える。
俺はスライディングした勢いで林を抜けてしまった。
「何者だ!!」
俺が出た場所が悪かった。
敵の目の前で態勢をすぐに立て直す時間がない。
ロングソードの刃は既に俺の頭に突き付けられている。
だが俺も銃を突き付けている。
「こいつは……姫神の手下だ、捕まえろ」
後ろにいた風紀省の男が答える。
俺は思考する。
このままトリガーを引いても差し違えるくらいしかできない。敵も同じ防弾製であるならば、さらに訓練されているのだとしたら、一発くらったくらいで怯むとは思えない。
その時に焦って首をはねられれば俺が死ぬ。
いくら考えても勝算はゼロに近い。
「大人しく捕まれ、抵抗するなら容赦はしな、グハッ!!」
一瞬だった。
俺が思考している十五分の一秒の速さでも早すぎる横からの攻撃は男の腹部に命中している。
防弾制服に穴が開き、そこから黒い液体が流れ出る。
血液だ。周りが暗いため黒く見えるが間違いない。
男はそのまま後ろに倒れ傷口を押さえる「痛い、痛い!!」と何度も泣き叫び、途端に失神した。
カランカランと石畳に何かが落下した音が聞こえた。
俺はさっきまで捕まえることを恐れていた何て感情を遥かに凌駕した恐怖心にかられる。
ゆっくりと視線を失神した男の傷口から離すと、ロングソードが地面に転がっており、後ろにいたもう一人の方も倒れていたのだ。
「……な、何々だ、これは?」
恐る恐る立ち上がり、当たりを見合せば、さらに二手に分かれて戦っていた残りの二人も同じような状態で倒れている。
石畳には『H&K USP』が銃芯を軸にねじれるように曲がっている。次元でも歪んだかのようなありえない破損だ。
いや、破損ではないか、銃の部品は一つも欠損していない。ただねじれているだけなのだ。普通に考えればどんなに握力があっても不可能だろう。
この裏には俺以外戦える奴はいない。
誰がこんなことを?などと言う心の中で自問する。
答えなどすぐにわかってしまったはずなのに。
俺の能力はすっかり解けてしまっていた。
辺りは再び薄暗くなり転がっている四人の人影は街灯の明かりでボケて見える。
誰なんてここには後一人しかいない。
俺は恐怖心を殺し、裏庭へ足を踏み入れる。
しかしそこには誰もいない。
花壇には足跡があったが途中で消えている。
街灯が暗く照らしているのでよくみ、え、な……。
言葉に詰まり思考が停止する。
なぜなら俺が見上げた空には、街灯の天辺で月明かりを浴びたシルの姿があったからだ。




