Heaven Sylphide(2)
高速で移動してくるターゲット、時速で換算すれば100㎞/h以上ではないだろうか。
中距離、つまり二、三十メートルはあったであろう距離は数秒で詰められる。
それまでの間にさっきまで構えていた『H&K USP』で撃ちこむ。
「それしか能がないの?」
シュシュっと左右への移動で躱される。
「……『次元振動刃』」
「『螺旋滞留(Revolution Cutter:レボリューション カッター)』!!」
――――バシュ!!
地面とほぼ水平に飛んだ『次元振動刃』は『螺旋滞留(Revolution Cutter:レボリューション カッター)』により弾き飛ばされ壁を切り裂く、距離がさらに詰められる。
「――――ユー!!」
ダメだこのままじゃ危ないもうこの距離じゃあ『次元振動刃』は使えない。
なぜならなら『次元振動刃』は中距離攻撃兵器だからだ。
俺は無意識にユーの前に出て御影先輩から借りた小太刀を抜刀した!!
ギィィ――――ン!!
空気にも関わらずまるで金属が擦れ合うような音が響く。
そしてもう片方に空気をまとったナイフは俺の右肩を直撃した!!
激痛が走り、声を上げそうになるのを必死に堪える。防弾繊維でできているため、外傷は打撲程度だが、こいつの威力が自動拳銃用の弾薬よりも運動エネルギーがはるかに高いことだけはわかった。
俺の制服はほつれたように破けかかっていたのだ。
こいつは普通同じ場所に.45ACP弾で二発は耐える衝撃強さと靱性を持っている高張力性の高いカーボンナノチューブと高張力鋼のワイヤー繊維製だ。
それをいとも簡単に切り裂いたのだ。そうそれはまるでただの服であるかのように。
それでも肩へのインパクトの瞬間ギリギリで右手に握っていた『H&K USP』のトリガーを引いていた。
狙い何かない、当てられればどこでも。
バァーーーン!!とガァン!!という銃声の次に俺はエアーダガーのインパクト時の衝撃で柱に激突した。
頭を強打しなかったことが唯一の救いだ。気絶せずに立ち上がる。
「痛っ……」
腰と肩とが痛む。
俺は小太刀を鞘に納めて手で肩に手を当てる。
ユーは無事だ。
ターゲットとの距離はいつの間にか離れている。
俺の銃弾を間一髪躱したのだろう。バックステップしてさっきよりも少しだけ距離が空いている。
「中々やるじゃない、でも惜しかったわね、あと五ミリ左に撃っていたら当たったのに」
その当たったも掠ったに近いはずだ。
俺は痛みをこらえながら再び立ち上がる。
銃口をターゲットへ向けて、
「ユー、一端引いて大勢をーーー」
「……私に任せて」
「……『次元振動刃』」
「それしか芸がないようね」
高速で放った三つの『次元振動刃』は同じエアカッターで防がれてしまう。
そして再び距離をつめてくる。
ーーーーバン!!バン!!バン!!
セミオートで援護射撃を行うが、空中でバックステップし躱される。それによりさらに浮き上がる。
空中で正位置になったと同時にエアカッターを放った。
ユーは左右にステップし躱す。
運良くこっちには飛んでこないのではなく無視されているだけだ、超能力者において銃弾は弾道が予測できてしまうので、決定的戦力となる兵器にはならない。
ターゲットが鳥が降下するように加速しユーに向かっていく。
――――バン!!バン!!
ダメだ、移動速度が速すぎて追いつかない。
数秒でエアーダガーのレンジ内に入ってしまう。
バックステップで初撃を躱すが、もう一本を投擲したのだ。
――――シュン!!
鋭い一撃が一回転してもとの姿勢に戻りそうなユーのみぞおち目がけて一直線、
手からは離れたことにより高速回転し、まるでとがったドリルのように、突き刺さった。
それでも運動エネルギーの欠損は少なく、宙に浮いていたせいもあり、ユーをその場に引き留めるようとする力は存在しなかった。
簡単に吹き飛ばされ俺がいる場所よりも後ろに柱に激突するかと思ったが、ユーは空中で体勢を立て直し、柱に真横に足から着地した。
すぐに刺さったナイフを抜いて捨てる。
地上に着したのと同時にもうもう一本も投擲した。
――――シュン!!
「……『次元振動刃』」
ギィィィ―――――――ン!!
銃弾と刃が擦れるよりも激しい火花と金属音がなりヒ響き、ナイフがまとう風と『次元振動刃』が打ち消された。
ナイフは両方とも床に転がり、ノーウェポンになる。
だが本命をまだ出していないことに気付く。
これからが本番だ。
「腕はあるようね、私のこれを使わせるなんて」
さっきから腰で出番を待ちしていたエストックが握られ、鞘から抜かれた。
細く長い尖った太い針を薄く伸ばしたような形状の西洋刀、切るのではなく突くことに特化している武器だ。
「ユー下がれ!!」
「――――遅いわ!!」
空気圧で加速したターゲットが急接近する。
それ加え回転運動で剣を高速で『回転切り(Turn Slash)』する。
何も構えていないと思っていたが、それは俺がユーの戦い方を知らなかっただけだった。
いつも同じ教室、同じ部活、同じ家、いつもユーのことを見てきたつもりだったが、俺はユーと共闘したことは少ない。
そこには俺に知らない部分が含まれていた。それも少し何かじゃない。たくさん詰まっていたのだ。
ユーは俺の視線何か気にもせず、右足を高々く上げた。
ただそれだけだ。
そして『回し蹴り(Turn Kick)』する。
普通なら足が持って行かれて終わりだが、そうじゃない。
カァーーン!!
と高い金属音でお互いの動きが止まる。
靴のかかとエストックがぶつかって静止している。
あれはアウトソールからヒールリフトにかけて耐食性チタン合金を仕込んであったのだ。その名の通り耐食性が高いため靴底に忍ばせて置いても雨の影響で錆びることもなく、かつ強度も高いため『足使い(Steper)』が好んで使うが、軽いと言っても鋼材や銅合金と比べればということだ。アルミの1.5倍以上の重さはあるので決して軽いとは言えず、素早く移動するのは難しいなど、良い事尽くしとは言えない。
一般的に仕込むならナイフとかだろうが、手入れが必要なく、かつどんな場面でも対応できる汎用性という面で優れている。
ただの厚い鉄板だと思うかもしれないが、厚い鉄板を銃弾は通すことはなく、刃物では切り裂くことはできない。
「分が悪い」
「……」
すぐに一歩後退したが、それ以上下がるつもりはないらしい。
それに地面の着地している。
空中だと一定の場所にとどまれないことから察するに、地面に着いて、足によるグリップ力の方が空気の圧力での滞空より優れているということだろう。
剣による攻撃は体重のかけ方にある。
浮いていると高い位置からの重力を利用した位置エネルギーを運動エネルギーに変換することで威力を増していたようだが、それではユーに能力を発動させる隙を与えることになる。
でもそんなことをしなくてもエアカッターも同様に力を保持しており、容易に相殺が可能、空気の壁も作れるなら、問題はないはずだが?
そうか、中遠距離ならユーの能力で対応できるが近距離では発生させる前にやられる可能性がある。
ユーをさらに追い込もうとしているのだろう。
ここからじゃユーが邪魔で援護射撃はできそうにない。射線上にユーが完全に被っている。これも敵の狙いなのかもしれない。
一瞬の膠着した後、先に動いたのはユーの方だったのだ。
体を左回転させ右足で『回し蹴り(Turn Kick)』した。
今度はつま先でだ。
エストックで受け流すような動きをして攻撃を受け止めるが、その勢いでさらに一回して左かかとで『回し蹴り(Turn Kick)』を加える。
「クッ……」
右腕でそれを受け止める。
ほぼ同時に一歩下がった時にお互いに『次元振動刃(Dimension Cutter)』とエアカッターを発生させ、それらは互いにぶつかることなく、直撃した。
「痛ったぁーーい、よくも!!」
「……痛いわ」
真逆の反応だが、ユーがやせ我慢しているのは目に見えている。
いつものポーカーフェイスが崩れ始めているせいだ。
「これならどう!!」
「『空激波(Super Stream)』!!」
エストックに空気が螺旋状に集まり渦が出来ていき竜巻状の風をまとい振りかざした。
ナイフでやった奴の中距離版、エアカッターのよりも攻撃範囲が広い。
放物線を描くような先端で円状に広がっている、さっきまでの攻撃は線だったが、これは面だ。
これは流石に躱せない。
左右ワンステップで躱せる大きさじゃない!!
でもユーがここに来てクールさを取り戻したのだ。
「……見せてあげる、私の能力の真の力を」
「何を今更、あんたの芸なんてもう見飽きたわ、さっきさかそれしか使わないんだもん、それとももっとも面白いもの見せてくれるの?」
バカにして受け答えに動じず、大きなモーションから一撃を放った。
「……『次元振動刃』」
美しい三日月形状の刃が高速で頭上より高い位置から地面擦れ擦れまでの大振り、長さは160センチメートル以上だ。
コンマ数秒で激突したが、
――――シュン!!
風を切る音だけがコンクリートの壁に反響し『空激波(Super Stream)』を簡単に突破していしまったのだ。
どうして?と言わんばかりの表情だ。
でもそれもコンマ数秒、すぐさま飛来した『次元振動刃』がターゲットに直撃した。
受け身も何していない。
物凄いインパクト音で何もできず10メートル以上吹き飛ばされたのだ。
エストックが床へと滑り落ち、制服はまるで紙切れのようにビリビリに破けてしまっている。スカートから襟まで直線的に裂けている。
そのせいで上も下もあられもない姿になっているが、今考えるべきところはそれじゃない。
直前に立っていた位置の刃が通った空間がかなりの歪みをみせている。
そしてその中心には何もないはず空間が切り裂かれたように、カッターなどで指を切ってしまった時のような潰れた極僅かな楕円形が浮いている。
それは次第に小さくなり、数秒で消滅し、空間の歪みが消えた。
俺の推測ではあのままなら確実に外傷を与えられる、いや殺してしまうくらいの運動エネルギーがあったはずだが、
「能力制御したわ、直前でエネルギーを全て次元振動に変換したの、それでも吹き飛んだのは変換調波のせいよ」
「そうだったのか」
大体の予想は着いていたが、俺は内心ホッとしている。
あのまま直進すれば確実に死んでいただろう。
そんなことは起こってはいけないし、させてもいけない。ユーは何気ない顔のままだが、俺にはそんな余裕はない。
これが経験の差というものかもしれない。
「……ま、だよ」
衝撃波をくらって赤くなった肌を押さえる。隠しながらなんとか立ち上がろうとしている。
まだやるつもりなのか!?
もう明らかに戦闘の継続は不可能に思えるが、まだその瞳には闘志が宿っている。
何かの執念すら感じさせる。
「あなたはもう無理よ、大人しくして」
「まだ……まだよ、私は負けてない」
ゆっくりと立ち上がるがエストックは遠くまで飛ばされたので、拾える場所にはない。
傷を左手で押さえながら、右手でスカートの中にナイフの横に一緒のホルダーから『S&W M686』を構えた。
あれはバレルが短いから4インチモデルだ。
そして一歩ずつ後退していく。
「私はこんなところで……」
照準をユーに向けているが撃とうとはせず、少しずつ下がっていく。
その動きに連動するようにユーも近づいていく。
互いは距離を保ったまま奥へと移動している。
俺もそれに続くようにUSPを構えながら移動しようとした時だった。
キラ、キラッとわずかに反射する光を捉えたのだ!!
左壁にある四角い螺旋階段のここから見える最上部からだ。
距離は50メートルもない。
この場にいる三人が同時に同じ方向を見る。
能力者の直感が銃の射線を示す。
狙われているのはターゲットである。高嶺とかいう奴だ。
――――ピュューーーン!!
風を斬るような鋭い音が日響く。
それを躱すことなく、命中したのだ。
躱そうとしなかったわけじゃない、躱せなかったのだ。体力を消耗していたのは明らかだった。ゆっくり下がったのは戦略でも何でもない。もう走り回れるだけの力が残っていなかったということだろう。
命中した時の衝撃で後ろに倒れた。手からはM686は離れ床に力なく転がった。
そこからはピクリとも動かない。だが血が出ていないところを見ると、制服を狙ったのだ。場所は肩だろう。
少しの回転しながら倒れたからだ。
「――――誰だ!!」
俺はその暗くて良く見えないシルエットに銃口を向けた。
狙撃手相手ではかなり不利だ。
この距離なら階段に到達するまで狙撃されるだろう。
それに音を聞く限り、これはセミオートだろう。
アサルトライフルにスコープを付けたような銃なら可能だ。
俺の問に答えるも者はなく。
ただシルエットがこちらも見ているだけだったが、それからすぐに立ち上がり狙撃銃を肩にかける。
その姿からは制服を着ていることがわかる。
わずかに光りが当たっている部分から制服のデザインがわかる。
「……月代の制服ね」
そう月代学園の女子制服、今ユーが着ているものと同じデザインだったのだ!!




