Heaven Sylphide(1)
巨大な地下貯水漕内に吹き荒れる風がユーのスラスグリーンの髪と、えんじ色に白のラインが入ったミニスカートがはためかせる。
俺たちは腕で顔をガードするように風に立ち向かう。
「『気態流動(Aerodynamics』発動♪」
と同時に発生した空気振動刃が高速で向かって来たのだ!!
「ユー!!」
高速で飛来した衝撃波をバックステップによる斜め後ろに飛んで何とか回避する。
当て損じた衝撃波は床のコンクリートを抉りとり、その残骸を空中にばら撒き、その小さな破片が飛んできた。
腕で払うように守り、すぐ様『H&K USP』を構える。
ユーが一歩前進して、
「私が先行するから、援護して!!」
「了解だ!!」
再びユーに近づきその後ろに両手で銃を安定できるように持ち照星と照門にターゲットを捉える。
ユーが向かい風を受けているにも関わらず軽快な走りで接近していく。
「まだまだ、これからよ」
再び空気の刃が飛来する。
それも一つじゃない、三つ、七つとどんどん増えていく。刃の数は手を振り下した回数だけ、狙いは俺じゃない。接近しているユーだ!!
ユーはそれを左右のステップで躱して行く。
「……『次元振動刃』」
そっと呟き、同じ構えで放つ。
「そんな攻撃じゃ当たらないよ」
無重力空間を移動するようにさらに上昇し躱す。
だが同じ高度に滞空しているわけではない、若干ではあるが上下に振動している。
上昇によりスカートの中が丸見えなのは言うまでもなく、ピンクのシンプルなパンティーだった。シルからの知識だが、こういう派手というか色鮮やかな下着は勝負下着というらしい。
何と戦っているかはしらないが、戦闘用の防弾繊維でできているパンティーということだろう。
だけどシルが俺と寝る時は常に勝負パンツだったが、あれは何か意味があるのだろうか?
そんなアホなことはどうでもいい。
銃の照準から狙ってると良くわかる。
その躱した位置に向かってセミオートで射撃する。
バン、バン、バン!!!
「無駄無駄、弾の無駄だよ」
銃弾はターゲット直前で急停止し9mmパラベラム弾は鋼鉄の壁にぶち当たったかのようにぺしゃんこに潰れて、呆気なく地面に落下していく。
ぶつかった空気の壁は水溜りに落ちた雨の雫が生み出す波紋のように何もないはずの透明な空間に広がっていく。
上にしかも向かい風の中で発射したからといって運動エネルギーの低下は早いものの、鉄板の一枚は余裕で貫ける威力は持っているはずだ。
それなのにあんなにあっさりと防がれてしまうとは!!
空気を操るだけ何て思っていたが、汎用性が高すぎて手詰まりとなりつつある。それに相手の機動性が高すぎることにも原因に一端がある。
いくら接近してもすぐに距離を離されてしまう。
ユーの攻撃はあっさりと相殺され、俺の銃弾は空気の壁に阻まれ防がれる。残弾が減るばかりで、能力使用による疲弊は見られない。
あの重量を滞空させるのはかなり能力を使うと思って、継続時間は短いと思っていたが、ターゲットは余裕の表情のまま、まるで遊んでいるか如く、エアカッターを連続攻撃の手を緩めない。
それに対してユーの『次元振動刃』は図書館での一件でわかったことだが、体力の消耗が大きく今の戦闘スタイルを継続すれば数十分も戦えない。俺も残弾の関係上、弾切れになれば戦闘を継続はほぼ不可能だ。近距離用には小太刀とナイフを装備しているが、到底届く距離ではない。
空気の刃は見ている分にはあまり威力を感じることはないが、銃弾よりも大きい運動エネルギーと圧縮による密度の増加により命中すれば数メートルは吹き飛ばされる。
小さな大型台風が直撃したようなものだ。
ユーが三日月状のカッターを五つ発生させるが同じ五つカッターで防がれる。
俺もそれと同時にセミオートで三発撃ちこむが空気の壁に防がれ命中しない。
だが空中で移動する動きをある程度予測して撃っているので、空気の壁さえなければ、そこそこ命中するはずだ。
その空気の壁の突破方法が分からない。
「ユー下がるぞ」
ユーに無駄撃ちさせていると、長期戦になった時にガス欠を起こす可能性が高い。
「わかったわ」
さっきまで追いかけながら攻撃を加えていたが、追うのを中断する。
そしてユーに追い着く。
かなり奥まで来てしまっていて、俺たち入って来た入り口は後ろの小さく見えている。
「あら追いかけっこはもうおしまいなの? それでは一向に私を倒すことは不可能よ」
明らかに誘っているが、これはこっち早く戦闘続行不可にさせる作戦だろう。
「いや、お前にエアカッターの速度が遅いから、遠くから飛んで来る分には大したことないしな」
大声で挑発的に言う。
さらに拳銃をガンホルダーにしまう。これは拳銃を使うまでもないとかそういうアピールの一種だ。
「コイツむかつく、そんなチャカでしか戦えない凡人の癖に!!」
どうやら俺が能力者であることは分かってないらしい。
それはそうだ。
それがわかるのは内面を見ることができる自分だけだからだ。
感の鋭い奴なら銃弾の躱し方でわかるかもしれないが。
「早くだってできるんだぞ!!」
「やってみろよ」
少し溜めるようなモーションから同じモーションに入り、
「くらえ!!」
チャージした分だけ高速でエアカッターが飛んで来る。
とほぼ同時にそれに負けないくらい高速で『H&K USP』を抜く。
バン!!
セミオートで一発撃ちこむ。
「エアカッターはまかせて」
ユーが前に出て『次元振動刃』の態勢に入る。
「しまった!!」
スカートを翻し、振り下した手で太ももにある収納ベルトに刺さっている刃渡り二十センチメートルくらいのナイフで弾丸を弾いた。
もう既に可愛らしいピンク色の下着が丸見えだったが、さっきのアクションで最早全容が明らかになってしまっている。
ここは顔を赤くしてみたり、何か一般男子的反応とかするところだろうが、ダメだな、毎日ユーやシルのあらゆる種類の下着を洗濯しているせいかもしれないが、そこまでピンと来ない。パンツ見られている奴には失礼かもしれないが。
「弱点は発射直後だ。空気のバリアを解除しなければならないからな」
「私に武器を使わせたのはあんたが初めてよ」
それは雑魚ばかりと戦ってきたせいだろうよ。
こんなことは少し考えれば誰でわかることだ。賞賛には値しない。
「それにパンツガン見しといてそうの反応は何!! 女の子の失礼だと思わないの!!」
色々な意味で怒り心頭しているようだ。
声を荒げている。
それは俺も思ったさ。でも何も思わないのは仕方ないことだと思うのでゆるしてほしい。
「早く片付けちゃうわ」
もう片方の手もスカートから出したナイフで二刀流となり地面に降下してきた。
だがドラえもんの如く空中から少しは浮いている。
「『螺旋滞留(Revolution Cutter:レボリューション カッター)』」
さっきまでのエアカッターの動きときはまったく異なり、ターゲットの周りの空気が螺旋を描く様に回転し始めたのだ。
まるで小さな台風のように、ターゲットを中心に台風の目として、その周りの空気をそれに吊られるように回転していく。
それが次第に小さく集束し、両手をナイフに集まっていく。
「何が起きているんだ!?」
それは次第に回転数を増して、小さく小さく集束し、ついに一本の刃となり、吹き付ける風が収まる。
「私を怒らせてことを後悔することね!!」
「来るぞ!!」
風をまとったナイフ、エアーダガーとでも言おうか。チャキッと構えて攻撃態勢に入る。ターゲットまでの距離はまだ十分にある。これはチャンスかもしれない。
そして空気の力で地面を滑るように高速で接近して来たのだ。




