Short Holiday(10)
図書館での一件を思い出す。
重くい金属製の扉といい、この暗い狭い通路といい、この切れかけみたいな暗い蛍光灯といい、しかも地下の通路であること、関連性があるようにも思える。
くすんだグレーのコンクリートと低い天井が圧迫感を加速させる。所々切れかけた蛍光灯がチカチカと点滅する。打ちっぱなしの鉄筋は独特の冷たさがある。
空気が一変してさっきまで温かさ、あの騒がしいさが体感温度を上げたように思えるが、その音は聞こえない。少しも聞こえない。防音性の高い分厚い扉がそのすべてを吸収しているのだ。
扉を閉じた途端、俺たちの吐吐息以外のすべて音は失われた。
扉近くの壁にスイッチがあり、通路の照明のものだろう。
つまるところ、誰かがここに侵入したということだろう。
警戒して進まないと先に見つかると最悪死ぬ可能性もある。
不気味な暗い通路はところどころに曲がりがあるが直線はずっと見えなくなるまで続いている。かなり広いことは想定していた。
一区画つまり『』の数字による区画わけの基準は一条×一丁で一括りとなっている。そのため大体100m×100mの空間内に通路が敷き詰められていることになる。
通路があるなら部屋があってもいいのだが特に何か扉がついているわけでも標識や誘導看板があるわけでもない。
壁も落書きがされていたりもせずくすんだグレーが永遠と続いている。
何もなさ過ぎてかなり不気味だ。
それに風紀委員からの報告によれば『』は関係者以外立ち入り禁止の区域だったはず、報告にはいまは使われていない倉庫と書いてあったはずだ。
この目で見たので間違いない。
でも実際はただの通路、何もなく禁止するような施設もなければ、危ないトラップが仕掛けられているようにも見えない。これは素人目線での話なのであからさまな障害は存在しないという解釈、普通の通路ということだ。
身近な場所でイメージするならば、地下歩道とかだろうか、あの古臭い感じとか蛍光灯の感じとかそれっぽい。違いは汚い訳じゃない虫とか特に蜘蛛が巣を展開していたりはしないから衛生面の問題はない。
どこかまたは、天井に時々見かける通気口からだろうか。風が流れている。微かだが風を感じる。
この風の流れを把握できれば外へ出る道を探すこともできるだろうが、そんな都合の良い能力は持っていないが、ティッシュとかで即席風向計を作れないわけではないが、風を感じるか感じないか程度なので、あまり役には立たなないだろう。
少しずつ進むと左に道があるのが見えるが、道は暗い。
左の壁に沿うように煤で行き、T字の通路の前で立ち止まり、ポケットから折りたたみの長方形をした手鏡を出した。
こういう時の鉄則だ。持っていない時は仕方ないが、持っている時がこうするのが一般的だ。
顔を出して撃たれたらデッドエンドだ。
そうならないためにも手鏡は必須アイテムと言えるだろう。だが俺は持っていないので今度からは戦闘用のツールに入れて置くことにする。
ユーは準備してきたわけではなく、女の子なら携帯していて当然のグッズであったため持っていたに違いない。
それにしてもあのユーでも容姿を意識するということに驚きつつもその鏡の映るものを確認する。
「何も映らないわ」
「本当だ」
通路に顔を出しての覗くと二、三メートルで行き止まりになっており、ダミーの通路になっているようだ。例えるなら長いトンネルにある方向を変えるための避難坑のようなものだ。
ダミー通路ではない。
これは銃撃戦になった時などに身を隠すための場所だ。
「どうする、引き返すか?」
「まだよ、人の気配はしないわ」
お前って時々その辺の男より男気あるよな、俺はかなりビビっているぞ、現在進行形で。
さらに先には右側に同じ避難坑がある。
それより先に十時路が見えて来る。
あれが本命だろう。
そう思った時だ。
微かに吹いている風が強くなり、ユーの髪が少しなびく。
ユー下がろうと肩をツンツンっと突っ突き、避難坑を指す。
それには同意してくれたようで、音を立てないように戻って身を隠した。
風は段々強くなる。
俺は『解析(analyzer)』で辺りを確認する。
「誰か来るわ」
ユーの言葉と同時に俺の目は緑色に発光する人影を捉えた。
その人影のぞっとする。
ただの人影じゃない、いや人影だ。確かに人の形をした影、つまり人影だ。だが何かがおかしいのだ。
『何だろう?』なんて思う間もなくわかってしまう。
手を振りながら歩いていないのなんてアサルトライフルを持っていたり、今のは短絡的すぎたが、手に何か持っていれば手が動かないのは良くあることだ。ポケットに手を入れていたりしてもそうなるし、別に問題視はしない。
でもそれが足だったらどうだろうか?
その人影はある一定のポーズを取ったまま平行移動している。
そう浮いているのだ。
幽霊とかそういった類に似ているその動き、だが俺の能力で捉えられているというということは少なくても幽霊とか非科学的なものではないだろう。
そんな俺の驚きや怯えが混ざったような顔を見て察したのかユーは攻撃態勢に入った。
俺もそれに続くように腰のガンホルダーから『H&K USP』を抜いてセーフティーを解除した。
ユーは冷静に手鏡で十字路を見ている。
俺は直接その動く光を見つめている。
俺は来るタイミングを指で測る。
――――三、二、一
スゥー――ッと風が吹き付けユーの髪が大きくなびく。
手鏡に映ったのは少女だったどこかは分からないが黒をベースに赤の襟に2本の白のラインのデザイン、ルビーよりも深いレッドの肩よりも長いロングの髪がどこからか吹き付けた風で大きくなびいている。それにバーミリオンの大きな瞳は吸血鬼のよいに発光し、暗い通路に若干の残像を残す。
そしてその姿にカジノに入る前に見た赤髪の少女の姿が重なる。マジマジと見ていたわけじゃないが、あんな綺麗な赤髪を忘れる方が無理だ。
あれが風紀委員会の資料にあった『A級の能力者』の可能性、それに該当するかは俺の目には一目瞭然だ。
その前に部長の能力が『能力を解析する能力』を持っていてもわからない理由について説明しなければならない。
まず俺の能力のランクこの都市に来た時の能力測定で『B+』であるという検査結果が出ている。そして能力は五つの成分の合成によってできる五角形で判別されるというものだったが、俺にはその五角形表示がそのまま見えるのだ。
それはそれは鮮明に、強いていえばこんなイメージだとか言葉では説明できないがとか、そんな曖昧なものではなくはっきりと五角形が見える。
五角形の大きさによってランクが異なるが、その大きさが大きいほど高能力を持っていると断定できる。
それでは本題に入る。
だったらなぜ分からないのか?
それは俺の能力が『B+』であることが原因だ。
俺の能力には制約があり、見える範囲が限定されることだ。
今の能力は『B+』なので、見ることができる五角形の大きさは『B+』の範囲まで、全体を見ることはできないのだ。
だから今の俺に見えているのは完全系の正五角形だ。
つまり俺よりもランクの高い能力であるといこと以外分からない。
そのため部長の能力は未だに不明だ。
それと同じ理屈であの浮いている少女の能力も測れないが、色のよる能力の分類の判別はできた。
緑に発光しているということは『強化系』に該当する。
さらに言えば、現在ありうる可能性がる能力は神奈川県横浜市にある『月宮工科大学』によれば大枠で十八種類ある。
だがその中にも派生形の能力があり、それぞれのより微妙な違いがあるものもあるが、かなり性質が違ってくるものもある。
これは個人による誤差のようなものが出る。つまり使う人間のよって出る差異が原因である。
というように一眼に十八分の一という考えはできないが、あの浮いている動作をできる能力は限られるだろう。
だが確信を持てなかったのであえて候補を上げるようなことはしなかった。
そんな悠長にしていられるほど、心の中は冷静ではなく、戦闘経験は浅い俺は焦っているのだ。
今まで戦って来たのはすべて大きな括りで言えば身内のようなものだ。知り合い同士の喧嘩のようなもの、急所を外すようなやる気のない弾だけが飛び交ういわばサバゲーのようなものだった。
これは違う、相手は容赦なく急所を狙ったり大型火気を使用するかもしれないのだ。
それがゆっくりと通り過ぎるたことを確認し、ユーの意向で尾行を開始した。
浮遊少女をターゲットとして俺の能力で動くタイミングを測る。
直線移動を続けていたが十字路二十メートルで方向を変えた。
進路はさっきまでいた直線を左に、俺たちが入ってきた場所よりも遠ざかっている。
俺のOKを合図に他にもいるかもしれないので十分警戒しつつ、十字路を曲がり、さっきターゲットが方向を変えた十字路まで移動した。
ターゲットはさらに二十メール先を左へ、俺たちもそれに続く。さらに十メートル先、丁字路を右に曲がり、その先五メートルは左しかない。
随分進んだが、それまでにかなりの時間が掛かった。ターゲットの移動速度は浮いているので速いかと思ったらむしろ逆、徒歩よりも遅い。風に流された風船の如く、地面との距離をサインカーブのような上下運動をしながら前進している。
気づかれないように尾行することに夢中になる。いや、神経を使ってるせいだろうな。
いつの間にか現在位置が分からなってきた。
これはまずいかもしれない。
さっきから四つ近い曲がり角を曲がって来たが、どれも十字路または丁字路だ。かなり広い空間であることは明白だ。
地下のほとんどが施設として使われているからだ。
特に花咲区とか新都区などの経済の中心では地下が高いため、地下も開発する傾向にあり、しかも美咲市は川の数が多い関係上地下鉄などの交通機関を作ることが困難であるため、実質どこまで掘っても良いらしい。
だからここももしかしたらRPGゲームのように地下ダンジョン的な階層まで地下室があるかもしれない。
ユーはその辺気づいているのだろうか?
リアルダンジョンは上からの視野じゃないし、方向感覚が狂うと本当に分からなくなるものだ。それにこの同じ模様の無機質素材が余計に方向感覚を狂わせる。
俺は既に曲がり過ぎてどっちがカジノ方向かもうわからない。
最終兵器はあるけど、俺は携帯を開いた。
アンテナ⇒圏外
俺⇒硬直
ヤバッ!! もうダメかもしれない。
この事実をユーに知らせるべきかどうか迷う。他に通信する装置はある。
携帯の電波は届かないようだが、まだ無線の電波がある、これで何か拾える可能性もあるし、詰むにはまだ早いんじゃない?
ターゲットはその後も移動を続け、もう二、三キロは歩いたことだろう。
その途中の十字路の床に、
右⇒『Z1098』
左⇒『P1298』
直進⇒『Z1199』
後退⇒『Z1197』
東西南北を示すように矢印が彫られている。
カジノの入り口が『Z1190』だったということは外で言えば8条も進んでしまっていることになる。
ということがカジノはもう大分遠くだ。
後をつけるまでは良かったが、もっと色々と気を付けるべきだった。
まさか地下一階程度で圏外になるとは誰も思うまい。されにこのことを部長に報告するべきだったであろう。偶々俺の便利アイテムの中にあった方位磁針を使えばカジノまで戻れるかもしれないが、今引き返したら、さっきまでの努力が水の泡だ。
さあどうするか?
ユーが振り返ったので、行けそうか?とアイコンタクトすると、うんと頷いた。
それからターゲットが奇妙な動きを見せる。
さっきまで平行移動していたターゲットが突如下の方に移動し始めたのだ。
「降下してる」
思わず小さく呟いてしまった。
ユーは耳をこちらに向けるので
小声で、
「ターゲットの位置が下がってる、しかもかなり」
俺は今いるターゲットの方向を指した。
「直線距離で二十メートルくらい」
角度がほぼ45度だ。
「降下距離十四メートル、平行距離十四メートル」
ユーが素早く値を出す。
「このまま行きましょう」
「ああ」
あまり乗り気ではないがもう一度言うがここまで来て引き下がるわけには行かない。
俺は何となく武装の確認をする。
マガジン×2、ナイフ、『H&K USP』、御影先輩から借りた小太刀、閃光手榴弾すべてOKだ。
曲がってすぐに階段が見えて来る。
階段の下に敵がいないことを確認する。
今発光する光はさらに先に進んでいる。
階段を下りる途中でコンクリートの色が古びた茶色へと変わる。ここからは整備されていないとか、まったく使われていないとか、恐怖心を煽るようなことしか出てこない。この淀んだ空気に当てられたのか、単にビビッてるだけかはわからない。
距離がある程度離れたことを確認して階段の下へ抜けた。
そこはさっきまでの圧迫された空間とかまったく異なる場所だったのだ!!
体育館よりも数倍高い天井、良く東京ドーム何個分とか言いたくなるが、行ったことはないがそれ以上に広いだろう。
何本か柱が天井までそびえ立っており、まるで神殿だ。
大げさに言ってしまったが、これは貯水漕に一種だ。
何かのテレビ番組で見たことがあるが、サッカー場の下とかにあったりする。
天井には何百個という数の五百ワットクラスの水銀灯があり、すごく明るい。
そして三十メートル先に目標を肉眼で確認できる。
さらに右横には小さくしか見えないが、四角い螺旋階段が見える。
俺たちは柱に隠れつつ移動しようとした時だった。
突然ターゲットが振り返ったのだ!!
「そろそろ出てきたらどう? さっきからず~と追い回してさ、中々巻けなかったから、もうやっちゃうことにしたから」
「!!」
子供っぽい口調で喋る少女、身長はユーよりも小さいが浮いている関係で頭一つくらい高い。
ずっとバレたっていうのか!?
俺は無意識にガンホルダーがから銃を抜いていた。
「落ち着いて京、私が倒すわ」
ここはちょうど貯水漕の中心部でターゲットの周りには盾にするものはない。
これはチャンスかもしれない。
「そうだ、一つ言っておくけど、尾行がバレたのがそこの男のせいだからね、何でこんな素人連れてきたのか?」
「クッ」
まさかここでも足を引っ張ることになるとは、これで二度目、三度目か? 俺の存在意義が失われていく。
精神的ダメージは大きい、やるじゃないか敵!!
「京をバカにすることは許さない、それに最近目撃されている不審人物はあなたね」
「ピンポーン、でも目立ったこ動きはしてないはずなのにおかしいなぁ?」
とぼけた表情でこっちを見る。表情豊かな奴だな。緊張感とかそういったものが微塵もないとは。
「そりゃ一般人でそんだけでかい武器持ってたら不審に思うだろ」
彼女が持っているのはロングソード、いやそれよりも細くて長い。
すると、「ああ」と納得したようにそれに手をかけた。
「そういうことね」
抜いた長い剣、そうだエストックだ。
水銀灯の光に照らされてそれは銀色の眩い輝きを放つ。
「お前一体何者なんだ?」
エストックを再び鞘に納めて、空中へ無重力化であるように簡単に上昇する。
そして彼女は俺たちを見下す形になる。
「私は『高嶺 セシル(Cecil) 曜子』、『REVIVE』から派遣された刺客、以後御見知り置きを、とは言ってもここで死ぬので以後はないんだけど」
冗談混じりの笑い顔を見せる。
「聞いたことがあるわ、あらゆる気体を自由自在に操る超能力者!!」
「その通り、それじゃあ、その能力見せてあげる♪」
ユーの構えと似ている。両手の平を伸ばしたファインティングポーズ、そしてその手を大きく振り下した。
「『気態流動(Aerodynamics』発動!!」
能力発動と同時に、大きいモーションで振られた腕から離れる空気が刃となって高速で飛来した。




