Short Holiday(5)
その直後のことだ。
去って行く彼らの方に十時路から風紀省の本職のしかも特派と思われるグリーンを基調とした制服を身にまとった男女が5人道を塞いだのだ。
特派とは正式名称は『風紀省特別治安維持科』のことで、大日本帝国で言うならば秘密警察であるし、現代に例えるならばSATとかSITのような組織だ。特派はあまり良い噂は聞かない。裏の仕事を行っているとか、軍事省との武力衝突は治安維持科がほとんど事件に関与しているという話も聞く。
「どうなってるんだ!!」
思わず声が出るくらいに、今の状況がかなりまずいことがわかる。
『京四郎、聞こえてる?』
突然小型タブレットから部長の声が聞こえる。
『ああ、聞こえてる』
『なら今すぐダッシュでそこから離れなさい!!』
『わかったけど、何かあったんですか?』
『いいからーザッ――にげザッ――――ザァ―――』
無線に雑音が入り次第に強くなって通信不能となってしまった。
これは無線機の故障ではない、ちゃんと電波を拾っている。
「ジャミングね」
特派が一斉に銃出して構えたのだ。
いきなり仕掛けるとかどうかしているんじゃないか!!
みんなを置いていくようなスピードでその場から離脱する。これこそが脱兎の如くと言う奴だろう。
「逃げるぞ光圀!!」
ピュン、ピュン!!
ビルの間を反響するようにサイレンサーが付いたような銃声が響く。
「おわぁ!!」
強引に腕を握ってそのまま元いた十字路の角まで引き返した。
「いつも本ばかり読んでいるのに逃げ足だけは早いようだね」
「逃げ足くらいは速くないと戦場では死にますから」
「マジで死ぬかと思ったぜ」
光圀が本当にひどい目にあったみたいな顔をしている
「あんなんで死ぬ死ぬ言ってたら、監査とやった時ならもうとっくにお陀仏だ」
さてここからどうするかが問題だな、逃げてもいいんだけど、どうしてもこいつらが気になってしょうがない。
少し覗いてみると、さっき怒鳴ってきた男と他数名のガードが倒れている。
それだけじゃない。俺たちのいる通りが正規の風紀委員によって封鎖されている。
「ここが俺たちの領域だってわかってやってるんだったらお仕置きが必要だね、月神の御嬢さん」
特派と思われる奴らはどいつも柄が悪い連中ばかりで口調もまたそれに比例する。
「あれで時間稼ぎをして、特科で周囲を包囲するのがねらいだったわけね」
特派の奴らに耳を傾けることがせず、この状況の分析を始めた。
「随分冷静だけど、この状況わかってるのかな? ガキの癖にちょこまかと動き回って、こっちは探すのに大分苦労したんだぜ」
「なるほど、今回のこれは私たちを捕まえるために行ったようね。人員を去年二倍に増やしたことも納得が行くわ」
「へぇ~良く分かったな、でももうここまで、そこから動こうとしたらどうなるかわかるか?」
「……」
彼女は微動だにしない。
「ボーンッと首が吹っ飛ぶぜ」
良く見えれば特科の後ろのビルに狙撃手が待機している。
「……『不可視神域(Protection:プロテクション)』」
ポツリと小さい声で呟く。
それと同時にチャキッと腰の刀に手を掛けた途端のことだ。
――――――ビュン!!!
消音器による減音した小さくて鈍い音が響き渡る。
―――カーン!!
それとほぼ同時に狙撃は予告通りされたが、当たる寸前で見えない壁に当たったかの如く、潰れて不格好になった7.62x51mm NATO弾が灰色の路地に転がり落ちた。
俺は『能力解析(Analyzer:アナライザー)』を発動させる。
カラーパターンはレッド、『EARTH系』の能力だ。強さは中の上程度だが、広範囲に結界のような障壁を張ることができるらしい。
そこからはもう銃撃戦だ。特派側は全員一斉に『H&K USP』のサイレンサーとレーザーサイト、スコープ、ロングマガジン、フォアグリップ付きのフルオプションが、軍事側は黒服が『ベレッタM92F』、制服の従者は巫女服の後ろに入り結界内に入って防御態勢に入り、巫女服は能力で結界を張り続けている。
何も障害がない所での撃ち合いだ。
両方とは次々に命中し倒れていく、軍事の方が黒服4人になり特派も2人になったかと思ったが、後ろから増援が来てさらに十五人弾切れで一端銃声が止む。
この時を狙っていたのだろうが、すぐに前衛が後退して後からきた特派が『H&K G3』なんて物騒なバトルライフルを持ってもう攻撃を仕掛ける。おそらく強襲部隊を呼んだのだろう。
「……ッ!!」
予想外と言わんばかりに、巫女服の少女の顔に余裕がなくなったのは言うまでもない。
バババッバババッババババ!!!!!
一斉射で結界に攻撃を仕掛ける。黒服も流石にこれには驚いて、結界の後ろから援護射撃程度だ。
形成は逆転した。火力、人数、どれをとっても、もう叶わない。
圧倒的だ。超能力には限界がある。発動の継続にはどの能力にも基本的に集中力、精神力と言ったものが必要で、どう見ても後一、二分持つかどうかという感じである。
だが以前苦しい表情を浮かべることはない。
あの巫女はかなりタフだ。
「そろそろ降参した方が身のためだぜ」
銃声が止み、悪い笑い顔でそう告げる。
今の俺たちにとって彼らは味方であるはずだが、まるで彼らの行動、言動、すべてに置いてあまり好ましくない。まるで、弱いものいじめてるような光景、悪人の所業に見える。
だからと言って何かするわけでもない。ただ見ているだけだ。敵が降参するのをただ見ているだけだ。
巫女服の少女は何も答えない。
そうしている内に俺たちがいる場所つまり、反対側にも緑服が路地を挟み込むように完全包囲が完成する。
「お~い、そこの補助委員!!」
突然少し離れたところから俺たちを呼ぶ男の声がする。
振り返れば、そこには正規の風紀委員の姿がある。
「君たちが安全な所まで対退避してくださ~い」
「先輩」
「ああ」
俺たちは後方の特派とか言われている集団ではない。正規の風紀委員の指示に従い、五十メートルくらい離れた所まで行き、野次馬みたいな集団と一括りにされた。
仕方なく、そこから様子を見ることにした。
特派が少しずつ前進していき、距離を詰めていく。
そこへさらに増援がやって来る。緑の『トヨタ スープラ』が二台やってきて、赤いマント付きの明らかに階級高そうな若い男が助手席から下りてくる。
「いや~、ご苦労だった。もう少しで護送車も来るからそれまでに身柄を拘束しておいてくれ」
「了解したぜ」
「ヤレ―――!!」
前衛がそれと共に不用心に近づいて行く。
「……今」
静かに巫女服の少女は告げる。
「……月照……キル」
目にも止まらぬ速さで抜刀し、バスッという鈍い音と共に特派の一人が倒れる、防弾繊維のおかげで峰撃ちのよういなっているので死んではいないだろう。
それに少し遅れるように3人の制服の少女が抜刀し、一点突破を狙って行く。
「はぁぁーーー!!」
「な、何だコイツらまだやる気か!!」
「……『不可視神域(Protection:プロテクション』」
俺の目にも能力による結界の張られている位置までは分からないが。おそらく俺たちが見ている場所とは反対側全域に結界を張っているようだ。
従者も5、6人は倒して突き進んいる。
不用意に接近し過ぎたせいとCQC用の武器を所持していなかったことが災いしたのだろう。さらに言えば接近し過ぎていて後方からの援護射撃も難しい。
狙撃手もいたようだが結界に阻まれ狙っても防がれる。
だが前衛を倒したところで手詰まりになるは目に見えていたことだが、後衛との距離が銃メートル以上、前衛の数が減ったことでセミオート射撃してきたのだ。
それと同時に結界が消滅し、再び挟み撃ちの状態に戻る。
従者はゆっくりと後退して巫女をかばうような態勢をとる。数発が命中して苦しそうな顔をするが倒れることはなく同じ態勢のまま守り続けている。
「……すいません、私もうダメです」
一人がその場に倒れ、この戦場においてに軍事側はもう3人しかいない。
それに対して特派は十二人、十人で路地を囲い、さらにさっききたお偉いさんの護衛も合わせて七人、総計二十九人いる。
もう決着は着いたようだ。
俺たちはあの少女たちが無慈悲な大人のルールにより拘束され、強引に連行されていく姿など見たくはないので、野次馬共の集まりから抜けようとする。
――――――ゴォーーーン!!!!
その時、聞き慣れない轟音がビルによる反響で響く。
「何が起きた!?」
俺は再び目を向ける。
あの一瞬で後衛部隊が壊滅していたのだ!!
この轟音はデザートイーグルで間違いない。
……デザートイーグルだと!!
フッと甦る第三校舎、血に染まった教室、鉄の匂い、そしてあの男だ!!
封鎖側の倒れている後衛の真ん中にひとり立っている月代学園の制服着た男、俺の脳内でシルエットが重ねなる。
それと手に持っているのはデザートイーグルとイレブンのコンビニの袋だ。
「やっぱり、あの時の男だ!!」
思わず叫んでしまう。
「私もそう思うわ」
いつに間にか隣にいたユーが真剣なまなざしで言う。あの時の実質負けのような戦いでも思い出しているのだろう。
それよりもなぜアイツがここにという疑問が浮かぶ。
軍事委員会の関係者であるとは前件で予想はついていたが、どう考えてもただものではない。
無能力者の癖に強い!!
男子生徒は巫女服の症少女の頭にポンッと手をのせた。
それと同じくして従者が一礼してその場に二人を置いて逃げて行く。
「大丈夫でしたか? 月宮様」
静かに丁寧な口調で優しく問いかける。
「……大丈夫じゃない、もう一歩も歩けない」
さっきまでのポーカーフェイスはどこへ行ったのやら、涙目だ。
この人たちの関係を理解できない。
「悪かったって、コンビニが意外と遠くて、とりあえず炭酸買ってきたからこれでも飲んで休んでな」
ペットボトルのサイダーを手渡すと、彼は再び前進していく。
巫女服は緊張感まるでなしで、サイダーを開けて体育座りで飲んでいる。
「ま、まさか、奴が噂の理事会の『無能の強襲者(Lack Assault:ラックアサルト )』なのか!?」
「聞いてませんよ!! 一佐!!」
「ここは一端引いた方が……」
「私だって、そんな情報は入ってなかった!! さっさと片付けろ!! 事をここまで大きくしておいて手ぶらで帰れるか!!」
カチャッとデザートイーグルをフルオートに切り替え、そのまま弾切れになるまで撃ち尽くす。
スライドがオープンするとマガジンを落として再装填、再びフルオートで撃ちこむ。
特科も応戦しているが左右へのステップと高速での前進で距離を詰められて奴は次々に銃を捨てて逃げ出している。
デザートイーグルで牽制、直接攻撃を狙いつつ、接近してあの時のような『次元振動刃(Dimension Cutter)』を粉砕した蹴りで特科の人を一発でノックアウトさせていく。
「この化け物め!!」
一佐と呼ばれていた男が車に積んであったアタッシュケースから手榴弾を手に取りピンを抜いて投げつける。
「洒落臭い!!」
飛んできた手榴弾を高速で前進して地面に着く前にノーバウンドで人のいない斜め前に蹴り返した。
手榴弾は後方にあった無人のスープラに命中し、爆発音と共に吹き飛ぶ、さらにガソリン、中に積んであった火器に引火してさらにすごい破壊音共に横転した。
それを見た一佐は尻尾を巻くように部下と一番前に止めてあるスープラに乗って走り去る。それを追いかけることはなく、残された特科の部下と後衛部隊は武器を捨て両手を上げたのだった。
それを見た封鎖役の風紀委員が慌てたように一斉に撤退を始める。
俺たちはその後、野次馬から脱出してさっき休憩した公園に戻る。
ユーがいるといことはみんな合流したようでベンチに座ると気が抜けてようにドッと疲れがやって来た。
「いや~、あんなことが現実に起こるんだね~、確かに権力争いがどうのってニュースでやってたけどさ~」
光圀がしみじみと間の抜けた声で言う、脱力感がすごい。
俺も人の事は言えないが、御影先輩はこんなことは動じないようで、部長もそれに続き、ユーも無表情でいつも通り、音子も光圀と兄妹肩を並べて同じような感じだ。
「今日はいい勉強になったと思わない?」
満面の笑顔で部長が言う。
まるで知ったような口ぶりだ。
「勉強にはなりましたけど、正直危なかったですよ、光圀もいるんですし」
「細かいことはいいの、とにかくみんな無事何だし全然OKだよ、それに加えてたぶんだけど、乃ノちゃんと九戸(兄)と京四郎には後で別口の報酬が入ると思うので」
「はぁ」
意味不明過ぎて思わず「はい」が潰れて発音になった。
「さっきの戦闘での足止め料? 見舞金みたいな奴よ、あの時、アイツら引き止めて時間稼ぎしたでしょ、その仕事のお金よ」
「ちなみにいくらくらい入るのでしょうか?」
光圀が手を擦り合わせて、まるで悪徳商人だ。
「一人あたり一万程度だって聞いてるわよ」
「もしかしなくても、今回の一連の事件のこと何か知っていたんですね」
「だって私こう見えても階級上だし」
「確かにその身長からは予測不能だ」
俺は冷静に身体の特徴について分析する。
「うっさいわ!!」
ポカッと拳骨で軽く叩かれる。頭ではなく胸だ。残念ながら部長の腕では届かない。
「一万あれば、100g 1,000円の肉が一キロも買えるわ」
いつも通りユーは食欲旺盛だ。俺に聞こえるように言っているが、そんなことしても高級な何とか牛なんて買わないぞ。
「ともあれまだお仕事は終わりじゃないからお昼してからまた頑張りましょ!!」
この辺は基本的に何でもそろっているので、外食系なら好きなものが食べれるがお財布と相談する必要はなくなったが、時間と効率を考える必要がある。
「ということで、結局いつも通りファーストフードの定番中の定番といえば、そうマックである!!」
「光圀、誰に解説してるんだ?」
店に入るがかなり込んでいて座る場所を確保できそうにない。
仕方なくテイクアウトで再びあの公園に戻ることにした。
真っ先にベンチに着いたユーはデカいマックの紙袋からチーズバーガー二個、ビッグマック二個、ポテトのL二個、それにジンジャエールのLという豪勢な昼食となっている。
いつも思うがユーの胃袋は一体どうなってるんだ?
食べた後も、体型に一切の変化はなく、あれが腹に収まっているとは思えない。
俺はえびフィレオのセット、部長はポテトだけを三個という偏食っぷりを発揮し、九戸兄妹はてりやきバーガーを食べている。
それに対して御影先輩だけは何も買わなかった。
御影先輩の家は古くから使わる我流の伝承をしてきた由緒正しい家系らしく、家に掟でそういうジャンクフードのようなものは禁止されているらしい。いまどきそれはどうかとも思うが、特に気にもせず持ってきたおにぎりを食べていた。
昼休みを終え再び見回りに戻ったのだった。




