Short Holiday(1)
次の朝、俺は体がやけに重く早く目が覚めてしまう。
シルがくっついてきてそのまま俺に乗り上げたのだろうか。
まだボヤッとする頭で辺りを探る。
カーテンから漏れる外の光がパソコンデスクに置いてある目覚まし時計の透明なプラスチックに反射して眩しい。
やっと目が冴えてきて状況を理解する。
俺の上から抱きつくように寝ているのはユーだったのだ。寝室にシルの姿はない。それにリビングにももう出て行ってしまったようだ。
シルの日常行動のほとんどは謎に包まれている。朝にはすでにいないので一緒に登校したことはもちろんないし、学園で時々会うこともあるが、毎日全ての授業に出ているわけでもないだろう。何かのミッションについているとしても、その内容を聞いたこともないし、仕事についての話を俺たちにしたことは一度もない。
俺はくっついているユーを何とか引きはがし、ベッドからの脱出に成功する。ユーは少し動いた後毛布に包まり小さくまとまった。
リビングのストーブの電源を入れて着替えを出した。二人分だ。基本的なユーの世話の九割以上を行っている。
そのせいかユーは自分ではあまり何もしない子に育ってしまったが、世話好きな俺はそれを面倒だとうは思わない。別名おせっかいとも言うらしい。
着替えて朝食を作るという日課となっている家事を次々にこなしていく。
七時を過ぎるとユーが朝食の匂いにつられて起きてくる。
すぐにテーブルに置かれたごはんにありつこうとする。
「待て何かいうことがあるだろ」
「いただきます」
寝ぼけた声で言う。
「違う、おはようだろ」
「……おはよう、いただきます」
「まず顔を洗ってきなさい」
「嫌」
子供が駄々をこねるような顔をする。
「今食べたらデザートはつかないからな」
「ものでつるのね」
突然、冷静な声になって静かに呟いて、ユーティリティ(洗面所)にトボトボと向かう。
「結局つられるんだ」
「デザートはおいしい」
何だかんだものにつられてしまうようだ。特にそれが食べ物(甘いもの)の場合の時の効力は絶大である。
朝食を済ませ、バスでいつも通り学園に向かった。
教室に行く途中の校内掲示板には、教会への立ち入りを禁止する張り紙が大々的に掲示されている。
それに加えて、その右斜め下辺り普通の掲示物と同じ大きさの紙で、生徒会執行部の活動休止命令の紙が理事長の名前で張り出されていた。明確な理由などは一切明記されておらず、ただ活動休止が宣告されているだけだった。
昨日の教会と図書室、第一部室棟での件は公には伏せられているようだが、あれだけの大きな事件だっただけに目撃者も多数おり、学園中、この話題で持ちきりである。
そして俺もその被害にあったことで、色々大変なことになりそうだ。
クラスに入るなり、被害にあったのが『EARTH部』であることがわかってしまっていて、いつもは目立たないと自分では思っている俺がクラスメイトから囲まれるという異様な光景に出くわした。横に一緒にいたユーも囲まれている。
「昨日銃撃戦したんだってあの生徒会相手に」
「あの文系のお前はそんなことできるとは、てっきり本の虫かと」
失礼だな、俺はそこまで本に固執しているわけでない。
「それで詳しく教えてくれよ」
「会長やっつけたのか?」
男子総出で迫ってくる。
男という生き物は何でこんなに戦うことが好きなのだろうか、『EARTH部』ではそのパラメーターは逆転しているが。
ガヤガヤといろんな奴が似たような質問を何度もしてくる。
そんな状況に押されているところで、横のユーが前に出た。
「うるさいわ、邪魔よ」
そうはっきりと言ったのだ。ユーはどんな奴にでも態度を変えない。
「……!?」
「何?」
「な、何でもないです」
「も、もどるぞ、みんな」
それに驚いたというか、怯えたようにみんな散っていく。
ユーには様々な荒っぽい噂が絶えないので、それに怯えている奴は多い。それにこの物言いなので、確かに良い印象は持たないだろう。
最近は俺とユーを一まとめのする人は多くなってきており、俺まで物騒な人間だと思われる傾向にある。
午前中の授業を適当に受けて、昼休みとなった。
昼を食べて少しすると、廊下が少し騒がしいことに気付く。
それから間もなく、教室に学内の有名人が入って来たのだ。
セミロングの業火のような真っ赤な緋色の髪、それに女子にしては高身長でキリッとした上がりぎみの瞳の三年生『椎名緋煉』、第六十七代生徒会長で監査委員長である。
彼女は俺一点だけを見ている。
そしてゆっくりと近づいて来る。後ろには取り巻きというか、護衛というか、類の人が二人、さらに廊下にも数人いるようだ。
いったい何の用なんだ?
俺は思わず身構える。
ユーはそれを通り越して、椅子から立ち上がりファイティングポーズをとる。
「君が各務原京四郎くんであっているのかな?」
「そうですが、生徒会長が俺なんかに何の用ですか?」
ユーが今にも殴りかかりそうな勢いなので、待てと手で合図する。
「かなり、警戒しているね」
「あたり前です、昨日あんなことがあったばかりです。警戒しない人間の方がどうかしていると思いますけど」
「そうね、今日は話があってきたの、今回の件で理事長からの公務執行停止命令を受けたわ。それは知っているわね」
「ええ」
「昨日の戦闘でのあなたたちの戦いぶりを私たちは高く評価しているのよ。だから単刀直入に言うわね。あなたたち二人とも、生徒会に入らない?」
なんとなく途中で展開は読めてしまったが、やはりそうだったか。
だが、そんなことを言われても返事一つしかない。
「お断りします」
「決断が早いのね、でも別に急いでないの、だから家に帰ってじっくり考えてきてほしいところなんだけど」
「お言葉ですが、考えは変わりません。そもそも前回の件ですでに信用は失われています。じっくり考えるまでもありません」
相手に期待を持たせるのは良くない。俺はどう考えても向こうの味方になる予定はないからだ。俺は一瞬たりともあの夜、あの男の言ったことを思い出すことはなかった。
「きっぱりフラれるとはね」
「すいません、わざわざ来てもらったのに」
「いや、いいのよ、別に強制する気は最初からなかった」
そして表情がすごく真剣な顔つきになる。
「後、最後の一つだけ、風紀委員会が何か企んでいるわ。せいぜい気を付けることね」
俺が気にも留めなかった。いや、留めようとしていいなかったことを言われたので、すごく驚いてしまった。
あの男と同じことを、しかも別の立場から言われるとは、ここまで言われると流石に何かかるとしか思えなくなってくる。
とは言っても特に変わったことは起きていない。
俺は困惑した。
生徒会長はそれからすぐに教室から去った。




