Short Holiday(2)
それから放課後、俺たちはいつも通り部室に集合していた。
昼休みのことが頭から離れないが、考えてどうにかなることじゃないし、部長が特に動いてないことを視野に入れると、そんなに大げさではないことなのかもしれない。
今日はちゃんと出席している九戸兄妹が呑気に話かけてきた。
「昨日はおもしいことがあったみたいだな、京四郎だけズルいぜ」
「大丈夫でしたか先輩?」
二人はまったく逆の言葉をかけてきた。
「お前ふざけてるけど、ほんとヤバかったわ」
「バンバン撃ちあったって聞いたぜ、俺がいたらかなりの戦力になったのに、京四郎はタイミング悪かったな」
まるで強い奴の棲セリフのようだが、これは本当のことを言った方が良さそうだな。
「そうだな、確かにお前が戦力になったな、無敵のシールドとしてだけどな。お前一般生徒だし」
「ガーン!! まさか今まで俺がもてはやされていた理由って……」
「そうだな、その一点に尽きる」
ガクッとその場で膝と手を床に着いて、世界の終りのような顔をして、落ち込みだした。
「俺ってそのための存在だったんだな、しばらく立ち直れそうにない」
「少しからかい過ぎたかも」
「いや、いたって普遍的な事実だ」
さっきまでパソコンデスクに向かっていた部長が椅子をクルッと回転していこっちを向きながらうんうんと頷くように言う。
それが決定打となった。
九戸(兄)が床にさっきの体勢から床に倒れた。口から抜けた魂みたいな白い何かが見えるのは表現である。
「後付け加えるなら音子も良い盾になるわ」
「やっぱり私もそうなんですね」
音子は最初、華道部に入る予定だったのだが、部長の全力の説得(脅迫とも言う)によりこのよくわからない部活に入ることになってしまったのだ。
今なら部長があんなにも必死で引き込もうとしていた理由が良く分かる。昨日、アイツ等がいればどんなに良かったと思ったか。
結論から言えば、一般生徒は学園内ヒエラルキーに置ける最弱の存在にして最強の存在であるということだ。
「……あ!!」
部長が突如素っ頓狂な声を上げた。
「どうしたんですか、部長?」
みんなの視線が部長に集中する。
「あのね、怒らないで聞いてほしいんだけど」
額に若干の汗、少し弱気の口調、どう考えても悪きことに他ならない。しかもあの部長があんな態度をとっている。よほどの悪いことであるに違いない。
「「時と場合による!!」」
みんな一斉に似たようなことを言う。
「だよね、でも言うから、あのね、非常に言いにくいのだけど……」
「早く言ってください」
「今年のゴールデンウィーク返上で仕事することになってしまったのです」
「マジか!? というかなぜ敬語?」
もじもじとしながら部長が言う。
詳細を説明すると、今月末に風紀省からの依頼が風紀委員会に来たらしく、その内容が今の風紀委員の数だけでは足りないらしい。そのため傘下の部活にも依頼が来たというわけだ。
部長も最初はゴールデンウィークの予定をたくさん考えていたらしい。その証拠にパソコンデスクの下に雑誌が十冊ほど積んであり、どれも観光雑誌とか旅行雑誌とかゴールデンウィーク特集がされた本だった。こんなものを見るとがっかりというか、逆に小さくなっていまった部長を慰めたくなる。元々小さいけど。
この学園は開校記念日と改修記念日とか言う戦後半壊していた『光明館』の修復が終わった日とかいう適当に作ったような記念日のおかげで生徒には五連休が保障されているわけだが、今年は遊んではいられないようだ。
「部長、ゴールデンウィーク、楽しみにしていたんですね」
「……うん」
小さく頷いた。
今回の仕事について説明すると、ゴールデンウィーク中は本州や海外からの旅行客や観光客が増加する時期である。この都市には日本では考えられない司法、行政の基盤の上に建っているため、予想外の事件が予想通り起こる。しかも、この時期は一年で二番目に軽犯罪、重犯罪ともに多い、ちなみに一番は夏休み、夏季休暇がある七月末から八月の末のかけてで最大となっている。
つまり、この時期の犯罪を撲滅するための警備として準風紀委員となって、都市の治安維持に努めてほしいとのことだ。
俺たちが担当するのは、何かの配慮があったのかはわからないが、この都市の経済の中心とも言える新月区が担当になっていた。新月区はビル街で、どこにいても高層ビルが立ち並ぶ、それに有名なショッピングセンターなどもそこに集中している。車通りが多く、常に渋滞している。アクセス方法が車、バス、電車などがあるがどの交通機関も込み合っていることが多い、それに最大の特徴はカジノがあることである。
日本で唯一認められている都市だ。この都市の構造上は日本国憲法に従う必要のない特殊な環境化にあるので当然とも言える。
昼間はショッピングで込み合い、夜はカジノが込み合う、眠らない町というのはこういうのを言うのだろう。
夜はカジノがある関係上何かと問題が尽きない。何かの配慮というのは、ここが一番退屈しない区であること、それと治安があまり良くないので、少しでも上級の能力者を配備したかった可能性がある。
俺たちは二班に分かれて活動することになっていた。
両方とも宮下二番街と三番街で同じ区の別のエリアであるが隣り合わせになっているので、休憩や緊急時にはお互いにすぐ会える距離である。
班分けは部長はやったらしく、一班は部長、悠里、音子、二班は御影先輩、俺、光圀という風になっている。学年にバランスと戦力バランスを重視しているようで、一班は三年、二年、一年、二班は三年、二年、二年、戦闘力的にも、戦闘員と非戦闘の割合2:1で同じになっている。
他の配属は学園の近くの警備が割り当てられている。
風紀委員でも、俺たちと同じ区域の担当は委員長がいる班と委員長直下の雛野さんの班ともう一つで合計三つ、それと俺たちは二班で合計五班だけだ。
全体で三十班あるのに対して五班しかないことを見ると明らかである。
「ここで問題になるのは非戦闘員なの」
「確かにそうだな、学園と違って悪には規則が存在しない」
御影先輩が理由を素早く述べた。
その通りだ。学園には校則のよる縛りが存在しているため、一般生徒は比較的安全なスクールライフを送れるようになっている。だが実戦は別だ。そんな校則、規則、無法者には通用しないからだ。
「なんで九都兄妹も参加させることにしたんですか、部長?」
「そうね、ズバリ社会経験よ!! ここにずっと住み続けるなら、ああいうことは日常茶飯事だと思うの、だから、事件に巻き込まれるよりも、安全にそういうことを体験できれば良いと思って」
「無茶苦茶言いますね」
「そうでもないわ」
さっきまで黙って聞いていたユーが口を開いた。
「この学園は毎年八割の生徒が警備関係の会社に就職しているの、実戦経験はアドバンテージになるわ」
「まあ、それはそうだが」
それはそうだが命には代えがたい。俺の中の方針ではあまりそういうことに参加させたたくはない。何かのきっかけでそういうことに興味を持ってほしくないからだ。特に音子はただでさえ危なっかしいのに、銃持って戦うとか言い出したら、胃に穴が開くね、間違いなく。
「京四郎くんの心配する気持ちもあるが、音子くんも護身術をかなり練習している、だからそこまで問題にする必要もない、それに去年だって十件近い事件が発生していたが、どれも軽犯罪クラスものばかりだ。それとも乃ノちゃんと悠ちゃんで守れないとでも?」
「そこまでは言ってませんけど」
「そこまで気負おう必要はないわ、所詮は一般レベルにまで依頼を受けられるほどの低級の仕事よ、何かあっても私がいる限り、無敵なのよ!!」
ビシッとホワイトボードを叩き、部長はない胸は精一杯張った。
ここまでまわりに説得されると、流石に考え過ぎかとも思ってくる。それに何か起きる前に俺の目で能力者を見分けられれば、重犯罪には素早く対応できるだろう。
「後詳しい日程なんだけど」
キュッキュッと黒のマーカーでホワイトボードの左の方から書いていく。背が低いので真ん中辺の高さの所から書き始める。
概要
『日程:5月2日~5月6日まで』
『時間:10時から4時まで(昼食等は各自の判断で行う)』
『日当:5000円(5日で25000円)』
『備考:連絡には風紀省から配布される無線機を利用(各班一台)』
『__:軽武装の使用許可あり(ハンドガン[45口径以下]、刃物[刃渡り15㎝まで])』
『__:姫神チーム⇒T-11班 乃ノちゃんチーム⇒T-12班』
『以上』
日当がやけに高いことが気になるが、これは良い小遣い稼ぎになりそうだ。
こうして俺たちのゴールデンウィークの予定は仕事へと極限のように収束していったのであった。




