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窓越しの 恋  作者: 星鼠
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弦太と竜輝

ダイニングからはリビングの大窓が見える。

萌え始めた庭の緑と門扉から続く飛び石が窓枠に収まっている。

食事を終えて立ち上がり、目に入ったその光景を

弦太がぼんやり眺めていると、

「そんな時間あるの?」と声が掛かった。

「ありませんね はい」 弦太は自室に上がって支度を整え、

階下に戻った。

食卓の椅子に置いた鞄を持ち上げた。

母親が弁当箱を差し出す。

「ありがとう」 受け取って鞄に入れる。

玄関扉を開ける。風が気持ちいい。

通りに出ると小学生の集団の最後の後ろ姿が見えた。

「うぉい」 

背後から声がかかる。振り返るまでもない、小坂井竜輝だ。

駆けてきて横に並ぶ。

幼馴染であり、現在の同級生である。小中高と同じ。

並ぶと竜輝の方が肩の位置が微妙に高い。

それはふたりの関係をそのまま表していた。

歩調によっては横に並び、一歩先では竜輝が高くなりしながら、

一緒に歩いてきた。

「同じクラスでよかったよな」 改めて竜輝が言った。

「そりゃ 同じ選択だしな」

「しらけたこと言うなって」

弦太は曖昧に笑って返した。

竜輝が理系にしたのは将来性など考慮した上でのことだが、

弦太はその考えに同調しただけだ。

尚且つ、女子が少ないのではないかという期待。

学業的に不得手はあまりない(得意もない)けれど、

中学生の頃から女子が苦手になった。

なぜかは分からない。一番近いのは警戒心だろうか。

とはいえ、どうしてそんなものを抱くのか、分からない。

女子が少ないクラスで、竜輝と一緒だったら最高だなと思い、

理系を選んだのだった。

目論見は半分だけしか当たらなかったが(男女比率は半々だった)、

竜輝と一緒になれたことは純粋に嬉しかった。

気心が知れている彼といるのは楽だ。

竜輝にはそれなりに社交性もあって、閉鎖的になることもない。

居心地のよい学生生活が保障されたわけだ。

駅を通り越すと、電車通学の生徒たちが合流する。

高校は徒歩圏だ。志望した一番の理由はそこだ。

6歳上の兄が通ったような中高一貫の進学校ならば、

交通費を払う価値はあっただろうが

(そして女子に煩わされる心配もなかったが)、

弦太には狭い門だった。

親にもその気がなかった。

長男を難関の志望校に入れた後、教育熱を冷ましたらしい。

弦太には何も強いなかった。

尤も、長男の太市にも多くを求めたわけでない。

たまたま出来よく生まれた子を軌道に乗せてみただけだった。

結果、学園に通い出した息子を見て、

両親は、特に母親は、意識を変えたのだと思う。

なにごともほどほどがよろしい。

そのおかげで弦太は兄にも友人にも引け目を感じることもなく、

日々を凡庸に、そして「ほどほどの」幸福感をもって送っていた。

時には漠然とした不安に苛まれたりもするけれど。

自分には何か足りていない、何かを忘れている…

もっとすべきことがあるのではないかという焦燥に駆られる時がある。

ガラスの向こうに手が届かないもどかしさに似た気持ちが、

弦太の胸をかき回す。

しかしそんな感覚は一瞬のことで、日常に紛れてしまう。

「今日 うちに来ないか。ちょっと久しぶりだろ」

竜輝が言った。

「行く行く 行く」

うしっと竜輝はこぶしを握った。

「春休み 思ったより遊べなかったかんな」

「連休明けたら すぐに中間だし」

「なんだよなー 遊ぶなら今の内 ってそうそう 連休ったら…」 

竜輝は言いかけ「あとでいいか」とやめ、

「退部届 どうした?」と話題を変えた。

一年生は部活動が必須だが、二年で退部する生徒も少なくない。

弦太もそのつもりだった。

中学までは野球をやっていたが、今の高校に野球部はなく、

他に入りたい部も見当たらなかった。

竜輝に卓球部に誘われたが、

「男女混合ダブルスもあるぜ」という言葉に逆に萎えた。

結局、活動が殆どないという理由で社会科研究会を選んだ。

教科系ということで優遇されて部室もあったし、

同じ理由での入部者も多くて居心地は悪くなかったが、

続ける理由もなかった。だが。

「新入部員の数が確定してからって頼まれた」

「ああ そうか」

「だらだらでもいいから とも言われた」

「ま 様子見ってとこ?」「だな」

学校に着く。校門から昇降口を通り、教室に入ると、

男子生徒のひとりが彼らの到着を待つように駆け寄ってきた。

目当ては竜輝だ。竜輝が鞄から何かを出して渡した。

そのまま話が始まりそうだったので、弦太は場を離れた。

自分の席に行き、鞄から必要なものを机に移し始める。

すぐに終わる。両手を机に乗せて、ひと息つく。

早くも初夏めいた日差しに、窓際の席は明るかった。

外に目を向ける。ガラス越しの風景に。

空を背景に薄く自分の顔が浮かんだ。

後ろの席の生徒が、暑いと言いながらガラス戸を開けた。

吹き込んだ風が湧き始めた何かを、飛ばした。




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