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プロローグ
部屋を空けるために大掃除を始めた。
必要ないと言えばないのだが、気持ちの問題だ。
もとより物は少ない。片付けはすぐ終わった。
窓ガラスを拭き始める。
磨いているうちに、風景が澄んでいくのが分かった。
段々と集中する。無心になる。
透明なガラスは存在感を失っていく。
自分と、外界の景色を遮るものは何もない錯覚に陥る。
ただ手を伸ばせば掴むことができる。
あの時も、ただ手を伸ばせばよかったのだろうか?
そんなことはできないと分かっていて、自問する。
したかったのかと自問する。
できたとしても、しなかったと自嘲と諦観を浮かべて答える。
窓の向こうには彼の描いた理想があった。
外は寒風が吹き荒れているが、部屋の中は暖かそうだ。
ガラスに遮られた世界に、彼は踏み入ることはできない。
そこは別世界なのだから。
分かっていて、目を離せない。分かっているから、焦がれる。
ガラスは結露で曇り始めている。
映像はやがてすっかり姿を消すだろう。




