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26. 作戦会議

「前置きはやめて、さっさと本題に入ろうや。坊主、お前はどうやってネムヨールと闘うって言うんだ?」

「やっぱり独占ですね」

「「「「「独占??」」」」」


 コマーロム(ギリシャ髭)さんの問いに、俺は即答する。

 だが、その返答に他の面々は理解に戸惑っている様子。


「あとはコストを抑えながら大量に売りさばくため、既製服に路線変更してもらおうかと」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 周りの反応などお構いなしに話し続けようとする俺に、コマーロムさんが待ったをかけた。

 話の腰を折りやがってとも思うが、面々の様子をうかがうと、皆頭の上に疑問符を浮かべている。ちょっと話すペースが早かったかな?


「独占って、どういう意味だよ……」

「文字通りの意味ですけど」

「コマーロムさんの言う通りだわ。今だってネムヨールのオジサマが、町のお客さんを独占しているじゃない」


 アンナさん(♂)の言葉に、コマーロムさんやグリータさんも頷く。そこでようやく、俺は説明不足だったと気付いた。


「ああ、そっちの独占じゃないですよ。独占するのは客じゃなくて、材料の供給源です」


 俺が補足するが、彼らの疑問符は消えないようだ。


「グリータさんに聞くと、皆さんは糸や革を仕入れてからご自分のところで製作し、それを売っているんですよね。それはネムヨールも同じ」


 同意を求めるようにそこで区切ると、3人の店長は小さく頷いた。


「だったら、ネムヨールが材料を仕入れられないようにすれば、お客さんは皆こっちに来るはずです」

「「「う~ん……」」」


 果たして口で言うほど簡単に行くのかと、3人は半信半疑だ。

 するとそこへ、ファンニがグリータさんたちに話しかけた。


「あのー、ちょっといいですか?」

「はい、どうしましたか? あ、ごめんなさい。私ったらお茶も出さずに」

「あ、そ、そうじゃないです」


 立ち上がろうとしたグリータさんを、ファンニが止めた。

 たしかに、先に来ていたコマーロムさんたちにはお茶が出ている。ただ、これはグリータさんが忘れていたとかではなく、その暇を与えなかった俺に責任がある。

 元々出すつもりだったからと言って、彼女はお茶を用意しに一時退室した。


「それで、何か気になったのかしらン」

「あ、はい。どうして皆さん、ネムヨール商店の方に行っちゃうのかなって」

「ああ、確かに」


 ファンニの疑問に、ラウラも同意する。

 ところが、コマーロムさんは顔をしかめ、アンナさんも気まずそうになる。

 言ってはいけないことを口にしてしまったかと、ファンニは青くなった。それを見て、コマーロムさんが慌てて教えてくれた。


「や、や! お前さんは何も変なことは言ってない」

「そうよ。全部この髭もじゃが悪いの。だから怖がらないで」

「そうだ。全部この儂が…………って、おいボビィ! 誰が髭もじゃだ!?」

「いやん♡」

「「「………………」」」


 もう、どこから突っ込んでよいのか分からない。

 俺たちへの反応に気付いたのか、コマーロムさんが1つ咳払い。


「ゴホン……。まあ、服を買う連中は、だいたい金持ってるだろ。いつの間にか、服を買うならネムヨール! ってなってたわけだ」

「ああ、ブランドですね」

「そうよ。そしてワタシたちは皆に忘れられちゃったのよー!」


 スマホと言えばiPhone。そんな感じだろう。最近はアンドロイドのユーザーも増えてきているが、それでもiPhone勢にはかなわない。日本人の7割くらいはiPhoneを使っているのではないか。


「……でも、嬉しいわ。キリル君がこんなワタシを気にかけてくれて」


 アンナさんのウィンクにギョッとした俺は後ずさり。だが、進んだ先にいたラウラに付き飛ばされ、アンナさん(♂)の胸にダイブ。


「おいで、ワタシの可愛い坊や」

「ア゛ーーーーーーー!!!」


 そこへ、お盆を持ったグリータさんが戻ってきた。


「な、何してるんですか!?」

「タ、タスケテ………」

「あら、愛を育んでいるのよ。グリータちゃんも入る? ウフフ」

「いえ、遠慮します。それより、娘がいるところではやめてくださいね」


 俺の救いを求める手は、無情にもはねのけられた。

 いつまでもこのままでいるわけにもいかず、ラウラが助け舟を出す。


「あの、キリルがいないと話が進まないので、そろそろ……」

「そうね。まだ足りないけど、それは今度にするわ」

(次からバリアを使おっと……)


 一旦相手の懐に入ってしまえば、バリアは相手もろとも保護の対象としてしまう。これは俺が7歳の頃、寝ている間に兄から関節技をかけられた時で実証済みだ。

 さらに、透明な硬いボールの中に入るようなものなので、ずっと入っていると酸欠になる。

 便利なように思えて、欠点も少なくなかった。もっとも、俺がこの能力を得た事情が事情なだけに、不完全なのもやむを得ない。


「…………まあ、知られてない分はしっかり宣伝します。そのためにも、まずは準備をちゃんとすることが大事です。供給源を押さえるのは俺たちでやろうと思うので、皆さんは色んな服を多く作っていただければ」

「そうだな。ところで、さっきお前さんが言ってた既製服について教えてくれ。儂らはずっと、注文を取ってから作るという形でやってきた。先に作ってから客を待つんじゃ、サイズが合わないだろうし、客を呼べないぞ」


 オーダーメイドが当たり前の世界でも、当然の意見だろう。

 逆に俺は、転生してからずっとヒキニートで、この世界の常識に欠けている。多くの日本のアパレルと頭の中で比較してから自分の見解を述べる。


「服のサイズなんて大中小の3つあれば、意外と足りるものですよ。わざわざ個別に作るって面倒じゃないですか? お客さん1人1人に合わせる必要がないので、作る側としても楽になるはずです。その分コストを抑えられるかと」

「ワタシたちの都合をお客さんに押し付けるなんて……」


 アンナさんは不満を示すが、俺はなおも説得を続ける。


「買い手にとってもメリットは大きいです。まず、完成まで待つ必要がないので、買ってからすぐ手に入る。次に、買う前に試着することで、できた後に『思ってたのと違う』なんて言われることが無くなります」


 実際にそのような経験があるのか、グリータさんたちは苦笑する。

 ただ、オーダーメイドという伝統的なやり方に、誇りのようなものを感じていたコマーロムさんは、すんなりと納得できない様子。他の2人とは対照的だ。


「儂はずっと今のやり方でやってきたんだ。今更、変えることなんてできん」

「別に、商品を全部既製服にする必要はないですよ。オーガみたいに大柄な人なら、特大サイズじゃないと入らないでしょうし」

「う~ん…………」


 コマーロムさんはオーダーメイドを中止しなくてよいと言われても、なおも抵抗感を払拭できない様子。

 そりゃあ、長年ずっと続けてきたことを、こんなポっと出の若僧に変えろと言われて「はいそうですか」というわけにもいくまい。

 だけど、ここで決断してもらわないと、いつまでたっても現状維持、もしくは後退し続けるのみ。俺はさらに説得を重ねた。


「それに、ネムヨールと同じやり方を続けていては、追いつくどころかドンドン引き離されます。アイツらとは違うやり方を選ぶことで、アイツらと闘うことができます。やり方を替えないと、いつまでもこのままですよ」

「…………そうだな。オーダーメイドはアイツらの二番煎じみたいなもんだ。儂らには儂らのやり方でいくぞ」


 しばしの逡巡の後、コマーロムさんは頷いた。

 うん、やっと決心してくれた。


「あとは宣伝ですね。ビラに写真…………はないから、絵とかあれば」

「それなら娘にやらせましょう。こう見えて、絵はかなり上手なんですよ」

「任せてー!」

「おわっ!」


 突然、グリータさんの娘であるジェシカが、母の背後から顔を覗かせてきた。いつの間に帰ってたの?

 他の面々の態度からするに、ジェシカに気付いていなかったのは俺だけだったらしい。自分が話すのに夢中だったんかいな。


「じゃあ、頼んだわよ。頑張ってね」

「うん!」


 ラウラの激励に、ジェシカは大きく頷いた。果たしてこの2人は、俺の言うビラ作りの意義を理解できているのであろうか。せめてラウラは、この時に悟るべきだった。


「ビラはラウラたちに任せるとして、あとは紹介割引をやりましょう」

「あら、それは何かしらン?」


 質問してきたアンナさんに対して、俺は目を合わせずに答える。


「一度購入された方が知人にお店を紹介してくれれば、紹介者が次回購入する際に割引するというものです。お店の宣伝で、口コミに勝るものはないですからね」

「あら、それだと紹介した人も、もう一回お店に来ないといけないわ。キリルちゃん、ずる賢いわね」


 アンナさんは、俺が言外に滲ませた事もきちんと理解したようだ。さすがは商売人と言ったところか。


「割引は無理のない程度でお願いします。やり方は後ほど。紹介された人にも割引すれば、より集客が見込めるかと。

 俺たちは、糸や布はそのお店へ、モンスター由来の素材はギルドの方へ手を回します」

「おいおい。糸の店はともかく、ギルドは協力してくれるのか?」

「そこは、コネの力ですよ」

「カネの力だろ」


 コマーロムの指摘に、キリルは口笛を吹くような仕草をした。




   ♦




「なんだか、今回はまともね」


 グリータさんの店を後にすると、ラウラがボソッと呟いた。思わず俺は苦笑い。


「感覚が鈍ってるよ。ネムヨールへの憎しみのせいかな?」

「キリルに毒されたせいだわ」


 ファンニは怪訝そうに俺を見てくる。ファンニの中では、俺は耳を覆って鐘を盗るような人物になっているのではなかろうか。


 ふと、ラウラたちのバッグに、俺が昨日あげたブローチが付いていることに気付いた。ラウラが花で、ファンニが雪の結晶だ。どちらも2人の雰囲気に合っている。

 う~ん、男なのにブローチって……。まあ、ファンニはまだ子供だからな。




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