15. ニンジンと呼ばれた子
少年少女5人の冒険者パーティーはゴブリン討伐を終え、ギルドへと向かっていた。
彼らは【マショディック】の学園に通う生徒だったが、課外活動の一環として冒険者の活動をしている。
「ヘヘン、俺っちの魔法でゴブリン4体もやっつけたぜ!!」
「ナジ、さっすが!」
「ありがとう、キシュ」
少年Aが誇らしげに言うと、少女Aが彼を持ち上げた。
「でもでも~、私だって1体倒したんだよ~」
「おう、ショヴァンカもスゴイ。さすがは俺っちの仲間だぜ」
「エヘヘ~」
少女Bは少年Aに褒められ、尻尾を振る犬のように嬉しがった。
「チェッ。俺だって邪魔さえなければ、5体くらいいけたんだよ」
「まあまあ、クベールはちょっとツイてなかったんだよ~」
気をよくしている少年Aと比べて、少年Bは物足りない様子だ。
彼は最後尾をトボトボ歩くメンバーに振り返り、恨みを込めるように言った。
「だいたい、コイツがいなければもっと倒せたんだよ」
「ホントそれな。いつもいつもアタシらの足引っ張りやがって、ニンジンが」
「なんで私たちがこんな役立たずと組まなきゃいけないんだろうね~」
「…………」
役立たずと言われた子は、男とも女ともとれる中性的な顔立ちをしている。
ルビーのような赤髪だか、彼らは"ニンジン"と揶揄していた。
「まあまあ、そう言うなよ皆。そもそもニンジンをポラーニ先生が俺っちたちのグループに入れたってことは、4人でも問題ないって思われたんだろ」
「あ、なるほど~」
「よっしゃー! 俺たちが特進クラスに上がれる日も近いぜ!」
「ああ。早くギルドに行って、俺っちたちの実力をしがない冒険者どもに見せつけてやろう!」
「「「おーっ!!!」」」
少年A・ナジの言葉に、他の3人が拳を上げる。
「ホラ、さっさと歩けよニンジン」
「うっ……」
その赤髪の子は少女A・キシュに蹴られ、転んでしまった。
そのせいで、両手いっぱいに抱えていた荷物が地面に散らばる。なお、他の4人はそれぞれの武器以外は何も持っていない。
「あーあ。何やってんのよ」
「てめぇ、俺たちの荷物を汚しやがって。今度は坊主にしてやろうか!?」
少年B・クベールが、倒れた子の赤髪をつかんだ。
この世界で坊主頭になるのは、服役している犯罪者くらいなものだ。やられる側からすれば、この上ない屈辱である。
「あ゛、なんだ?」
「い、や……ちが……」
「うっせーよ。誰に向かって口きいてんだ、オラ!」
クベールは地面の砂を握って、それを赤髪の子にかけた。
赤髪の子がペッと口に入った砂を吐き捨てる姿を見て、クベールは顔をしかめる。
「ったく、汚ねーな」
「クベール、それくらいにしておきなよ~」
「へいへい、しゃーねーなー」
少女B・ショヴァンカが諫めたことで、クベールはそれ以上は危害を加えなかった。
「早くしろよ。モタモタしてると日が暮れるぞー」
「あいよー」
クベールが歩き出すと、赤髪の子はさっと起き上がり、荷物を集めて小走りにパーティーメンバーの後を追う。
♦
カランコロン
依頼完了の報告のため、少年たちはギルドにやってきた。
「おい、さっさと終わらせようぜ」
そう言ってクベールが空いた受付のところに行こうとすると、最前列にいた亜麻色の髪の女性冒険者が口を尖らせた。
「ちょっとアンタ、ちゃんと並びなさいよ」
「うっせーなー。冒険者風情が、将来有望な俺らにたてついてんじゃねーよ」
冒険者のための施設であるギルドの中で“冒険者風情”と口走ったため、ギルド内から一斉に非難の目を向けられる。
「アンタだって冒険者だからここに来てるんでしょ。だいたい、そんなこと言うような子の将来が不安だわ」
「あ゛ぁ!? てめぇ、俺をバカにしてんのか?」
クベールは自分に向けられている視線に気付いていないのか、悠然とした態度を崩さない。
「先に冒険者をバカにしたのはアンタじゃない。ここにいる冒険者の皆に謝りなさい」
「鬱陶しいオバサンだな」
「何ですって!?」
「おい、どうした?」
そこへ、ギルド職員と冒険者を兼ねているというおっさんがやってきた。今は第一線を退き、若手のサポートをしている人だ。
クベールたちはいつも小言を言われており、口うるさいジジイという風に思っていた。
「あ、メドベさん。この子が列を無視して受付に行こうとしたんですよ」
「はあ!? てめぇ、何チクってんの?」
チクるも何も、ギルド内にいた冒険者なら全員がクベールの行為を目撃している。
当然、そのおっさんも見ていた。
「あー、またお前か……。いつも言ってるけど、ギルドを利用するなら最低限のマナーくらい守れ。あまり調子に乗っていると、いつか痛い眼に遭うぞ」
「……!」
熊のようなおっさんに睨まれ、さすがのクベールも怯んだ様子だ。
「うっせークソジジイ!」
しょうもない捨て台詞を吐いて、クベールは入り口付近の仲間たちのところへと駆けていった。
「何なんだよ、あのおっさん」
「まあまあ、ここは大人しく並んでおこう」
「ケッ、黙って俺たちに先譲れってんだ」
「並ぶのダル~イ」
「ホラ、ナジが並んだんだから文句言わない」
「「チェ~」」
ナジが素直に列の最後尾に並んだので、他のメンバーも彼に続く。
そしてようやく彼らの番が回り、ゴブリン討伐の報酬を受け取った。
「じゃあ、いつも通り5人で分けようか」
「おいおいナジ、待ってくれよ」
リーダーのナジが報酬を分けようとすると、クベールが横槍を入れてきた。
「どうしたクベール?」
「今回コイツはゴブリン1体も倒してないんだぜ。コレにも金を渡すのかよ?」
「あ~、それ私も思った~」
「ショヴァンカまで……」
パーティーメンバーからの提案に、ナジは少し困った色を浮かべた。
「倒してないだけならまだしも、コレはアタシたちの足を引っ張っただけなのよ。むしろアタシたちがお金もらいたいくらいよ」
「おう! キシュも分かってるじゃねーか」
ナジは悩む素振りを見せたが、やがて「うん」を大きく頷いた。
「そうだね、皆の言う通りだ。今回は4人で分けよう。お前もそれでいいな?」
「…………」
「いいじゃ~ん。どうせ4対1だから、多数決で決まりだよ~」
ナジは一応赤髪の子に同意を求めたが、彼だってハナから報酬を分配するつもりなどなかった。
そもそも今回の依頼では、柘榴の子は終始5人分の荷物を抱えていたため、戦闘に加わる余地すらなかったのだ。土を付けたら暴行の大義名分が与えられる。
「オラ、さっさと荷物運べよ。何勝手に下置いてんだよ」
「ニンジンのくせに調子乗んなよ」
「うっ」
報酬の分配を終えてギルドを出ようとした時、クベールとキシュが赤髪の子の肩を殴った。
「ちょっと、何してるのよアンタたち!」
すると先程の女性冒険者が、4人の蛮行を見かねて口を挟んできた。
「あん? さっきのオバサンじゃん。俺たちに何か用っすか?」
女性冒険者は“オバサン”と言われたことに眉をピクリと動かすも、わざわざ指摘することはなかった。
「用ですか、じゃないわよ。さっきから見てたら4人してその子をいじめて……。自分たちが何をしてるか分かってるの?」
だが、そう言われた4人は少しも悪びれる様子はない。
それどころか、無知な市民に事情を説明してあげようと言わんばかりの態度だ。
「あー、仕方ないっすよ。コイツ、雑魚だもん」
「そ~そ~。荷物を持ってるコレがお荷物~」
「はぁ? 何言ってるのよアンタたち……」
その冒険者は少年たちの反応を見て、二の句が継げなかった。
「あの、もういいですか? 俺っちたち、そろそろ学園に戻らないといけないんで」
「え? いや、まだ……」
「はいは~い、失礼しま~す」
そう言って4人はギルドを出ていった。
最後に赤髪の子が、冒険者にペコリとお辞儀をする。
彼女は、ただただ呆然と立ちすくんで見送るばかりだった。
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