あの日の面影 (7)
次の日、学校に行くと勘の鋭い香織から
「利奈ちゃん、昨日皆川先輩と出かけて帰ってこなかったよね?…勿論、全部話してくれるよね」
可愛く首を傾げて言われて…
あれこれ質問されて恥ずかしくて憤死しそうだった。
黎人との事を香織に言わされて、ただでさえ恥ずかしいお昼休み。
私は別な意味で恥ずかしくて憤死しそうだった。
隣に漣兄様、向かいには史兄様…
香織と黎人は別な席へ避難してしまった…裏切り者…
「好き嫌いは良くないっていつも言っているだろう?」
お弁当を持ってこなかった私が食べていたランチプレートの中で、苦手だから避けていた人参のグラッセをフォークに刺して私の口元に運んでいる史兄様。
「…」
パパの仕事を手伝った後はいつもなら屋敷に帰るのに、何故か今日に限って空港からココに直行して来た。
カフェテラスにいる生徒達から注目を浴びていて、すごく恥ずかしい状態。
「利奈、食べないの?」
漣兄様は、いつもの王子の仮面をつけて笑っているだけ。
ここで逆らったら、後が大変。渋々口を開けると人参が入れられた。
「いい子だね」
恥ずかしすぎて味なんか分からなかった。
香織を見ると苦笑いで返され、黎人を見ると漣兄様に頬を押さえられて視線を前に戻された。
「余所見をしないで食べなさい」
ニッコリ笑う史兄様…
怪しい。この二人、怪しい!
「漣兄様はこの後授業を受けるの?」
「帰る」
「…史兄様は?」
「帰るよ」
何をしに来たの!?
兄様達を交互に見ると、漣兄様が私の頭を撫でた。
「利奈が寂しがっていると困るから」
「…だから空港から直接来てくれたの?」
お仕事だから仕方がない事だけれど、朝食の席に誰も居なくて一人で食べるのは寂しかった。
「父さんは仕事で帰りが遅いけど、夕食は一緒に食べよう」
「帰りは迎えに来る」
私が寂しくないように…いつも気を配ってくれる兄様達…ありがとう。
私がランチを食べ終えると、帰って行った兄様達。
「凄かったね」
兄様達が帰ると、香織がお茶を飲みながら苦笑していた。
「ゴメンね、騒がしくて」
「…バレたな」
黎人がボソリと言うとコーヒーカップを口に運んでいた。
バレた?
「何が?」
「イロイロ…」
「私も思った。史明さんの目がね…」
香織と黎人が目を合わせると頷いて溜息をついていた。
「心配だったのと、牽制しに来た。半々だろうな」
私が青くなっていると、香織が「これからは二人きりになる時間は今まで以上に少なくなるだろうから」そう言って手を振った。
黎人と一緒に、いつか来た小さな噴水がある広場に来た。
「なぁ、利奈」
「なに?」
隣で呼ばれて顔を上げると、目を細めて私を見ていた。
「昨日の約束覚えてるか?」
「うん」
嬉しかった。大切な言葉を忘れる訳無い。
――どんなに小さなことでも不安になったらオレに言え――
「覚えてるよ。黎人も私に言ってね?」
私が言うと、黎人は触れるだけの優しいキスをした。
目を閉じる前に、黎人の後ろに見えたのは昨日と同じ青い空。
ああ、私は欲張りだ。
パパや兄様達と一緒に居たいと思うだけじゃなく、黎人とも一緒に居たいと思ってしまう。
「ねぇ、黎人」
「ん?」
…この学校に来てから、大切なモノが増えた。
もう、取り戻せないものもあるけれど、大切な人からたくさん与えてもらった。
「好き」
黎人の頬にキスをすると、もう一度優しいキスをしてくれた。
「利奈の気持ちは昨日痛い位に伝わった」
好き、大好き…
もう、失くさないように、護れるように強くありたい。
真っ直ぐに私を見つめる瞳と向き合っていけるように…
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ここまで読んで下さって皆さま、ありがとうございます。
途中で更新が滞りがちになりましたが、何とかここまで来れたのも皆様のお陰です。お付き合い頂きありがとうございました。
温かいコメントを下さった皆さま、本当にありがとうございました。
感謝しております。
利奈と黎人 本編はこれで完結となりますが、いつかまた二人のその後、兄達のその後などを書いていきたいと思います。
またお目に掛かれる日を楽しみにしております。
七地 拝