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「自分を思い出せ」

今回の章では、ついに五強の一人であるソレンが本格的に登場します。


ただ、「最強の登場」がテーマというよりは、有沢が限界まで追い詰められた先で、ダリアが彼に何を見せるのか——そこを書きたい章でした。


少し長めですが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。

「それで……ダリア、気分はどう?」

有沢はアマランス地区を歩きながらちらりと横を見た。真昼でも、通りが完全に眠ることはなかった。商人たちが互いの声を張り上げ、焼いた肉の香りが安酒の匂いと混ざり合い、音楽家たちが路地を満たす屈託のないメロディーは、どういうわけか街の果てしない騒音を掻き消していた。貴族、冒険者、酔っぱらいが誰にも疑問視されることなく同じ通りを占有できる数少ない場所の一つだった。

「よくなってきた。歩いてまだ十分くらいだし……」

ダリアは静かにため息をついた。体に残る疲労は消えていなかったが、少なくとも倒れそうな感覚なしに動けていた。

「……わかった。ただ気になって。」

有沢は首の後ろを掻いてから前を向いた。

「とにかく、どんな計画だ? ソレンを先に迎えに行くか、二人を先に救うか?」

「それは明らかでしょう、有沢。」

答えはすぐに来た。

「クリスが本当にそこにいるなら、先にソレンが必要よ。」

一拍置き、賑やかな通りを見渡した。

「彼はたいていアマランス地区のどこかで午後を飲んで無駄にしているわ。」

有沢の表情が平坦になった。

「……飲んでいる男に頼るのか?」

「まあ……」ダリアは肩をすくめた。「とんでもなく偉そうで完全な堅物だけど、それでも名誉騎士よ。」

かすかな笑みが唇の端に浮かんだ。

「正直、あなたより鬱陶しい人間よ。」

有沢は胸を劇的に押さえた。

「そ、それは傷つく。」

二人の女性はどちらも反応しなかった。

後ろでは、リジーが黙ってついてきながら、店先から店先へと目を彷徨わせていた。先ほどダリアを治癒して以来、一言も発していなかった。代わりに、周囲のすべてをただ観察し、静かな好奇心でこの見知らぬ地区を受け取っていた。

もう一分ほど歩いたところで、ダリアはついに立ち止まった。

「着いた。」

目の前には、二棟の崩れかけたレンガの建物のあいだに挟まった古い酒場があった。

「野良のアサリ」。

風が吹くたびに落ちそうと脅かす、一本の錆びたチェーンで斜めにかかった風雨にさらされた木の看板。

有沢はそれを見つめた。

「この名前はひどいな……」

「知ってる。」

ダリアはため息をつき、すでに扉を押し開けていた。

酒場はこぼれたエール、焦げた肉、古い木の臭いがした。あちこちから笑い声が響き、賭け師がカードを巡って言い争い、傭兵たちが仕事を終えた祝いをしていた。

奥のほうで、一人の男が他の全員とは際立って見えた。

片足を椅子に乗せ、まるでこの世界には何も重要なことがないとでも言うように、マグの中の最後の酒を怠惰に揺らしながら座っていた。

長く乱れた紫色の髪が、こんなにも無造作な服装には似合いすぎるほど整った顔を縁取っていた。尖った耳がエルフであることを示していたが、その姿勢にはエルフが有名とされる品格の欠片もなかった。

一見すると、別の才能ある酔っぱらいにしか見えなかった。

じっくり見ると……

彼の周囲の空気が不自然なほど重かった。

目に見えるわけでも、音があるわけでもなかった。

ただそこにあった——部屋全体が無意識にそれを中心に回るほど圧倒的な存在感が。熟練の冒険者たちは少し声を低くした。バーテンダーは本能的に距離を保った。努力せずとも、そのエルフは部屋を支配していた。

これがソレンだった。

有沢は見つめた。

——……あれがソレンだろうな。

——何か内側に感じるものがある……

——でも見た目は……

——とんでもなく間抜けに見える。

「あんなに強いなら……なぜ戦争が終わらないんだ?」

有沢は純粋な困惑で尋ねた。

「えっと……」

ダリアは腕を組んだ。

「サフラとアモールの戦争は力の戦争じゃないわ。」

一瞬、酒場の窓の外に目をやった。

「イデオロギーの戦争よ。どれだけ強い人間でも、剣でイデオロギーは斬れない。」

紫色の髪のエルフへと歩き続けた。

「それに……ソレンは戦争に興味がないの。」

「気が向いたときだけ動く。」

有沢が答える前に——

「ダリア!!」

大きな声が酒場に響き渡った。

「俺の王女様!」

ソレンは両腕を広げ、長く乱れた紫色の髪を靡かせながら彼女へと飛びかかった。

まばたきもせずに、ダリアは脇にかわした。

ドン。

ソレンは木の床に顔から激突した。

「……」

ゆっくりと頭を上げ、鼻をこすった。

「いつも避けるよな。」

大げさに拗ねた。

「俺の愛をいつになったら受け入れてくれるんだ?」

「愛?」

ダリアは眉を上げた。

「五人の妻がいる相手にそれを言ってみなさい。」

ソレンはうんうんと唸った。

「……じゃあ、五人の妻がいなければ俺と結婚してくれるってこと?」

「違う。」

「聞いてみる価値はあった。」

有沢はそのやり取りを見つめ、歯を噛みしめた。

——おい……

——こいつ俺の全動作を盗んでいる。

ダリアは眉間をつまんだ。

「もういい。」

「ソレン。」

「助けが必要なの。」

ソレンはようやく有沢のほうを見た。

金色の目が細まった。

「……この信じられないほど単純な男は誰だ?」

有沢の額に青筋が浮かんだ。

「ともかく……」

無理に笑みを作った。

目に届いていなかった。

「助けが必要です。」

ソレンは肩をすくめた。

「俺たちで? それともお前一人で?」

怠惰に有沢を指差した。

「俺はお前には特に興味がない。」

——こいつは……

——くそ野郎だ。

「私たちで。」

ダリアはため息をついた。

「説明する。」

……

数分後。

ソレンは椅子に背をもたれ、静かにすべてを処理していた。

「つまり……」

指で数えた。

「俺の飲み友達のクリスが、どうやら悪役らしい。」

「有沢はユダという男にやられた。」

「権能者とかいうものが関係している。」

「ファジュラとサラデルが凍らされた。」

有沢は頷いた。

「だいたいそんな感じです。」

沈黙。

ソレンの遊び心のある微笑みがゆっくりと消えた。

目の怠惰な様子が消えた。

酒の微かな赤みさえも消えたように見えた。

テーブルの周りの雰囲気が目に見えて重くなった。

「……そうか。」

声が完全に平坦になっていた。

ダリアを直接見た。

「ファジュラは大丈夫か?」

彼女はゆっくりと首を振った。

「わからない。」

もう一つの短い沈黙。

それからソレンは立ち上がった。

「わかった。」

「行こう。」

その口調は議論の余地を残さなかった。

ほんの一瞬、有沢はこの男が存在する五人の最強の一人と見なされる理由をついに理解した。

魔法ではなく。

評判でもなく。

彼が真剣になった瞬間に自然と滲み出る、息が詰まるような圧力だった。

それから——

「ファジュラとは少し前から付き合おうとしていて——」

ジャポン!

水の波が直接ソレンを直撃し、頭からつま先まで濡らした。

ダリアは手を下げた。

「それが効いたことはないのはわかっているでしょう。」

ソレンはため息をついた。

「まあ……そうだな。」

穏やかな風の流れが彼の体に巻き付いた。

水が服から剥がれていき、まるで最初から触れていなかったかのように、浮かぶ球体として集まってから床に無害に落ちた。

残念ながら……

周囲の全員が水を避けられたわけではなかった。

近くのイノシシ族、ドワーフ、獣人たちが顔から水を拭い、彼を睨みつけた。

「お前……」

ソレンは首の後ろを掻いた。

「悪かった。」

誰も納得した様子はなかった。

彼はそれを無視した。

「よし。」

「行こう。」

それ以上の言葉もなく、四人は揃って酒場を出た。

朝からいくらか静かになっていた通りを歩いた。

ランタンが揺れ、昼の光と自分たちの光のあいだで揺らいでいた。

有沢が先を歩いた。

「ついてきてください……」

「……」

誰も疑問を呈さなかった。

ダリアは彼のすぐ隣を歩いた。

リジーはいつも通り黙ってあとに続いた。

ソレンは最後に歩き、手を袖に入れていた。

酒場から排出された遊び心がどこかの道中で消えていた。

彼らはサラデルとファジュラがいる場所へと向かった。

野原が視界に入った。

凍った形は置かれた場所にそのまま立っていた。

残った光をわずかに捉えながら。

「……」

有沢は数フィート手前で足を止めた。

もう一度それを見ることをこれほど望んでいなかったことを、今更ながら気づいた。

ソレンは一言も言わずに彼の前を通り過ぎた。

しばらく構造物を調べた。

一度だけ、ゆっくりと周囲を巡った。

顎に指を当てた。

「ふむ……」

かすかな風の輝きが空いた手の周りに集まり、数秒でくっきりとした刃の形に凝縮した——詠唱もなく、魔法陣もなく、目に見える負荷もなく。ファジュラの凍った姿に向かって一度周囲を巡りながら歩いた。

「単純に凍っているわけじゃない……粒子による停止が主なんだけど、同時に氷の中にも存在していて……とでもいうか。」

——意味がわからない。

有沢はそれを心の中にしまった。

ソレンはわずかにかがんだ。

より近くで見た。

表面の下に、マナの糸が動きの途中で凍っていた。

停止していた。

おかしかった。

「いや……これは単なる絶対凍結の構造物じゃない……」

それに触れた。

指が一瞬で氷になった。

一度に。

警告もなく。

「ふむ……」

手を引いた。指を曲げた。氷が剥がれ、青白いが無傷の皮膚が現れた。

「俺のことが好きじゃないみたいだ……」

有沢とダリアの目が見開かれた。

「好きじゃない……? それはどういう意味? 知性があるの?」

ダリアの声が最後の言葉で張り詰めた。

ソレンは水晶をちらりと見た。

何かを計っていた。

「いや……まあ、そうかもしれない。」

わずかに首を振った。

自分の答えに満足していなかった。

「これは……クリスの本来の魔法じゃないんだけど、借り物でもある。そういうこと。」

——まだわからない。相変わらず。

「彼の一族は、停止した霜の藪で知られているから……」

また構造物を見た。

今度は長く。

「でもこれは彼らに固有のものには見えない。」

有沢は胃がわずかに沈むのを感じた。

——別の何かの形をしている何か。

——最高だな。

ダリアは何も言わなかった。

手が両脇で丸まった。

ソレンは一度鼻から息を吐いた。

肩を回した。

風の刃をちゃんと構えた。

もう周囲を巡ることも、試すこともなく。

剣を軽やかに動かし、数秒で氷の構造物を切り裂いた。

閃光もなかった。

衝撃波もなかった。

ただ沈黙だけがあり、氷が一度に降参した——滑らかな破片に落ちていき、地面に触れる前に漂う粒子へと溶けていった。

ファジュラを解放し、彼女は床に倒れた。

ソレンがほとんどを受け止めた。

残りをゆっくりと下ろした。

彼女の肌の色はほぼ青かった。

「興味深い……」

静かに言った。

ほとんど独り言のように。

有沢とダリアはファジュラへと駆け寄った。どうやら意識を失っているようだった。

ダリアが最初に緊張を破った。

「ファジュラ! 大丈夫……?」

反応なし。

リジーはただその状況を見つめ、表情はいつも通り読めなかった。小さなトカゲが彼女の肩から離れた——というより、水が大きな体から離れるように、何であるかを失わずに分裂した彼女の欠片が。

「私の二番目の形が……助けられると思う。」

トカゲは跳び下りた。ファジュラへと這い寄った。リジーが実際に何者であるかの底に着くような、いつもの方法で、まるで肉が障壁以上の提案であるかのように、胸の中に抵抗なく消えていった。

「……」

「彼女は大丈夫か?」

有沢は早口でそれを言い、言葉が適切に整理される前に転がり出てきた。

リジーの目がわずかに見開かれた。

ほんのわずかに。

「……」

——いや……

——わかってる……

——何が起きているかわかってる。

「腐食……」

——……

彼女の顔はいつもの無表情に戻ったが、その静けさが以前より重く感じられた。再び話すとき、声はいつもと同じ平坦な調子だったが、言葉はそのせいでより重く落ちた。

「彼女の内部状態は停止しています。ファジュラの血は正常に流れておらず、心拍が遅くなっています。深い意識不明の状態です。」

ダリアはファジュラを見つめた。気づいた頃には涙が落ちていて、二度考えることなく彼女を腕に抱いた。

「ファジュラ……お願い。」

ソレンはすでに動いていた。

少し離れた場所に立ち、数分前にファジュラの監獄に向けたのと同じ超然とした集中力でサラデルの凍った姿を調べていた。

「ふむ……サラデルはファジュラほど悪くない。」

「……そんな中立な口調で言うとは。」

有沢の顔が歪んだ。悲しみと怒りが一度に特徴に落ち着いた。

「お前は……本当に彼女のことを心配していないんだろう。さっきのあの行動で——」

ソレンはため息をついた。目がダリアへ半秒動いてから有沢に戻り、その視線には疲労があった——苛立ちというより、もっと差し迫ったことがあるのに自分を説明しなければならないことへの疲弊。

「そうか?」

首を振った。

「俺はファジュラを愛している。ダリアも、もちろん。」

——嘘つくな。

「それはあり得る事態を知らないということにはならない。」

「あり得る事態? 何を言っているんだ——なぜ認識論的確率について話しているんだ?」

有沢は歯を食いしばって言い、すでに距離を縮めていた。ソレンの顔に拳を叩き込むことが、この無力さを少しでも感じさせなくする唯一のことかもしれないと、半ば決めながら。

——お前のせいだ。

——友人のクリスを抑えておくべきだった。

——お前は……お前は俺の——

「……」

「認識論的?」

ソレンは首を傾げ、非難よりもその言葉自体に純粋に困惑していた。

「何を意味するかわからない。俺の風は確率を計量しない——世界の傾向に耳を澄ませる。すべての流れは現実がすでに傾いている方向を運ぶ。空気、地形、その中に固定されたすべての存在を読むことで、俺は出来事が取ろうとしている経路を知覚する。」

一拍置き、声に宿る確信がほとんど穏やかなものへと落ち着いた。まるで有沢に何かを押しつけるのではなく、理由を渡そうとしているように。

「だからそれほど心配していない。」

サラデルのほうへ向き直った。

刃を持ち上げた。

そして彼女が凍っていた地面に振り下ろした。

彼女を持ち上げ、肩に乗せてから、静かに床に下ろした。

肌はいつもと同じだった。青白く。

くすんだセージグリーンの髪は、額から頭頂部にかけて剃刀のように真っ直ぐな分け目が走るほど緻密に滑らかに整えられており、すべての毛が従順に整列していた。眉毛の高さで重い鈍い前髪がかかり、右側に一本の毛が外れているだけだった。両側には、幅広い金属のバンドで結ばれた太い低い双つ団子が外へと扇状に広がり、それぞれの層が最後に向かって少し広くなってから柔らかく二股に割れた先端へとテーパーしていた。先端に沿うペールミントの輝きが光を捉え、丁寧に作られた髪にほとんどガラスのような仕上がりを与えていた。

平凡に見えるものは何もなかった。珍しく見えるものも何もなかった。

ただサラデルだった。

金属のバンドが淡い青みを帯びていること、服の表面に薄い氷の膜がへばりついていること——あるべきでないところに霜が——を除いて。

「俺がどれだけ人を救っても関係ない……これは……全部お前のせいだ。」

「サラデルが倒れて意識不明で、ファジュラが重篤で、クリスが歩き回っている。いわゆる強い英雄……」

手が拳に丸まった。

拳を構えた。

その勢いで振った。

「有沢、やめて!」

ダリアが叫んだ。

一瞬で、有沢の手が離れてすぐに元に戻った。その一連の動作が数秒で終わった。ソレンはそれが起こるのを見ており、その表情は穏やかで微かに退屈した中立からまったく変わらなかった——同じ技が百回披露されるのを見て、毎回同じくらい面白みを感じない者のように。

有沢は片手を持って苦しんでいた。床へと折り曲がりながら、そこから激痛が放射していた。

——幻肢痛と同時に、靭帯を風が走る感覚がする……

「ぐああ……」

ソレンを見上げた。

目に涙がある。

悲しみより必死で無力な怒りに見える表情で。

「お前を百万回切っても俺は追いかける。クリスを倒してもな。」

ソレンはただため息をついた。その音はまったく有沢が向けている重みを運ばなかった。有沢がまだ完全に理解していない何かについて駄々をこねる子どもを見るような、超然とした、少し面白そうな視線だった。

「お前のことはほとんど知らない」と彼は言った。「お前のためにここに来たわけじゃない。ダリア、サラデル、ファジュラのために来た。お前はただ弱いついていきだ。」

言いながら肩をすくめた。言葉が彼にとってまったくコストをかけないように。

「……」

——俺は……

——もしかしたら彼は正しいのかもしれない。

——いや、彼は罰を受けるべきだ。

——誰が罰を受けるべきだ?

——俺が?

——ソレンが?

——クリスが?

——権能者たちが?

——どうやってクリスに報いを受けさせる? どうやって権能者に報いを受けさせる?

——俺は……俺は本当にそれほど弱いのか……

ダリアはゆっくりと有沢のほうへ歩いた。

「有沢……クリスとのあいだに何が起きたの?」

躊躇いながら、心配が顔に出ていた。

「あなたは……他の人に当たり続けている。」

「……」

「俺は——……」

有沢は突然泣き崩れた。

さっきよりはるかに多い涙が。

顔がダリアの胸に落ちるなか、手は本能的に彼女にしがみついた。

「……」

一言も言わずに、ソレンはファジュラとサラデルを難なく持ち上げてから歩き去った。リジーは彼の後ろを黙ってついていき、有沢とダリアを二人きりにした。

今度は、ダリアは話さないことを知っていた。

代わりに、そっと彼の頭に手を当て、少し引き寄せながら柔らかく髪を撫でた。

「俺は……道化者であるはずなんだ……」

「演技をする……一人のやつで……」

「……ある——に泣くやつじゃなくて——」

——彼女には言えない……

——言えないとわかってる。

「……」

ダリアはしばらくのあいだただ上を見た。

「有沢……」

「クリスがお前に何をしたにしても……」

「俺が……止めてあげる。」

「わかった?」

有沢の目が見開かれ、彼女を見上げた。

「い、いや……」

「いや。」

ゆっくりと首を振った。

「お前にはできない。」

「クリスは強すぎる。」

「ふん……」

「私が強くないってこと?」

目を閉じて大げさに怒ったふりをして、彼から顔を逸らした。

「ち、違う、もちろんそうじゃない。」

「お前はとても強い、ダリア。」

片目がゆっくりと開いた。

小さな微笑みが唇の端を引いた。

「冗談よ……」

ダリアは静かに言った。

「私は静謐に恵まれているから……」

「でも庶民の——そして多くの者と同じく——王女として、クリスの器量に関係なく引き下がるほど馬鹿じゃないわ……」

「見て……有沢。」

「深く詮索はしない。」

「そしてお前の痛みを私が理解できるとも思っていない。」

一拍置いた。

「でもこれを見て……自分が誰かを思い出して。」

「……あるいは少なくとも、自分がなろうとしている人物を。」

手がゆっくりと上がり、手のひらが上を向いた。

有沢が見ると、水の球体がその上に集まった。

記憶を抱えられるほど大きく。

二人のあいだに収まるほど小さく。

「私の力は……」

「心理と深く結びついているから。」

「優位性を与えてくれる。」

「単純に外側でもなく……純粋に内側でもない。」

「流れる。」

「覚えている。」

水の表面が波紋を描いた。

それからガラスのように、鏡になった。

記憶が現れた。

顔を粥に埋める有沢。

ダリアが口を覆いながら笑い転げた。

映像が変わった。

泣いている子ども。

ダリアが膝をついて彼の小さな手にコラスを置いた。

また波紋。

初めての出会い。

有沢が馬鹿げた自信で自己紹介する。

「俺は偉大なる有沢夏雄!」

ダリアが完全に困惑して瞬きをする。

それから別の場面。

彼が大げさにお辞儀をする。

彼女が目を回す。

互いに並んで歩く。

話す。

言い争う。

笑う。

小さな瞬間たち。

それぞれは取るに足らない。

なのにどういうわけか……

すべてだった。

「これは俺たちの友情の記憶……」

「お前がすること。」

「お前がしてきたこと。」

まっすぐ彼の目を見た。

「だからもし自分を思い出せないなら……」

「俺がお前を覚えている。」

「お前が自分で思い出せるようになるまで。」

沈黙。

水はゆっくりと飛沫に溶け、空気に消えていった。

「自分を思い出さなければならない。」

——俺は果たしてかつて自分自身だったのか?

唇がゆっくりと上に曲がった。

わずかに。

「……お前は正しい。」

微笑みが残った。

弱かった。

しかし本物だった。

——彼女が信じている人間にならなければ……

目を伏せた。

——いや。

しばらくして、自分を訂正した。

——彼女がそうしてほしいからじゃない。

——なぜなら、どこかで……

——俺自身もそういう人間になりたかったから。

「……」

「行かないと……ダリア。本当にありがとう……」

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


今回はソレンのお披露目回……ではあるのですが、それ以上に有沢の精神的な転機となる章でした。


強さには色々な形がありますが、ソレンの「圧倒的な強さ」と、ダリアの「人を支える強さ」を対比できればと思いながら書いていました。


また、クリスや『権能者』についても少しずつ核心に近づいてきています。ここから先は物語も一段階ギアが上がっていく予定です。


感想や評価、ブックマークなど、いつも本当に励みになっています。


それでは、次回もよろしくお願いします!

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