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それでも歩く

その目は虚ろだった。

目の下のクマは以前より重く垂れていた。

しばらくのあいだ、体が動かなかった。

——彼は俺に触れた……

——いや。

——拷問。

——俺の体。

——神様……

有沢はゆっくりと顔に両手を当てた。

震えていた。

——吐き気がする。

——血。

——無力さ。

——俺にできなかったすべてのこと。

——言えなかったすべてのこと。

指が頬に食い込んだ。

——彼は……

——彼は俺の苦しみを自分にとって美しいものに変えた。

——いや……

——彼は俺の痛みを単純に楽しんだわけじゃない。

——彼は俺の苦しみを性的な意味で楽しんだのか、いや、そうじゃない……ただ、苦しみというコンセプト自体が好きだったんだ。

嘔吐し始めた。胃液が床に落ちた。

——どうやったらそんな存在として生きられるんだ?

——いや、存在じゃない……何か、もはやクリスではない何かだ。

——でも、もしそうだとしたら……

呼吸が乱れた。

——俺は……

——もうこの世界に存在したくない。

——帰りたい。

——地球に。

——地球が俺を嫌いでも。

——俺がそこで自分自身を嫌いでも。

——少なくとも見慣れた場所だった。

——死にたい。

——永遠に。

——もうこんな人生は嫌だ。

ゆっくりと、目が周囲へと漂った。

ようやく、本当に自分のいる場所に気づいた。

ヴァイナリー。

その壁は、彫られた木に似るほど密に編み込まれた太いエメラルドの蔓で織られていた。小さな花がその隙間に咲き、花びらがマナでかすかに光っていた。

緑の粒子が空気の中をゆっくりと漂っていた。

肌に触れるたびに、温もりへと溶けた。

ベッドそのものが生きていた。

根がその骨組みの周りに巻き付き、その上で休む怪我人にマナを分配しながら静かに脈打っていた。

ここのすべてが息をしていた。

ここのすべてが癒していた。

すべてが……

彼を除いて。

目が動いた。

ダリア。

彼の隣に静かに横たわっていた。

穏やかに。

銀色の髪が月光のように枕に広がっていた。

マナの蔓が彼女の腕と腰に慎重に巻き付き、服の下に隠れた傷をゆっくりと修復していた。

有沢は見つめた。

胸が締め付けられた。

目を逸らした。

リジーが首を傾げた。

空白の紫の目が彼に固定されたままだった。

「助けて……」

一拍置いた。

「サラデルを。」

「リジーのトカゲの姿が消えた。」

有沢の目が見開かれた。

「……」

彼女を見た。

本当に見た。

より背の高い体。

長い紫色の髪。

無表情な顔。

子どもらしい微笑みはない。

サラデルの髪から覗く小さな生き物はない。

ただ……

リジー。

「俺には……」

声がひびわれた。

「俺は弱い。」

頭を下げた。

「役立たずだ。」

「何もできない。」

リジーは瞬きをした。

それから答えた。

「では……」

「私が手伝える。」

その声は平坦なままだった。

ほとんど機械的だった。

しかし奇妙なほど穏やかだった。

有沢は拳を握りしめた。

——彼女は話せる。

——でも表情はまだ彼女のものだ。

——権能者はみんなこうなのか?

——いや……

——クリスが言ったことはそうじゃなかった。

考えが絡まり合った。

——本が必要だ。

——あの花の獣とかいうタイトルのやつ。

——あれがあれば何かわかるかもしれない、必要なものが書いてあるかもしれない。

目がまたダリアへと漂った。

——でもダリアは目が覚めていない。

——何も説明できない。

顔がゆっくりと歪んだ。

苛立ち。

恐怖。

嫌悪感。

自分に対して。

世界に対して。

すべてに対して。

「いや。」

突然立ち上がった。

「いや。」

リジーは見つめた。

「あなたには手伝わせない。」

声が上がった。

「あなたは権能者だ。」

彼女を指差した。

「お、お前は腐敗させる。」

「それしかしない。」

部屋の周りのマナがわずかに揺れた。

癒しの粒子は漂い続けた。

気にもかけずに。

「お前の二番目の姿。」

飲み込んだ。

「お前の馬鹿な小さなトカゲの姿。」

「危険だった。」

「完全に危険だった。」

「お前は存在すべきじゃない。」

呼吸が重くなった。

止めることができる前に——

前に踏み出した。

そしてリジーを殴った。

拳が彼女の頬に当たった。

何も起きなかった。

一インチも動かなかった。

表情も変わらなかった。

ただ彼を見つめていた。

無表情に。

有沢の拳はゆっくりと下がった。

涙が顔を伝った。

これが嫌だった。

彼女が嫌だった。

彼女を嫌いになっている自分が嫌だった。

「お前は……」

声が震えた。

「行って彼らを救え。」

また涙が落ちた。

「お前の役立たずな……」

歯を食いしばった。

「役立たずな生き物。」

後ろから弱い葉音がした。

癒しの蔓がそっと動いた。

ダリアはゆっくりと起き上がり、ふらつく動きで彼の肩に手を置いた。

「有沢……有沢、やめて。」

その声が震えた。

「私を見て、あなた——……」

突然、脇腹を押さえて顔を歪めた。

有沢はすぐに振り向いた。

「だ、ダリア……!」

目が見開かれた。

「ど、どれくらい見てた?」

「見たのは……」

ダリアは飲み込んだ。

「あなたがリジーを殴るところ。なぜ?」

困惑と心配を帯びた目で彼を見た。

「俺が……いなくなりすぎた……」

声がひびわれた。

「みんないなくなって……これは私のせい?」

ダリアは自分を責めながら言った。涙が顔を伝った。

「あなたは——俺は——……」

有沢は首を振った。

「違う……違う……」

涙が乾き始めた。

「違う、お前は何もしていない。何一つも。」

彼女をしっかりと抱きしめた。

「何も……大丈夫だ、俺がいる、ダリア。」

ダリアは腕を彼に巻き付けた。

有沢は彼女を座らせ、すべての詳細を説明し始めた。

「……」

ダリアは俯いた。

「それで……クリスがそうしたとき、あなたは逃げられた?」

彼は頷いた。

「ああ、死んでいたかもしれない。」

目を逸らした。

「アマランスに行かなければならないが、手伝ってくれる人が誰もいない……」

「俺たちは——……離れたほうが——……」

ダリアはすぐに有沢を止めた。顔がわずかに怒りに変わった。

「ち、違う、有沢、彼らを見捨てない。」

「なぜそんなことを考えるの?」

「ダメよ、有沢。」

彼の額を空手チョップした。

「痛っ……」

有沢が場所を撫でるなかダリアは頬を少し膨らませた。

「いいえ、戻らないといけない。」

「友達を救って彼と戦う。」

「クリスを倒すための仲間を集めないといけない。」

「王女として、私には多くの仲間がいる。」

胸に手を当てた。

「ソレンだけがいれば十分。」

「彼は私の最も強力な騎士の一人よ。」

有沢は困惑した様子で彼女を見た。

「俺がお前の最も強力な騎士だと思っていたが。」

「あなたは道化者よ。」

ダリアは腕を組んだ。

「それに逃げようとした。」

わずかな笑いが有沢から漏れた。

「こ、これが恋しかった……」

ダリアはわずかに赤くなった。

「何も恋しがれない……」

目を逸らした。

「戦わないといけない!」

リジーがその瞬間に割り込んだ。

「私は……ダリアを助けられる。」

彼女のほうを向いた。

「彼女の中にいれば、戦うつもりなら彼女の体を積極的に治癒できる。」

短い一拍。

「彼女はまだ重篤な状態よ。」

雰囲気がすぐに変わった。

さっきまでの温かさが消え、静かな不安に取って代わられた。

「そ、そうだった……」

ダリアは自分を見下ろした。

「俺は……怪我している、そうよね。」

頬にかすかな赤みが広がった。

「もちろん……」

ぎこちなく笑った。

「はりきりすぎていた。」

有沢は首を振った。

「わかった……」

声は静かだった。

背を向けてヴァイナリーの扉へと歩き始めた。

近づくと織られた蔓がゆっくりと分かれ、向こうの淡い夕暮れの空を露わにした。マナの粒子が入口の周りをゆっくりと漂い、その輝きは以前より薄かった。

ダリアがついてきた。

リジーが黙って後を追った。

しばらく、誰も話さなかった。

蔓の柔らかなさざめきだけが二人に寄り添った。

「それで……」

有沢は横を向いた。

「このソレンとはどんな男ですか?」

小さな微笑みが現れた。

「もしかしてお前の恋人か?」

「……」

「何?」

ダリアはすぐに眉をひそめた。

「違う。」

「ソレンは生意気極まりない男で、たまたまとても強いというだけよ。」

声にわずかな苛立ちが宿っていた。

有沢は弱々しく笑った。

「……まあ。」

微笑みはすぐに消えた。

「彼が十分強いといいが。」

手がゆっくりと胸に動いた。

記憶。

恐怖。

無力さ。

それらは離れていなかった。

一瞬たりとも。

「それで……」

声が漂った。

「お前は戦えるのか?」

「何度も試みたが……」

「でも実際に戦ったことはないよな。」

「……」

ダリアは黙っていた。

風がヴァイナリーの入口からそっと吹き込み、銀色の髪を揺らした。

「私はずっと、人々から切り離されてきた。」

ようやく口を開いた。

「一生ずっと。」

「父はいつも過保護だった。」

自分の手を見た。

「俺の力が戦えるほど強いとわかっていても……」

指がわずかに丸まった。

「……許してもらえなかった。」

リジーは見つめた。

それから話した。

「彼女の中にいるあいだ……」

「彼女のマナの核が現在不安定な状態です。」

ダリアの目がすぐに見開かれた。

「俺のマナの核が?」

「はい。」

リジーは頷いた。

「何年も休眠状態にありました。」

「最後に使用したとき、力が予期しない急上昇を起こした。」

首を傾げた。

「それによってマナの核が不安定になった。」

有沢は二人のあいだを見た。

「……」

「それは……」

躊躇した。

「ダリアが俺を助けようとしたとき?」

「空間魔法で?」

ダリアはゆっくりと首を振った。

「それは……あなたが気を失っていたとき。」

「空間魔法は箱型のアイテムで。世界のマナと自分を繋げるもの……」

「俺には……」

声が途切れた。

視線を下げ、胸にそっと手を当てた。

「俺自身もよくわからない。」

有沢は黙っていた。

彼女の言い方が気になった。

混乱しているからではなく。

怖がっているように聞こえたから。

静かな恐怖。

必死に隠そうとしている恐怖。

「わかった……」

息を吸った。

もう一度。

「訓練しなければ。」

リジーはゆっくりと首を振った。

「なんでも。」

「でも私はいつでも癒せる。」

「それが私の主人が望んでいたことよ。」

空白の目が自分の手に下がった。

「この姿のほうが人を早く癒せる。」

「より効率的に。」

「レプション形態は癒しが遅い。」

「内部の問題には効率的だから使っているだけ。」

——レプション?

——ああ。

——Reptile、爬虫類。

——ここでは違う言葉なのか?

今でも、脳は彷徨った。

心配するより楽だからかもしれない。

深く考えすぎると——

思い出してしまうから。

ダリアはリジーを見た。

恐れてではなく。

躊躇なく。

決意を持って。

「やって……」

リジーは頷いた。

ゆっくりと近づいた。

ヴァイナリーを漂う緑のマナが彼女の腕の周りを旋回し始め、指先に霧のように集まった。

それから——

彼女の手が消えた。

いや。

消えたのではなく。

透明になった。

霊的になった。

物理世界から切り離された、かすかな輪郭。

有沢は本能的に一歩引いた。

「……」

リジーはダリアの胸に手を押し込んだ。

難なく。

肉も、骨も、臓器も存在しないかのように。

ダリアは鋭く息を吸った。

体が硬直した。

有沢は見つめた。

——あの部分から……

瞬きをした。

——あの部分から揺れがない……

すぐに首を振った。

——俺は変態じゃない。

——ただ……

——興味深い。

——内側の世界は外側に影響しない……

こめかみに汗の粒が落ちた。

——リジーが怖い。

——何よりも。

——彼女に……

——ダリアにあれをしてほしくない。

リジーが自分の体を引き裂いて出てきたときのあの映像が頭の中で閃いた。

血。

痛み。

無力さ。

胃がよじれた。

ダリアが突然顔を歪めた。

ドレスを握る手に力が入った。

「だ、ダリア、大丈夫!?」

有沢はすぐに声を上げた。

止める前にパニックが声に漏れた。

ダリアは彼を見た。

驚いた様子で。

それから——

ゆっくりと頷いた。

顔が青ざめても。

唇が震えていても。

「俺は……」

無理に微笑みを作った。

「大丈夫よ。」

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