第4話「受容」
炎は、まだ消えていない。
むしろ静かになっただけだ。
“暴れる炎”から、“沈む炎”へ。
紅蓮女は立ち尽くしている。
呼吸が荒い。
「……どうすればいいの」
声は、もう怒りではない。
迷いだ。
ななは一歩動けないまま、呟く。
「これ……ほんまに敵なん?」
ゆたかが低く言う。
「敵やけどな」
一拍。
「壊れとるだけや」
神父が静かに分析する。
「感情の出口が遮断されています」
「怒りが処理されず蓄積した結果です」
人面犬が鼻を鳴らす。
「燃え尽きる前の状態だな」
紅蓮女が顔を上げる。
「私は……間違ってない」
炎がわずかに戻る。
だが——
弱い。
ゆたかが一歩前に出る。
「間違ってへんで」
紅蓮女の炎が揺れる。
「は?」
ななが驚く。
「いや、ゆたかさんそれ……」
ゆたかは続ける。
「我慢してたんやろ」
一拍。
「そら怒るわ」
紅蓮女の動きが止まる。
炎が揺らぐ。
神父が小さく言う。
「……受容が発生しています」
人面犬が目を細める。
「言い方変えたな」
ゆたかはさらに続ける。
「しんどかったんやろ」
一拍。
「誰にも言えんかったんやろ」
紅蓮女の肩が、わずかに揺れる。
炎が弱まる。
だが——
消えない。
「……うるさい」
声は小さい。
「そんなこと言われても……」
ななが一歩前に出る。
怖い。
でも、止まれない。
「なぁ」
紅蓮女が顔を上げる。
ななを見る。
ななは言う。
「怒ってええで」
一拍。
「我慢せんでもええで」
紅蓮女の炎が止まる。
完全に。
ゆたかが小さく息を吐く。
「そこや」
神父が言う。
「抑制ではなく承認です」
紅蓮女が震える。
「……じゃあ」
声がかすれる。
「私は……何をすればよかったの」
ななは答えない。
答えられない。
その代わりに。
ゆたかが言う。
「何もせんでええ」
一拍。
「ただ、感じてええ」
紅蓮女の目が揺れる。
炎が、ゆっくりと縮む。
人面犬が静かに言う。
「燃料切れじゃねぇな」
一拍。
「供給が止まっただけだ」
紅蓮女が崩れ落ちるように座り込む。
「……疲れた」
小さく。
「ずっと……疲れてた」
炎が、消えていく。
だが——
完全には消えない。
胸の奥に、まだ残っている。
神父が言う。
「感情の残滓はあります」
ゆたかが頷く。
「それでええ」
ななが呟く。
「これで終わりちゃうんやな……」
紅蓮女は顔を上げる。
少しだけ。
落ち着いた目で。
「……ありがとう」
炎はもう、暴れていない。
静かに。
揺れているだけだった。
■ 第11章 第4話 終




