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ゆたかの怪奇列島第11章「紅蓮女」  作者: こうた


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第3話「暴走」

空気が、切り替わる。

“熱”ではない。

“圧”だ。

ななが一歩下がる。

「……あかん、これ」

息が浅い。

理由がないのに、心がざわつく。

イライラが勝手に増えていく。

ゆたかが低く言う。

「来るぞ」

紅蓮女が——動く。

一歩。

それだけで。

周囲の怒りが爆ぜる。

「なんやねん!!」

「ふざけんな!!」

人々が一斉に叫び出す。

理性が崩れる。

会話が成立しない。

人同士がぶつかる。

感情だけで動いている。

神父が声を強める。

「危険です」

一拍。

「感情の制御が崩壊しています」

人面犬が舌打ちする。

「完全にスイッチ入ったな」

紅蓮女がゆっくり顔を上げる。

目が赤い。

いや——

燃えている。

「我慢……」

小さく。

「もう無理」

その瞬間。

炎が“爆ぜる”。

“ゴォッ!!”

空間が歪む。

ビルの壁が黒く焦げる。

街が一瞬で熱を帯びる。

ななが叫ぶ。

「ちょ、ちょっと待って!!」

「これ規模おかしいやろ!!」

ゆたかが前に出ようとする。

だが——

止まる。

一瞬。

眉が動く。

「……くそ」

怒り。

明確に。

引きずられている。

紅蓮女がそれを見る。

「ほら」

一拍。

「みんな、同じやん」

炎が跳ねる。

神父が言う。

「同調が完全化しています」

人面犬が笑う。

「めんどくせぇな」

桃太郎は動かない。

ただ、そこにいる。

無心のまま。

だが——

紅蓮女の視線が変わる。

「……あなた」

一拍。

「なんで怒らないの?」

桃太郎は答えない。

紅蓮女の炎が揺れる。

不安定に。

「なんで……」

「我慢してないの?」

ななが気づく。

「これ……揺らされてる」

ゆたかが言う。

「感情の基準が壊れとる」

神父が補足する。

「比較対象を求めています」

一拍。

「怒りの“正当化”です」

紅蓮女の炎が一瞬弱まる。

だがすぐに戻る。

「でも」

声が震える。

「私は……我慢してきた」

炎が爆発する。

“ドンッ!!”

地面が焦げる。

ビルの窓が割れる。

ななが後ろに吹き飛ばされる。

「うわっ!!」

ゆたかが支える。

「下がれ!!」

だが——

遅い。

紅蓮女が一歩踏み出す。

空間そのものが熱くなる。

神父が言う。

「臨界です」

一拍。

「これ以上は制御不能」

人面犬が低く言う。

「完全に暴走だな」

桃太郎が初めて動く。

一歩。

紅蓮女へ向かう。

紅蓮女がそれを見る。

「……来るの?」

炎が跳ねる。

桃太郎は止まらない。

ただ、近づく。

その距離。

近い。

だが——

何も起きない。

炎が避けている。

ななが呟く。

「え……効いてない?」

神父が言う。

「無心が干渉を遮断しています」

紅蓮女が一瞬止まる。

「……なんで」

声が小さい。

「なんでそこにいられるの」

炎が揺れる。

今度は——

怒りではなく。

揺らぎ。

人面犬が言う。

「崩れ始めたな」

ゆたかが言う。

「燃料切れや」

紅蓮女の炎が一瞬だけ弱まる。

その隙に。

ななが気づく。

「これ……怒りの出口探してるだけやん……」

神父が静かに言う。

「はい」

一拍。

「感情の行き場がありません」

紅蓮女が小さく呟く。

「じゃあ……どうすればいいの」

炎が揺れる。

暴走の中で。

止まりかけている。

しかし——

まだ終わっていない。

炎は消えていない。

むしろ。

濃くなっている。

■ 第11章 第3話 終

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