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ゆたかの怪奇列島第11章「紅蓮女」  作者: こうた


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第2話「共鳴」

炎が、増えていく。

火災ではない。

“感情の火”だ。

ななの喉が焼けるように重い。

「……なんなんこれ……息しづらい……」

ゆたかが短く言う。

「感情や」

一拍。

「空気に混ざっとる」

神父が周囲を見渡す。

「怒りの濃度が上がっています」

人面犬が鼻を鳴らす。

「感染型かよ」

紅蓮女は動かない。

ただ、立っている。

それだけで——

周囲が壊れていく。

人が怒鳴る。

ぶつかる。

理由もなく喧嘩が始まる。

「お前が悪いんやろ!!」

「知らんわ!!」

声が連鎖する。

ななが耳を押さえる。

「うるさすぎるって……!」

ゆたかが言う。

「これは戦闘ちゃう」

一拍。

「共鳴や」

神父が補足する。

「感情が同調しています」

一拍。

「特に“怒り”」

紅蓮女が小さく息を吐く。

「……わかる」

一拍。

「みんな、同じ顔してる」

炎が揺れる。

ななが一瞬、目を細める。

自分の中にも——

イライラがある。

理由はない。

ただ、腹が立つ。

ななが小さく呟く。

「なんでこんなイラつくん……」

ゆたかが即座に言う。

「飲まれるな」

一歩、前に出る。

「それ、向こうの領域や」

紅蓮女がこちらを見る。

その視線。

“火そのもの”

なながビクッとする。

「……見られた」

瞬間。

怒りが跳ねる。

ななの中で。

理由もなく。

「なんでこっちばっか……」

「なんで私だけ……」

思考が濁る。

神父が声を強める。

「注意してください」

一拍。

「同調しています」

人面犬が低く笑う。

「やっかいだな」

ゆたかが言う。

「こいつは“殴ったら負け”や」

一歩進む。

だが——

足が止まる。

「……くそ」

ななが驚く。

「ゆたかさん?」

ゆたかの眉が少し動く。

怒り。

ほんのわずか。

だが確かに。

紅蓮女がゆっくり口を開く。

「我慢してる顔」

一拍。

「嫌い」

炎が一段階上がる。

神父が言う。

「刺激しています」

人面犬が舌打ちする。

「会話も危険か」

ななが混乱する。

「どうすんのこれ……」

そのとき。

桃太郎が一歩出る。

静かに。

何も言わず。

ただ、紅蓮女を見る。

紅蓮女も見る。

一瞬。

空気が止まる。

炎が揺れない。

ゆたかが呟く。

「……効いてるな」

神父が言う。

「感情が安定しています」

人面犬が笑う。

「無心か」

桃太郎は動かない。

怒りもない。

同情もない。

ただ——

“そこにいる”

紅蓮女が小さく言う。

「……何それ」

一拍。

「何も思ってないの?」

桃太郎は答えない。

沈黙。

それが返事になる。

炎が揺れる。

一瞬だけ。

弱くなる。

ななが気づく。

「……下がった」

ゆたかが続ける。

「感情の入力が止まっとる」

神父が言う。

「無心は干渉を受けません」

紅蓮女の手が震える。

「……ずるい」

小さく。

声が揺れる。

「なんでそんな顔できるの」

炎が揺れる。

今度は不安定に。

怒りではなく——

混乱。

人面犬が呟く。

「揺れてきたな」

ゆたかが言う。

「こいつは怒りだけで成立しとる」

一拍。

「そこに穴がある」

ななが小さく言う。

「……怒りだけやと、しんどいんやな」

紅蓮女が一歩後ずさる。

炎が弱まる。

だが——

完全には消えない。

まだ、残っている。

「……まだ終わってない」

小さく。

紅蓮女は言う。

「まだ……我慢してる人、いっぱいおる」

炎がまた少し強くなる。

ななが息を呑む。

「これ……個人の話ちゃうんや……」

ゆたかが低く言う。

「集合や」

一拍。

「怒りの集合体や」

紅蓮女が顔を上げる。

炎が、揺れる。

次の瞬間——

「全部、燃えればいい」

■ 第11章 第2話 終

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