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ゆたかの怪奇列島第11章「紅蓮女」  作者: こうた


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第1話「発火」

東京。

夜なのに、空気が熱い。

ななが立ち止まる。

「……暑ない?」

ゆたかが空を見上げる。

「気温ちゃうな」

神父が静かに言う。

「局所的です」

一拍。

「“感情熱”の反応に近い」

人面犬が鼻を鳴らす。

「また厄介なの来たな」

その瞬間。

遠くでサイレン。

1台ではない。

複数。

連続して鳴っている。

「火事か?」

ゆたかが呟く。

だが——

すぐに気づく。

「……多すぎる」

サイレンが、線のように続いている。

なながスマホを見る。

ニュース通知。

『都内複数箇所で同時火災発生』

一拍。

「は?」

神父が眉をひそめる。

「同時発生は不自然です」

人面犬が笑う。

「偶然じゃねぇな」

そのとき。

“ドンッ”

遠くで爆ぜるような音。

夜空に、赤い光。

炎。

ビルの一角が燃えている。

ななが小さく言う。

「……えぐ」

だが——

違和感はそこではない。

ゆたかが目を細める。

「人が逃げとるのに」

一拍。

「焦ってない」

神父が続ける。

「むしろ……」

「怒っています」

ななが振り向く。

「怒ってる?」

そのとき。

通りすがりの男が叫ぶ。

「ふざけんなよ!!」

別の場所でも。

「なんで俺が!!」

さらに。

「許せへん!!」

怒り。

それだけが増幅している。

人間同士の衝突。

火災現場なのに。

ななが呟く。

「避難ちゃうやん……」

ゆたかが言う。

「違うな」

一拍。

「火が先やない」

視線を上げる。

炎の揺れる方向。

そこに——

“立っている”

女性。

ゆっくりと。

燃える街の中に。

だが、燃えていない。

周囲だけが燃えている。

彼女の周りだけ。

静かに。

熱だけが歪んでいる。

ななが息を呑む。

「……あれ、何?」

神父が答える。

「観測されています」

一拍。

「感情の中心です」

人面犬が笑う。

「出たな」

ゆたかが一歩前に出る。

「紅蓮女か」

女性が顔を上げる。

表情は——

怒っている。

というより。

ずっと怒っている顔。

固まっている。

動かない感情。

ゆっくりと口を開く。

「……うるさい」

一拍。

「全部、うるさい」

炎が揺れる。

ななが後ずさる。

「いやいやいや……」

「なんなんこれ……」

ゆたかが低く言う。

「溜まっとるな」

神父が補足する。

「抑圧された感情の蓄積です」

人面犬が鼻を鳴らす。

「爆発寸前って感じだな」

その瞬間。

紅蓮女の視線が——

こちらに向く。

なながビクッとする。

「見られた……」

空気が変わる。

一気に。

熱が上がる。

呼吸が重い。

怒りが、流れ込んでくるような感覚。

ななが顔をしかめる。

「なんか……ムカついてきた……」

ゆたかがすぐに言う。

「気ぃつけろ」

一拍。

「これは“感染”や」

神父が言う。

「感情伝播です」

炎ではない。

怒りそのものが——広がっている。

紅蓮女が一歩、進む。

その瞬間。

周囲の怒りが爆発する。

誰かが叫ぶ。

「なんやねん!!」

別の声。

「ふざけんな!!」

怒りが連鎖する。

人が人にぶつかる。

火事より先に。

人間が崩れていく。

ななが呟く。

「これ……戦われへんやつやん……」

ゆたかが言う。

「せやな」

一拍。

「殴ったら負けるタイプや」

紅蓮女が静かに言う。

「我慢してた」

一拍。

「ずっと」

炎が少し強くなる。

「もう無理」

ななが呟く。

「……話、通じるん?」

ゆたかは答えない。

ただ見ている。

神父が言う。

「接触は危険です」

一拍。

「怒りが増幅します」

人面犬が笑う。

「めんどくせぇ敵だな」

紅蓮女が一歩進む。

炎が揺れる。

空気が歪む。

そして——

ゆっくりと。

こちらを見て。

言う。

「全部……消えればいいのに」

■ 第11章 第1話 終

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