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ゆたかの怪奇列島第11章「紅蓮女」  作者: こうた


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第5話「鎮火」

夜の東京。

さっきまでの熱が、嘘みたいに引いている。

それでも空気は少し重い。

焦げた匂いだけが残っている。

紅蓮女は、まだそこにいる。

座り込んだまま。

炎はほとんど消えている。

ただ、小さな揺らぎだけが胸の奥に残っていた。

ななが小さく呟く。

「……ほんまに、終わったん?」

ゆたかはすぐには答えない。

代わりに周囲を見る。

壊れた街。

荒れた感情の残り。

そして静けさ。

「終わり……やな」

神父が静かに言う。

「暴走状態は解除されています」

一拍。

「ただし、完全消滅ではありません」

人面犬が鼻を鳴らす。

「燃えカスは残るってことか」

紅蓮女が顔を上げる。

「私は……まだここにいていいの?」

その声は、もう燃えていない。

ただの人の声だ。

ななが一瞬迷ってから言う。

「ええんちゃう?」

ゆたかが軽く肩をすくめる。

「消す必要はないやろ」

一拍。

「怒りそのものが悪ってわけちゃう」

紅蓮女の目が揺れる。

「でも私は……壊しかけた」

神父が答える。

「制御を失っただけです」

一拍。

「存在そのものの否定にはなりません」

人面犬が笑う。

「まぁ、暴れすぎただけだな」

紅蓮女はゆっくり立ち上がる。

足元はまだ不安定だ。

それでも、倒れない。

ななが小さく言う。

「これからどうするん?」

紅蓮女は少しだけ黙る。

そして言う。

「わからない」

一拍。

「でも……怒りは、まだある」

ゆたかが頷く。

「それでええ」

一歩、前に出る。

「抑え込むもんちゃう」

「使い方の問題や」

紅蓮女が少しだけ目を見開く。

そのとき——

遠くで、微かな“揺れ”。

神父がすぐに反応する。

「……干渉です」

一拍。

「外部からの信号」

人面犬が顔をしかめる。

「まだ終わってねぇってか」

空気が一瞬だけ重くなる。

紅蓮女の胸の奥の炎が、わずかに反応する。

“コトッ”

何かが、戻ろうとしている感覚。

ななが気づく。

「これ……黒幕?」

ゆたかが静かに言う。

「せやろな」

紅蓮女が小さく震える。

「また……怒っていいの?」

ゆたかは一瞬だけ間を置く。

そして言う。

「ええで」

一拍。

「ただし、飲まれるな」

紅蓮女の炎が、少しだけ灯る。

今度は暴走じゃない。

意思のある火。

ななが息を吐く。

「……ややこしい世界やな」

人面犬が笑う。

「だから面白ぇんだろ」

遠くで、まだ何かが動いている。

それは終わりではなく。

次の始まりの気配だった。

■ 第11章 第5話 終

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