第7話
ひとしきり地団駄を踏んだわたしは、キリ先輩の「とりあえず、靴から選ぼっか」という提案で靴売り場に移動した。
「うーん、どんなのがいいんですかね?」
品揃えが思っていたよりもずっと多く、さっそくヘルプを求める。
街で履いても違和感がないおしゃれなスニーカーもあれば、足首まできっちり固める登山靴、ファンタジーアニメに出てきそうなブーツや鉄靴もある。ハイヒールや厚底サンダルは一体誰が買うんだ。ダンジョンに履いていったら足首をぐねりそう。
「動きやすいのが基本なのは言うまでもないけど、とりあえず登山靴は除外かな。こういうのは山岳系のダンジョン専用だから」
山岳系ダンジョン! ほう、そんなのもあるのか。
動きやすい靴って言うと、スニーカー系がいいのかなあときょろきょろしてると、翼の飾りがついたブーツが目に入った。
「空飛ぶブーツだって! こんなの履けば落とし穴もトラップもスルーできて無敵なんじゃないですか?」
「うーん、便利は便利だけど、プラーナ制限を超えちゃうかな」
「プラーナ制限?」
「競技ダンジョンにはね、持ち込んでいいアイテムの量に制限があるんだよ。プラーナっていうのは精神力っていうか、生命力みたいなもので、ダンジョンギアはそれを消費して具現化するのね。プラーナ量には個人差があるんだけど、競技ではルールで上限が決まってる」
ほうほう、つまり重量制限みたいなことか。
「で、アイテムごとに具現化に必要なプラーナ量が違うんだけど、エンチャント――特別な機能を持っていたり、性能が高いものほど多いんだ。ほら、このウイングブーツは90点もする。余分は10点しか残らなくなっちゃう」
なるほど、持ち込みアイテムは合計100点までに収めなきゃいけないのか。
空飛ぶ靴――ウイングブーツの正札には、「必要プラーナ量」という項目があり、そこにはキリ先輩の言う通り90点の記載があった。そして「おすすめポイント」として「レジャーにピッタリ! 空中散歩を楽しもう♪」と書かれていた。どうやら競技を意識した品ではないようだ。
ああでもないこうでもないと悩みつつ、相談しながら揃えた装備はこのとおりだ。
・頭:鉢金つき鉢巻(10点)
・胴:防刃性半袖ジャケット(30点)
・腕:手甲、腕甲(15点)
・足:スニーカー型安全靴、すね当て(15点)
しめて70点である。まだ30点の余裕があるが、ダンジョンに応じて必要なギアを追加できるよう、基本装備は70~80点ほどで抑えるのが定石らしい。毎回専用のフル装備を揃える人もいるそうだが、お財布の負担がね……。ああ、さらばわたしのお年玉貯金よ。
なお、一番のお気に入りは腕装備である。形としてはMMAのオープンフィンガーグローブに似て、革手袋の外側に金属を縫い付けたものだ。指が自由に動かせ、手首から先の動きを重視するうちの流派にぴったりだ。これなら掌を使った技にも支障がない。
腕甲は主に2つのパーツから出来ており、前腕を通して組み合わせると一本の筒になる。手甲とのセット商品になっていて、留め金で接続するとデザイン的にも一体感があってカッコいい。ふふふ、なんだかこれだけでも強くなった気がするぜ。
「お試しされますか? シミュレーターで試用ができますよ」
試着をしていたら店員さんから声をかけられたので、ほいほいとついていく。
試用コーナーはネットでいくつかに区切られた空間で、ひとつのブースが教室の半分くらいとなかなか広い。その中では、幾人かが小柄な人影を相手に武器を振るっていた。
「そちらのスイッチを入れるとゴブリンが現れます。シミュレーション用のキバナシ種ですので、安心してご利用ください」
「キバナシ?」
「牙がない、危険な攻撃はしねーってことだよ。それくらい雰囲気でわかれ」
鬼嶋の言葉に「むう」と頬を膨らませる。教えてくれるのはいいが、いちいち棘のある言い方をしなくてもいいではないか。さてはこやつ、わたしに負けたのをまだ根に持っているな?
「よーし、ド素人に見本を見せてやろうかね」
鬼嶋は金髪をこれみよがしにかき上げると、スイッチを押してブースに入った。
特攻服の懐からトランプサイズのカードを取り出して「復号」と呟くと、光の粒子がくるくるとつむじ風のように舞って鬼嶋の姿を覆い隠した。
そして、粒子が消えると小型バイクにまたがった鬼嶋の姿が現れる。
ほほう、ダンジョンギアは、普段はカードの形をしているのか。
ブース内を見ると、こちらでもあちこちで粒子が渦を巻いて人の形を創り上げていく。
出来上がったのは小学校高学年くらいの体格をした、ひどい猫背の怪物が5体ほど。わたしが半裸グリーンと名付けた例の雑魚だが、正式名称はゴブリンというらしい。
「じゃあ見てな!」
鬼嶋はどるんとエンジンを吹かすと、ブース内を所狭しと駆け回る。左手の木刀はすれ違うたびに急所を打ち、5体のゴブリンは瞬く間に全滅して粒子に分解されていった。
「へっ、どんなもんだい」
むう、大変に遺憾であるが確かに見事なものだった。バイクにとっては決して広いとは言えない狭いブース内を自在に走る運転技術。目まぐるしく走りながら正確に、そして強力に得物を振るう技術。馬上剣術などとっくに廃れているだろうに、よくもこれだけの技を練り上げたものだ。
少なくともわたしには真似ができない。っていうかバイクなんて運転したこともないし。
好き嫌いで評価を変えるのは流儀ではないので、ちゃんと褒めてやろう。
わたしはパチ……パチ……パチ…………とゆっくり拍手をして、
「くっくっくっ、なかなかやるではないか。面白い余興を見せてもらったぞ」
「なんで悪の大幹部風なんだよ!?」
好き嫌いで評価を変えるのは流儀ではない。
だがしかし、褒め方は当然変わるのである。




