第59話
スコアは【0-2】、こちらの不利で迎えた第三セット。
仁教堂は延長戦狙いかと思いきや、一転先行を許してしまった。
「ルート選びが異様に正確すぎる。手段はわからないけど、事前にマップが把握されてる気がする」
インターバル。キリ先輩が険しい顔でミニマップを睨んでいる。
財宝争奪戦ではセット終了ごとに、敵味方に関わらず探索済みのエリアが開示されるのだ。マップには細工町巧魅が辿ったであろうルートが表示されているが、行き止まりで戻ったり、分岐で迷った形跡が見られない。大きな迂回もなく、キリ先輩の言うとおり宝箱までのルートを把握していたとしか思えなかった。
「ちっ、どんなイカサマ使いやがったんだ……。まさか運営からデータを盗んだんじゃねえだろうな?」
「そんなこと疑ってもしょうがないよ。それにマップは試合開始時にランダム生成されるから、運営だってどんなマップになるかは想定できないはず」
「じゃあどうやったっつーんだよ」
「わからないけど、マップは把握されてると想定して作戦を立てるよ。まずアカリちゃんだけど――」
短い打ち合わせを終え、第三セットが始まる。
試合開始の合図とともに、わたしは捨身飼虎(弱)でスタートダッシュ。目標はポニテちゃんだ。
「させるかッ!」
「いかせないッ!」
そこに両脇からブロックが入る。
第一セットの開幕と同じ展開だが、今度はこっちも予想がついている。
鈍い風切音とともに迫る大型レンチとパイプカッターをかいくぐってブロックを突破。
「後ろは気にすんな! 行ってこい!」
「こっちは任せて!」
そして鬼嶋が大型レンチ、キリ先輩がパイプカッターに仕掛ける。
おかげでフリーになったわたしはポニテちゃんの背中を追う。
今回はフェイントを挟まず、初っ端からソロで宝探しに動いていたのだ。
得物同士が打ち合う激しい金属音を背中に聞きながら、ポニテちゃんが選んだ通路に飛び込む。あとは背中を見失わないよう追いかけるだけだ。
しかし、追いながらマップのチェックも忘れないようにする。
いつか志乃美林に嵌められた作戦の二の舞になっていないか確認するためだ。同じルートを辿ってマップの開示を最小限にされた場合、終盤から全員斥候戦術に切り替えられる可能性がある。運勝負に持ち込まれると、ポイントで先行を許してしまったこちらが圧倒的に不利だ。
「よし、ルートはぜんぜん違うな」
心配は杞憂だったようで、まったく異なるルートを辿って宝箱が示す光点へと向かっている。それにしても考えなきゃいけないことが多い。ダンジョン道は頭脳も使う総合競技なのだと思い知らされてばかりだ。
進みながら、ポニテちゃんが回避していったトラップにも触れないよう注意を払う。仕掛け矢や落とし穴程度なら発動させてもタイムロスなしで強引に突破できるが、足をすべらせるオイルトラップや、視界を阻害する煙幕などの行動阻害系トラップを発動させてしまうとマズイ。キリ先輩なら発動前にトラップの正体を見抜くこともできるんだろうけど、わたしにそんな真似はもちろん不可能で、多少非効率でもすべてを回避する以外に選択肢がなかった。
そのせいで、ポニテちゃんとの距離はなかなか縮まらない。なんとか見失わずに済んではいるが、この分では宝箱に辿り着く前に捉えるのは難しそうだ。
パシュッ
頭上から空気が抜けるような音。
奇妙な感触が頭から全身に絡みつく。
「網っ!?」
降ってきたものの正体は網だった。
しまった、トラップを発動させてしまったのか!?
全身を絡め取られる前に素早く回転。
遠心力で網を広げ、さらにその隙にダッシュをしてくぐり抜ける。
ぬうっ、肩に引っかかった。
引き剥がそうとするが、飾りボタンに変に絡んで外れない。
しかたがない、このまま追う!
しかし、トラップを踏んだおぼえはまったくないんだけどなあ。
たぶんいまの罠、あそこの小石に見せかけたスイッチがトリガーだと思うんだが。
「あれ?」
手のひらサイズのクモみたいなものが、スイッチの辺りにいた。
どうやらあれが罠を起動させたらしい。
新種のモンスター?
いや、違う。ひょっとして、ロボット?
それは金属のフレームと、絡みつくように伸びる無数のケーブルで出来ていた。それはカシャカシャと四肢を動かすと、わたしを追い抜いて前方へと走っていく。前方と言えばもちろん――
「細工町巧魅ッ!」
思わず声が洩れていた。
細工町巧魅がポニテを揺らして振り返り、一瞬だけ白い歯を見せる。その背中のバックパックに、先ほどのロボットが飛び込んでいった。
むむむ、どうやらあれが仁教堂の仕掛けた作戦のタネらしい。
ロボットだかドローンだか知らないが、アレを使ってマップを探索していたのだ。第一セットで無駄に思える時間稼ぎはそのためだ。第一回戦でこんなギミックは使ってなかったはず。それを初手からうちにぶつけてくるとは――
「――燃えてくるじゃん!」
細工町巧魅に感じていたなんとも言葉にしがたい微妙な感情。それが沸き立つ血により吹き飛び、「好敵手」に向けるものへと入れ替わった瞬間だった。




