第58話
恐るべきはストーカーの調査分析力、そして執念である。
先ほどの宣言も黙っておけばよかったのに、わざわざ口にしたのは「お姉様のことなら全部知ってるあーしすごいでしょ! 褒めて褒めて!」という意図を感じる。というか満面の笑顔に書いてある。地獄への道は善意で舗装されているとはよく言うが、こんな感じで地獄へ続く道もあるんだなあ。怖い……。
「なんであんな子がうちに進学しなかったんだろ……」
後ろからキリ先輩のぼやきが聞こえる。
わたしも疑問だが、同じ学校に来なくて本当によかったと心の底から思う。
「あーしだって同じ学校に通いたかったんすよ!」
それを耳ざとく聞きつけ、ポニテちゃんが叫ぶ。
その顔は半泣きだ。感情の乱高下が激しすぎる。怖い。
「でも、お姉様がどこに進学するかぎりぎりまで可能性を絞り込めなくて……。だって、県外の高校をあれこれ調べてたじゃないっすか! 候補が多すぎたんすよ! 特定できたときには願書の締切が過ぎてたんす! だから、桜吹雪高校の一番近くで二次募集のあった仁教堂に来たんす!!」
おおう、かなり危ないところまで迫られていたようだ。
高校進学なんて人生の重大事をわたし最優先で決めてしまったのか。重い、重すぎるぜ……。
その後、戦況は停滞。
双方決め手がないまま、時間制限が来て第一セットは引き分けで終わった。
* * *
「うーん、参ったね。どうにも決め手が見出だせないな」
第二セットまでのわずかなインターバル。
キリ先輩が眉間にしわを寄せている。
「前衛のうち1枚が完全に封じ込まれてるからな。オレが突破できりゃいいんだけど、もうちょいってところで退きやがる」
「うん、アカリちゃん対策が完璧すぎてそっちに気を取られちゃたけど、あれはニコちゃんのことも相当研究してるね。バイクのやりにくい間合いを熟知してた感じがする」
バイク対策なんてニッチなもの、狙ってなければできないだろう。
ひょっとして、わたしの狂信的なストーカーというのはブラフで、実はデータキャラだったとか……?
「いや、残念だけどそれはないと思うよ」
「あの目はどう見たってマジもんだからな」
「ですよねえ……」
一縷の希望はあっさりと否定される。
つまり、細工町巧魅はわたしのストーカーであると同時にデータキャラってわけだ。属性が増えたよやったねアカリちゃん! ってやかましいわ。
しかし、実際問題厄介である。
基本的にわたしの戦い方は手札の数に依存している。火神陰流は伝統武術だが、さまざまな格闘技の技術を吸収している。とくにじいちゃんは節操がなく、空手やキックボクシングなどのメジャーどころはもちろん、グレイシー柔術にも有名になる前に接触しているし、ブラジルに行ったついでにカポエイラまで学んできたほどだ。そして、それらで使えそうな技術は火神陰流に統合され、わたしにもきっちり受け継がれているわけだ。
「にしても、やつらの狙いは何なんだ? まさか、延長の解錠戦狙いじゃねーよな?」
「うーん、だとしたら受けて立つんだけど……」
「だよな! 解錠戦でキリキリが負けるわけがねえ! あいつらもごちゃごちゃ作戦を立ててきたくせに、肝心なところでミスってやがんの」
「いや、向こうが解錠戦狙いって決まったわけじゃないからね?」
引き分けのまま最終セットを終えた場合、「解錠戦」という延長線で決着をつけることになる。ルールは簡単で代表者同士の解錠速度勝負だ。解錠はパズルなので、運によってもタイムは左右される。それに相手に1点でもリードされれば成り立たないので、最初からこれを積極的に狙うチームはそうそういない。
それに……鬼嶋のことまでしっかり調べていた仁教堂が、キリ先輩の解錠速度を計算に入れてないはずがないと思うんだよなあ。
* * *
第二セットは煙玉から始まった。
キリ先輩がすかさず〈つむじ風〉の胚珠で対抗し、煙を晴らす。晴れた視界の向こうでは、溶接用の防護面を巨大化させたような盾を構える前衛二人。ポニテちゃんはその影に隠れて動きが見えない。
「ちっ、今度はきっちり固めて引きこもるつもりかよ」
「ニコちゃん待って。付き合う必要はないよ」
突っかかりそうになる鬼嶋をキリ先輩が引き止める。
「固まって探索に向かおう。二人は後衛で警戒をよろしく。徘徊モンスターなら僕だけでもなんとかなるから」
通路に入ったわたしたちを、若干遠目の距離で仁教堂が着けてくる。妨害戦術……? いや、そこまで防御力に自信があるのなら初手から妨害狙いで来るのでは? じゃあ道中の奇襲が狙いか? 守りが手薄になれば、隙を突いてくるかもしれない。背後の警戒は片時も疎かにできなかった。
キリ先輩がトラップとモンスターの対処をしながら進んでいくが、これではスピードが上がらない。仁教堂から仕掛けてくる雰囲気はない。宝箱を発見してから何か仕掛けてくるつもりなのだろうか……?
そのときだった。
ビィィィィィイイイイイイイイ――
【仁教堂高校、解錠成功。2ポイント獲得】
「は?」
セット終了を告げるブザーが鳴り響き、仁教堂に得点が入った。
意味がわからず振り返るが、仁教堂の三人は確かにその場にいる……はず……あれ?
「しまった! 細工町さんがホログラムだったんだ!」
駆け戻ってきたキリ先輩が叫ぶ。
スタート地点への転送がかかると、プレイヤーの身体は徐々に粒子になって消えていくのだが、前衛の盾に隠れたポニテちゃんだけが何も起こらずその場に佇んでいる。
煙玉のタイミングからホログラムに入れ替わっていたんだ。本人はひとりで探索に出て、残った二人は盾を使って見破られるのを防ぐ。ぬう、してやられた……。
しかし、疑問は残る。
一体どうやって、こんなに早く解錠を成功させたんだ?
たったひとりでは、探索速度もこちらとさほど変わらないはずなのに……。




