第55話
『第二試合、仁教堂工業高等学校対只野東高等学校、開始ッ!!』
ブザーとともに、試合が幕を開ける。
イミテーションから投影された映像に映る仁教堂の三人は全員つなぎでダンジョンに入る前と変わらない姿だ。対する只野東は西洋風の革鎧を金属で補強したRPGみたいな格好。現在のダンジョン道では一番メジャーなスタイルである。
「両チームとも前衛二名の後衛一名。うちと同じだね」
例のポニテの子は後衛だった。
小型のボウガンを構えながら戦況を見守っている。
というか、どっちも探索に行かないのね。
バックアタックを警戒しているのか、睨み合いが続いている。
「うーん、これは長引きそうだねえ」
「にらめっこなんて見せられても面白くねえぞ」
どちらのチームも最初の試合ということで慎重になっているのかもしれない。とはいえ、セットごとに制限時間は決まっている。ずっと睨み合いというわけには――あ、仁教堂が動いた。
口火を切ったのはポニテの子だ。
小型のボウガンがぷしゅぷしゅぷしゅと短い矢を連射する。
おお、連射式のボウガンなんてあるんだな。あのクランクを回すと矢が発射される仕掛けなのか。どういう仕組かわからないけど、めっちゃかっこいいぞ。
「あの矢じゃ牽制にしかならないね。けど――」
キリ先輩の言うとおり、矢は小盾や鎧であっさり弾かれた。
只野東の装備は幅広な片手剣と小型の丸盾。古代ローマ兵や剣闘士が持ってそうなやつだと言えばイメージしやすいだろうか。その扱いはなかなかこなれていて、鎧に当たったのも受け損ないではなく、ダメージにならない箇所だとちゃんと見切っているようだ。
『うおおおおおッ!』
しかし、膠着状態さえ解消できればよかったのだろう。
キリ先輩の言うとおり、牽制が狙いだ。
仁教堂の前衛二人が攻撃を開始する。
武器は工具。
ひとりは柄の長いレンチ。
ひとりは大きなパイプカッター。
それらが盾にガキンと当たって火花を散らす。
なかなかの大迫力である。
っていうか、こうやって冷静に見るとダンジョン道ってなかなかにバイオレンスな競技だな。いくら現実の身体が傷つかないからと言っても、人の姿形をしたものに武器を振るうのには度胸がいる。古くは武家の婦女子の教養でもあったというが、戦場に出て鍛えるわけにはいかない女性たちにとっては武芸を磨く格好の場であったことは想像だに難くない。
とはいえ、ダンジョンで動けたからと言っても現実でも同じように動けるわけじゃないんだけどね。生兵法は怪我のもとというやつで、なまじダンジョンで強くなった気でいると現実で足をすくわれてしまうこともあるだろう。それを戒めたからこそダンジョンは女のものであり、男社会から遠ざけられたのだ――って、じいちゃんの受け売りだけど。
そんなことを考えている間にも、戦況は動いていた。
仁教堂が押している。
彼女らの武器は大型工具だけではなかったのだ。
背負ったバックパックからロボットアームが伸び、ぎゅいんぎゅいん唸るドリルやパチパチと電光をまとうスタンガンで攻撃している。
プラーナポイント制限の関係だろう、それぞれの威力は低いが、トリッキーで多彩な攻撃に翻弄された只野東が押し込まれていた。
「代わった武器を使うね。初見じゃびっくりしてたかも」
キリ先輩の言うとおりだ。
ロボットアームは華奢で、わたしや鬼嶋なら問題なくぶち壊せるだろう。しかし、初見であれば面食らって対応に手間取ったのも想像に容易い。やっぱり事前の偵察って――
「な、偵察って大事やろ?」
――大事だなと思ったところでミノさんに被せられた。
完全に同意なんだけど、ミノさんにドヤ顔で言われると、つい反論してしまいたくなるのはなぜだろう。
そんなこんなで一度均衡が崩れると、只野東が完全な守勢に追い込まれた。そして不意に第一セット終了のブザーが鳴る。時間切れ――ではない、仁教堂の2ポイント先取だ。只野東が守りに集中した隙を縫って、後衛のポニテちゃんが宝箱に向かっていたのである。
「へえ、思ったより抜け目のねえ連中じゃねえか」
鬼嶋は面白そうににやにや笑っている。
うーん、こうしていると完全にチンピラ悪役ムーブだな。
物語の冒頭で主人公にあっさり返り討ちにされるやつだ。
これでお料理上手の食いしん坊でキリ先輩が大好きなのだから、人間とは見た目ではわからないものである。
第二セットからは仁教堂のワンサイドだった。今度はまともにかち合わず、全員斥候戦術に切り替え、軽装と残ったスタミナの差を活かしてポイントを連取。第三セットは只野東が運よく解錠権を手にしたが、妨害が成立して【4--1】でゲームセット。序盤こそいい勝負に見えたが、終わってみればストレートでの決着だ。
そして、次の試合相手が決まったということでもあり――
「お姉様~! お姉様が応援してくれてたんで、あーしもがんばっちゃいました!」
「い、いい試合でしたね」
「そんな敬語だなんてもったいない! でも、お姉様に褒めていただけて感激っす!」
ポニーテールが揺れている。
キリ先輩と鬼嶋から向けられる生温かい視線を感じる。
やっべ、この子のことを思い出す努力をすっかり忘れてた……。
この流れで「人違いっす」って答えるのすげえ気まずいんですけど!?
っていうか、これ本当にぜんぜん知らない人ってことでいいんだよね!?
もし知ってる人だったら大事故だぞ!?




