第54話
試合後の挨拶を終え、振り返りの時間だ。
「いや~、やっぱりワイの読み通りやったなあ。完璧のパーペキに読み通り。ワイの調査能力と頭脳が光る一戦になったのう。わはは、みんなもがんばったけどな!」
ミノさんがめちゃくちゃ調子に乗っている。
反り返って大きな持ち物が強調されているのも相まって二重にうざい。そのままひっくり返って頭を打って角でも折れちゃえばいいのに。
「う、うん。予想通りだったね。模武台の直近の試合まで調べる余裕はなかったからミノさんがいてくれて助かったよ」
キリ先輩は大人の対応である。ミノさんの手柄をちゃんと認めてねぎらっている。頬を若干ひくつかせながらだが。
「練習試合でも妨害特化一本槍だったんだろ? そんなん、知ってりゃあ誰だって予想がつくじゃねえか」
「わかっとらんのう。その『知る』のが大変なんやないか。テレビ中継なんかもちろんないし、配信しとるわけでもないし、現地に行くしかないんやで? みんな忙しゅうてそんな暇はないと思うんやけどなあ。一所懸命汗かいて走り回ったのに、そんな言われようしたら姐さん悲しいで」
「ぐっ……」
すかさず反撃された鬼嶋が言葉に詰まる。
まあ、態度を除けば完全にミノさんが正論なのだが。
ミノさんがやってくれた偵察がなければ、一回戦をこんな軽々と勝ち上がることはできなかっただろう。平場でやっても負ける気はしなかったが、消耗を押さえられるのはありがたい。わたしたちは三人きりで控え選手がひとりもいないのだから、疲れたから交代ってわけにはいかないのだ。
まさに、情報は力なり、だ。
わざわざ苦労して顕現させたかいがある。
「ほれほれ、ワイのありがたみがわかったやろ? もっと感謝してくれてもええんやで~。せやなあ、『菜の花』の小田原うさぎでええで」
「あー、小田原のバターどらやき。キリ先輩にもらいましたけど、めちゃくちゃ美味しかったですね」
「せやろー? ワイもすっかりハマってしもうてなあ」
「はいはい、小田原には親戚がいるから、また遊びに行ったら買ってくるよ……って、そんな話をしてる場合じゃないよ」
「おっ、そろそろ次の試合か。勝った方が二回戦の相手になるからのう。ちゃんと偵察しておかんとあかんな」
「今回はオレたちが直接見るから、お前は休んでてもいいけどな」
「そんな寂しいこと言うなや~」
そんなこんなでわちゃわちゃしながら移動する。
何しろ参加校が多いので、第一回戦をヨーイドンでみんな一緒に始めるわけにはいかないのだ。イミテーションを代わる代わる使って一日がかりで消化するのだ。そこにはもちろん将来の対戦相手も含まれている。情報戦という意味では、いの一番に試合ができたわたしたちは優位と言える。さすがに試合を控えた状態でのんびり観戦に集中なんてしてられないしね。
「マジメな話、分散して3回戦、4回戦の相手になりそうなとこを偵察しとくのもありやけど、どないする?」
ちゃらんぽらんな調子から、ミノさんが真面目な顔に切り替わる。
急にシゴデキ風な空気を出されるとリアクションに困るからやめたまえ。
「うーん、あまり先のことを考えすぎても混乱しちゃうかな。次に当たる可能性があるところだけに集中しよう。スケジュール的に観戦できないときはミノさんにお願いするよ」
「りょーかい。ま、直前にあれこれよそ見してもしゃーないわな」
シゴデキなミノさんに、キリ先輩もシゴデキな雰囲気で応じる。キリ先輩は元々シゴデキだから何の問題もない。
* * *
観戦する試合は仁教堂工業高校と、只野東高校だ。試合はまだ始まっておらず、リクライニングチェアの周りで待機している。
薄いグレーのつなぎを着ている子たちがたぶん仁教堂だろう。他校の子たちがみんなジャージなので、なかなかに浮いているが、それがむしろちょっとお洒落にも見えてくるから不思議だ。工業高校なら女子も少ないだろうし、学校じゃモテモテなんだろうな。ちょっとうらやま……う、羨ましくなんてない。わたしは恋愛など捨ててダンジョン道に青春をかけることにしたのだ。こ、後悔なんてないぞ。
じろじろ見ていたのに気がついたのだろうか。
仁教堂の子の一人が顔を上げ、こちらに向かって小走りにやってきた。やべ、失礼だったかな。気分を悪くさせてたら素直に謝ろう。2回戦で対戦するかも知れない相手に露骨に観察されてたら、いい気持ちはしないよね。
女の子は、斜め後ろに結わえたポニーテールを元気に跳ねさせながらやってきた。怒られるのかなあと思いきや、その表情は満面の笑顔だ。なんでだろう、ちょっと怖いんですけど……。
「お久しぶりですっ! お姉様っ! わざわざあーしの試合を観に来てくださったんですか! あーし、めちゃめちゃ感激してますっ!!」
……はい?
何か人違いされている?
お姉様とか言われても、わたしに妹なんかいたことないぞ???
すみません、ちょっと人違いじゃないですか、と言おうとして――
「あっ、すみませんっ! 試合が始まっちまうみたいっす! また後でゆっくり!」
ポニーテールを揺らしながら戻っていった。
一体何だったんだろう。
思わず首を傾げていると、
「お姉様だってよ。お安くねえんじゃねえの?」
鬼嶋よ、お前は何を想像しているんだ。
にやにやしてるんじゃないよ。
「こら、ニコちゃん。そういうのは人それぞれなんだから、からかっちゃダメだよ」
違います。
そういうのではありません。
キリ先輩まで何を言ってるんだ……ってなぜ頬を染めている。
「いや、あの子のこと、何もおぼえてないんですけど……」
「マジかよ、こいつ……」
「アカリちゃん、いくらなんでもそれは……」
「えっ、ちょっ!? 何ですかその反応!? 本当に何にもおぼえてないだけなんですって!?」
「うわあ……」
「いやっ、だからちがくて――」
「ほらほら、遊んどらんで試合に集中せな。もう始まるで」
何やらあらぬ誤解が発生したまま、第二回戦が始まってしまった。
むむう……、試合が終わったらちゃんと誤解を解かないと。
二人にも、さっきのあの子にもだ。




