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いのち短し潜れよ乙女~ダンジョン道は乙女のたしなみ~  作者: 瘴気領域
第八章 夏大会 x 前半 x お姉様

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第53話

 夏休みである。

 小学校までであれば授業から開放される至福の期間。

 中学校からは学校という枷から解き放たれた不良どもが街をうろつくうっとうしい期間。

 そして高校生となって初めての夏休みは――


「いよいよ公式戦デビューかあ。ふふふ、腕が鳴るぜ……!」


 そう、いよいよ夏の大会である。

 期末試験という試練を無事乗り越え、夏休みに入って早々に待ち受けていたイベントだ。見慣れたはずの市民体育館が輝いて見えるぜ!


「ほらほら、きょろきょろしていると迷子になるよ」

「はしゃぐんじゃねーよ。恥ずかしい」


 わくわくしていたら、キリ先輩と鬼嶋から同時に注意された。

 まったく、わたしを何だと思っているんだ。遠足でテンションが壊れてしまった小学生でもあるまいに……。あっ、あそこに屋台が出てる。大会に来る客を当て込んでるのかな? ほほう、たこ焼きにケバブですか。ちょっと小腹を満たしに……あ、いやいや、嘘です、冗談です。ちゃんと会場に入りますって。


「若人の熱気がむんむん立ち込めとるのう。ワイも若返りそうやで」


 少し遅れて悠々と歩いてくるのはミノさん(人化)である。

 セクハラオヤジみたいなことを口にしているが、そのスタイルは抜群だ。臙脂のジャージを着せ、角隠しのバケットハットを目深に被り、バカデカサングラスで変装をさせているのに、それがかえってお忍びの芸能人のようなオーラを醸し出している。すれ違う人たちが時々小声で話しながらスマホのレンズを向けてくる。うーん、これはガチで芸能人だと勘違いされている可能性があるな……。


『えー、「いのち短し潜れよ乙女」とはダンジョン道の開祖、与謝野晶子が掲げた標語ですが――』


 というお定まりの挨拶を聞き終え、さっそく第一試合の場所へ向かう。

 相手は模武台(もぶのだい)高校。お互いシードなしで最底辺からのスタートだ。ミノさんのリサーチによると去年の冬大会は2回戦負けで、我らが桜吹雪高校と同じ戦績。といってもうちが負けたのは優勝校の聖マグダレナだからね。同格だと思ってるんじゃねえぞおおん?


 と、心のなかでイキってみたが、相手はにこやかかつ爽やかに試合前の挨拶をしてくれた。その笑顔が眩しい。オラついて申し訳ありませんでした。初の公式戦でちょっとテンションがおかしくなってるんですすみません。


「マグダレナとやるまでは五回勝ちゃいいのか。へっ、こんなところでつまずいてらんねえぜ」

「ちょっとニコちゃん。油断しちゃ駄目だよ。ひとつずつ目の前の相手に集中して勝っていかなきゃ」


 しかし、気合が乗っているのはわたしだけではなかった。キリ先輩も鬼嶋も勝つ気満々である。

 剣城さんやブランがいる宿敵聖マグダレナは反対ブロックだ。決勝までは当たらない。そして、172校がひしめくトーナメント表はなかなかに圧巻だ。日程は2週間ほどで、なかなかの過密スケジュールである。


『それでは第一試合、模武台(もぶのだい)高校対桜吹雪高校開始っ!』


 そんなわけで、これと言った溜めもなくさくさく試合開始である。

 会場のダンジョンはスタンダードな西洋型。石畳の床に、仕組みの壁と天井。そこかしこにした苔がぼんやりと光を放っており、間接照明的なライトアップ効果を生み出している。いつか潜った炭鉱型ダンジョンと違って、陰影が弱く視界良好だ。


 学生向けの公式大会では、あまり癖のあるダンジョンを舞台にすることはあまりないらしい。火山だったり地底湖だったり、変わった舞台で観客の目を楽しませる工夫をするプロの世界とは違うようだ。


 観客と言えば、一部の試合はテレビ中継も入っている。緒戦は注目校だけだが、準決勝からはすべて放送する。放送局はテレビ神奈川だけど、テレビなんか出たことないからわくわくしちゃうな。アイドル的な人気が出ちゃったらどうしよう。ま、うちは無名校だから1回戦から中継なんて入らないんだけどね!


 そんなことを考えている合間にも、試合は進行している。

 模武台(もぶのだい)は全員が板金鎧と大盾で固めた重装備で、探索を進めるこちらの後を着けてくる。『財宝争奪戦』における定番戦術の一つ、妨害特化だ。草大会の初戦で『夜の蝶』に使われて苦戦した戦術である。


 宝箱を発見し、キリ先輩が解錠権をゲット。

 それまで距離をおいていた模武台(もぶのだい)が一斉に突撃してくる。そこではムキにならず、速やかに撤退。相手は拍子抜けした様子だが、そのまま宝箱を囲んだ防御体制を取る。


 あれ? これじゃ『夜の蝶』のときと同じ展開じゃないか……と思うかもしれないが、じつは細かいところで違う。まず、最初の突進には付き合わない。重量と速度の乗った突進には十分な威力があり、それを真正面から受けるのは消耗が激しい。


 そして第二に、次の作戦への展開が速い。

 防御体制を取った瞬間、鬼嶋が突貫して木刀を乱打する。防御に隙間ができれば、キリ先輩が抜け目なくナイフを投げつける。そしてそちらに気を取られている隙に力を溜めて――


「だぁぁぁぁあっ、しゃぁぁぁあああアッ!!」

「きゃぁぁぁああああ!?」


 ――捨身飼虎(しゃしんしこ)(緩)


 である。

 密着状態から放つ捨身飼虎にはこう名付けた。

 夏大会は一日一試合であり、捨身飼虎(緩)なら開幕で使ってもスタミナ切れは起こさないだろうという判断だ。


 三人がまとめてぶっ飛び、そこに鬼嶋が襲いかかる。ちょっと遅れてわたしも追撃だ。

 一名が消失(ロスト)。他二名にもかなりダメージを与え、プラーナを削っている。

 そうこうしている合間にキリ先輩が解錠に成功して2ポイント先行。


 第二セットは模武台(もぶのだい)高校の選手が全員交代する。控え選手として登録可能なのは三名なので、これで向こうの手札はさっそく出し切った感じだ。新しいメンツにそっくり代わったものの、作戦は変わらず妨害特化。校風なのかな? しかし、個々の実力も連携も最初のメンツよりも拙い。第一セットをなぞるような展開になったが、捨身飼虎(緩)を使うまでもなく防御が崩壊。2ポイントを連取した。


 第三セットでは第一セットと第二セットの混成部隊。消耗の少ないメンバーを選んだのだろう。だが、普段から組んでいるわけではないようで連携はさらに拙く、体力も消耗しているのでもはや敵ではない。今度は迎撃して妨害を許さず、合計6ポイントを先取してゲームセット。


「ありがとうございましたっ!」


 記念すべき公式戦デビュー。見事、三タテの快勝である。

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