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いのち短し潜れよ乙女~ダンジョン道は乙女のたしなみ~  作者: 瘴気領域
第七章 受肉 x 家元 x 四つ子再び

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第49話

「あなたの相手はあたくしざますよッ!」


 生徒に手を出されたのがむかついたのか、あるいは自分があしらわれたのが気に入らなかったのか、綾小路先生が猛然と斬撃を繰り出してくる。突きと違って斬撃ならば容易に捌けないと判断して切り替えたのだろう。頭に血が上っているようで、案外冷静だ。


 確かに、この斬撃を捌くのは難しそうだ。刃筋も立って、腰もしっかり入っており、連撃とはいえ一撃一撃が重いことが受けなくともわかる。

 しかし、それは防げないことを意味しない。綾小路先生の攻撃は確かに見事だ。癖がなく、正確無比に急所を狙ってくる。だが、それは裏を返せば読みやすいということでもある。軌道もタイミングも測ったように同じだから、パターン化しやすいのだ。


 そして、連携の拙さもこちらの優位に働いている。

 想像だけど、戦闘は一対一の練習ばかりしているんじゃないだろうか。猛然となぎなたを振るう綾小路先生とは対照的に、片割れの生徒は「えーい!」「とーお!」などと声だけは出ているものの手が出せていない。連撃の切れ目を見つけられず、邪魔になることを恐れて迂闊に手を出せないのだろう。まあ、実際半端に手を出したらその隙を突くつもりではあるけど。


 とはいえ、わたしにはもう焦る必要はない。

 一人が遊兵と化したことで、実質的な数的有利を作り出せているからだ。飛び道具を主体とするキリ先輩は後衛からでも攻撃に参加できる。そしてキリ先輩は観察眼と判断力に優れている。こちらか鬼嶋か、どちらになるかはわからないが、隙を見つけ次第、それを突いて好機を作り出してくれるだろう。


「きゃあっ!?」


 おっと、そんなことを考えていたら早速だ。

 鬼嶋が相手をしていた生徒が悲鳴を上げた。なぎなたを握る手の甲に投げナイフが生えている。


「もらったッ!」


 そこへ木刀一閃。

 喉を打たれた生徒が光の粒子となって消失(ロスト)する。


「森島さんっ!?」


 綾小路先生の注意が一瞬そちらに向く。

 当然、その隙は逃さない。

 一気に間合いを詰めて反撃――と見せかけて急ブレーキ。

 目の前を走るなぎなたを横目に見ながら、残った生徒に攻撃。

 腹を打ってからのアッパーカットで呆気なく消失(ロスト)した。


「生徒の消失(ロスト)に動揺したふりをして誘うなんて、綾小路流というのはとっても上品なんですね~。いやあ、さすがは家元! 見事なお点前で!」


 半分本気で、半分はもちろん挑発のために嫌味を言う。

 仲間の犠牲をとっさに囮に使うなんてなかなか出来るものじゃない。

 綾小路流、ただのお嬢様の手習いってわけじゃなさそうだ。

 しかし、裏に秘めた称賛など伝わるはずもなく。

 

「ぐぎぎいぎぎぎぎい……!」


 綾小路先生は歯茎から出血するんじゃないかって勢いで歯ぎしりをしていた。プライドが高い人は安い挑発に引っかかるから助かるなあ。

 もう三対一だから優位は揺らがないと思うけど、念のためもうひと押ししておこう。


「いや~、先生だけになっちゃいましたね。あの~、よかったらでいいんですけど~、綾小路流の降伏の作法とかあ~、教えてもらえませんかあ~」

「ムギィィィィイイイイイイ!」


 顔を真っ赤にした綾小路先生が脇目も振らずわたしに向けて突っ込んでくる。

 殺意のこもった怒涛の連撃。

 わたしは回避に集中しながら、


「あれ~、当たらないなあ」「いまいちノリ切れてなくないですか? 化粧とノリと一緒で」「そんなに激しく運動したらお着物がシワになっちゃいますよ。あっ、シワは禁句でした?」


 などなど、挑発を繰り返す。

 さんざん嫌味を言われたのだから、これくらいは許されるだろう。

 決してわたしの性格が悪いわけじゃない。


 しかし、敵もさるものだ。

 引きつけている隙に鬼嶋とキリ先輩が攻撃を加えているのだが、なかなか通らない。まったく当たっていないわけではないが、消失(ロスト)には程遠い浅手ばかりだ。ダンジョンではプラーナが尽きない限り傷がすぐ治るので、出血による継続ダメージなどは期待できない。このままでも削り倒せると思うが、長丁場を覚悟しないといけなそうだ。


「キィィィイイイ! やってられるかァァァアアアッッ!!」


 だが、苛立っていたのは向こうも同じだったようだ。

 奇声とともになぎなたを大きく振って牽制し、バックステップで間合いを稼いだ。

 何か仕掛けてくるつもりか……!?


「いいでしょう。これだけは見せたくありませんでしたが、あたくしも本気を出して差し上げます。その目に焼き付けなさい――」


 綾小路先生の目がかっと見開く。

 一瞬、全身がぼうっと光に包まれ、ひっつめ髪が今度こそ本当にほどけて逆巻いた。逆立った髪は光の粒子をまとって金色に輝いている。こ、これはひょっとして、おだやかな心をもちながら、激しい怒りによって目覚めた伝説の戦士……


「――綾小路流奥義『怪力乱神』!!」


 伝説の戦士の方じゃなかった。

 察するに、わたしの捨身飼虎(しゃしんしこ)に近い技だろう。


「ふふふふ……、この力に恐れ慄いているようですね。たっぷり苦しめて殺して差し上げますから、どうぞ安心なさって」


 なんかラスボスみたいなことを言い出した。


「なんかラスボスみたいなこと言い出したな」

「なんかラスボスみたいなこと言い出したね」


 あ、わたしの心の声と先輩たちの感想が完全にシンクロした。

 ってことは次の感想も……


「殺すって、さすがに教師としてどうなんすかね」

「オレが言うのもなんだけどよ、教師が『殺す』はマズイんじゃねえか?」

「うーん、試合中のことで興奮してるだろうし、聞かなかったことにしてあげようよ」


 くっ、今度は結構バラバラになったな。

 せっかく心が一つになったのに、人間とは所詮わかり合えないものなのか……。


「なっ、なぜ綾小路流奥義を見てうろたえないざますかッ!? つ、強がっても無駄ざますよッ!」

「なんでって言われても、わたしも似たようなの使えるし」

「ブランが完全に上位互換だしな」

「うん、正直誰かがどこかで使ってくるだろうなって技だったしね」


 そうなのである。

 瞬間的に超パワーを発揮する捨身飼虎があり、それを常時行っているのと等しいブランがいて、そういう前知識があるのにこういうパワーアップ系の技を予想しないはずがないのである。キリ先輩の予想では、そうと分かって見てみるとプロにも使っていそうな選手は結構いるらしい。奥の手だから派手に喧伝してないだけで。

 そして予想をしていたのならもちろん――


「は、はったりに決まっていますわ! 門外不出の奥義が――ぐえっ!?」


 わたしの右拳が、綾小路先生の喉を穿っていた。


「……ま、まさかあたくしがやられるなんて……ば、馬鹿、な……」


 そしてラスボスっぽい捨て台詞を残してそのまま消失(ロスト)した。


 予想をしたなら、もちろん対策もセットで考えるのだ。

 考えた対策のひとつがいまやってみせたことだ。その手の技には溜めがいると予想を立てて、相手がそれっぽい挙動に入ったときには「捨身飼虎(弱)」を溜め、相手が力を発揮する前に倒すという流れである。


 必殺技を放つ瞬間に奇襲されるとはなかなか思わないだろうし、ブランみたいな常時発動の化物を除けば、急激に上昇した身体能力に慣れるまでにわずかの間がいるはずだ。

 おまけに綾小路先生の様子を見た感じ、「怪力乱神」は精神状態にも影響を及ぼしていたフシがある。なおのこと奇襲は効果的だったのだろう。


 ……まあ、もともとガンギレしていたから、最後の点については推測が外れているかもしれないが。

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