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いのち短し潜れよ乙女~ダンジョン道は乙女のたしなみ~  作者: 瘴気領域
第七章 受肉 x 家元 x 四つ子再び

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第48話

 怒髪天を衝くとはまさにこのことか。


 綾小路先生の引っ詰め髪がばらけ、燃えるように逆立っている……ような気がした。実際には額に青筋を浮かべ、ふんすふんすと鼻息も荒く着物の袖をたすきで止めている。


 いくらたすきで止めても、着物じゃさすがに動きづらいんじゃないかなと思ったけれども、こちらが心配することではないので黙って準備を待った。


「では、試合開始ッ!!」


 今度は座礼からのスタートではない。

 起立の状態で、中央に綾小路先生、左右に三年生が二人という隊列でなぎなたを構えている。なぎなたは現代ではなぜか女子武道専用の武器になっているが、鎌倉の頃までは戦場で武士も振るったバリバリの実戦兵器だ。その名の通り薙ぐだけでなく、突く、切る、払うと多彩な攻撃ができる。石突きを使えば間合いの出し入れも早い。


「へへっ、なぎなたか。ちょうどいい得物じゃねえか。オレから行かせてもらうぜッ!」


 真っ先に飛び出したのは鬼嶋だった。

 バイクの前輪を持ち上げ、ウィリー走行で突貫する。

 バイクを盾になぎなたを防ぎ、その隙を突く作戦か?


「くらえっ!」

「……ッ!?」


 だが、鬼嶋の行動は予想とは違っていた。

 いつの間にか復号(アンジップ)していたバイクチェーンを投げつけたのだ。派手なバイクアクションはミスリードだったってわけだ。


 左端の子が薙刀の柄で受けるが、なんせ相手はチェーンである。柔軟に曲がってその子の顔面を打ちつつ、なぎなたに絡みつく。武器を完全に封じたわけではないが、振りほどくまでは扱いに支障が出るだろう。


 そういえば、鬼嶋は剣城さんのハルバード対策でなぎなた部に出稽古に行っていたんだ。そこで考えた対策を実践で試しているのだろう。

 ……まさか、なぎなた部相手にチェーンを投げつけてはいないよね?


「もらったァッ!」

「させませんッ!」

「くっ!?」


 その隙に振るわれた鬼嶋の木刀は、横入りした綾小路先生のなぎなたに弾かれた。綾小路流家元というのは伊達ではないようだ。言うだけあって、動きは鋭い。

 だけど、戦いの最中に正面の相手から目を切るのは感心しませんなァッ!


「どぉぉぉおおおおりゃあああああ!!」

「ぐうっ!?」


 懐に飛び込み、ボディに向けて打ち上げ気味のロングアッパー。かろうじて柄で受けられる。手甲から火花が散る。ちっ、惜しい!


「おのれ、小細工ばかりで卑怯なッ!!」


 綾小路先生がバックステップを踏みつつ、素早く突きを繰り出してくる。なぎなたの突きは槍よりも捌きにくい。刃渡りが長く曲線を描く穂のせいだ。内小手を切られないよう注意しながら手甲で払う。


 間合いが開くと今度は守勢に回らざるを得ない。なぎなたの穂が、石突きが変幻自在の嵐の如く迫ってくる。正直、剣城さんのハルバードと比べれば数段ぬるいが、油断できるものではない。「剣道三倍段、薙刀三倍段」といい、素手でなぎなたの相手をするには九倍の力量が必要だとされている。もちろん、こんなものは所詮俗説に過ぎないが、基本的には素手の方が不利なのは間違いがない。


 では、なぜわたしは武器を使わず徒手空拳を続けているのかと言うと、もちろん流儀で慣れているというのもあるし――


「せやぁぁぁアッ!」


 無手を相手の細かい攻防に苛立ったのだろう。

 大技を繰り出そうと薙刀を大きく引いた瞬間に合わせて前に出る。左掌で柄を掴んで押し込み、右拳で顔面を狙うと見せかけ、右膝で薙刀を握る指を打つ。


 ガキィンッ!


 膝のプロテクターが柄に当たって鈍い金属音を響かせる。

 ぎりぎりで握りを滑らせ、指の破壊をまぬがれられてしまった。

 ちっ、この手のラフプレイには慣れてなさそうなのに、なかなかの対応力。これも年の功か。


「何か失礼なことを考えていたざますねッ!」


 跳ね上がる石突きをとんぼを切ってかわす。

 再び間合いが開いたが、今度は攻めて来ず、睨み合いになる。

 警戒して前に出れないのだろう。


「おのれ、ちょろちょろとわけがわからない技を……」


 ――徒手空拳を続ける理由はこれである。


 武器術に慣れた人間は、対武器の訓練ばかり積んでしまうのだ。

 とくにスポーツ武道の場合、基本的に戦うのは同じ武器同士。たまに剣道 vs なぎなたみたいな演舞もあるが、あくまでもエキシビションでガチじゃない。


 そのため、武器術に長けた人間ほど、対徒手の素人であることが多い。

 喧嘩慣れしたチンピラならば話は違うけれども、チンピラ風情はハナから相手ではない。鉄パイプやだんびらで武装したところでたかが知れている。


 もちろん素人同士ならば武器を持った方が強いだろう。

 しかし、熟練者になればなるほど読み合いの比重が高くなり、手札の切り合いとなる。そして、技の多彩さでは徒手武術に並ぶものはない。つまり、実戦の駆け引きで最も優位に立てるのが徒手空拳なのだ――なんて、全部じいちゃんの受け売りだけど。


 目の前の状況が膠着したところで、全体に意識を振る。

 鬼嶋はやや優勢。初手の奇襲で上手く警戒を引き出せたようだ。及び腰になっている相手に、バイクを縦横無尽に走らせながら優位に戦況を運んでいる。


 キリ先輩はやや劣勢か。長物vsナイフなのだから当たり前だ。短刀術も徒手に次いで技が多いが、キリ先輩は近接戦は専門じゃない。本当なら前衛を離れて投擲での支援に集中したいのだろうけど、一対一が三つという状況で、そういうわけにもいかなくなったのだろう。わたしか鬼嶋、どちらかが二人を引き受けなければならなくなる。


 ならば。


 一番余裕があるのはわたしだ。正面に一歩踏み込むと見せかけてフェイントを掛け、真横に跳躍。キリ先輩の相手に横合いから飛び蹴りを浴びせる。柄で受けられてしまったが、相手はたたらを踏んでいる。攻めるにせよ退くにせよ、十分な隙が作れたはずだ――が、


「キリ先輩、後退(さが)って!」


 突然の横撃にキリ先輩も驚いてしまったのだろう。

 一瞬、硬直していたので声をかける。攻めるには手遅れだが、退くには十分余裕がある。

 キリ先輩は弾かれたようにバックステップを踏み、退がりざまに投げナイフで牽制。

 こちらに気を取られていた相手は避けきれず、肩と足にナイフを受ける。


「ぐうっ……!」

「おおおおおりゃぁぁぁああああッ!」

「させませんッ!!」


 そこに追い打ちをかけようとして、今度は綾小路先生が割って入ってくる。

 戦況はそのまま混戦へと突入した。

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