第29話
この状況がマズイのは、わたしにもわかる。
解錠には制限時間があるのだ。
解錠権を確保してから2分が経過すると、解錠は失敗。
わたしたちのチームにマイナス1点が課されることになる。
「くそっ……、固まって後をつけてくるなんて妨害特化の定石なのに、あからさま過ぎて油断した……!」
言いながら、キリ先輩がナイフを投擲する。
防御の隙間を狙ったそれは、ほんのわずかに盾をずらしただけで弾かれた。
ただ盾を並べているだけじゃない。
練度の高さがうかがえる無駄のなさだ。
「ボクはガーディアンを引き付ける! 突破できたらすぐ飛び込むから!」
じりじりと近づいていたストーンゴレームを、キリ先輩が宝箱の逆方向へと走って引き付ける。ガーディアンは解錠権を得たプレイヤーを狙う。のんびり一箇所に留まっているわけにはいかないのだ。
「小手先じゃ通じねえ! 突っ込むぞ、一年!」
「お、おう!」
バイクを復号した鬼嶋がアクセルをめいっぱい吹かし、わたしも全力で地面を蹴る。
一気にトップスピードへ達したバイクが、盾の城壁に突き刺さる。
「ぶっ飛べやぁぁぁあああああ……ああああああああっ!?」
バイクが盾の城壁を飛び越え、空中にすっ飛んでいく。
斜めに構えられた盾に乗り上げ、ジャンプ台よろしく飛び出してしまったのだ。
「きゃはははは! 見事なジャンプねえ!」
「金メダルものよ~」
「でも競技が違うんじゃないかしら~」
「くそがーーーーっ!!」
偶然ではない。明らかに狙っていた。
突っ込んできたバイクをそんな手段でいなすなんて、一体どんな練習を積めばできるんだよ……!
とはいえ、感心してばかりではいられない。
わたしも仕掛けなければ!
「だぁぁぁぁああああしゃあっっっ!」
全速力からの跳躍。
バイクを受け流した盾は、斜め後ろに傾いている。
盾の裏では無理な姿勢を取っているはずだ。
ここで盾の上辺を思いっきり踏みつけてやれば……!
「踏み潰して……あいったあっ!?」
しかし、足裏に走るはずの衝撃はなく、代わりにふくらはぎに激痛が走る。
空中でバランスを崩したところを盾で突き飛ばされ、もんどり打って石畳に転がった。
「きゃははは、温故堂のみなさまは空中プレイがお好きなのお?」
「見事なバック転だったわねえ」
「でも着地は零点だわあ」
ぐぎぎぎぎ、してやられた……。
バイクをいなした後、盾を傾けたままだったのは誘いだったのだ。
わたしの飛び蹴りに合わせて角度を戻し、盾の上端でふくらはぎをかち上げたというわけだ。
痛みを堪えつつ、追撃に備えて体勢を整える。
しかし、城壁はその場に留まったまま動かない。
「徹底して守りの姿勢みてえだな」
鬼嶋のバイクが、わたしの隣で甲高いブレーキ音を立てた。
見事な大ジャンプをした鬼嶋だが、きっちり着地してリカバリーしたらしい。
「押してダメなら……わかるな。合わせろ」
「おう!」
鬼嶋が目配せしたのは左端の盾。
バイクを降りた鬼嶋と同時に飛び出し、盾の縁を掴んで引き倒そうと力を入れる。
「あいったぁっ!?」
しかし、またしても激痛。
今度は指。
右の縁を掴んだわたしの指を、隣の盾が挟んだのだ。
「ぐああああっ!?」
「ぬわあああっ!?」
おまけに鬼嶋と悲鳴をハモってしまう。
引く力に合わせて押し出された盾が、我々の顔面を思いっきり殴りつけたのだ。
続けて、わずかに持ち上げられた盾が、その下端でつま先を潰さんと振り下ろされ――
「て、撤退!」
「ぐえっ」
鬼嶋の襟首を掴み、ぎりぎりのところでバックステップを踏んだ。
ついさっきまでつま先があったところには、鋼鉄の盾の下端が石畳にめり込みひび割れを作り出している。
いくら安全靴を履いていると言っても、何十キロもありそうな鉄塊を叩きつけられてはひとたまりもない。
もしもかわせてなかったら――
想像が脳裏をよぎり、冷や汗が流れる。
つま先への踏みつけはうちの流派でも多用する技だ。
神経が集中するその箇所への打撃が、どれだけ痛いかは身にしみて知っている。
「……ちっ、助かったよ」
「えっ?」
あれ、いま鬼嶋が何か変なことを口走った気が……。
鬼嶋の口から出るはずもない、感謝の言葉的な何かが……。
「呆けてる場合じゃねえぞ! 次はこれ使うぞ!」
「は、はい!」
鬼嶋が取り出したのは鉤付きのロープだ。
これで引っ掛けてわたしと鬼嶋のバイクで引っ張れば――
「きゃははは! そんなもの、素直に引っ掛けさせてあげるわけないでしょお」
しかし、鉤縄はあっさり外されてしまう。
「この盾はぜ~んぶ鋼鉄製なの~。鈎が食い込むわけないわ~」
「裏側はツルツルのパ・イ・パ・ン。引っ掛けるところもないの~」
「ちいっ……」
「きゃはははははははははは!」
鬼嶋の舌打ちに返ってくるのは、けたたましい哄笑。
ぬうう、打つ手なしだ。
そうだ、キリ先輩は――
視線を向けるが、ストーンゴーレムの誘導で手一杯になっている。
「そうだ、ストーンゴーレムをおばさんたちに誘導すれば……」
「意味ねーよ。そこからゴーレムを引き剥がして解錠しなきゃなんねーんだから」
うう、そうだった。
すっかり盾おばさんたちに意識を奪われてたけど、ただあの城壁を崩せばいいってわけじゃなく、その後に解錠できなければ意味がない。
――ビィィィィィィィィィィイイイイイイイイ……
そのとき、無情なブザー音が響き渡った。
視界の端に浮かぶ半透明のミニマップ。
その得点ボードに、【-1点】が刻まれた。




