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いのち短し潜れよ乙女~ダンジョン道は乙女のたしなみ~  作者: 瘴気領域
第五章 草大会 x 元プロ x 忍者軍団

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第27話

 部室のイミテーションは無事に修理された。

 西丹沢ダンジョンでの収穫が予想以上だったということで、サービスで機能拡張までしてくれた。

 それまではできなかった高難度の設定ができるようになったのだ。

 なったのだが――


「なんや嬢ちゃんたち、攻めが一辺倒すぎてつまらんで」


 青銅色の肌をした牛頭の巨人、ミノタウロスが鼻息で笑う。

 その前には、攻めあぐねてぼろぼろになったわたしたちが膝をついていた。


「とくにアーちゃんには期待しとったんやけどなあ。なんや、初めての一発は偶然かい。わかっとりゃぁ、あんな大振りもらわれへんし、そのへんは捨身飼虎(しゃしんしこ)ゆうたか? あれも事情は変わらんのう」


 ――なったのだが、最高難易度モードでは、なぜかあの狂化ミノタウロスが固定ボスになってしまったのだ。

 おまけに会話機能まで実装されている。

 なぜか、うさんくさい関西弁で。


「ヤンキーの嬢ちゃんも威勢がよいのは最初だけで、バイクぶっ壊されたらそれっきりしおしおやんか」

「この野郎……っ! ぐあああっ!?」


 挑発に乗った鬼嶋が飛びかかるが、前蹴りであっさりと跳ね返される。

 倒れたその脇には無惨にも半壊した小型バイク。


「キリたんもナイフを投げ尽くしたら打つ手なしかい。自分はスカウトが本業ですから、ってわけかいな。たいそう呑気で、ええご身分ですなあ」

「ぐぬぬぬぬ……」


 キリ先輩は鬼嶋のように迂闊なことはしないけれども、真っ赤な顔で歯ぎしりしている。

 ミノタウロスの煽りに相当ムカついているようだが、さりとて反撃の手段もない。

 それにミノタウロスが背後に守っている宝箱の解錠がキリ先輩の役割である。


「だいたいやなあ、おまえら全員実戦練習が足らんのとちゃうかのう。ランダムで湧くモンスター相手なら決まった連携でなんとでもなるやろうけど、対人やるんやろ? 同じ相手なら当然対策もしてくるやろうし、直接試合をしとらんかっても研究されとる場合もあるやろ。一枚の手札で勝ち抜けるほどダンジョン道は――」


 と、そこでミノタウロスのねちねちした説教が途切れた。

 オフィスチェアで目を覚ますと、景色が部室に戻っている。

 どうやらキリ先輩が強制停止したらしい。


「まったく、いくらなんでも口が悪すぎでしょ!」


 キリ先輩がキーストーンを爪の色が変わるほど強く握りしめている。

 気持ちはわかるし、続けたところで得るものはなかっただろう。

 さすがは部長、良い判断だ。

 あのままではわたしの頭の血管もぷっつん切れてしまいかねないところだった。


「しかし、いち姉ちゃんもこんな改造までしなくていいのによお……」


 珍しく弱々しい声でぼやく鬼嶋。

 ボスが固定になり、記憶を引き継ぐことに文句を言っているわけではない。

 ミノタウロスの性格に文句を言っているのだ。


 しかし、これもまたしょうがない。

 学習機能を持った固定モンスターを新規に導入するのは費用面で厳しく、イミテーション内のデータに残されていた狂化ミノタウロスのデータを流用したのだそうだ。


 その性格面に苺心(いちこ)さんは一切介入しておらず(というか、一度出来上がっているモンスターの自我に手を加えるのは実質不可能なのだそう)、これが素の性格らしい。


 それにしたってエッジが立ちすぎてるだろ……と思ったが。


 苺心(いちこ)さんによると「年季の入ったブツだからなあ。色んなやつのプラーナを吸ってわけわかんねえ性格になっちまったんじゃねえの?」とのこと。


 イミテーションも天然ダンジョン同様、プラーナを吸収する機構が組み込まれているそうで、長く使い込んでいると使用者の影響を受けて徐々に変質していくらしい。人間のプラーナを吸うなんて市販品のくせに物騒な気もするが、エーテルを節約するための標準的な機能なんだそうだ。


「でも、実戦不足は事実なんだよね」

「練習試合とかできねえの?」

「当たってはみたんだけど、3人だと相手が探しづらくって」

「あー、1チームしか対戦できないですもんね」


 うちのダンジョン部は3人だが、これは最小構成である。

 他校からすれば、せっかく練習試合を組むのなら、もっと部員が多く、たくさん試合がこなせる学校を選びたいところだろう。


「――なんて、困ってるんじゃねえかと思ってな。いい話を持ってきたぜ」


 部室の引戸がガラリと開き、苺心(いちこ)さんが現れた。

 修理後の調子見に立ち寄るとは聞いていたが、どうやら入るタイミングをうかがっていたらしい。


「今度、うちの商店街が草ダンジョン大会に出場するんだけどよ。一緒に出る予定だった選手が都合つかなくなっちまってな。おまえたちに代打で出てもらえると助かるんだよ」


 草ダンジョン大会……草野球みたいなもんだろうか?


「ルールは『財宝争奪戦』。夏大会もこれに決まったんだろ? 練習にうってつけだぜ」


 そう、奇しくもと言うべきか、夏大会のレギュレーションは『財宝争奪戦』に決まったと告知があった。いまだ解錠もろくにできず、探索もままならないわたしにとっては厳しいルールだが、公式戦ではメジャーらしい。


「それは願ったりですけど……、どんな相手が出場するんです?」

 キリ先輩の探るような口調は、相手がド素人で練習にならない事態を懸念してだろう。


「安心しな。おばちゃん連中のストレス解消みてえな大会じゃねえからさ。元社会人リーグのプロとかも参加するし、結構ガチだぜ」


 おお、元プロが出るというならガチもガチだ。

 むしろ、こちらがついていけるレベルなのかが心配になってしまう。


「おまえたちの腕なら問題ねえと思ったから声をかけたんだよ。ま、さすがに全員が一流ってわけじゃねえし、不満かもしれねえがな」


 そんな不遜なことは……、と三人で慌てるが、苺心さんの顔にはいたずらっぽい笑みが浮かんでいる。むう、からかわれてるなあ。


「腕を見込んでの頼みだ。メシくらいはおごるし、頼まれてくれねえか?」

「いえいえ、こちらこそありがとうございます! ぜひお願いします!」

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