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いのち短し潜れよ乙女~ダンジョン道は乙女のたしなみ~  作者: 瘴気領域
第四章 宝探し x 天然ダンジョン x チームワーク

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第26話

「っっっしゃあ! ぶち転がしてやるぜぇっ!」


 バイクで先陣を切る鬼嶋を、猪笹王(いざさのおう)がつるはしで迎撃。

 振り下ろされたつるはしが、岩盤を打ち砕く。

 急旋回で回避した鬼嶋が、大声で挑発。

 つるはしが幾度も颶風(ぐふう)を巻き起こすが、鬼嶋は見事なライディングテクニックでかわしていく。


 鬼嶋の狙いは特攻ではない。陽動である。

 猪笹王の注意が鬼嶋に引き付けられている隙を縫い、死角から忍び寄る。

 息を整え、身体を沈めながらの踏み込み。

 猪笹王の背後から、脇腹を狙って両拳を揃えて叩き込む。

 腎臓打ち――人間であれば急所だが、モンスター相手にははたして?


「ぐも……」


 猪笹王が呻きを洩らす。

 だが浅い。

 背中を覆った熊笹の蓑と獣毛、そして脂肪に衝撃が吸収されていた。

 打った感触では蓑の強度も雑魚の猪笹より高いようだ。


「やべっ……!」


 巨大な蹄が後ろ蹴りに繰り出されのをすんでで回避。

 続いて横薙ぎに繰り出されたつるはしを、とんぼを切って跳び越える。


「アカリちゃん、下がって!」


 キリ先輩が猪笹王の顔面へナイフを投擲。

 猪笹王がその太い腕で顔面をかばう。

 視界が塞がった隙に、バックステップでキリ先輩の元まで戻る。

 同じタイミングで鬼嶋も集まった。


「へっ、さすがに手強いじゃねえか」

「ニコちゃん、ナイスファイト。アカリちゃん、手応えは?」

「雑魚の数倍は硬いっすね。解禁していいですか?」

「オーケー了解。ニコちゃんは引き続き陽動よろしく」

「了解だぜ!」


 手短かに打ち合わせを済ませ、散開。

 いまさっきまでいた場所につるはしが振り下ろされ、クレーターを穿つ。

 固まっていたら一発で全滅しそうだ。


「っしゃあコラァ! こっちだ豚面野郎!」


 鬼嶋がバイクで駆け回って猪笹王の注意を引こうとするが、今度はなかなかわたしから目を切らない。

 最初の奇襲で警戒したか。

 ちっ、切り札を切るなら初手だったか。

 ならば――


「どっっっせい!」


 捨身飼虎(しゃしんしこ)――光り輝く拳で地面を砕く。

 衝撃が坑道を震わせ、天井からぱらぱらと砂煙が落ちる。

 猪笹王のボーリング玉のような目が剥かれ、こちらに向けられる。


「鬼嶋! キリ先輩!」


 わたしの意図を察した二人が、猪笹王に一斉に仕掛ける。

 鬼嶋のバイクが脛に衝突。

 寸前に飛び上がって、振り下ろした木刀が巨大な耳を削ぎ落とす。

 粘った血を引きながらべろりと垂れ落ちるそれに、場違いにも干したラグマットを連想する。


「ぐもぉぉぉおおおお!!」


 雄叫び。

 文字通り杭が並んだような乱杭歯を剥き出しにする口腔に、幾条もの銀閃が突き刺さる。キリ先輩の投げナイフだ。

 猪笹王が反射的に口を閉じ、隙間から血泡の混じったよだれを吹き出す。


「ぐるうるるるるるるうるる!!」


 怒り狂った猪笹王が、蓑を脱いで振り回す。

 金属片の如き笹の葉が、坑道の壁を、天井を、地面を削って粉塵を巻き上げる。

 範囲の広い攻撃に、鬼嶋もキリ先輩も後ろに下がっていくことしかできない。


 ――否、そのように誘導した。


 細く息を吐き、右拳に意識を集中。

 鉄塊、鉄塊、これはひとつの鉄塊だ。

 火の粉のように光の粒子をまとい始めたそれを、蓑を外して剥き出しとなったその背中に叩き込む。

 狙いは命門(めいもん)の経絡。

 脊柱は第2、第3腰椎棘突起(ようついきょくとっき)の間。

 左右の腎をつなぎ、下半身の神経が束ねられる人体急所のひとつ。


「せあッ!」


 捨身飼虎――全霊を込めた右拳を叩き込む。

 ばきばきと硬いものを砕きながら、ずむと肉にめり込む手応え。

 右腕がほとんど肘まで毛皮に埋まる。

 中で指を開き、指に触れた紐状のものを掴み、ぶちぶちと引き抜く。


「ぐるぁぁぁあああああぁぁああぁあああ………………」


 赤い糸を引く拳を抜いたのと同時に、猪笹王の巨体が折れんばかりにのけぞった。

 両足を痙攣させながら膝をつき、紅茶に入れた角砂糖のように崩れ、光の粒子へと分解されていった。


「だっしゃぁぁぁあああああ!!」


 勝利の雄叫び。

 ガッツポーズを決めるが、膝がガクガクして立っていられず、尻もちをつく。

 放った捨身飼虎は2発。

 だが、これまでの探索の疲れと戦闘の緊張感でガス欠寸前らしい。


 むう、弾数制限は3発のつもりでいたが、これは考えを改めなければな……。

 疲れていれば回数が減るし、たとえ1~2回でも序盤で使えば、後半のスタミナに影響が出るだろう。

 正真正銘、とっておきの切り札だな……。


 猪笹王が消えたあとには、これまでよりも一回り大きい宝箱が残されていた。

 キリ先輩が解錠すると、中には色とりどりの球がいくつも入っている。

 苺心(いちこ)さんに頼まれていた素材以外のものもあるようだ。

 おお、この銀色のやつなんてきれいだな。

 なんて言ったっけ? ええっと、そう、螺鈿(らでん)細工みたいだ。


「おお、これなんてすげえデカいぞ!」


 鬼嶋がはしゃいで取り上げたのは、手のひら大の翡翠玉だった。

 これまで拾ってきた素材は親指の爪くらいの大きさだったから、単純に重量比で考えるなら十倍以上の価値がありそうだ。


 * * *


 最後の収穫を終えたわたしたちはダンジョンを脱出した。


 といっても、もと来た道を引き返したわけではない。

 猪笹王の部屋にもあったが、坑道内には壁に彫り込まれた仏像があちこちにあり、それに触れて念じることで脱出できるのだ。

 だいたいの天然ダンジョンでそういう仕組みがあるらしい。

 うちの裏山にあったダンジョンはつくづく特殊だったんだなあ。


「お、おかえり。おつかれさん」


 肉体に戻ったわたしたちを苺心さんが迎えてくれる。

 体に異常はなく、虫刺されの跡もない。

 虫除けスプレーと蚊取り線香の偉大さを感じる。


「で、収穫はどうだった?」

「これぐらいですけど、足りますか?」

「おおー、随分集めたな。おっ、これなんてレアモンのドロップじゃねえか。十分も十分。それどころかバイト代を払ってもいいくらいだぜ」


 キリ先輩が差し出した布袋の中身を見て、苺心さんはほくほく顔だ。

 どうやら予想以上の収穫だったらしい。


「特別ボーナスだ。晩飯は焼き肉でもおごってやるよ」

 気前の良い苺心さんに、わたしたちはそろって歓声を上げる。

 あ、でもボーナスがもらえるのなら……


「あの、一番要らないやつでいいので、記念に一個もらえないですか?」

 と申し出てみる。


 初めての天然ダンジョン探索だったのだ。

 記念品のひとつくらいは残しておきたい。

 せっかくならあの螺鈿細工みたいなやつがいいなあと思うけど、あれはいかにも希少だから諦めよう。


「それはかまわねえけど、こんなもん欲しいのか?」


 苺心さんが怪訝な顔で袋を渡してくれる。

 アクセサリーとかインテリアとか、あまり興味がないタイプなのだろうか。

 すごくきれいだと思うんだけどなあ。


 しかし、中身を覗いてみて苺心さんの表情の理由がわかった。

 灰色の石ころばかりが詰まっていたのだ。


「ダンジョンの外に持ち出すと、エーテルが抜けて色褪せちゃうんだよね」


 キリ先輩がしてくれた説明が虚しく響く。

 とはいえ、記念品は記念品だ。

 苺心さんに不要なものを選んでもらって、それを持ち帰ることにした。

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