第25話
それからも探索を続け、何回かの戦闘をこなした。
宝箱のドロップもあり、素材はぜんぶで3つほど入手できている。
「できればもうちょっと欲しいところだね」
「だな。姉ちゃんは最低3つありゃ足りるっつってたけど」
修理代までタダにしてもらうのだ。
最低限のギリギリで済ませてしまっては申し訳ない。
幸い、時間はあるはずだ。
スマホで確認すると、まだお昼を過ぎたくらいだった。
しかし、ダンジョン内じゃ圏外だし、時間を見るためだけにいちいち取り出すのは面倒くさいな。
ダンジョン用に安い腕時計でも買おうかなあ。
あれ、こういうのもダンジョンギアで揃えた方がいいのかな?
きゅ~~~……
あ、時間を意識したらお腹が鳴っちゃった。
そういえばダンジョン内での食事ってどうするんだろう。
「もういい時間だね。そろそろお昼にしよっか」
「誰かさんの腹の虫も我慢できねえみてえだしなー」
と、言った鬼嶋のお腹からも「くるるる……」と音がした。
「い、いまのは違えからな」
鬼嶋はほんのり赤く染まった顔を逸らす。
ふふ、貴様だってお腹が空いていたんじゃあないか。
各自のリュックサックからお弁当を取り出す。
わたしはコンビニで買ったパンとお菓子。
キリ先輩は手作りのサンドイッチ。
鬼嶋はお弁当箱に入った俵型おむすびとタコさんウインナーと唐揚げと卵焼きとプチトマトとブロッコリーと……
「って、おい」
「あン? なんだよ?」
「キャラじゃないだろ」
「ハア?」
「おまえはっ! 手作りお弁当とかっ! そういうっ! キャラじゃっ! ないだろっ!!」
「ンだよそれは……」
わたしの涙ながらのツッコミに、鬼嶋は素で引いていた。
「い、一個食うか……?」
「う゛ん゛っ!」
俵おむすびはわかめの混ぜご飯で、具材にシャケまで入っていた。
卵焼きも甘くて美味しい。
はあ、手作りの味だ……。
じいちゃんちではろくに食べられなかったし、寮のご飯もおいしいんだけどどこか味わいがないっていうか、こう、なんていうかね、作り手の愛がこもった料理と言うのはよいものだよね……。
「だ、大丈夫かおまえ? だいぶキメエぞ……」
「ア、アカリちゃん? わたしのサンドイッチも食べる?」
「う゛ん゛っ!」
ハムサンドとツナサンドをもらう。
キリ先輩に合わせてか、かわいらしい一口サイズだ。
こちらもコンビニのサンドイッチにはない滋味を感じる。
「ありがてえ……ありがてえ……。お代官様、よかったらこちらをお収めくだせえ……」
御礼として、涙ながらにパンやお菓子を差し出す。
「き、気にしないで。シェアするつもりで多めに作ってきたから」
「オ、オレのもあんま食い過ぎなきゃかまわねえぞ」
「ありがてえ……ありがてえ……」
そんな具合で、お昼はお弁当交換会の様相を呈した。
わたしもお弁当ぐらいは作れるようになった方がいいのかなあ。
「あ、そういえば、ダンジョン内で食べたものってどうなるんです?」
水筒から注いだ食後のお茶をすすりながら、ふと気になったことを聞く。
「おいおい、そういうのはふつー食べる前に聞かねえか」
「あはは、ボクたちが食べてたから気にならなかったんでしょ」
鬼嶋は呆れ顔だが、キリ先輩がフォローしてくれた。
「ダンジョン内で食べたものはプラーナだけがなくなって、形は残るよ」
「おお! じゃあ出入りを繰り返せば食べ放題!?」
「ううん、一旦プラーナが抜けちゃうと、もうダンジョンに入っても具現化されないんだ。それに、プラーナが抜けた食べ物は味も栄養もなくなるから、リアルでも食べられなくなっちゃうね」
へえ、なんだか不思議だが、食べ物がそれ自体のプラーナで具現化していると考えれば辻褄が合うのかな?
もし食べ物までわたしたちのプラーナで作られてたら、タコが自分の足を食べてるようなものだもんなあ。
* * *
お昼休憩を終えて、わたしたちは探索を続行した。
油断するつもりはないが、だいぶ慣れてきた。
このダンジョンに――というより、先輩たちとの連携にだ。
進行中の適切な距離。
キリ先輩が罠の解除や宝箱の解錠をするときは周辺の警戒。
戦闘ではわたしと鬼嶋が前衛で、キリ先輩が遊撃。
こういう配置が声掛けなしでもできるようになってきたのだ。
キリ先輩と鬼嶋のコンビネーションにはまだまだ及ばないが、なかなかサマになってきたんじゃないだろうか。
おかげで探索のペースも上がり、そして徐々に深層に進んだおかげか戦闘の頻度も増え、素材を6つ追加で手に入れていた。
「全部で9個。どーせならキリよく10個集めてえな」
「そうだね。時間的にもちょうどよくなりそうだし」
そんな気持ちが通じたのか、これまででもっとも広い空間に出た。
線路はその中央付近で終点を迎え、すぐ脇に赤錆びたトロッコが横転している。
その奥には、熊笹で覆われた小山のように大きい何か。
うずくまっていた何かが、ゆっくりと立ち上がる。
猪に似た頭が、天井につきそうだ。
見た目は猪笹と大差がないが、縦にも横にも倍はでかい。
違うところもある。
武器は石槍ではなく、金属製の巨大なつるはしで、纏う熊笹の蓑も金属質の鈍い輝きを放っていた。
「猪笹王……!」
キリ先輩がつぶやく。
苺心さんから聞いていた、このダンジョンの上位モンスターだ。
「へえ、最後にレアモンとはわかってんじゃねえか」
鬼嶋はバイクを具現化し、それにまたがりエンジンを吹かす。
「それじゃ、一丁仕上げをやったりますか!」
わたしは右の拳を左の掌に叩きつけ、にっと笑って気合を入れる。
坑道を丸ごと震わせるような雄叫びを上げる猪笹王を囲み、戦闘態勢に入った。




