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いのち短し潜れよ乙女~ダンジョン道は乙女のたしなみ~  作者: 瘴気領域
第四章 宝探し x 天然ダンジョン x チームワーク

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第24話

 隠し扉を抜けて探索を続けていると、先頭を行くキリ先輩が分岐の手前で不意に立ち止まり、ハンドサインで右の分かれ道を指した。えーと、あのハンドサインは確か「モンスターあり」だ。


 少し引き返して、キリ先輩が小声で言う。


「右の分岐の先にモンスターの気配。4、5体かな。ぜんぶ人型。たぶんちょっとした広間になってる」


 直接見たわけではなく、音だけでこれだけの情報を判別しているのだからすごい。

 いくら聞き耳を立てても、わたしには足音の一つも聞こえないのだが。


「オレは襲撃に一票。もう一時間近く探索してんのに何の収穫もねえからな」


 鬼嶋の意見にわたしも賛成の手を挙げる。

 いやあ、探索関係で役立てることがなくてさ、所在がないのだ。

 というか、ここまでキリ先輩の独壇場である。

 鬼嶋はキリ先輩と組むのに慣れているから気にしていないようだが、わたしは気にしてしまう。


「じゃ、ぎりぎりまで接近して、ボクの合図で突撃。隊列はニコちゃん、アカリちゃん、ボクで。数を減らすのを優先して」


 短い打ち合わせを終え、足音を忍ばせて道を進む。


「いま!」


 キリ先輩の小声で一気に駆け出す。

 通路を出ると、このダンジョンでは初めての広い空間に出た。


 そこには直立した猪に石槍を持たせたようなモンスターがいた。

 上背は2メートルほどで、横幅も広い。

 全身が獣毛に覆われており、その上に熊笹で編んだ蓑を被っている。


 ゲームに出てくるオークにそっくりな姿だが、苺心(いちこ)さんから事前に教わっていたところによると、「猪笹(イザサ)」というモンスターらしい。


 5体のそれらは、無言で突っ込んできたわたしたちに驚き、石槍を構えようとするが、慌てふためいて取り落としてしまうものもいる。


「オラァッ!」

「ぴぎっ!?」


 鬼嶋の木刀が猪笹の鼻面を叩く。

 普段より少し間合いが広い。

 よだれをまき散らかしながらのけぞったその喉元に突きが見舞われ、猪笹は光の粒子となって消えていく。

 おお、あっさりと一体討伐だ。

 以前より、一打の威力も上がっている気がする。


「へへっ、じいさんに鍛えられてから調子がいいぜ!」

「油断しないで!」


 攻撃後の隙を狙って石槍を突き込もうとしていた猪笹の両目にナイフが突き立つ。

 キリ先輩が投げたのだ。

 こちらも精度が上がっている気がする。


 合宿からまだ間もないが、日々の肉体鍛錬が実を結んでいるらしい。

 心身ともにバランスよく鍛えるのは本当に有効なようだ。


 鬼嶋とキリ先輩の活躍を横目で見ながら、わたしは目の前の敵に応じる。

 姿勢を低くし、みぞおちを突き上げるように手甲を叩き込む。

 猪笹がぐもうと呻くが、手応えは鈍い。

 胴体は分厚い脂肪の層で守られているらしい。

 ならば――


「アカリちゃん、ダメ!」


 気配を察したキリ先輩からストップがかかる。

 うう、不惜身命を試す良い機会だと思ったのだが……。

 しかし、冷静に考えればまだ初戦だ。

 3発で気絶してしまう不惜身命を打つには早すぎる。

 他に攻略法がないわけでもないし。


 猪笹のつま先を、安全靴の底で思い切り踏みつける。

 狙いは蹄の根本。爪と肉の間はどんな生き物でも痛覚が鋭い。

 屈筋反射で身をかがめたところに、アッパーカットを叩き込む。

 これは効いたようで、仰向けに倒れた巨躯(きょく)が光の粒子に分解されていった。


 残り2体はもはや消化試合だ。

 さしたる時間もかからず倒しきる。

 最後の一体が消え去った後に、一抱えほどの大きさの木箱が出現した。

 これはひょっとして――


「おお、ドロップじゃねえか」

「一回目で出るなんてツイてるね」


 そう、ドロップアイテムだ。

 これくらいはわたしでも知っている。

 天然ダンジョンでモンスターを倒すと、たまに宝箱が出現するらしい。


「開けてみるね」


 キリ先輩がカチャカチャと宝箱をいじると、ぎぃと軋みながら蓋が開いた。

 中に入っていたのは、きれいなマーブル模様をした親指の先くらいの球だった。


「これが姉ちゃんが言ってた素材か?」

「うん、確かなことは言えないけど、事前に見せてもらった写真とはよく似てるね」


 わたしも手にとって見せてもらう。

 初めてのドロップアイテムにちょっとドキドキする。

 すごくきれいで、お金持ちの家の床の間に飾られていそうだなって思った。

 そのまま高く売れたりはしないんだろうか?

 そう尋ねると、キリ先輩が苦笑いをして、


「ダンジョン産のアイテムはダンジョンギア以外にはほとんど使い道がないからね。あんまり期待できないんじゃないかな」

「高く売れるもんが取れるんなら、このダンジョンがこんな寂れてるわけねーだろ。せいぜい河原に落ちてるきれいな石くらいの価値じゃねえか」


 うぐっ、二人同時に否定されてしまった。

 悔しいが、鬼嶋の言う通り、金目のものが転がっているなら一攫千金が目当ての人がもっとたくさん集まっているだろう。

 あ、ていうか、そもそもダンジョンから物を持ち帰ることはできないんじゃなかったっけ?


「それは人工ダンジョンの場合だね。ダンジョン内のものはぜんぶエーテルで出来てるんだけど、人工ダンジョンは節約のためにエーテルを循環させてるから、特別なイベントでもないと持ち帰れるアイテムが手に入ることはないかな」


 ほほう、そういうことだったのか。

 でも天然ダンジョンだってエーテルで出来ている。

 アイテムを持ち帰っていたら枯渇してしまわないのだろうか。


「天然ダンジョンだけど、地脈とか霊道とかって言われるところからエーテルが流れ込んでるんだって。取り過ぎたらさすがに枯れちゃうけど、人間が時々漁るくらいなら問題ないらしいよ」


 わたしの疑問に、キリ先輩が先回りするかのように答えてくれた。


「探索にきた人間のプラーナをエーテルに変換して吸収してるって噂もあるな。ドロップアイテムは人間をおびき寄せるためのエサってわけだ。おまえなんかは無駄に元気が有り余ってるから、ダンジョンも食いでがあるんじゃねえか?」

「えっ、マジで?」


 思わず自分の身を抱きしめてきょろきょろしてしまう。

 それが本当なら、ダンジョンは生き物みたいじゃないか。

 今の状況は、巨大生物の腹の中にいるようなものだ。

 巨大な環形動物に飲み込まれている情景を想像して、背筋がぞっとしてしまう。


「こら、変な都市伝説でアカリちゃんを脅かさないの」


 キリ先輩が苦笑いで否定すると、鬼嶋はつまらなそうな顔をした。

 どうやら噂話でわたしを怖がらせたかったらしい。

 この野郎、油断も隙もないな……。


「プラーナが自然分解でエーテルになるのは本当だけどね。だから人気のダンジョンは、だんだんと現代っぽくなるんだって」


 なるほど、プラーナとは人間の精神の力だ。

 それを吸収することで、ダンジョンも影響を受けるというわけか。

 このダンジョンが昭和の炭鉱風になっているのはそういうことなんだろう。

 部室のイミテーションが現行品だった頃には、素材を取りに来る人たちできっと賑わってたんだろうなあ。

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