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いのち短し潜れよ乙女~ダンジョン道は乙女のたしなみ~  作者: 瘴気領域
第二章 買物 x 宿敵 x 車椅子

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第13話

「ぬあーーーー! 負けたぁぁぁああああ!!」


 ブランと殴り合っていたらブザーが鳴って、その瞬間、周囲の景色が店内に戻っていた。得点したら攻守交代ということだったから、ダンジョンから出されたってことは時間切れってことだろう。


 鬼嶋のバイクが突っ込んで、ほとんど同時にキリ先輩もナイフの投擲とともに飛び込んだところまでは視界の端に映っていた。しかし、じっくり観戦できる余裕などなく、突撃の成否までは見届けられなかったのだ。


「Mmmm……勝ってないデス! 続き! 続き!」

 ブランが唇を尖らせ、剣城の足元でまとわりつくようにぴょんぴょん跳ねている。


「はあ、ブラン。予定があるって言ったじゃないか。さすがにもう時間切れだよ」

 剣城は困ったようにため息をつき、肩を竦める。


「それに、大会になれば対戦することもあるさ。そうだろう?」

「ええ、楽しみにしています。今日はありがとうございました」


 剣城の視線を受け止めて、キリ先輩が力強く頷いた。

 試合中はちょっとびびっているような気配を感じたけど、どうやら気のせいだったようだ。むしろ何か、すっきりした顔をしているように見える。


「君も……いや、鬼嶋さんも、それを返してもらっていいかな」

「おう。……ちっ、がっちり食い込んでやがる」


 鬼嶋はバイクの胴体に半分まで食い込んだハルバードをぎちぎちと揺すって、苦労して引っこ抜くと、剣城の方へ放って寄越した。


「どうやら今回は記憶に残してもらえたみてえだな」と鬼嶋が不敵に笑い、

「ははは、もう非礼は繰り返さないさ。私の手からハルバードを奪った選手なんて、君が初めてだからね」

「そいつぁ光栄だ。次は叩き折ってやんよ」


 剣城は「それは勘弁してほしいな」と肩をすくめ、ブランと一緒に光の粒子に包まれて消えた。店内ダンジョンを出るときはこんな感じになるのかあ。


「さて、ボクたちも出て会計を済ませようか」


 キリ先輩の言葉で、そういえば買い物に来たんだったと思い出す。

 携行食とか水筒とか、他にも気になるものがあったけど、いますぐ必要なものではないし、大人しく帰ることにしよう。余計なものまで買う余裕もないしね……。そうだ、お金といえば――


「バイクの修理代も高くつきそうだねえ。カンパする?」

「あン? そんなもん要るわけねえだろ」

「ダンジョンギアは再構成すれば元通りに直るんだ。消耗品は別だけど。だから、気にしなくて大丈夫だよ。ニコちゃんも、アカリちゃんが気を使ってくれたんだからそんな態度はダメだからね」

「へいへい」


 へえ、それはいいことを聞いた。定期的に買い換えが必要だったら、バイトでも始めないとダメかなあと心配していたのだ。


 入店時に受け取ったキーストーンを握って念じると、リクライニングチェアに寝そべる肉体に戻った。装備していた手甲などは消え、その代わりチェアの脇についていたホルダーにそれらの写真がプリントされたカードが挿さっている。これを持って受付に行き、会計をすればいいわけだ。


 * * *


 受付では、長身の女性が会計をしているところだったので後ろに並ぶ。

 しかしこの後ろ姿、なんか見覚えあるなあ……と眺めていたら、振り返ったところで目が合った。


「あ……」

「あ……ども、先程は」

「いや、こちらこそ。その、どうも」


 剣城だった。

 つい先程、熱血スポーツ漫画のライバルとのお別れシーンみたいなことをやってしまったので、普通に気まずい。キリ先輩は顔を伏せて頬を赤くし、鬼嶋は黒いマスクをつけて明後日の方向に視線を逸らしている。


Waouh(ワウ)! あかりサーン! さっきぶりデス! もう再試合(リマッチ)ですカ?」


 うぃーんと自動ドアが開き、きゅるきゅると音を立ててブランまでやってきた。

 どうやら先に店外に出てたのに、わざわざ戻ってきたようだ。

 ……ん? きゅるきゅる? それに視点が妙に低い……


「Mmmmmm……ここの段差が越えられまセン……。剣城ぶちょー、助けてくだサーイ」


 車椅子が、入口の段差に阻まれて往生していた。

 自動ドアが閉じかけ、また開くという動きを繰り返している。

 車椅子に乗っているのは、つい先ほどまで分厚い全身甲冑を身にまとい、巨大なハンマーを小枝のように軽々と振り回していたプラチナブランドの美少女――ブランシュ・ド・セレスティエに間違いなかった。


「ふえ?」


 目の前の光景が信じられず、思わず一昔前の萌え系アニメキャラみたいな声が漏れてしまった。

 ちょまっ、どーゆーこと?

 なんで車椅子の人が、ハンマー? ダンジョンで?


「ははは、そんな驚かないでやってくれよ。ブランはパラリンピックの強化選手で、日本には留学できたんだ」

「留学違いマース! しゃむしゅぎょーデス!」

「わかったわかった。訂正するよ。留学じゃなく、武者修行に来たんだ。ダンジョンは障害者スポーツも盛んだけど、あそこまで動ける選手はそうはいないからね。驚くのは無理も……おっと、本当に時間がまずい。申し訳ないけれど、それじゃ」

「決着、アゴを長くして待ってマース!」


 剣城はブランの車椅子を押して、小走りに店を出ていく。

 きゅるきゅると遠ざかっていくその背中を、わたしはぽかんと口を開けた間抜け面でと見送ることしかできなかった。


 それはまるで、まったくタネのわからない手品を見せられたような気分だった。


 * * *


 寮に帰ったわたしは、取り憑かれたようにスマホで動画を漁っていた。

 検索キーワードは「パラリンピック ダンジョン」。

 しかし、いくら動画を見ても、車椅子の選手はダンジョンでも車椅子で、義足の選手は義足、義手の選手は義手のままだった。


「うぐう……、わけわからん。あのブランって子は一体どうなってるんだ……。じつは歩ける? いや、わざわざそんなことをする意味がないし……」


 布団をかぶってずっともぞもぞしていたのがうるさかったのだろう。

 二段ベッドの上から、抗議の振動がドンと降ってきた。

 ご、ごめんなさい……。もう深夜も二時を過ぎてますね……。


 スマホを消して、目を閉じる。

 瞼の裏に、重厚な鎧をまとってハンマーを自在に振り回すブランと、車椅子をきゅるきゅると押してもらっているブランが交互に浮かび上がる。


(じいちゃんなら、どうやって戦うかな)


 正直なところ、いまのままでは勝てるイメージがわかない。

 打撃は装甲に阻まれ、組技はシンプルなパワーで跳ね返されるだろう。

 傍目には互角に見えたかもしれない。

 だが、わたしには彼女に届く牙がないのだ。

 決め手を持たない側が、勝負に勝てる道理がない。

 帰省してじいちゃんに鍛え直してもらおうか、なんて考えも脳裏をよぎる。


(あ、でもゴールデンウィークは合宿するって言ってたな。帰って稽古をつけてもらう時間はあるかな……)


 結局、布団の外が明るくなるまで、ああでもないこうでもないと唸っていた。

 睡眠不足のせいで、その日の授業が悲惨なことになったのは言うまでもない。

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