22+2.アザスティー・ローレンスはお姉様が欲しい。
※年末三日連続投稿中日。前日12/29日も投稿しておりますので、見落とし無きようご注意を。
※続きは明日、12/31日日曜日投稿です。
◆◇ちょっと怖い貴族のお話◇◆
向こうも忙しいのは分かっているが、悩み事を聞いて貰えるのは嬉しいものだ。
それに歴史や数学であれば立場上問題無い範囲で、我が家の教師達より解り易く教えてくれる。とても助かっている。
そうして色々教わってみると、確かに彼女は政治に長けているのだと実感する。
何というべきか、知識が全て紐付いているのだ。
農業を活性化させたいと思えば畑に植えるべき作物やら、収穫高、農法、売却手段等。何が必要になるかを想定し何に影響を与えるのかを把握している。
アザスティーが教師達から聞くような教養という上辺だけの情報ではなく、生の声、実地で必要となる諸々の知恵。
それらがきちんと繋がりを以て、何故必要なのかを明確に答えてくれる。
「今更だけど、同い年というよりベテラン領主って感じなのよね……。」
「そこ今更疑問に思うところかしら?」
呆れた様に応えるチェイニーに、二人とも随分と毒されて来たなぁと指でカップを弾く。思えば彼女とも随分親しくなった。
因みに当のアザリア様は、部下の連絡が届いたために一旦中座している。
どうもガンドール?いやジェメシス?と頻繁に往来しているらしい。既に立派な領主代行なのだから、おかしくは無いのだ。いやおかしいが。
感覚が狂うが、本来淑女は社交界とお茶会を通して世間と交流を持つが、一方で領地の経営には口を挟まないのが良妻とも言われている。
領地経営には政治と領主間の力関係が絡む。女当主も当たり前にいるので最低限は把握している必要があるが、他家から嫁ぐ妻が強い発言権を持つと領内の力関係が崩れるため、家が不安定になる。だから好まれない。
入り婿の発言権も実は同様の理由で左右されているのだ。
頭ごなしに女は男の下に就くものだと言われると反感を抱くが、こうして解説をされてみると一応分からなくはない。
だが本当にアザリア様は何故そこまで詳しいのか。つくづく謎の多い方だ。
「アザリア様は実地で学んでいる方だもの。私達とは違うわよ。」
「それもお父様方と比べると、凄く違和感のある振る舞いなのよねぇ~~。」
いや、正しくは中央領主はそんな事をしないが地方領主は似た様なものらしい。
逆に言えば大領主たる辺境伯は地方領主と同じような生活をしているから、田舎者扱いされるのだが。
そも領主仕事とは多くの場合部下の報告を聞いて整理し、全体を指示するものであって、実地で村や町を見て回るものではない。
そんな事をしていたら身が持たないし、王都に出向く暇もない。
社交シーズンは年末から始まるのでその頃に近隣領主達が集い、年末年始に王に忠誠を誓う。この挨拶は義務なので、怠るような貴族は反逆を疑われる。
因みに社交デビューもこのタイミングで、親に紹介される形となる。
地方領主にとっては冬の雪解けが終わると王都を出る者が殆どだ。領地同士の小競り合いは常にあるし、王都と領土に兵を分散するのはデメリットが大きい。
そもそも王都に貸家しかない貴族もいるのだ。金銭が足りない場合もある。後は王都在住の親戚に泊めて貰うケースもあったか。
因みに領地争いの最たる理由は国境を示す明確な境界が無いからだ。
川を境界として分けた場合でも、川を一方が所有すると漁が出来ないし生活用水も簡単に堰き止められる。緩衝地帯になるのは友好的な間柄の場合に限る。
橋を造る場合も問題だ。完全に禁止すると王都へ行けなくなる事もある。
別々に作って互いに独占する場合もあるし折半する場合もあるが、どちらの場合も揉める。橋の守護に兵を置けるかでも揉める。
守護する場合、砦を作れるか。砦周りに建物はありか、砦の一部か。気軽に許可するとそこが橋頭保となって侵略拠点になったりする。領土が奪われる。
川に限ってもこれだけ揉める要因があるのだ。上流、沼地、森。全て揉める。
更に派閥、親戚関係、相続問題、後ろ盾。盗賊、敵国、不正。
戦えない領主貴族は冗談抜きで死ぬ。
そして全部を王都が仲裁するなど無限の兵力が必要だ。王家直轄領だけで足りる訳がないので、基本は現地領主次第となる。
故に地方領主は簡単に王都へ駐留出来ない。
一方で、地方貴族があれば中央貴族がある。
中央貴族というのは俗称で、要は王都周辺領主と大貴族、宮廷貴族を指す。
宮廷貴族は王族直轄領の代官達や、各司法を司る文官達の為の爵位相当貴族達。
王都周辺領主は距離が近いから負担が少なく、大貴族は領地を代官任せに出来るために王都常駐が大きな負担にならない。
この王都に長くいられる貴族達を指して、中央貴族と自称、揶揄する。
そして社交界は彼らを基準にして開かれ、夜会に始まり競技大会等が催されて、概ね避暑時期や収穫期前に社交シーズンを終える。
つまり中央貴族達は、収穫期の秋しか地元に帰らない。
そして地元に帰れば狩猟会などを開いて近所の貴族を持て成す。
普段の領地経営は代官に任せるのが中央領主の常識なのだ。
そして当然ながら、彼らが王都に留まり続けるには相応の利益、利権がある。
彼らが人数の減った王都に留まる理由、それは王政に関わるためだ。
外交、他国との交渉を行うには下級貴族には務まらない。他国とて王家、貴族が平民に遜りたがらない様に、王家とて使者の家格には拘る。
当然地方貴族より中央貴族の方が、使者には相応しい家格と評される。使者と只の連絡要員では価値が、看板が違うのだ。
故に、地方貴族は何かと中央貴族の下に見られやすい。
内政。無関係ではない。リカルド王国には二つの法律があり、それぞれ王国法、領主法と分けられている。
領主法は王国法に反しない範囲で領主が自由に定められる法律だ。違反してない限り王国が過度に干渉する事は無い。それは領主権に反する。
王国法は主に領主同士の争いに対する規定、身分承認のルール等が中心で、罪状が重い反面基本的には変更出来ない。
つまり王宮に出られればこれに反している貴族を非難出来るし、躱せる。
これは反逆罪が絡むため、基本領主貴族の居ない時期には議論されない。相手を失脚させる確信が無ければ振り翳せない諸刃の剣だ。普段の議題ではない。
一方で比較的変更と修正が容易な徴税権は領主法に属する。
が、実は例外がある。通行税だけは貴族任せにすると対立派閥の領主だけ倍額を要求する等の問題があり、王国が一括で管理している。
関所の維持管理費もあるので厳密には折半だ。だがこれは、密貿易の取り締まりにも重要で、現地の監視にも一役買っている。
加えて。内外の境界が微妙なものに関税がある。塩や鉱物等の戦略物資には国が口を挟める様に取引自体を制限し、税金をかけられている。
大体この辺が、王政に関われる主な利益だろうか。後は交流が活発な分、派閥の結束はどうしても王都常駐組の方が強くなる。
「ですので、社交の場は政治と密接に繋がりがあります。
単純に派閥同士の引き抜きもそうですが、飢饉や不作を知らずに取引するのは損ですし、豊作だって重要な情報です。
貧乏貴族よりは富豪貴族と取引した方が儲かりそうでしょう?財産に余裕が無い貴族は兵力にも余裕が無くなりますし。
不作の相手なら武力に訴えても反撃する財力が無い。重要でしょ?」
貴族が服装に気を遣うのは、相応に意味がありますとアザリア様は語る。
流行は大都市にか生じない。流行を追える、作れる貴族は実力者の証明だと。
アザリア・グロリエル辺境伯令嬢は、思考がガチだ。マジ物だ。
一見無意味な風習も、歴史的な側面や地理、軍事を踏まえると廃止すれば国防に差支えがある等と知ってしまえば、迂闊に異議も唱えられない。
例えば王家が各地の領主に持て成させる狩猟会など、お金がかかるだけの道楽だと思っていたが、あれも大量の兵馬を移動させる口実と聞くと見る目が変わる。
王の護衛だから騎士団を動かすのは当然で、持て成しだから現地の資産で領主達の威圧が出来る。反逆に必要な経費を圧迫出来る。軍事訓練にもなる、等。
「その代わり王を持て成せるという栄誉は弱小貴族にとって覿面でしょう?
王と面識を持てない貴族と定期的に接待を行える貴族、王がどちらの言葉を重く見るかは明白です。
それに自分が出せない大金を出して尚も余裕があれば、領地を奪おうとする事にどれほどのリスクが伴うか。分からない貴族は長生き出来ません。」
確かに頭に入るし心に残るが、背筋が怖くなる事を平気で言う。
単に王家におべっかを使うだけの無駄風習だと思っていたら、えげつない裏事情が割と転がっていると教えられると、逐一背筋が寒くなる。
「では、やはり地方貴族では、どう足掻いても中央貴族の下なのですね……。」
「まさか。そんな甘い世の中な訳無いじゃないですか。」
田舎者扱いされるのも推して知るべしと悲しくなったのに。
アザリア様はさも分かってないなぁと言わんばかりに楽し気に破顔する。
何故だろう、その笑顔に悪意を感じるのは。
「ではアザスティー様、宮廷爵について簡単に説明して頂けますか?」
「え?はい、宮廷爵とは同名の爵位と同じ権限を与えられた貴族を指します。
例えば子爵貴族を大臣に任命する際、伯爵が下位貴族に従う言われはないと言われたら政務が滞ります。
なので在務中は侯爵相当の権限を与える、といった具合で任命されます。」
「はい。後は建国時等に多大な貢献があった貴族を、代々要職に就ける家系として引き継いでいる場合がありますね。
その上で重要なのは、宮廷爵は元々の実力以上の権限を与える場合か、そもそも領地が無い場合に与えられる爵位である、という共通点があります。」
「実力以上、ですか?」
身分以上なら分かるが、実力以上とは。
能力の無い者が任じられる筈も無いではないかと首を捻る自分に対し、そこが勘違いの元なのです、と頷いて返す。
「この場合能力は役職を過不足無くこなす才覚、実力とは爵位相当の権力です。」
「役職と爵位の違い、という事でしょうか?」
これにアザリア様は頷かず、別の話題で返答した。
「では、爵位領主の収入と言えば領地の税収となりますが、宮廷爵の収入と言えば一体何処から来るかご存じですか?」
「いえ、領主が税収によって土地を管理しているのは知っていますが、その辺りは子女教育に含まれていないので……。」
ちょっと本当に何の話をしているのかと疑問に思う。
「簡単です。役職手当、若しくは爵位手当と称した代官領収入です。
国に入る収入は全て税収ですからね。物品の売買など交易による収入は基本王家の財産を用いるので、国には入りません。少なくともリカルド王国では。
では何処の領地か?これも単純、王家直轄領と通行税なんです。」
へぇ、と思わず感心する。王家ってそんなに儲かっているのかと。
だが何故か、益々アザリア様は笑みを深めているような気がする。
「では質問です。王国にいる宮廷貴族数は我がグロリエルの陪臣貴族数とどちらが多いでしょうか?
そして王国の税収とグロリエルの税収、どちらが多いでしょう?
ああ、正確な額はどちらも公表されていないので、推測で構いませんよ?」
「「 。」」
アカン。質問がヤバ過ぎて意識が飛ぶ。
ていうか最初の質問、両貴族数は公表されている。ので宮廷貴族の方が多いのは分かっている。
その上で今グロリエルが警戒されている最大の理由が、今回のジェメシス併合で領地収入が王家に並びそうだという点だ。
特に現グロリエル辺境伯は王家に対し反抗的と言われている。
そして今の質問。
即ち、王家に賄える給与はグロリエルにも賄えるという意味であり。
「質問の回答は察して頂けましたね?
では次の質問です。グロリエルと同爵位以上の宮廷爵は何人でしょう?
そして彼らの収入は、グロリエルと同額以上でしょうか?」
「「ひ、ヒィ!」」
「はい。ご理解頂けたようで何より。
先程実力以上と言った理由は、宮廷公、宮廷候、宮廷伯。彼ら全ての保有可能な軍事力を合計しても、グロリエルと良くて五分だからです。
何せ宮廷子爵、宮廷男爵、王家。これらの収益も先程の王国経費から賄っておりますからね。
勿論、彼ら自身が抱えている資産を運用しての収入がありますから、単純比較は出来ません。」
そこでアザリア様は一旦言葉を切り。
「ですがグロリエルに与えられる権限が宮廷公に勝る事はありません。
さて。宮廷公はグロリエルを単独で屈服させる事が出来ますか?
勿論内容次第ですが、命令出来る権限はありますよ?
で。グロリエルが断った際、自力だけで強要、出来ますか?」
「ひ、ヒィィィィ~~~ッ!!」
い、今!上の方々がグロリエルを恐れる理由がはっきりと理解出来たわ!!
怖い!グロリエルに強権を使うって事は、グロリエルに反抗されるかもっていう話なんだ!!圧倒的な武力で返り討ちに合うかも知れないんだ!!
「中央貴族が田舎貴族扱いする地方貴族達の総力。
中央貴族の総力とどっちが上でしょうね?」
ヒント。両者の領地面積。
ていうか我がローレンス子爵家って確か、中央貴族入りしたい地方貴族だと思っていたんですけど……。
◆◇怖い貴族ここまで◇◆
※年末三日連続投稿中日。前日12/29日も投稿しておりますので、見落とし無きようご注意を。
※続きは明日、12/31日日曜日投稿です。
次回、後編を投稿してこの物語は一旦一区切りとなります。
本編の解説を兼ねてる怖い貴族のお話w
分かり辛い方は領主を中小企業の社長だと考えれば少し分かり易くなるのでは?
領民的には地元に顔を出す君主は良い領主ですけど、代官視点だと事あるごとに接待が必要な社長に見えますw
領地規模が市単位だと視察は簡単ですけど、全国千店舗とかいうと毎年全部は無理ですよねwだから書類で済ませるのが普通。王都は東京ですかね。
で。爵位や身分にも、経済破綻、信用崩壊はあるんですw
下剋上ってつまり、身分の信用崩壊なんですよw?




