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22+1.アザスティー・ローレンスはお姉様が欲しい。

※年末三日連続投稿。続きは明日、12/30日投稿です。

 貴族の社交とは面倒なものだ、全ての振る舞いに政治が絡む。

 それは貴族デビューし立ての少女であっても変わらない。


 むしろ貴族の令嬢こそ実家の派閥やら付き合いやら、詳細を教えて貰えないまま仲良くなったり距離を取るよう命じられる事も多く、物凄く面倒だ。

 何故と問い返しても子供には早いと返され、女の出る幕では無いと怒られる。

 ならば黙って口を出さないで欲しいとは幾度と無く思ったものだ。


 それでも多少の年齢を重ねるにつれ距離感と互いの関係も分かって来る。

 十歳でお披露目したアザスティーだが、今ではどの様な相手であれば仲良くして良いか。そして上辺だけで済ませるべきかの見当も付く様になって来た。


 その例で言うならつい先日。お披露目をしたというアザリア・グロリエル辺境伯令嬢は、上辺だけの付き合いで済ませる必要のある相手だった。

 けれど彼女が領内では、聖女の如く扱われているという噂話が事態をややこしい方向へと傾けた。


 いや何でよ。何でお披露目前の娘が領内で噂になるの?

 お披露目は社交デビュー前の娘が行う、言わば前段階の前。

 幼子は夭逝する恐れがあり粗相を減らす意味でも人目には晒さない。満を持して一定以上の年齢に達した子供を、領地や一族に紹介するための集いの事だ。



 因みに社交デビューは王宮で国王陛下を始めとした王宮の方々に拝謁して、一人前と認めて貰う為の催し。所謂デビュタント入りだ。

 家族や親族によって紹介され、社交界に参加する許可を得る式典だ。


 デビュタント達は舞踏会で参加する事でお相手を見つけるお見合いの側面こそあるが、実際に決めるのは婚約者候補までで、相応しい相手かは一族で協議する。

 実のところ、イケメンを見つけたって一族を説得出来ねば駄目なのだ。


 閑話休題。

 社交デビューは大人の証であると同時に、教養を完璧に修得した淑女の証拠でもある。よってアザスティー達の様な寄宿学校入学前の娘はお呼びじゃない。


 お披露目を迎えた子女は専門の教師が呼ばれ様々な教育を受ける傍ら、親戚子女や友好貴族達との交流を深める。

 これらは寄宿学校ひいては社交デビューのための練習や味方作りを目的とした、身内向けの茶会が開ける様になる。勿論家の許可は必要だが。



 詰まり。あれだ。半人前未満が成人領主貴族として活動している。

 領内限定とはいえ、これだけならとんだじゃじゃ馬だ。本来みっともないどころか恥晒し扱いされる大顰蹙(ひんしゅく)行為だ。当主のメンツ丸潰れの筈だ。


 ん?聖女?女神の生まれ変わり?贔屓目にしてもおかしくない?

 しかも強欲伯の娘でしょ?教会との仲が噂になるくらい改善し始めているって何があったよ。


 しかも最新の噂ではジェメシス併合にも関わっているらしい。



…………何でぇ?え、強欲伯公認????え、子供、戦場に出したの?



「信じられない話だが、あの強欲伯が自慢する程の才女らしい。

 招待状が届いたのは好機だ。決して親しくならずに、詳細を確かめて来い。

 だが絶対に敵対するなよ?」


「……無茶振りにも程があるんじゃないかしら?」


 グロリエル辺境伯は当主の娘が他に居ない事も有り、殆ど茶会が開かれない。

 殆どが寄子や親戚内で済まされる規模であり、贅も尽くさず規模も最低限の集いばかりだという。尤も辺境伯領では好まれる形式だと言うが。


 今回は百人規模の挨拶回り中心の茶会の様だ。領内で身内向けに開かれた規模に次ぐ、準最大級の集い。父ローレンス子爵が飛び付いたのは理解出来る。

 だが、どう考えても友好貴族との顔繫ぎだけを目的とした集いだ。そもそも挨拶以外が許されるとは時間的にも思えない。


「考え方次第ですよお嬢様。

 辺境伯令嬢では無く、その親戚筋と歓談を成されれば良いのです。元々我々は友好領主であって、領内貴族では無い訳ですし。」



 そして茶会当日。


「おい侍女A、あんた先日なんつった?」


 同じテーブル、特等席である。

 教育係兼専属侍女は、脂汗を垂らしながら主人の小声に知らん顔である。


 考えてみれば当然だ。何せ私は隣接領地ローレンスの直系子女で同い年。

 身内相手の歓談は済ませたなら、今度は知己のある貴族への接待だろう。力関係で言えば虎と猫だが、身分はむしろ取り巻き候補として丁度良い。


 適度に弱く、適度に身分が高い。従えるなら、これ程手頃な相手は居ない。

 先程までの夢見心地だった自分が今は恨めしい。



 初めて見た姿は、白雪の様な儚げで美しい姫君だった。


 噂に聞く悪口はいくらでも。両腕を失った不具の娘。赤い一つ目の怪物。老婆の様な白い朽ちた髪。


 全てがほんとで全てが嘘で。

 隻眼なのは本当で、右目の薄い碧眼は宝石の様で。閉じた瞼は良く見れば分厚く開く事は終ぞ無かった。


 両腕は肩より下が無く、羽衣の様な奇妙なドレスを纏い、朱鷺を連想させる白い上身に朱色に花開いた足元で広がる蕾の様なスカート。

 魔力で出来た黒い影の様な両腕は、花の柱頭を思わせる。

 艶やかな雪肌に、控えめな微笑。風を纏って浮かぶ、靡かぬ程に厚い袖。

 異形であり、不具である筈なのに。美しさしか印象に残らない月の様な美貌。


 アザリア・グロリエルは、可憐な容姿と美しさしか印象に残らぬ娘だった。


 同い年とは思えぬ大人びて、落ち着き払った物静かな挨拶。

 挨拶序での筈の軽い談笑で、心を和ませる巧みな語り。

 どれを取っても夢現。笛の音を思わせる声が心地良く耳に残る。


 後は子供同士で友好を深めて貰えればと、保護者達に送り出されて。




 我に返った現在に至る。


「ではグロリエル御令嬢の両腕は本当に義手であると?」


「ええ。呪いの鎮静化に成功したお陰で病の治療を受ける事が出来まして。

 腕と瞳はどうにもなりませんが、悪化の心配は無くなりました。」


 実際に腕を消して、手を伸ばして見せたりとその腕が魔力で出来ている事を皆の前で証明すると、意外にも同席した子女達は驚きこそすれ怯える者はほぼ居らず。

 それもその筈、今質問をしたチェイニー・ロブスター子爵令嬢を始めとして、皆が皆、グロリエル御令嬢の人柄にすっかり気を許していた。


(……っべ~~~!あの警戒心強めなチェイニー様があっさり陥落するなんて!

 いやアナタの家は確かに辺境伯寄りですけどね?)


 北の領地は他国とも国境が近い。領地も狭く農業に厳しいロブスター領としてはグロリエル家にそっぽを向かれたらあっという間に困窮する間柄だ。

 だが逆に依存し過ぎるのは不味いと、本人が言っていたのにこの有様だ。


(……いやさっきから全然同い年と話している気がしないわ。

 もう年上のお姉様に甘やかされているみたいな気分。)


「うわ!これホント凄く美味しい!同じ食材でこんなに違うんですか?

 そりゃぁショックですよ!今まで私達が食べていたお菓子は何だったんだってくらいに別物ですもの!

 え?良いんですか?ええ、きっとお父様も許してくれます!」


………………。

……。




「やっちまいましたねお嬢様。」


「言うんじゃないわよ。あなた達だって喜んでたじゃない。」


 グロリエル・レシピ。最近社交界で話題になっているというグロリアル家発祥の調理、食材管理法をまとめた一冊だ。

 他所向けに販売されているのは百ページ未満の薄い一冊にも拘らず、大量生産が切望されて一部の上流貴族でしか入手出来ないと言われる希少本。


 何がそんなに凄いかと言えば、今の世の中高級食材と言えばとにかく長持ちする食材こそ正義であり、味は二の次だという点にある。


 冬を確実に越すための食材として最適なのは、漬け物や乾燥食品。堅く固めた黒パンや乾燥麺、パスタの類か。味は香辛料で調節すれば良い。

 むしろ大量の香辛料をふんだんに使った料理こそ至高の宮廷料理だった。


 よって美食を追求するならば、建物内で飼育すれば年中入手可能な肉が大正義。

 その上でとにかく香辛料に漬け、更に味を調整する。味を加工する。


 この常識を否定したのが、かのグロリエル夫人が古の書物から再現して広めたというグロリエル・レシピとなる。


 曰く。食材は大量の香辛料を用いる冬物と、素材の味を中心に勝負する季節物で区別する事で美食の幅を増やす事が出来る。

 曰く。香辛料に合わない食材は、季節物同士を組み合わせる事で香辛料と同様に味を加工する事が出来る。等々。



 これを入手出来たのは間違いなく私の功績なのだが。


「がっつり次回以降の約束も取り付けられちゃいましたしね。

 後日お茶会の招待状を送る約束までしてしまいましたし。」


 撤回は利かない。あの場には近隣領主の子女が揃っていたし、発言権こそ無いものの全員が一人二人の侍女従者を連れていた。

 あの場での発言は基本的に撤回や私的な話と注釈しない限り、全て公的な発言と見做される。約束を破ったり黙殺する事は立派な恥なのだ。


 一応自分達は半人前。親から全員に謝罪という形で撤回する事は可能だが、当然ながら茶会での発言を反故にしたという前科は求心力の低下に繋がる。


 何より自分より力のある貴族相手に交わした約束を反故にしたら、後日別の形で報復されてもおかしくは無い。


 爵位的には近似でも、兵力や財力は文字通り桁が違う。武器を抜かせたが最後、勝算は皆無だ。そして多少の小競り合いで王家は動かない。

 道理がグロリエルにあれば、賠償を王家に公認される恐れもある。

 上位貴族相手の撤回は、ヤバいのだ。


 父も玉虫色の回答で逃げ切れたとは言い難いが、はっきりとグロリエル閥に取り込まれるのは避けたと安堵していた。

 だがあの場の娘達の大半が何らかの約束を交わして仕舞った以上は、ローレンス子爵家を含めて大部分がグロリエル閥に組み込まれたと判断する筈だ。

 少なくとも周囲はそう動き、ローレンス家は白と明言出来ない。


『この愚か者!我がローレンスはリドルライト侯爵の派閥なのだぞ!

 勝手に抜けるような真似をすればどの様な罰が下るか分かっているのか!』


 父の叱責が思い起こされる。

 そう。貴族が頭を下げる上位貴族は、大抵の場合一つでは無いのだ。

 右に左にのらりくらりと。明言を避けながら言質を得て、無理の無い確約で凌ぎ続ける綱渡り。自転車操業とはいつの言葉か。


 子供の婚約一つとっても、腹の底を探られる。

 長男の結婚相手ですら自由になりはしないのに、他家に嫁ぐのが基本の子女の婚約者が、本人の意思だけで選べる筈など有りはしない。

 家と本人の希望を合致させたいなら、玉の輿を目指すしかない。


「あぁ、なんて世の中は世知辛いのかしら……。」


   ◆◇◆◇◆◇◆


 お返しの茶会を開いて他の方の茶会に出席して。

 幾度か会話を繰り返すうちに、グロリエル御令嬢の人となりと。

 その特異性が浮かび上がって来た。


 グロリエル御令嬢は、化粧品の話では殆どの場合聞き手に回り、自分が使う場合に於いて興味を示さない。精々が流通や販売元を気にするくらいだ。

 これは季節ごとに香水を使い分ける令嬢としては驚くべき事だ。令嬢ともあれば何よりも美容に気を使うべきなのに。


「私はあまり強い香りが苦手でして。

 その代わり入浴を増やして清潔には気を使っていますので。」


「そうなのですか。確かに病人は薬の問題もあって香水を禁止される事があると言いますしね……。」


 体臭は気にならないのかと思ったが、風が吹いた時に本人から香った匂いの方が下手な香水より余程良い香りだったのは、隣に座った事のある者の特権か。



 グロリエル令嬢は驚くほど博識だが、多くの令嬢が興味を示す宝石の由来よりも産地や産出鉱石の方に興味を抱く。

 想像の羽を広げた伝説より、歴史上の偉人の行動や施策の方が詳しい。

 更に令嬢らしかず、恋歌を聴けばその土地の風土にこそ興味を惹かれる。


「アザリア様も不思議な方よねぇ。

 まるでこの世の者ではないかのように浮き世離れしてみえるのに、下手をすればお父様よりも治水に詳しいのよ?」


「治水に?」


 チェイニーが新しいクッキーを摘みながらほぅと夢見心地な溜息を吐く。

 最早彼女は隠そうともしない程にアザリア様シンパだ。


「ええ治水。前にロブスター領ではこの麦の収穫が悪いって話をしたら、湿地帯の隣で育てていたりはしないかって聞かれて。

 間に川を掘るかして、水を土地から抜かないと育たない品種だと教わりまして。

 結果はほら、この通り。」


 チェイニーがクッキーをもう一摘みしたのを見て、理解が追いつくと同時につい目を丸くして腰を浮かす。


「え?まさかコレいつものジャム専クッキーなの?!

 新しい素材や調理法を試したんじゃなくて?!」


「ジャム専言わないでよ!結構気にしてたんだからね?!」


 後そんな直ぐに開拓出来たのかと聞いたら、庭程度の水捌けの良い場所で試してからにするよう勧められたと返って来た。今回のは試作品らしい。

 そりゃそうかぁ……。ん?



「アザスティーお嬢様。そろそろ言わねばならぬと思ってましたが。」


「あら改まって何かしら裏切り侍女。」


 一瞬ビクリと先日の父への告げ口を思い出して震え。


「お嬢様も既に、立派なグロリエル御令嬢の取り巻きにございます。

 気付きませんか?許可を得たとはいえ、ご自分がアザリア様としか呼ばなくなって随分経つ事に。」


「だ、だって!最近忙しくて中々会えないんですもの!」


「言い訳ですらない?!」


 もう手遅れなんだから良いじゃない。

※年末三日連続投稿。続きは明日、12/30日投稿です。


 中世貴族の常識ってどの国参考にすればいいの問題を、小話でこの物語の基本設定を決めてしまおうぜのコーナーw

 第三者視点から見た主人公の真の姿ですw

 多分中世的には社交デビューが元服相当?武田信〇よろしく上が排除されてれば違和感は少なかったwええ、ここは下剋上が一般的ではない時代ですw

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