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19+1.幽霊男爵は御入用ですか?前編

※続きは明日、12/23日投稿です。

 それは砦作りの準備中。事の始まりは家令カードックの報告でした。


「幽霊男爵、ですか?」


 幽霊など本来は珍しいものですが、私に限っては気軽に否定出来ません。

 何せ私自身が今は知る者無き大怨霊な訳ですから。序でに言うとダリエル司祭が凄腕のエクソシストであり、彼曰く国内の何処かには毎年出てるそうです。

 近代の魔力の豊富さを見るに、案外幽霊と魔力には密接な関係があるのかも知れませんね。


「はい。何でもあの砦予定地の脇の小山には、かつて古戦で滅んだ男爵家の屋敷が存在していたそうでして。

 あの山には今も男爵の幽霊が現れるのだそうです。」


「だから、あの小山を大きく迂回する形で計画を進めたい、と?」


 彼の地に集いつつある職人達も噂を直ぐに信じた訳ではなく、実際に屋敷を見てみようと侵入してみた者達がいたそうです。


 ですがその全てが人以外の何かに襲撃され、時に屋敷自身に襲われて。

 這々の体で逃げ出す羽目となり、更には屋敷の外の小山の道でも正体不明の何かに襲われる者が現れ、皆さん怯え切ってしまったのだとか。


「困りましたね。生憎ですがあの砦作りは何ヶ月もかける余裕はありません。

 即席であろうとも一ヶ月、場合によってはそれより早く必要となる恐れすらあるというのに。」


 とはいえ幽霊が実際に危害を加えて来るのならそれどころでは無いのも事実。

 地均しや堀作りは魔法で終わらせていても、宿舎や倉庫が無ければ無意味です。


「少しスケジュールは狂いますが、私が直接幽霊屋敷に出向くとします。」


「お、お待ち下さい!いくらお嬢様と言えど相手も幽霊となればどうなるか!

 せめてお父上に騎士団の派遣を依頼するべきです!」


「その時間も意味もありません。今集めている騎士団の待機場所が砦ですよ?

 何より幽霊男爵が私一人で倒せないのに、開戦前に騎士団を消耗させるのは戦略的に言って有り得ません。

 それくらいなら敵を引き込んで幽霊男爵と潰し合わせるべきです。」


「……流石です、お嬢様。」


 実際逃げるだけなら難しくない様ですしね。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 やって来ました麓の町。


 そうここは、先日までクロバード卿がいた例の国境の町です。

 そして護衛には何故かジェメシス辺境子爵家の次男ことバルベルド卿が同行するという珍事に。いや流石に何で?


 元御領主こと現ジェメシス領代官のランバード卿曰く、見聞を広める序でに私に胡麻を摺りたいから精々扱き使ってやってくれとの事。

 側近に引き立ててくれるなら一介の騎士として扱って貰った方がむしろ有り難いくらいだと言われるくらいには、彼は政治が苦手な御様子です。


 因みにランバード卿の代官期間は1~2年程度を予定しており。

 その間にグロリエルで基本的な徴税知識やら現グロリエル領の基礎統治教育を受けた長男のランベルク卿か三男のクロバード卿が引き継ぐ形となります。


 ランバード卿はそのタイミングで代官補佐か引退。

 この辺は長年の確執解消と、場合によってはガンドール領を追加で制圧する可能性もあるので、その場合は彼に担当して貰う事になるでしょうね。


 多分何も知らない下級貴族達は領地を得る機会を失うと不満を抱くでしょうが、実態は罰ゲームどころでは無いですしね。

 グロリエル流統治は多分無理な上に、こちらから資産を持ち出して開発するしか無いでしょう。折角の臣従相手を武力で抑えつけるなど論外が過ぎます。

 ぶっちゃけそれら三男以降の方々には中間管理職として派遣して、現地の実状を実感しながら管理する役を担当して貰います。


 さてはて。実質次期代官候補から外さたバルベルド卿ですが、現状はさぞご不満かと思いきや。


「いやぁ、腕が鳴るなぁ!

 オレも細かい事を考えずにただ武勇を示すだけの人生を歩める日が来ようとは!

 これも我らがお父上の御英断あっての事!感謝せねばなりませんな!」


「未だ確定では無いですよ……?

 あの、バルベルド卿は私をお恨みの筈では……?」


 いやグロリエルの白髪鬼がこんな可憐な淑女だったとはと、あの会談の後散々皆さんに言われましたから。私、阿修羅の様な想像図だったそうですよ?


 というか半分が嫁に欲しいだったのはおかしくない?息子の嫁という方が少数派で後半ほぼ後妻希望だったのも更にね?

 誰かがダメ元で言い出したら、皆参加しだして収集付かなくなりまして。


「いやいや。聞いたところ戦場で真っ向から破れたのだから、それは本望だろう?

 勿論仇討ちの機会があるなら挑んだが、アザリア様程の美女を切れと言われると流石に躊躇わずにおれなかった!

 どうかな!今後は是非ともオレを婿候補に!」


「えぇ?!一応片目腕無しの傷物娘ですよ?!」


「それ以上に胸と尻がエロい!というか顔だって一見瞼が腫れてる程度だろう!

 戦傷を気にして戦士の嫁は務まらんぞ!」


 言いたい事は伝わった。だがアウトだ。

 流石に声が大き過ぎます。淑女相手にそれは無い。以後注意です。


「おぅ承知した。

 流石の神速、我が母上にも勝る鉄拳よ……。」



 さて町長と報告で子細を聞いたところ。

「え?幽霊男爵と覚しき甲冑男が、町に来てるんですか?」」


「はい。勿論本人だという証拠は全く無いのですが……。」


 まとめるとこうでした。

 昔ある時期から一月か二月に一度、夜の町に黒い甲冑男が現れるそうです。

 男はまるで冥福を祈るかの様に、酒瓶一本と菓子を注文する木札を以て現れ毎回同じ額を支払って立ち去るのです。声を聞いた者は誰もいません。


 時間帯は閉店間近、店も菓子もその時次第。

 門が閉じている時間帯のため、門番が見かけた事も無く。

 一応不法侵入者を疑い後を付けた事はあったそうですが、必ず見失ったとの事。


「ですが、その場合大体歩いてかかる時間の後で山を登る甲冑男が目撃出来ます。時間帯にして深夜よりは明け方寄りでしょうか。

 ですが一旦見失っている以上、同一人物だとも……。」


「館へ向かう道中までは確認出来る。

 けれど後を付けた者が館に辿り着けた事は無い。なるほど……。」


 そもそも別口であってもおかしくは無い、と。

 騎士甲冑を用意出来るのですから男爵の可能性はありますが、騎士爵クラスでも手柄さえ立てれば十分買えます。褒美で貰う事もあるでしょう。

 鎧を着て町を徘徊する時点で怪しいとは言えますが……。


「確かに幽霊とは無関係でもおかしくない話ですね。

 誰かの月命日だけ山を訪れている可能性も普通に有り得ます。」


「夜なのにか?」


「山頂に着く頃には朝になっているでしょう?

 早朝に辿り着きたい理由があれば、有り得ないとも言えません。」


 一応どんな感じの甲冑かも確認が取れている様で、家紋は不明ですが当時の鎧に似て無くは無いご様子。そもそも真剣に調査したのは今回が初だとか。

 まあ別に近付かなければ全く無害ですからねぇ……。



 基本誰かが突っ込まない限り安全は確認されている山の麓で、私の護衛を兼ねた同行者達は一旦待機していて貰います。先ずは調査優先ですので。

 山を登るのは私とバルベルド卿、カードックの三人のみ。


「カードックも戦えるんでしたね。そう言えば腕を見るのは初めてでしたか。」


「これでもお嬢様の護衛を兼ねておりますので。」


「ほほう、今度御手合せを願いたいものだ!」


 実際隙が無いのは見る者が見れば判ります。カードックも満更ではない様子で時を見てと承諾しておりました。


 バルベルド卿もカードックも鎧は双方胴鎧風の軽装備でしたが、武器は卿が短めながら分厚い剛剣二刀流に対し、彼は鉈より少々長い程度の短めの片刃剣でした。

 成る程、納得の護衛重視。多分あの片刃剣は盾の様にも使えますね。


 しかし和気藹々と雑談含みで歩く傍ら、次第に違和感を感じた一同は段々と口数が減って来ました。


「……妨害が、全く無いな。」


「ええ。これで何故麓の職人達が襲われる事態になるのでしょう。」


 そうなのです。道中に遭遇したのは魔物一匹、精々中型でしょうか。

 はっきり言って、バルベルド卿の独壇場でした。むしろ手応えが無いとすら。


「そういえば館に辿り着いた者は普通にいるとのお話でしたね。

 私達もそちら側に分類されたという事でしょうか。」


 益々分かりませんね。何か条件が有るのでしょうか。


 取り敢えず頭を下げてから門の中へ。門も外壁も既に壊れた廃墟がそこに。

 壁は粘土を石組みで補強し崩れ難くしたのでしょうか?建物は屋根以外煉瓦なのを見ると、粘土が豊富な訳でも無かったのでしょう。


「しかし……。城内に攻め込まれる事を想定している様には見えませんね。

 本当に砦なんでしょうか?」


「いや小規模なら普通だろ?城壁があるんだし。

 流石に兵が駐屯する様な場所を罠だらけにはしないよな……?」


「え?でも枡形や虎口で城門からの侵入を制限するのは普通ですよね?」


「い、いえ。だって城内ですし。城壁周りは固めますが、中は……。」


 何でしょう。男二人が引いてる気がします。

 兎に角罠が無いなら普通に進みましょう。我々には壊れている砦より警戒すべき相手がいるのです。油断して良い状況ではありません。


 館の門も壊れているので、建物に入るのに瓦礫以上の不都合はありません。

 一階の構造は普通の館と何ら変わらない反面、どうやら二階以上の探索は難しい御様子。何故なら単純に、天井が抜けているからです。


「これは酷い。」


「しかし人の気配はしないな。

 一応床には前に侵入した連中の足跡は残っているが。」


 一階の天井は無事ですが、吹き抜けの上は星空が見えます。

 精々三階くらいの建物なので、一階なら人が住めなくもないでしょう。

 というより天井だけが崩落しているので、吹き抜けと最上階以外は大体無事なのでしょうか?雨と日が当たる部分だけは、室内でも草が茂っております。

 因みに何者かに破壊された形跡も無く、腐食による自然倒壊の様です。


「カードック、待ちなさい。迂闊に扉を開けてはなりません。」


「お嬢様?しかし……。」


 〔遠目〕。魔法で遮られて無い限り、私はこの建物中の様子を透視する事が出来ます。今迄何故しなかったと言えば、別の事に気を取られていて。

 済みません、やっぱり油断ですね。ですが違和感が多過ぎて。


「幾つかの部屋に魔法の気配がありますね。

 それ以外に一見して分かる罠の類は見当たりません。ですので魔法の気配の無い部屋はカードックに先頭をお願いします。」


「それ以外の部屋は?」


「私がこの〔手〕で離れた所から開けます。

 お二人は扉の正面を避けて事前に剣を構えておく様に。」


「「承知。」」


 二階には完全に魔力の気配が無かったので、先に調べましょう。

 こちらは客間と宿泊部屋が並んでいましたが……何というか。


「重い家具だけ残された感じですな。絨毯やカーテンすら無いとは。」


 そうなんですよね。全部まとめて持ち出された感が凄いです。その癖机やベッドは布団以外が丸々残っていたりとまぁ。引っ越し後って感じが凄く。


「まあ、最初っから手掛かりがあるとは限らないしな。

 どんどん先に進めばいいさ。」


 バルベルド卿は警戒しかする事が無いので微妙に退屈気味のご様子。

 しかし何か違和感を感じますね。何でしょう。



 入り口付近の部屋は従者部屋と厨房諸々、食堂もありましたね。全て一階です。

 こちらは水回りも含めて従者達の日常が全て解決出来る様に揃ってます。魔力の類は途中で壁に遮られている部分にはありませんね。


 これは、従者達の空間だからでしょうか?家具の類は基本壊れてました。荒された形跡もありますね。物色された痕跡も其処彼処に。

 詰まり侵入者は此処までは普通に来れているんですね。


「……何も、ありませんな。」


「ああ。というか、砦というより本当に邸宅じゃないか?

 砦を再利用して再建したというだけで。」


「なるほど。確かにありそうですね……。」

 不用心だとは思いますが。


……いや待って?不用心?


「……そうか。ここ、引き払った後なんですね。」


「お嬢様、何かお気付きになられましたか?」


 拍子抜けした顔の二人に、改めて私は自分の違和感の正体を告げます。

 即ち、この館の住民達は、男爵が居るのに引き払ったのかと。


「いや。男爵が死んだから引き払ったんじゃないのか?」


「だったら誰がここに戻って来るんですか?

 この館はあくまで自然倒壊、破壊された訳じゃありません。」


 中庭は一通り見て回ってますが、当然目ぼしい何かはありませんでした。

 お墓やらお参りする様な何かがあったら当然気付きます。そしてそれらが建物内にあるとしたら、それは当然倒壊した最上階。当主の部屋でしょう。


「そうか!甲冑男が訪れた痕跡のある場所が見当たらない!

 ここに来た奴の目的は、男爵の供養とかじゃないんだ!」


「忠義者の騎士なら、瓦礫となった当主の部屋を放置するのは不自然ですよね?」


 そうなると違和感が増すのは今迄魔法の気配のあった場所だ。

 少なくとも男爵達が主に使っていた区画に魔法の痕跡は無い。ではこの気配は。


「裏口に回り込みます。

 私達の目標は、家人しか入れない区画を根城にしている様です。」


 私達に危害が加えられない理由。

 それは表玄関から入って来たからだったのでしょう。

※続きは明日、12/23日投稿です。


 洋城って石組や煉瓦造り中心な所為か、壁と居住区、防衛箇所と生活空間がはっきり分かれている印象を持ってます。

 日本の城郭と違って、建物外への施設はあっても建物内での仕掛けは少ない印象ですね。

 通路が狭いのはどの国も共通みたいですがw


 尚、今回の建物は砦というより屋敷です。中世の心算で見てるけど近代の建物的な違和感を感じている、と思っていただければ分かり易いと思います。

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