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22/28

22.大勝利。大勝利ですよね?勝ち過ぎって何ですか?

※三日連続投稿中日。前日12/15日も投稿しておりますので、見落とし無きようご注意を。

 リカルド王国王都リンドブルムの中心、リガルド城。

 そこには上級貴族のみが出席出来る、大会議室がある。


 ここは普段国王が平時の国政を話し合う時に使う執務室と違い、ある程度国王としての指針が定まっている時や、何かしら貴族達に出頭を命じ、糾弾する時に使われる一室だった。


 無論、単に事情聴取のために使われる事もある。だがそう言った場合、大体は方針を決める前に個別に呼び出し、真偽を確認してしまう。

 最初から大人数を集めたら利害調整が困難で、揉めるのが確実になるからだ。


 逆に言えば最初から揉める事が確定している時は、今回の様に一度に関係者全員を集めて話し合ってしまった方が、後々の意見統一は楽な時もある。

 詰まりこの大会議場は、荒れた討論を想定した頑丈な会議場なのだ。


「……全く、相も変わらず大層な面倒事を持ち込んでくれる。」


 リカルド五世王は既に半ば以上が白髪交じりとなった長い髭を弄りながら、誰にも聞こえない様に深々と溜め息を吐く。


 本来であれば自分の金髪はもっと息子の様に輝いて見えた筈だ。

 だが長年の王としての重責が歳不相応に白髪を増やし、未だ中年と呼ぶべき年齢にも拘らず、王の長髪は既に薄い金髪なのか銀髪なのか、遠目には分かり辛くすらなっている。


 息子レオナルドの手腕に不足を感じている訳では無い。むしろ自分より良い王になるのではないかと期待している。

 只一つ。対人能力に致命的な難がある点を除けばの話だが。

 だがそれも息子の世代であれば問題にならないだろう。人望に不足は無く、同世代の者達からは慕われ、むしろ好ましく思われているという報告もある。


(最大の問題はあくまで、この儂の調停力の低さだからな。)


「さて。今回呼び出された理由は分かっておろう。

 グロリエル辺境伯。説明を、して貰えるな?」


 言外に命令を含んだ、脅迫の心算だった。

 だが傲慢不遜、大胆不敵を絵に描いた様な厳つい筋肉質の男は、上辺だけを取り繕ったリカルド五世とは違いあっさりと否、と答えた。


「全く以って理解出来ませんな。こちらは緊急時だと伝えた筈。

 小康状態が安全だ等と、一体誰が囁かれたので?儂が自由に動けないと知られただけで悪化しかねない。それが戦況というものです。

 陛下の周りの者共は、その程度の補佐すらなかったので?」


 あっさりと国王非難とも取れる発言で返す強欲伯は、無礼と詰る声も馬耳東風。

 当然だ。実際に詰ったのは王では無く側近達、少なくとも表向きは補佐が悪いと宮廷派の貴族の所為にしている。だが額面通りを通す訳には行かない。


「事後承諾で事を進め、済し崩し的に王権を無視されては敵わんという話だ。

 緊急時なら尚の事、小康状態の今しか貴殿の言い分を聞いてやれまい?」


 この機を不意にするなら反対派の言い分を通すぞと、含みを持たせて漸く辺境伯はやれやれと重い口を開く。


「陛下のお言葉とあらば、答えぬ訳には参りますまい。

 ですが話は本当に単純。盗賊騒動に紛れて密入国したジェメシスの使者が保護と幾つかの条件を対価とした降伏を打診して来たので、受けた。それだけです。」


「ふざけるな!ジェメシスが軍門に下ればガンドールと全面戦争になる!

 それが越権行為以外の何だというのだ!」


 リカルド王の言葉を待たず、宮廷貴族達が火蓋を切る。だが安易に遮るのは迂闊に過ぎる。王が論破されればそれが結論になる。故に今は忍耐しか許されない。


「ガンドールの侵略は降伏と無関係に確定していた!

 ジェメシスの打診は急な負担に堪え兼ねたが故の話よ!グロリエルは侵略者から国境を守るためにジェメシスの提案に乗ったに過ぎん!」


「出鱈目だ!証拠は無い!」

「事実を脚色するな!ジェメシスを侵略し、ガンドールと開戦したのであろう!」


 彼らが割り込んだのもそれを理解しているからであり、それは王にとって好都合でもある。王が先に論破されたから受け入れるのでは、例え効果的な反論が彼らに出来なかったとしても、不満は王に溜まる。

 逆に彼らが論破された後で、王が決定を下すなら彼らの責任は分散される。王の仲裁を理由に鉾を収める事も出来る。

 だが同時に、等閑(なおざり)に結論を認めてしまっては、王の沽券に関わる。


「ジェメシスを含めたガンドールと、ガンドールのみの侵略!どちらが防衛に有利か聞くまでもあるまい!

 その程度の事も分からん無能共が、陛下との話に割り込むな!」


 狡猾な言い回しだ。王との会話に割り込んだ者達が悪いと、さも王は未だ間違えていないと王権を肯定する事で、王に口を挟むよう誘導している。

 そして迂闊な否定は王への弁護の否定になる。実に狡猾だ。


「説明が足りておらんぞ辺境伯。

 打診はいつで、いつ侵略の話を知った?

 結果は同じなら、何故王を通せなかった?待てなかった?」


「陛下は同意頂けたかも知れませんな!

 だが国防費を削ろうとしている売国奴は違うであろう!交渉を引き延ばし、先にガンドールに機密を漏らして破談させれば良い!

 さすれば我がグロリエルとガンドールの共倒れが期待出来る!」


「き、貴様ぁ!言うに事欠いて我らを売国奴呼ばわりするか!」


「貴様らが支払いから逃げた分だけ侵略への対応が遅れているのだ!

 義務を果たさん者共が、国防に口を挟むなド素人!」


「貴様が国防を優先している証拠を出せ!

 貴様の私腹を肥やすために国があるのではない!」


「貴様が先に私服を肥やしていない証拠を出せ!

 違法だと叫べば義務を怠れると思っている貴様が正義面するなど片腹痛いわ!」


 罵倒に次ぐ罵倒。互いが互いを罪人と謗り、非難の応酬を繰り返す。

 こうなっては感情論であり、簡単には収拾が付かない。


「……やられましたな。向こうは国防という名目がある。

 何度も会議に出席する必要も無い。今日決裂すれば逃げられるでしょう。」


 脇に控える友人アルハザード公爵が、王にだけ聞こえる小声で呟く。彼は軍縮派であり、本来対立し易い宮廷寄りの意見を持つ貴重な領主だ。


「全くだ。どうにか出来そうか?」


「いや、無理だ。

 少なくともジェメシスを確保し続ける限り国防は成功している。

 今グロリエルが単独で反論している様に見えるのは形だけの話だ。」


 グロリエルがジェメシスを手に入れた今、国を割っても勝算が残る。

 もし理不尽な責め方をすれば、身の危険を感じた貴族達は反王派に回るだろう。

 そうなったら最悪だ。文字通り遠慮する必要の無くなった辺境伯は、全力でリカルドを削り領土を奪いに来るだろう。


 グロリエルがリカルドに良い感情を抱いていないのは常々把握している。

 だがガンドールに対抗するため代々特権を与え続け、既に王家よりも総合力では勝っている。王都が拡大出来ない以上、グロリエルを弱体化させる以外に無い。


 五世王としては代々続く負債が重過ぎて勘弁してくれと言いたい。


 王家に力があれば金銭の代わりに王都の騎士団を駐留出来たろう。

 しかしグロリエルには王位継承争いに敗れた王族が流刑地の様に派遣され、最悪騎士団が向こうの手駒になる危険性があると、伝統的に支援を削り続けた。


 だがそれもそろそろ限界だと言わざるを得ない。

 どの道グロリエルが負ければ大惨事であり、勝てば天秤が傾くのだ。そして王国の大部分の貴族達にとって、ガンドールは辺境の蛮族で些事に過ぎない。

 協力せず蹴落としたい口実は山とあり、王家はそれを認める事も出来ない。


「義務を果たせ!責任を果たせ!貴様らの口約束などゴミでしか無いわ!

 何も出来ない貴様らに運命を委ねるほど、儂が無能に見えるのか?!」


 いっそ王位を譲ってしまおうかと思った事もある。血統だけならグロリエルの方が初代に近いくらいだ。

 だが相手は強欲伯、禅譲後は多分暗殺される。いや、確実に。


(覚悟を決めるしかあるまい。これがワシに出来る最後の博奕となろう。)


「グロリエルは既に単独でガンドールに勝ったぞ!

 貴様らが足を引っ張る前に動いたからだ!

 貴様らは一切勝利に貢献しなかった!」


「「「なっ!!!」」」


 辺境伯を詰っていた一同が驚きの余り絶句する。

 やはり報告は本当だったかと、先程届いたばかりの速報を思い出し頭を抱える。


「……グロリエル辺境伯。

 事前の報告には無かったその話、嘘偽りは無いのだな?」


 誰も火蓋が切れぬタイミングでの王の一言に、全員の注目が五世に戻る。


「ええ勿論。これは第一報ですが、確かな話です。

 何せ夜襲への反転攻勢による勝利だったので、別ルートからの侵攻が無いと確証が持てなかった。

 ですが、先程報告が届きました。ガンドール軍は壊滅し、敗走したと。

 愚か者共が口を慎めていれば、全て報告出来たのですが。」


 抜け抜けと言い放つ強欲伯だが、火蓋を切らせる様に仕向けたのは伯本人だ。

 最高のタイミングでの勝利宣言を伺っていたのは間違いない。


 ここでジェメシスの統治を認めなければどうなるか。ガンドール侵略への勝利を否定したらどうなるか。国が手柄を否定すれば、横取りすればどうなるか。


 全ては王国の介入前に終わらせてしまったグロリエルの勝ちだ。

 もう全ては手遅れとしか言いようがない。


「……良かろう。ジェメシスの統治を認める。」


「「「へ、陛下?!」」」


「褒美は与える。だが無条件とは言えん。

 罰を与えずに済ます事も出来ん。形だけだろうと、な。」


「ほう?一体どのようなお話か、お聞かせ頂いても?」


 引き受けるとは言わないのは代々の負債の所為もある。

 だがそれ以上に信用していないのだろう。既に言葉の上ですら慇懃無礼と、重臣達が歯軋りを鳴らしている。


「我が息子、第一王子レオナルドの婚約者として、貴殿の娘アザリア・グロリエルを貰い受ける。これは王命である。

 此度の一見、火急の事態とは言え報告を怠った罪は軽くない。だから領地増加による陞爵も支援も与えられん。

 代わりに貴領より王妃を輩出するという栄誉を与え、褒美の代わりとする。」


「「「「「なっ!」」」」」


「……本気ですか?国王陛下。」


「お、お待ち下さい陛下!噂ではかの娘は五体満足に非ず!

 王配としては不足に御座います!」


「鎮まれ!これに関しては拒否を許さん!

 婚約は戦勝の正式な報告を以て公表する!婚姻は息子と嫁の学園卒業の後に式典を開くものとする!これは褒美の一環であるため、正妻と定める!

 持参金は今回貴領の領地復興を優先させるため、こちらで立て替えよう!

 金額は来年以降の防衛支援金を積み立てるものとする!これが貴様への非公式な罰則である!」


 罰則の内容が明言され、諸侯は一旦反論を後回しにして口籠り、情勢の変化の方に頭を巡らせる。そしてそれも五世の狙いの一つだ。


「防衛支援金は元よりガンドール対策費である。

 ジェメシスの奪取により、これらは既に自力で賄えると判断する。

 よって、支援金の支払いは婚礼費を最後に打ち切るものとする。

 無論、今年までの分は遅れる事はあっても満額支払われると約束しよう。」



(ちぃ!狸め。さも罰則が一つの様に言い切りおって。

 婚姻は人質、支援金の実質的な没収、更には復興費用の完全な自腹!

 しかも馬鹿王子との婚姻に、領地活性化を担当する娘の没収だぁ?!一体幾つの罰則を積み重ねる心算だ!)


 だが王命だ。しかも名前だけとはいえ褒美も与え、打ち切り前の支援金の支払いは認めている。婚姻を拒めば、今度こそ反逆者として全てを没収する腹か。


(……()()()()足らんな。

 これでは今まで協力的だった連中にも日和見する奴らが出て来る。)


 実際表向き王家入りだ、流石に面と向かって泥船扱いは出来ない。

 認めるしかあるまい。大義名分はあちらに取られたと。



「……謹んで、お受けしましょう。

 褒美としての約束、不忠者によって違えられぬ様に。陛下の御名誉のため、くれぐれも宜しくお願い致します。」


「しかと、約束しよう。

 此度の会議は、これまでである。下がって良い。」


 値切りも口約束も認めんと、不満を態度に出した上で引き下がる辺境伯。

 もうヤダこの強欲伯。少しはこっちの顔も立ててくれ。超顔怖い。


「陛下!これは一体どういう事ですか!」


 グロリエル辺境伯が下がり、扉が閉じられた途端他の重臣達が一斉に国王批判を開始する。ホントやだこいつ等。辺境伯にはアレだけ腰が引けてた癖に。


「どうもこうも無い。ガンドールが落ちる前に支援金の打ち切りを承諾させるには他に手段があるまいよ。

 それともグロリエルの謀反を其方が防げるか?お前達全員で矢面に立てるか?」


 重臣達が口籠った隙に、なるべく堂々と席を立つ。

 陛下とお待ちをと口に出すが、先程の質問の答えは一切返さない。


「お前達が名案を出せなかった以上、苦肉の策は已むを得まい。

 それに噂に聞くグロリエルの長女は才女らしい。瑕疵だけの娘を強欲伯が認める筈もないのだ、話はこれで終わりだ。」


 会議室を後にして部屋に戻り。王は長椅子に倒れ込んで深い溜め息を吐く。

 悩み事よ全て消し飛べとばかりに、割と限界に挑戦した溜め息だ。


「そうだ。もう賭けるしか無いのだ。我がリカルド王国を守るためにはな。」


 そう。噂に聞くグロリエルの聖女。民を導く豊穣の愛娘とやらに。


(ふ、ふふふ。そうだ。あの強欲伯の娘でありながら、悪い噂を瞬く間に払拭したグロリエルの秘蔵っ子に!

 領内の話とは言え表舞台に出た途端、胡散臭い程の功績を山ほど積み上げてあの強欲伯に自慢させた、一度も面識の無い美女と噂の強欲伯の娘、その良識に!

 散々腕無しとか片目とか異形が取り沙汰されてるのに何故か全てが美しいとか訳の分からない噂がやたら増え続けている謎の!娘の!器量に!)


 外面が良いだけなのだろうか?いやジェメシス防衛の指揮を執った張本人とか、理解の果てにある情報は何だ。だが優秀なのは間違いあるまい。


(だ、大丈夫!きっと大丈夫!ワシの息子に足らないのは外面だけだから!

 多少破天荒でも息子がきっと何とかしてくれる!そう、ひょっとしたら相乗効果で外面も中身も最高の夫婦がきっと出来上がるから!

 そうすれば全てが安泰の筈だから!!)


 はぁはぁと、荒い息を吐きながら頭痛に耐え、胃を押さえる。


 もうヤダ。ほんとヤダと、リカルド五世王は長椅子を枕に咽び泣いた。

※三日連続投稿中日。前日12/15日も投稿しておりますので、見落とし無きようご注意を。

※続きは明日、12/17日日曜日投稿です。

 次回、第一部エンディングの後、短(中?)編を二つほど投稿して一区切りです。


 今回はリカルド国王視点です。

 実のところ、先代王の時点でグロリエルを蹴落とすのに必死で大分手段を選んでおりませんw

 あぁん?今更軟着陸?平和的に解決?お前等踏み倒し放題で儂と同じ譲歩だぁ?

 辺境の田舎者相手に陛下は頭を下げる?全く先代と比べて今代は随分と軟弱な!

……無理だよ!コイツら揃って喧嘩腰でしか話しようとしねぇ!

 というのが今代リカルド王の立場です。でも宮廷は一応味方。もう反乱秒読みで喉元に剣を突き付けられる様な心境で偉ぶって威厳を演出しておりますw

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