表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/28

20.ジェメシス国境は全力で固めます。主に魔法で。

※前日12/08日も投稿しておりますので、見落とし無きようご注意を。


※絶望するのが正義側だと、誰が言ったのw?

 ジェメシス領内には既に数隊のガンドール軍が親征準備のために駐屯しており、ジェメシスの離反には彼らの排除が必須でした。

 元々彼らは前準備の略奪に参加するために来た部隊であり、同時に駐屯する事でジェメシスの経済を圧迫して準備を急がせるための、いわば監視役だからです。


 序でに言うと駐屯用の兵糧はまんま遠征中の食糧なので、これを奪還するだけで彼らは長期間の出陣が不可能になります。やらない手は無い。

 因みにガンドールの配置は全て把握済み。まだ味方ですからね、そもそも集積地全てに兵糧を集める様に要請されているので知らない筈が無い。


 グロリエルからの開戦はリカルド王国に禁じられていると知っているガンドール兵は、ジェメシス領に居る間は存分に羽を伸ばして慢心中。

 即刻父が砦に集めていた精鋭達による、ノリノリの奇襲作戦が決行されて大成功で終了致しました。


 いやぁ、驚く程テンション高かったのなんの。

 『ここまで一方的に殲滅出来るのは初めてだぜ!』だの『ここまで御膳立てして貰って負けたら嘘だろ!』とか。

 挙句『こんな戦だったら何戦でもしたいぜ!』とまで。


 彼らは最速で集まった方々中心ですから、半分くらい息子に本業譲っている方々なのですよ?ちょっと落ち着きが無さ過ぎませんか?

 後両軍つい半月ほど前まで本気で殺し合ってたとは思えない息の合いっぷり。


『せやかてジェメシスも憎いけど。

 ぶっちゃけガンドールとどっちがって言われたら……。ねぇ?』


『正直グロリエルは恨まれてもしゃあないかなって思えるけどさ。

 ガンドールに対して好意的になれるかって言われると……。ねぇ?』


 同じ恨みを持つ者同士なら、元敵同士でも握手出来るそうですよ。いや良い事だけどさ。むしろ説得不要な分助かるんだけどさ。


(((あと本当に判り易く良い事あるし……。)))



 兎にも角にも油断をしちゃあいけません。今は何よりも時間との勝負です。


 ガンドール城からジェメシスには、大街道と呼ばれる唯一大軍が進軍出来る広々とした進軍路があります。平時には商隊が往来する交易路。

 ですが戦時の今、ガンドールの進軍を阻む上では最大の障害。何としても此処に砦を築き、進撃を食い止めねばなりません。


「此処に用意した木材は全て使い切って構いません!

 両端から繋げて一つの橋にして下さい!ジェメシスの民は櫓の組み方を着実に頭に叩き込んで。この技法は今後何度も使う事になります!」


「グロリエルの職人達は弟子に見本を見せる心算で、可能な限り堅固に仕上げて貰います!百年後の子孫達に自慢出来る橋を造りますよ!」


「「「「「お任せ下さいっっっ!!!」」」」」


 ここは国境を少し超えた辺りの谷間地帯。厳密にはジェメシスをはみ出しておりますが、同時に最も街道脇の崖が狭い場所でもあります。

 この際防衛線として最も有利になる位置で、ガンドールの領地を一部切り取ってしまう事に致しましょう。


 本国からは勝手な侵略と騒がれるかも知れませんが、ジェメシスが下った時点でそれは同じ事。反対派が騒いでも防衛に成功し、利益を確定させてしまえば反論を封じるのも容易い話です。

 元々国境とはある程度流動的なもの。極論元々はジェメシスの土地だったなどと言い張る手もありますし、守り易い場所で安定させてしまいましょう。


「お父様、戻られましたか。」

「うむ。もう物見櫓が完成したとは、こっちも中々のペースではないか。」


 土煙を上げて、数百の騎馬隊が戻って参りました。父が率いているのは速度を重視し騎兵だけで構成されておりますが、歩兵部隊も逐次帰還して来るでしょう。

 彼等はガンドールを領外に追討していた部隊であり、先触れによると全ての部隊が役目を終えて帰還中との事。

 宿泊施設の方も逐次組み立てて行かねばなりません、が。


「では早速ですが、配下の方々にはあちらでお休み頂ければ。

 食事の方は今準備を始めております。辺境伯にはお待ちの間、引継ぎの手続きと確認だけお願い致します。」


 そちらはお父様に任せ、私は次の仕事に取り掛からねばなりません。




「何ぃ!ジェメシスとの国境全てに壁が出来ていただと?!

 ふざけるな!馬が通れない程の高さの壁が、こんな短時間に出来上がるか!」


「ほ、本当です!本当に海際に物見台まで出来ていて!

 両方の端から端までずっと伸びているんです!」



 例えるなら万里な城壁でしょうか?〔粘土防壁(クレイストリーム)〕頼みの力技ですが、流石にこの距離を走破するのは大変でした。


「し、しかし。あの程度で敵の侵入を防ぐのは……。」


「ああ。それで良いんです。あの壁はその気になれば何処でも超えられます。

 時に崖を崩したり、地下壕を掘ったり、直接破壊したり。どうとでもね。

 本当に大事なのは途中に造った物見台の方ですよ。」


「物見台……。あの小屋が乗りそうな台座の事ですか?」


「ええ。後日本当に小屋を載せて貰う予定のアレです。

 大事なのは、全ての城壁が最低二ヶ所以上の物見台から見えるという点です。

 壁が見張れる限り、直ぐに駆け付けられますから。」


「あの城壁は簡単に壊せる代わり、全てを壊す事は難しい。よってあそこを超えるかどうかが今後の作戦基準、撤退や追撃を諦める境界線になるんです。

 つまりあそこが新しいグロリエルの国境になる。せざるを得ないのです。」




「いや、それが本当だとするぞ?

 じゃあ何でそれが出来る大魔法使いが土木工事なんてやってるんだよ?!」




「いえ、奪い返した食料は運び出しません。

 だって手間でしょう?このまま防衛用の兵糧に回して、余ったら褒賞としてジェメシスの民に配れば良いのです。

 グロリエルに戻せば輸送費分目減りしますし。」




「報告!敵は集積場を瞬く間に埋め尽くす程の兵糧を運び込んでいる模様!

 更に続々とグロリエル軍が合流している様子です!」


「ば、馬鹿な!元敵地だぞ?!

 地元をガラ空きにでもする心算か?」


「はっ!そうか、偽計か!

 恐らく他の集積地は偽の兵糧や形だけの兵士なのでしょう!」


「くっ、猪口才な。我々を撹乱して守りを分散させる心算か。

 そうはさせんぞ!街道に全兵力を集結させる!

 小出しの逐次投入など只の愚策よ!」




「うぅん、やはり全ての兵を大街道に集結させるのは無理ですね。

 施設が足りません。やはり兵の一部は集積所に分散待機させるしかありません。

 いざという時は物見台からなら城壁を超えやすくなってますし。

 普段は交代要員にして、開戦中は背後を突く役を担って貰いましょう。」


「何だ、兵が余っているのか?」


「お父様が張り切り過ぎるからですよ。ジェメシスと合わせて二万とか、どんだけ全力投入してるんですか。」


「いや何。ジェメシスへの恨みを忘れられる者に限ったのだがな。

 ガンドール討伐を優先出来るなら良しとしたら、思いの外集まった。」


「……百年来の仇敵だったのでは?」


「いや、ジェメシスだけなら大事にならんのは周知の事実でな。

 そもそもジェメシスだけが毎年の略奪に強制参加だしな。こっそり獲物だけ盗む時はジェメシス単独、襲撃して根こそぎはガンドールの命の時だ。

 死傷者数の問題でそうせざるを得ないと、例年の捕虜から聞いている。」


……うぇぇぇぇええ?それ本気で言ってます?

 ガ、ガンドールってジェメシスを味方と認識してないんですか?

 え、実質他民族扱い?部族社会の弊害ですねぇ……。


   ◆◇◆◇◆◇◆


 ジェメシスが裏切り、集積場に配置された兵の大半が死傷して追討。

 これによりガンドールが動員出来る総戦力は、一万を下回った。

 グロリエル軍を相手取るには流石に心許無いが、ジェメシスに対し一切の制裁をしないというのは、強さが全てのガンドールにとって致命的だった。


 何より食料が殆ど手に入っていないのが痛い。大規模遠征は負担が大きい代わりに大量の見返りがあるのがガンドールの常識で、既に敗走しているのに全く見返り無しだけは有り得ない。まして今回は親征なのだ。


 だが流石に集結前、準備段階では防衛線も何もない。元々見張り程度なので最初の動員人数は千止まり。だがジェメシス分が減って脱出した国境際が蹂躙されて。

 最早グロリエルとガンドールの間に明確な障害は無い。


 遊牧に近い生活を送っている各氏族は、全ての氏族が自分達の身を守るため戦力を残す必要が出て来た。


 ジェメシスが攻略出来なかった場合、不足する食料を何処に求めるか。

 それは当然、略奪でありガンドール領内に他ならない。


 ここまで出鼻が挫かれたのはガンドール王国建国以来初めての事態であり、それ故にガンドール王国は首脳部含め、深刻さ以外の状況を把握出来ていなかった。


 ジェメシスに略奪を命じて半月、敗走後再編成をして半月。

 ガンドール軍は遂に親征を開始した。



 時間がかかったとは言ってはいけない。

 敗戦した兵士達は勝手に各部族に逃げ帰って事態を誇張含みで報告して、実際の被害を確認しつつ各部族に出陣の命を出すために文官達は死ぬほど奔走したのだ。


 敗戦に対する不信感と義務は果たしたのに食料の配分が無い等の不満を、武力と責任を全てジェメシスに押し付けつつ再出費を呑ませる事の大変さは、筆舌に尽くしがたい過密労働だった。


 しかも当然兵糧は足りてない。現地で奪うしかない。

 国王の出陣後、王城の宰相以下内政府は殆どが倒れて機能不全に陥った。




 ガンドール領に森と呼べる場所は無い。

 高山植物こそ多くあれど、殆どが草原とは言えない雑草止まり。

 国土の大半は傾斜地で出来ている山岳地帯。それがガンドールという国だ。


 一方で兵を伏せる場所は、少人数であれば意外と苦労はしない。そこら中に凹凸や崩れた岩塊が転がっており、人一人が通る獣道ならそこら中にある。


 全てを監視する事など、それこそ城壁の様な高さ調整された施設があって初めて可能となる荒業でしかない。

 故にそれらが無いガンドール領内であれば、秘密裏に()()()派遣するのは極めて簡単だ。そして秘密裏に商品を受け取りに来る事も。


 そして彼らは気付く事が出来なかった。

 自分達が魔物を誘導するための、只の生贄でしかなかった事に。

 生還者のいなかった彼らに、それを故郷に伝える術なども無かった。



 高台から見下ろす数名の人影。彼らからちょっとした安堵の息が漏れる。

 その大部分は自分達に魔物が気付かなかったという安心感によるものだが、一人だけ毛色の違う溜息が紛れていた。


「ふむ。どうやら誘導には成功したようですね。」


 老執事姿の魔族モブリアンは、グロリエルに潜入していた同胞達が、アザリアを名乗る魔女の手で全滅している事を知っていた。


 グロリエル辺境伯は彼女の軍門に下り、実質的な支配者である事も、敢えて逃がされたという同胞達から聞いている。

 尤も同胞達という程に仲間意識を抱いている訳ではないが、アザリアを名乗っている怪人物が魔族では無いのは間違いない。


(魔族であれば自我が確立した時点で己の存在理由を自覚出来る筈。

 故に魔族に牙を剥く小娘が、魔族である筈もない。)


 魔族は人を装えるだけで、人と違って自然発生する精神体だ。

 人から産まれる事は無いし、同族かどうかは知覚出来る。魔族であれば少なからず互いを味方と認識するし、自然と同胞達と行動を共にする様になる。

 よって攻撃された同胞が気付かなかった時点で、相手は魔族ではない。


 高台の誰にも聞こえぬ声でモブリアンは呟く。


()()()は自我に目覚められず、己が限界を無視して成長した魔族。

 全ての生き物にはね、限界が定められているんですよ。人の身で魔王軍四天王に匹敵する力を宿せるのは、聖剣の加護を受けた勇者のみ。

 絶望なさい。人がどれ程強い力を持っていたとしても、四天王を超える器を持つ事は有り得ないのですか「商人殿!あれを!」……。」


 良い気分でいたモブリアンの独り言が遮られ、内心で歯軋りと舌打ちしながら声をあげた兵士の方を見下ろす。


「しょ、商人殿!何をやっているんですか!早く!早くこっちです!」


 前線の見える崖下へ移動していた兵士達が未だに高台に居た商人に気付き、慌てた様子で声を絞りながら叫んでいた。


「お、お待ちなさい!置いて行くんじゃありません!

 一体何だって言うんですか、全く…………?」


 慌てて高台を滑り降りながら後を追い、山を小さく回り込んだ獣道を伝って兵士達に追い付く。

 夜目に関係無く覚束無い狭い道を抜けてほっと一息を突きながら、兵士達の指が差す大街道の先へと目を向けると。


「……何ですか、アレ?」


 谷を横断するダムの様な二つの岩壁が大街道の途中を横一直線に分断し、中央の溝の上には両端を繋ぐ弓なりの木橋と、小さな砦小屋が乗っかっていた。

 溝の下には恐らく三階建てくらいはある、引き上げ式の門。

 溝の高さは、十階建てぐらいだろうか。そして両脇の崖の高さも、十階分。


「…………多分、城壁の類かと。」


 最初より近付いた兵士達も、見えた全貌に呆然としている。


「いやいやいや!あそこってガンドール兵が逃げて来た道ですよね?!

 十日かそこらで出来て良い規模じゃないですよ?!」


 魔族モブリアンは、一瞬我を忘れて絶望した。

※前日12/08日も投稿しておりますので、見落とし無きようご注意を。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ