19.敵はガンドールだけでは無かったようです。
※続きは明日、12/09日投稿です。
「素晴らしい!何がどうすればそうなる!!
一週間で兵を準備するから全力で推し進めろ!臣従の受諾と同時にジェメシス領から全てのガンドール兵を駆逐する!
ガンドールとの開戦は、ジェメシスの国境で行うぞッ!!」
大爆笑で承認されました。既に秘密裏に集め始めている兵をそのままジェメシス領内に突入させるとの事で、第一陣は二千。
開戦時までには更に一万を用意する予定だそうで、その者達が共同歩調を取れる土地を確認しておくようにとの事です。
後の軍議では流石に陪臣一族から不満の声が上がりました。流石に数百年単位の因縁は気軽に払拭し難かったご様子。
避難地として土地が減る事が決定した方は、当初憤慨なされましたが。
「勘違いするな。貴様の土地ではない、貴様ら一族に任せた土地だ。
代官よりは信用し一族の定住を認めているだけで、貴様らはグロリエルの土地を管理し税収を収める仕事を受け持っているに過ぎぬ。」
「そ、それは……。承知しております……。」
「そもそも貴様、税収は減るのか?
開拓予定の無い管理地が減ったところで税収が減る理由にはなるまい。
それにジェメシスを拒めば貴様の地は最前線。まさか戦火から遠ざかる案を拒んでおいて、納めるべき税収は例年より減ります等と言うまいな?
賛同すれば、ジェメシスが最前線になるのだぞ?」
「そ、そんな!め、滅相も無い。我々は別に、民の感情を考えただけで……。」
言葉尻が苦しくなった家臣に我が父グロリエル辺境伯は容赦しません。
「税収が下がる提案など聞く耳持たん。上げる提案なら聞いてやる。
それにそもそも、ジェメシスとの交易が始まれば道中にある貴様の管理地は今迄以上に栄える筈だろうが。
一体貴様の何処に損がある。住民くらい、貴様が飴玉を転がして見せろ。」
「っ!は、ははぁ!承知致しました!」
うぅん鮮やか。この父、金以外全く興味ありませんね。
◆◇◆◇◆◇◆
私のやる事は山程です。ジェメシスとの国境際に隠し砦を建造しつつ大量の木材を発注して運び込まねばなりません。
秘密裏に進めてはいますが気付かれて良い計画はここまで。
むしろ国境際の砦は良い囮。密かに監視でも用意していれば、彼らはきっとここに注目するでしょう。
手取りとして購入した魔鋼を元手に大量の木材を購入。倒した魔物肉は全て保存食に加工して後日の兵糧化。こちらは数を誤魔化せる隠し資産として譲渡。
一方で時間が勝負なので、ガンドールの侵攻を匂わせる形で商人達からも兵糧を大量購入します。一括購入現物と交換で即金払いを理由にがっつり値切ります。
普通なら商人達も期間の短さを理由に値を釣り上げたでしょうね。
でもこちらは大規模な開拓事業中、耳聡い商人達は降って湧いた公共事業に続々と商売を始めて資材諸々を売り始めている所です。
ええ、結果の出せる人材は長く開拓事業に関わって貰いますよ?信用出来る商会に仕事を依頼するのは当然ですよね?
つまり今なら事業拡大の際に、新規参入する商会として食い込める訳です。
商会の事前調査?そんなものは必要となってからするのは遅いのです。父が実権を握ってた頃から買収出来そうな商会やら探り続けてましたとも。
直前に始めた調査など、後ろ暗いところは直ぐに取り繕うものですよ?
と。言う訳で!如何に安く大量に、軍事物資と気付かれず開拓資材の一環として物資を国内に持ち込めるかを彼らに競わせた訳です!
ええ、勿論許可証と極秘に審査員付きで。露骨に不正や賄賂で誤魔化そうとしたところは物資を買い取った後で失格にするのは当然ですよねぇ?
審査を兼ねてるんですから、仮許可証を失効する様な真似をする方が悪いと。
敏い方々は挙って物資を集めて下さいましたよ!
中にはこちらが選別した商会に質の高い資材を安く売って恩を売った方々も!
素晴らしいですね!その機転、お見事です!
規模や調査期間不足で今回は見送った方々ですが、次は優先して調査させて頂きますとも!
◆◇◆◇◆◇◆
さて。ここで少し視点を変えてみよう。
そもそも下々の者達。つまりグロリエル辺境伯領の住民達は、辺境伯やその家族をどの様に思っているのか。どの程度把握しているのか。
何より、強欲伯は地元でどの様に思われているのか。
リカルド王国内では悪徳領主、邪悪で強欲な領主として名高いグロリエル辺境伯だが、本当に私腹を肥やすために積極的に不正をしているか。
答えは否、だったりする。
理由は単純。視点が違うからだ。
リカルド王国には二つの法律があり、一つは王国法、もう一つは領主法だ。
★ ここから暫く面倒臭い話になる。興味のある人だけ把握すれば良い。
王国法で定められているのは国内貴族に対する利権や権限に関する区分であり、言わば貴族同士での争いを解決するための法律。
コレに反すると爵位や貴族身分を剥奪されたり、懲罰を受ける。
反逆者として他の領主達に出兵要請が出たりして一族根切り、皆殺しにされる恐れもある、極めて重い法律となっている。
実は中世では、王権が弱いと国に税を納めていない場合がある。
何故ならあくまで徴税権そのものが領主達の権利であり、実際の国王は連合国の代表者程度の意味しかないからだ。時に国王は周辺領主以下の事もある。
弱い領主を国王に据えて、決定権は領主達が合議制で保持してたりするのだ。
勿論王権が強ければ全ての領地からの税を国が統括し、逆らえば配置換えや身分没収を気軽に出来る例もあるが、大抵は軍事力による裏付けがある。
そしてリカルドの王国法では、残念ながら徴税権は各領主の裁量となっていた。
勿論領地が荒れ過ぎていたり、外患を招いたりしたら没収する規則はある。
だが領主が否と言えば、自前の兵力を駆使して抗議する事は、残念ながら可能であったりする。言わば大領主が周辺領主を従えた半合議制方式なのだ。
貴族身分を定めるのは王国法の範囲内であり、各領主が自由に増やせない。
但し献金や貢献によって、王が増やす事は出来る。減らす事もだ。
この権利を使い、数多の利権利害を調節して。そうやって適度に公共事業を命じながら領主達の資産を国に消費させて。
それが王に求められる国家の操縦法だった。
そして領主法。これは各領主が、自分の領地に定める法律である。
各領主に与えられた枠内で爵位貴族以外を自由に任命する権利、陪臣法。
領内の徴税ルールを定める、徴税法。
等々、領主が自分で定めている法律だ。領主が自己都合で変更出来る。
★ 面倒臭い話は概ねここまで。
問題となるのは領主法で、税を受け取るのは領主だという点だ。
何の事は無い。領主とは不正をする側では無く、される側なのだ。
徴税ルールを変えられるのだから、税額に不満があるなら税を増やせば良い。
免税だってルールに定めておけば問題無い。賄賂で不正を見逃さずとも、特権を与えて優遇すれば良い。定めて良いのが領主だ。
重税を課した悪徳領主は非難されるが、実は合法か違法かだけを問えば合法だ。
領主にとって不正とは、自分の権利を侵す行為だ。
そしてグロリエル辺境伯は、その事をちゃんと理解している領主だ。
税を厳密にし過ぎると不満が出る。曖昧にしても不満が出る。
増税しても少量なら、戦争直後なら、領地をちゃんと守って見せる限りは大きな不満が噴出しないという事を、強欲伯はちゃんと把握していた。
奇しくも前妻アマンダ夫人とのやり取りで強欲伯は、むやみやたらに強権を振るうより適度にガス抜きした方が不正が減ると。適度且つ正確に徴税した方が儲かるのだと、書類で把握出来ていた。
つまり領内では不正など望んでいないのだ。当然排除に動いている。
少量の賄賂で不正を見逃せば痛い目を見るのは自分だ。だが短期的に見逃せば儲かる額の賄賂なら敢えて聞こえない振りをする時もある。
そうして不正した商人達を、賄賂分より不正の影響が小さい内に、処罰する。
『んん~~~?見逃した覚えなど無いぞぉ~?
確かに配慮はしたが、不正をして良いと許可を出すくらいなら特権を認めた方が確実であろう?』
そう。強欲伯の汚名最大の原因は、不正した者達の財産没収が原因だ。
強欲伯は、悪徳商人の財産を没収するために賄賂を受け取るゲス男なのだ。
勿論教会に対する態度も問題だ。実利しか興味無いから実利を寄越さない相手に利権なんて認めない。
神の教え?金になるなら協力しよう。心の在り方?金と武力こそ我が本懐!!
貧乏人から搾取?金持ちから搾取する方が効果的であろう?
儂に利益をもたらす者から搾取するなど、馬鹿のする事であろうがっ!!
儂を儲けさせる者には良い目を見せてやる!何故なら儂の為に働いたからだ!!
……領民視点での強欲伯は、馬鹿正直に金と権力を愛するだけの、意外と真っ当な領主だったりする。
でももう少し隠してよ。他所から来た人に評判悪いでしょ?
さて。ここで領内の不安定さから第二子を増やそうとしなかった強欲伯が、ここに来て長女を表舞台に出した。子作りも再開したらしい。
外部の評判は疑心暗鬼、裏は何処だと情報錯綜。
領内では。
お?領主様恐妻家だったんじゃないの?え、じゃあ金の問題?
え、前妻様の子?そりゃ奥様の手前、前には出し辛いかもね。
悪霊に取り付かれているとか変な噂が沢山あるよ?でもご領主が放置しているんだから問題無いんじゃない?
何でも家庭教師達を唸らせるくらいに凄いらしいよ?美人だってさ。
いやぁやっぱり金の問題だったんじゃない。奥様と宜しくやってるんでしょ?
適度に流された噂はゴシップとして流布され、面白おかしく広まっていた。
但し最初の一年は表舞台に殆ど顔を出さなかったため、噂以上の関心を集める事は無かったのだが。だが。
今年に入ってから噂の長女グロリエル令嬢が唐突に表舞台に立ち、領内で大規模な開墾事業を始めた。
遠目にも目立つ白い髪に質素な筈なのに美しさが映える上品な装い。噂では語り切れない程の魅力的な艶姿。父親とは正反対の清楚な微笑。
噂は派手に領内を駆け巡った。何せ散々正体不明だったのだ。
とにかく似てない。行動も性格も自ら前に出て率先して領地に貢献する在り方、言動、そして何よりも容姿。
確かに母親を連想する外見だ。だが驚く程に精力的で、成果が凄い。
実地で貢献し、不正を暴き、盗賊を討伐する。まるで物語の英雄譚。
領民にとっては誰もが気になる、自慢のお姫様の登場だった。
『皆聞いたか?!聞いてないなら驚け!
なんとグロリエルの姫君があの強欲伯を説得し、大々的に盗賊退治と国内の不正撤廃に乗り出したそうだ!』
『何だってぇ?!あ、あの悪徳貴族の見本である強欲伯を?!?
有り得ないにも程がある!あらゆる悪事に手を染めた強欲伯がか?!?!?』
『本当だ!グロリエルの御令嬢は不正を暴く方が領地が富む事を証明してみせると強欲伯相手に啖呵を切ったらしい!
あの方は自ら率先して現場に赴き、民を鼓舞して回っているそうだ!』
『辺境伯領では今、次々と不正していた役人達が処罰され続けているそうだ!
今までは賄賂さえ払えば見逃されていた連中が続々捕まっているってよ!』
『出鱈目だと思うなら現地に行け!
あのお姫様は地元では聖女の如く崇められているらしいぞ!』
『何でもあの方はグロリエルに巣食う大怨霊を鎮めるため、我が身を生贄に捧げたらしい!今迄あの方が表舞台に出られなかったのはその為だったんだ!!
その後遺症はあの方から両腕を奪い、今もその瞳を蝕んでいるそうだ!!』
「え、寄付ですか?復興資材に使ってくれと?
ま、まあ復興資材は足りてますが折角です。目に見える形で使うべきでしょう。
町に病院を増築させなさい。ええ、そこなら前線から適度に離れてますし、医者は他領から招いても構いません。」
これなら戦準備だとは誰も思わないでしょうしね。
『『『『『そ、そんな!グロリエルが民衆向けの病院を増やしたぁ?!』』』』』
◆◇◆◇◆◇◆
ガンドール王都、奇岩城。
文字通り奇妙な形で抉れた巨大岩盤を繰り抜いて作られた、崖際の王城だ。
城の下には幾筋もの階段が伸び、同じく岩を削り石を積み上げた町が拡がる。
背後の山塊は丸々城壁で囲まれた放牧場になっており、ガンドール最大量の食肉を生産し続け、ガンドールという国を支えている。
だがまるで足りない。ここだけで千人以上は養えるだろう。
奇岩城城下町はガンドール全土の商品が集まる一大商業都市でもある。
故にここはガンドールで最も商業が盛んであり、多くの商人達が集い金を落す。
だがそれでも数千人が限度。
ガンドール全土の住民数十万人を養うには、国内全土の放牧地の生産量を集めたところで到底足りない。国民の半数は常に飢餓と病に苦しみ続けている。
この地では戦いに向く頑強な身体を維持し続けた者だけが長生き出来る。
他領から、今や一大国となったリカルド王国から。
山程略奪し、最低でも数年。叶う事なら十数年分の食料と売買可能な金銀財宝を奪い、持ち帰れる者達だけが国の頂点に君臨し続けられる。
戦いを愛し、戦いに愛された者。それこそがガンドール王族だ。
故にガンドール王は、勝利し続ける者こそ望まれる。
王城の最深部には、十数人の王の妃達が居る。
彼女らは各領主達から捧げられた、忠誠を示す領主の娘達だ。
彼女達は常に王の寵愛を奪い合い、誰よりも愛されようとする。そうして故郷に恩恵をもたらす者だけが故郷からも愛され、献上品を捧げられる。
その献上品を使って着飾り、美しさに磨きをかける。
それが王と王妃の関係であり、両者の義務。
優れた王とは、王妃に財を施し、恩恵を与える者でなければならない。
それが王妃を通じ、ガンドールの王権を支える礎となる。
「ちぃ!ジェメシスは何をやっている!未だに娘を献上しないどころか、親征準備すら侭ならないとは何たる体たらくだ!不忠にも程があるわッ!!」
砕けた盃に怯える妻達は、ガンドール王を慰める言葉など持たない。
この地での女の地位は決して高くない。夫抜きには生きられぬ者達として、家長たる夫に従う者こそ良き妻とされるからだ。
娘が産まれない事を罪に問うなど他国から見れば眉を顰める内容も、この国では当然の常識として罷り通ってしまう。
だが一方で、ガンドールの中でも一、二を争う強兵を有するのもジェメシスだ。
故にガンドール王は、親征の成功の為にジェメシスの無礼に許しを与えねばならない。これが彼のプライドを傷つけている。
何よりガンドール王は、戦が好きだ。血が、悲鳴が、あの高揚が。
己に生きていると実感させてくれる。だが初陣を飾った先王時代の大敗が尾を引いて、今迄ずっと小競り合い程度しか財政と戦力が許さなかった。
ガンドール王が好きなのはあくまで勝利であり、敗北の屈辱ではない。
例え自分一人勝ち続けても、周りが全滅すれば勝利とは認められない。戦の結末が敗北の屈辱では、どれだけ殺しても報われない。
勝って誰もが王を讃える瞬間が、最高に戦を楽しませるのだ。
「荒れている様ですな、大王陛下。
どうやら親征の下準備は中々に苦労しているご様子。」
「……貴様らか、行商人。
毎度毎度、飽きもせず同じ商品を売り込み続けるとは、余程暇らしい。
貴様らが兵糧を用意出来るのなら話が早いのだがな。」
執事風の装いで現れた老人は、王自ら謁見を許した異郷の行商人だ。
胡散臭い事この上ない連中だったが、事実彼らは役に立つ。
「ほっほっほ。生憎我々は武器商でして。
この国で食料を商う事の難しさは陛下の方が御存じでしょう。」
舌打ちするが、その通りだ。この国で食料を商うとしたら、先ず王家の保護下に入り、常に一定以上の食料を税として納める必要がある。
税率は王がその時の気分で決める事になっているが、大体は半分以上だ。
こと食糧に関しては、王の庇護下に無い品は全て略奪されると言っても過言ではない。王の旗と兵を貸し出す必要があるので、当然の必要経費だ。
これを知った他国人は、採算が取れぬと例外無く全員手を引いている。
「秘薬とやらの取引数は増やしても良い。
だが貴様のいう魔物とやらは駄目だ。こちらにも被害が出るなら尚更だ。」
これも何度か言ったやり取りだ。最近では枕詞の様に別の商談の前置きになっているが、どうやら余程この魔物を売りたいらしい。
「ふむ。それだけの価値のある品だと確信するが故なのですがね。
事実そちらには、今だ満足の往く兵数も資材も整っておらぬとの事。
僅かな損を惜しんで大勝を逃すようでは……。」
「分かっておらぬな。儂が問題にしているのは、誰が勝利するかだ。
借り物の力で勝った王を民が賛美するか?違うな。同じ力を手に入れた者が王になれると、要らぬ野心を掻き立てるだけだ。
それともその魔物とやらを儂が倒して見せるか?
害だけで強さも分からぬ獣風情を。」
「いえいえそんな。それは単に、使い方が悪うございます。
陛下、あなたの目的はあくまでリカルド王国全土、グロリエルでは無い。」
(全く。現実も見えぬ虚栄心だけの男が面倒な。)
恭しく頭を下げる老人は、内心で舌打ちしながら毒吐いた。
人形は人形らしく、良い様に使われる愚か者であれば良い。猿知恵が回る愚人というのは面倒臭い事この上ない。
「何が言いたい。」
「所詮グロリエルは前哨戦です。陛下が活躍するのにこのガンドールという山塊の出入口というのは如何にも狭過ぎる。
先ずは国境を短期決戦で落して仕舞いなさい。さすれば強固な砦無きグロリエル如き、容易く蹂躙出来るでしょう。」
「ふむ。その魔物であれば、国境は容易く落とせると?」
「勿論にございます。
グロリエルさえ蹴散らせば戦場は陛下の選びたい放題。後は御存分に戦い続けるが宜しかろう。それで誰もがひれ伏します。」
実際そこまで上手くは行かないだろう。実際にはグロリエルと共倒れになる程度が精々か。だがそこまで荒せればグロリエル領の封印を解くのは難しくない。
何より親征さえ行わせれば、ガンドール王城の封印は解ける。
(精々魔族の為に踊ってくれ。そして魔王様復活のための礎となってくれ。)
執事姿の老人――魔族モブリアンは、ようやく揺れ始めたガンドール王の態度に心の中でほくそ笑んだ。
(ふむ。確かに一番の障害は国境の砦周り。
大軍を使うには不向き故、どうしても苦戦は免れぬ。)
老執事風の行商人がワインを受け取っている間に、王は暫し思案に耽る。
ガンドール王が気にしているのはあくまで戦力の損耗である。兵の命を惜しんで戦争は出来ない。であれば確かに、重いデメリットとまでは言い切れないのか。
(だが気に入らぬ。こ奴がこの商品とやらを我々に売り込むのは、我らが劣勢だと確信しているからだ。このまま戦えば負けるぞと、信じ切っている。)
そういう意味でも味方かどうか怪しいものだとガンドール王は疑っている。
だが一方でこの者達が、今迄自分が謁見を認める程に有益だったのもまた事実。
他国といえど、この様な外法に通じている国は、恐らく無い。
「そもそも馬鹿正直に魔物が我々の仕業だと明かす必要もありません。」
「ほう?」
「単に国境際に魔物を放ち、罪人共を近く、グロリエルに逃げ込み易い位置で放しなさい。それだけで奴は勝手に砦を落してくれます。
後は砦の崩壊に便乗して、軍を動かすだけで良い。」
成程。言われてみればその通り、制御し辛いのならば、制御しなければ良い。
使役には専用の魔導具が必要で、使えば魔獣の自我と同調して使用者が逆流した毒に蝕まれるというが、単純な指示なら一瞬で済む。
使役者の犠牲も最小限で済むという訳か。
だがそれでも躊躇いはある。何か落とし穴がある気分だ。
言う通りにしたが最後、何か致命的な災いが起きる様な……。
「伝令伝令ッ!ジェメシス辺境子爵様がグロリエルに寝返りました!!」
突然部屋に駆け込んで来た兵士の言葉に、二人は揃ってワインを吹き出す。
だが兵士は構わず報告を続けた。何せ悲報だ、巻き込まれたくは無い。
「準備中だったジェメシス領内の兵站場は、ジェメシスとグロリエルの連合部隊により制圧、兵糧は全て奪われました!
敗走した全ての兵は、ジェメシス領内から追討されて壊滅状態です!」
「ば、馬鹿な!全てか?!」
「全てです!殆ど同時に襲撃されたようです!
敗走した我が軍がジェメシス領外で合流して初めて互いの状況が判明し、これが第一報となります!詳しくは、帰参する将軍方からご報告が!」
以上です!と叫んで一礼し、何かを言われる前に即部屋を出る伝令兵。
モブリアンは突然過ぎて誤報かと疑ったが、思い返せば先程の伝令兵は判り易く鎧が割れて矢が兜に刺さったままだった。
という事は、敗残兵の一人か。
「え?どういう事?」
ジェメシスとグロリエルは不倶戴天の敵、お互いを仇と呼ぶ関係の筈。
「行商人!直ぐに出せッ!!貴様らの言う魔物を、ジェメシスに放り込め!!」
「えぇ?!い、良いんですかぁ?!」
「黙れ!やれっ!!反論は聞かん!!
奴等を、ジェメシスを、殺せぇぇえええッ!!!!」
「は、はい直ぐに!」
え?あれ、これワシ、予定通りなの?
※続きは明日、12/09日投稿です。
※今回主人公視点少な目。国と時代によって王政でも種類がありますが、このリカルド王国では王権が弱めな頃をイメージして頂ければ。
史実だと王が特定の国に対してだけ領主を名乗ってたり、領地ごとに別の爵位を名乗ったりと物凄く複雑で面倒でしたw多分世界共通ルール自体が無いです。
のでこの物語では各人が名乗る爵位は一つに限定します!私が覚え切れねぇw!




