表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/28

18.それでは会談を始めましょう。

※前日12/01日も投稿しておりますので、見落とし無きようご注意を。

 今回分割出来る内容じゃなかったのでちょっと長めです。

 怨霊パワーは偉大です。精神が肉体を凌駕させてくれます。

 くふふふふ。流石に夜出発で早朝即会議は無茶が過ぎますねぇ……。


 というか道中、本当に最低限の休息しか与えませんでしたね。

 精神的に優位に立つ為と思いきや、本心で焦っていた様なのは流石に意外でした。現状結構ヤバめ?


 流石のマルガリータも寝不足と過労で途中でリタイヤ。護衛の騎士が背負うとは言いましたが、敵地でそれは迂闊に過ぎます。

 表向き非戦闘員の私が担当すべきなのは正しくとも、無事だったのは見かけだけですとも。決まってるじゃありませんか。


 乗馬ならともかく私の体力は淑女ですよ?多少鍛えたところで体力で戦闘職に敵う程本末転倒したつもりはありません。あくまで嗜み程度です。

 こっそり背負子は増やした手で支え、足には呪詛を漲らせて気合で肉体的疲労を相殺しておりました。所謂ドーピングという奴です。


 ぶっちゃけマルガリータが倒れてくれて助かったくらいですよ!弱みを見せずに済みましたからね!修得してて良かった神聖魔法〔疲労治癒(エナジーヒール)〕!

 休憩の度に三人全員に使ってましたが、まあ私ら二人は全然足りてません。表情に出さないのが手一杯でした。


 お陰で今も筋肉痛です。マルガリータは途中から担がれていたので疲れも残らず全快したご様子なので、私が消耗を顔に出さなければ大丈夫そうですね。

 昼まで寝ていたのに足がビキビキ言ってます。背中は一応治ったかな。


 服を整えた際、流石にマルガリータには気付かれて仕舞いましたが、交渉の場で弱みを見せる意味くらい彼女も分かってます。

 申し訳ない顔されたものの、余計な事は言いません。


 食事の提案に対しては手持ちがあると断り、クッキーに似た所謂保存食で済ませました。警戒心もありますが、交渉という名の足止めを拒む口実でもあります。

 というか、一枚岩な筈も無いですからね。案内役の騎士が信用出来たとしても、侍女が独断で毒を盛る恐れがある程度には、長年殺し合ってる間柄です。


「お待たせ致しました。参加者が全て到着なされたのでご案内します。」


「承知しました。それでは二人共、参りましょうか。」


 なんで直ぐに立ち上がらなかったかって?立てなかったからだよ!

 声かけで時間を稼ぐ裏で、慌てて影の手を椅子の下に回して案内人の死角で身体を持ち上げてました。ウギギギ。


 表情筋が固まったまま、それでも二人を後ろに並べて案内侍女の後に。

 こっそり会議場含めた館の様子を〔遠目〕で透視してましたが、罠や脱出の際に不都合がある訳では無さそうです。

 〔粘土防壁(クレイストリーム)〕の呪文であっさり穴が開きそうですしね。


 案内人の宣言と共に会議室に入ると、場の殆どがしかめっ面か憎しみで満たされておりました。あらあら、これブラフじゃありませんね。

 一枚岩じゃないどころか少数派かしら?もし危機感を持っているのが領主一族を中心とした一部で、私に説得させる気、ならギリですけど。

 私を脅して納得させるだけの条件を出して見せろっていうのなら……。


(舐め切っているにも程がある――、ですかね?)



「それ「え?お、お嬢ちゃんが、強欲伯の娘?

 いやいやいや、いくら何でも顔の造形違い過ぎねぇ?」……。」


「「「「「あ。」」」」」


 思わず漏らしたご老体の一言が、代表者であろう髭の騎士の言葉を遮った。


 途端に気まずい沈黙が周囲を満たし、非難の視線が集まったご老体も辺りを見回して慌て出す。


「お「いやいやいや!だって皆だってそう思うだろ!あの強欲伯だぞ!

 欲望が顔に滲み出たあの凶顔!お前達だって戦場で見たろ?!

 似てるか?どこか似てるか?あのめんこくてやわっこそうなお嬢ちゃんが!

 あのクソ親父にあんな愛嬌があるか?どう見ても偽物だろう!」。」


「……「ば、馬鹿野郎!言っちゃならん事だろうがそれは!

 大体強欲伯って嫁が美人揃いってのも有名じゃろが!」。」


「そうだそうだ!強欲伯にあんな可愛げはねぇ!」


「お前ら落ち着け!強欲伯って言えばエロ親父で有名「っ!!」じゃねぇか!

 娘が母親似だって何もおかしくねぇだろうが!

 父親に似てないって言われる実の娘の気持ち考えろよ!」


「ちょ、待っ「ば、そそそ、そんな筈ねぇべ!あのクソ親父なら血ぃ繋がってない方が絶対良いに決まってる!

 年頃の娘さんがエロ親父とそっくりだって言われて嬉しい筈ねぇべ!!」。」


「済まん。」

「いえ。」


「あ~~!あ~~~!!お前言っちゃならん事を!

 実の父親がそのエロ親父だったらお前の言い方の方が傷付くべぇー!

 父親がどんなクソだろうがエロだろうが娘にゃあ選べないんだぞ~~~!」


「な、なぁお前ら「いい加減にしろお前ら!相手は敵国領主の娘だぞ!

 お前らの所為で折角我慢していた怒りが台無しじゃねぇか!

 あ~~!あ~~~~!お前ら色ボケ爺共の所為で全部台無しですぅ~~!」。」


「はぁ!色ボケは貴様らじゃろうがこの変態親父!

 貴様何処見て色ボケ言ってやがる!顔か?違うだろ?お前絶対違うだろ?」


「テメェ絶対あの乳見て言っただろクソ餓鬼ぃッ!!」


「テメェだって鼻の下伸ばしてただろうがエロじじぃッ!!」


「「「上等だお前ら、まとめてかかって来いやぁっ!!」」」



「――そこまで。御当主が土下座してますよ?」



 絶対零度の声が一同に冷水を浴びせ、顔中に油汗が滲み出る。

 今も机の下で地面に頭を擦り付けている髭の騎士に、他の全員の視線が集う。


「何か、言うべき事は?」


「「「「「ごめんなさい。」」」」」


「本当に。ほんと~~~~に、申し訳無い……!」


 取り敢えず交渉は満場一致の土下座から始まった。




「取り敢えず自己紹介させて頂こう。

 薄々気付いていた様だが、私がランバード・ジェメシス辺境子爵だ。

 この地の領主を務めている。」


 髭の騎士ことジェメシス辺境子爵に続き長男ランベルク卿、次男バルベルド卿が続いて挨拶致しました。他の方々はそれぞれ戦士長と長老方だそうです。

 全員の名前を覚える必要は無いとの事で、戦士長と長老で二度。一括りに挨拶をして彼らの自己紹介は終わりです。


「それでは改めまして、我々の自己紹介を。

 我が名はアザリア・グロリエル、辺境子爵が長女です。

 こちらは私の侍女と護衛、こちらも二人の名乗りは省かせて頂きます。」


「で、本当に君はあの強欲伯と血が繋がっているのかね?」


 戦士長と長老方、一番の関心はどうしてもソコらしいです。正直あの厳つい顔に似ていると言われても微妙なので、まあヨシとしましょう。


「ええ間違いありませんよ、母親似です。」


「……一ヶ所以外。」


 ちょっと護衛?今なんて?視線合わせて?

……まあ良いでしょう。心の声が漏れていいのは今のだけです。


「そもそも!私がこの件の全権を預かっている時点で血の繋がりは些事です!

 グロリエルとしては!今回の交渉はそちらの希望で持ち掛けられたものと認識をしてますが、如何ですか!?」


「あ、ああ。その認識で間違いない。

 こちらの提案はそちらにとっても有益であると確信している。勿論君が、それを理解出来る前提での話だが。」


 ふふふふふふ。流石に御当主は主導権を握り返そうとする気概はある様ですね。

 テーブルを叩いた時に視線が下がったのはお互いの為に見逃します。


「あら本当ですか?金属の入手手段程度では、グロリエルにとっては幾つかある内の一つにしかなり得ませんよ?

 開戦間近の敵国相手、踏み倒されて終わりじゃありませんか?」


 保証一つ無く言質を取らせる心算はありませんが、大勢を説得又は論破せざるを得ない状況で、全員を曖昧な言葉で誘導するのは不可能です。

 ここは敢えて直球寄りの過激発言で認めさせるべきでしょう。


「何と無礼な!子爵家当主を何と心得る!」


「エロ親父の娘に偽の娘扱いしたのは?」


「「「ごめんなさい。」」」


 満面笑顔の私から一斉に目を反らす皆さん。

 小娘扱い?絶対させないよ?


「話を戻そう。我々が現物を差し出せば、今度は君達が踏み倒して終わりだと思うのだが、君は一体何を担保に差し出してくれるかな?

 まさか我が息子が保証にならないとは言うまい。」


 あらあら。私の安全を保障するための方を、都合良く使い回しましたね。

 貿易以外の要件は承知の上、但し条約はこちらから言わせたい、と。


「まあ、敗将が生き返った事は公表されてますかしら?

 決裂したら責任を取るだけの方だと思ってましたが。」


「は!娘一人と嫡子一人、同じ価値が通る訳無かろう!」


「セクハラは通るのに?」


「……いや。同じネタで通すのズルくない?」


 バルベルド殿?それを言いたいなら視線が釣られちゃ駄目でしょ?

 私だって恥ずかしいんですからね?


(((いや、照れながら言うのはズルいだろう……。)))


「感情論で押し通そうとするからですよ?こちらは実利の話です。

 信用なんてお互いに無い。ならば双方が利益を提案し、納得のいく対価を積み上げる以外に解決策がありますか?」


 何か不埒な視線が集まった気もしますが、信用出来る出来ないを持ち出す限り、不毛な水掛け論は終わりません。

 自分で妥協出来るラインを口に出来ないのに、一方的に自分達だけ得をしようだなんて流石に通りませんよ?

 さてはて、あなた達は私を妥協させられますか?


「しかし、我々は既に対価を提示している。

 君の方が何も提示しないなら、我々が納得出来ないのは道理では無いかね?」


 態度を仕切り直した長老のお一人がこちらから何か開示せよとせっつきます。

 でもね?そもそもあなた達、自分達が本当に欲しいものの価値は分かってます?


「我々は欲しいものを察し合える程親しい間柄では無いでしょう?

 お互いに欲しいものを率直に言い合いましょう、という提案です。ええ、金属は確かに貿易の価値がありますよ?()()()()ですが。

 ですので、安値で買えるのなら利益はあります。高値で買って欲しいのなら利益はありません。対価は本当に、金銭で宜しいので?」


「?待て、本当に何の話をしている?

 それは物々交換の提案という事か?例えば兵糧と、とか。」


 ジェメシス辺境子爵が予想外の提案をされているという顔で首を捻り出します。

 しかし物々交換ですか。という事は彼らはやはり想像出来ていないのですね。

 悲しいかな。彼らは今のまま商談や秘密裏の停戦条約を結べば、必ず一年と経たずに()()()()()()()破棄するとは、全く思い浮かんでいないのです。


 グロリエルにとってこの停戦は、可能な限り長い方が良いですからね。故にその原因は、今の段階で取り除かせて貰います。

 出来ないのならば、彼らとの同盟は機が熟していないと見るべきです。


「これは推測ですが。あなた達の主食は今も狩猟であり、極一部の高山植物や我が領地から奪った保存可能な乾物、穀物くらいなのでは?

 ああ、放牧による畜産も可能でしょうか?そしてそれらの全てが交易可能な程の余剰が確保出来ていない。」


「……だとしたら、どうする?」


 ビンゴですね。途端に全員揃って警戒心マシマシの表情へと変わりました。

 恐らく彼らは商売では散々痛い目に遭い続けたのでしょう。彼らにとって商業は恥ずべき悪徳であり、トラウマとなっている。

 取引と商業は彼らにとって全くの別物、等価交換こそ理想、といったライン。



「どうする、という質問が既に悪手ですね。あなた達は通貨取引に慣れていない。


 物価という考え方を知らないのではありませんか?精々聞いた事がある程度。

 それを口に出す様な商人とは手を切った、もしくは騙して来た者達だけ。

 そして()()()()()、あなた達は武力でその者達から奪う事が出来た。

 差し詰め我々を罠に嵌めようとしたのだから、騙そうとしたのだから奪われるのは当然の末路。強者には正しさを貫く力がある。


――そんなところでしょうか?」



 うぅ~ん、煽ってみて正解ですね。こんなに見え透いた挑発に乗るなんて。

 これは商人達の鴨ですよ、鴨葱です。むしろ商人としては誠実な相手でも彼らに引き合わせる訳にはいきません。殺されて終わりです。


「だから、何が言いたい!」


()()()まるで足りない。勝てる相手との付き合い方しか知らない。

 殴り返せば解決の相手だと思ってる方々と、同盟なんて組めますか?」


「「我らが容易く返り討ちに出来ると思っているのなら、試してみるが良い!」」


「……っ?!」


「ほら。罠に嵌めるのは簡単。

 駄目ですよ?敵を誘き出して挟み撃ち。

 戦争で言うなら今のは、正にそんな状況です。」


 今のは私ことアザリアとジェメシス子爵様。一言一句違わず揃いましたね?

 私は差し出された紅茶を口に含みながら、彼らが落ち着くの待ちま……。


「「「…………?」」」


「何か御用でしょうか、お嬢様。」


「い、いえ。何でも無いわ。」


 ティーカップ、持って来てたかしら?

 首を振って疑問を振り払います。話を戻しましょう。


「物価とは品物が幾らで買えるか、金銭に変えた時の価格の事です。

 そして物価は常に変動する。欲しい人の数より商品が少なくなれば値上がりし、商品の方が多ければ値下がりします。」


 そんな事知っていると言いたげな顔ですね。でも理解は出来てませんよ?


「あなた達は常に、金貨一枚で鉄一塊、と言った定額取引をする心算だったのではありませんか?残念ながら、損をするか売れなくなるかのどちらかですよ?

 物が余れば他所から安く買えます。高く買う必要は無い。

 物が足りなければ他所で高く売れます。買い手はぼろ儲けでしょう。

 どちらの場合でも、あなた達は損をした、騙されたと恨み、殺して仕舞う。」


「っ?!」


 心当たりアリアリですよね?だってあなた達は略奪品を売り捌いている筈です。

 武防具に限って言えば、物価を経験で理解している筈です。


「物価はあなた達の手の届かない所で、常に変わっているんです。

 物価の統制なんて、我がグロリエルどころかリカルド王国含め、世界中の国々で完全なコントロールは出来ていません。

 そんなものの責任を、あなた達は全て一介の商人が悪いと殺し続けていた。国が孤立するのは当然だと思いませんか?」


「で、ではどうすれば良いというのだ!」



「まあ物価に関しては色々な店を見て回って調べるしかありません。

 旅路の経費も商品には加わりますから、場所によって違います。


 コレ相場って言うんですけどね?税金のかけ方で調節したり、予め蓄えた商品を放出して数を増やしたりと。まあ色々苦労するのが国の役割です。

 確実な方法があったら私が教えて欲しいですね。


 ま、不確かな状況で試行錯誤するしかありません。比較的でも安定すれば交易が盛んになって国内に貨幣が増えます。取引出来る商品も増えますよ。」



「む、むぅ……。」


 あっさりと解説されると流石に冷静さを取り戻した様です。

 ジェメシス子爵が座り直し、周りも一旦冷静に。よしよし。


「食料に余裕がある時の貨幣は時に痛まない食料と同じ価値があります。

 貨幣に慣れない限り、子爵領が肥える事はありませんよ。武器や防具ならあなた達も相場も物価も知っている筈なんですけどね。

 貨幣を軽んじる相手と交易するのは、とても難しいんです。」


「武防具の価値はそこまで変わるまい。」


 お、戦士長食い付いて来ましたね。


「一度に売り捌ける略奪品の数は限りがあるでしょう?同じです。

 直ぐに胃の中に消えるから実感し辛いだけ。後、武装と違って直ぐに食料は無くなりますから変動も激しいんです。

 物価の変動のし易さは、無くなり易さと増え易さで見当が付きます。」


「う、うむ。そうなのか……。」



「そもそもあなた達、農業を軽んじてませんか?

 農作物を作るのは本当に手間です。時間がかかります。そんなものを捨て値で買いたがる相手に食料を売りたい者は無学な者だけです。


 先ず国内の農業従事者を増やさない限り、領内の意識は変わりませんよ?

 結局奪った方が早いと、誰かが暴走して交渉をぶち壊すだけです。


 この交渉も直ぐに破棄されます。我慢出来無くなった()()()()()手で。」



「「「…………。」」」


「我々と交渉がしたいのなら、あなた達には略奪抜きで生活する覚悟が必要です。

 私には、あなた達にその覚悟があるとは全く思えない。」


「「「…………。」」」


「略奪を止めた場合、あなた達にどれだけの生産手段がありますか?

 交易品以外でも構いません。」




(……これ、かなり貴重な情報ではあるまいか?)


 ランバード子爵は脂汗を掻きながら、少しでも聞き逃すまいとグロリエル令嬢の説明に聞き入っていた。


 そもそもコレ。先程から語られているのは領主視点、領地経営に必要な知識だ。

 本来自領の管理に必要な知識など後見人でも努めない限り、普通は余人に漏らすものでは無い。何故ならそれは、謀反後に必要な知識だからだ。


 領地がどの様に経営されているかを知らなければ管理は出来ない。勿論具体的な数字や特産品などと言った、要の情報は漏らしていない。

 だが考え方という点では非常に役に立つのが領主であるランバード辺境子爵には分かってしまう。というより、今とても詳しく知りたい。


(コレ、交渉の下準備にしては噛み砕いて話され過ぎでは?)


 あと絶対強欲伯の指金じゃ無い。有り得ない。アレは絶対教えない。



「……金属加工と、そちらも察している通り放牧している獣達の毛皮が主な交易品となるだろう。但し畜産関係は、気軽に放出出来るとは言い難いな。」


 おやおや、随分素直に打ち明けましたね。隠し立てするのは無理と判断したのでしょうが、流石に殆どが事前情報からの当て推量だったとは思わないでしょう。


 ふふふふふ。殆ど外国との取引が無い国の内情ですから、半分以上は会話で反応を探りながらの決め打ちでしたとも。


 惚けて脅している様に見せて、実は明言しておりません。後々どうとでも言い逃れる発言で誤魔化させて頂きました。

 外れていたらアラアラとすっ呆けながら肯定し、尤もらしい素振りで揺さ振って他の可能性を口にする。ただそれだけの誘導尋問ですとも。


 ですがこれは好機。正しく危機意識を持ってくれた証拠です。

 冷静に、冷静に話を進めると致しましょう。

 あ、このクッキー美味しい。一体何処で作……。


「……ま、マルガリータ?」


「はい。疲れた体には軽く塩味の効いた軽食がよろしいかと思いまして。」


「あ、ありがとう……。」


 あの。私、あなたを担いでいた筈で。手荷物とか……。


「…………あ。この際です。皆さんにも少し、味見して頂きましょう。

 少しで構わないので、お出しして?」


「賜りました。」


「あ、ああ。感謝する。」


 お皿が出て来てしまった。

 駄目。これ以上触れる勇気無い。

 皆さんも同じ疑問を抱いたらしく、口々に礼を述べてから少々無言でクッキーを摘まむ時間が流れました。


「……。あ?

 えと。薬草などは?高地であれば、平地には無い植物が生えると聞きます。

 少量であれば、貴重なものもあるのでは?」


 我に返ったので早速本命。というか最大の目的は条約のための長期契約、その為の長持ちする取引材料、ですからね。

 ジェメシスにとっては取引内容が大事でも、グロリエルにとっては休戦協定の方が大事なんです。正直多少金銭が懸かっても元が取れるならアリでしょう。


「生憎だが、自分達用だけでも足りんでな。

 他領に売り出せる程のものは全く用意出来ん。」


 来た!農耕チャンス!彼らには自力で産業を増やして貰います!

 平地の暮らしを甘く見る彼らに、土地を奪っても解決しないと実感させます!


「それ、栽培してますか?自然採取分だけだったりしません?」


「山の土は、平地の様に溢れる程の実りをもたらす事など無いわ!」

「棚田を作れば良いのでは?崖を削った家が作れるなら可能でしょう。」


「……え?棚田?……なにそれ。」

 ふむ、誰も見当付きませんか。では簡単に解説を。


「棚畑とでも言い直せば分かりますか?要は崖を削って小さくても水を溜められる程度の平地を作って田畑にするんです。

 一つ一つは狭くても、階段の様に数を増やせば収穫量は増やせます。

 雨風が手頃な場所を探すなり、水路で調節するなり工夫は必要ですが。」


「……一応平地の作物の栽培を目指した先祖は居たそうだ。

 土が枯れていて全ての試みが失敗したそうだ。」

 ご領主が慎重に口を挟みます。ですが記録は残って無いか、全部見て無いかな?


「鉢植え一つ無いのに?あなた達の略奪品に土があったとは思えませんが。」


 よしよしよし。とにかく彼らの反論は論破します。

 成果の出ない行為を他人からの強要でやれば失敗は全部相手の所為になります。

 本人達が望み、自分達のためだと工夫して貰わなければ。その為には彼らは感情論で努力していなかったと思い込ませねばなりません。

 彼らには、農業を必要として貰わなければならないのです。


「つ、土?土なんぞ奪って何になる?」

「山の土が枯れていると今言われたばかりでしょう?

 なら肥沃な土地の土で育てれば良いと、誰も考えなかったのですか?」


「略奪で畑を埋められる程の土が運べるか!常識で考えろ!」


「鉢植えでも少量の糧は得られます。薬草の栽培は鉢植えも多い。

 そもそも鉢植えで作物が育てられないのなら、畑以前の問題でしょう。

 ちゃんと手順は守ったんですか?作物にも種類があります。

 寒さに弱い作物や豊富な水が必要な作物以外にも、寒冷地や荒れ地で栽培される異国の作物を取り寄せましたか?」


「そんな知識、我々には無い!」

「自慢する事じゃありません。無知なら恥なさい。

 探させるなり知ってる者を雇うなり、工夫するのが上に立つ者の役目です。

 あなた達がやらない事を誰がやってくれるというんですか?」


「「「っ?!」」」


「だ、大体どこからそんな立派な土を奪って来るというのだ!」


「森の土ならそこまで危険も無い筈です。鉢植え程度の土なら気付かれずに奪う事くらい何時でも出来る筈。

 出来なかったでは無く、作物如き奪えば済むと高を括っていたのでは?」


「は、鉢植えで育つ程度の植物でどれだけの子が養える!」


「何を育てればいいか、何が育つのか。人に言われる前に先ず試しなさい。

 使う鉢だって一つに限る必要はありません。あなたの文句は只の想像で、失敗の記録がある訳では無いでしょう?」


「ぐぐぅ……。」


「勿論最初から棚田で試しても構いませんが、鉢植えで試しつつ少しずつ棚田に土を運び入れれば、作業中も試せます。

 今のあなた達が平地を奪ったところで、農業は平地の者にしか出来ませんよ?

 何故自分達が平地を確保出来なかったのか。

 あなた達に農作物が管理出来ないからだとは思いませんか?」


 さて。大体は論破し尽くしたと思いますが、どうですかね?



「……これまでだな。認めよう、我々は確かに努力不足であった様だ。」


「ご領主?!」


「事実だろう。我々はこの山岳で現状を維持するための知識しかない。

 領地を拡大するにせよ、領地を富ますにせよ、平地の知識を参考にしようとすら考えなかった。

 何せ彼女は、事前調査だけでこれだけ思い付くのだからな。違うか。」


「そ、それは……。」

「まあ……。」


(ん?これまで?)

 納得はして頂けたようなので、後は森の土と、農法も無い様なのでその辺の知識も対価にすれば、不可侵協定は結べ……。


「アザリア御令嬢に、領主としてお願いする。」

(ん?グロリエルじゃない?)



「我らジェメシス辺境子爵領は、四つの条件を対価にアザリア・グロリエルへ臣従をお約束致す!


 一つ!ご令嬢のもつ棚田を始めとした山岳地での農業技術の提供!

 二つ!農地分の土の提供!ただしこれは最初の計画に定める畑分とする!

 三つ!対ガンドール戦でのグロリエル軍の参戦!

 四つ!領地減少時の平地への避難又は移住!


 以上の条件に御不満や希望があれば、どうか先ずは御遠慮無く!」



「「「ななな、なんとぉ~~~~ッ!?!?」」」

「ってぇぇぇええええ~~~~~~~~~~?!」


「お、お待ち下さいご領主!」

「今しか無いのだ!皆も良く考えろ!」


 ランバード辺境子爵以外全員の驚愕と混乱の中で、彼は勢い良くテーブルに拳を叩き付け、声をあげた。


「グロリエル嬢の言葉には未来がある!我らジェメシスにとって必要な知識と、それを考えられる知性!彼女が我らに齎せる恩恵を、皆も思い知った筈だ!」


「「「っ?!」」」

「うぇえ?!」


 子爵の指摘に、皆の眼の色が変わる。


「ガンドールは我らの利益にならん!アレは只の脅迫者だ!

 連中は勝利を前提として過去から何も学ばず、何も成長しなかった!

 我らが今ガンドールである理由など、連中の方が数が多かったからに過ぎん!」


「そ、それは……。確かに……。」


「決断を先延ばしにすれば今以上の条件があるか?有り得ん!

 我々は間も無くグロリエルと開戦する必要がある!さすればどう転ぼうとも条件は悪化する!だから今日この場で交渉を始めた筈だ!

 今であれば、準備の整っていないガンドールとの戦いで、グロリエルと共闘する余地がある!」


「何より!我らの後の世代でグロリエル嬢以上に我々へ歩み寄ってくれる者が現れると、お前達は信じられるか?!

 グロリエル嬢以外を、強欲伯やその息子を、グロリエル嬢以上に信じられるか?

 次の交渉相手すら、グロリエル嬢になると決まっていないのだぞ!」


「「「はぁッ!?た、確かにッ!!」」」

「えぇぇぇ~~~~…………。」


 驚きです。というか同盟締結すら困難だと思ってたのに、臣従?

 え?もしかして私、チョロいって言われた?イヤイヤまさか。


 ていうか確かにそれが出来れば諸々の条件は解決しますが、というか受ける価値は同盟より跳ね上がってますが。

 正直農地計画まで実行に移してしまえば、がっつりと彼らの内政に関わる事になるのですから、ええと。流石に無償では無理でしょうから有償、あ。今ある採掘分を担保に土を運び入れれば良いんですね。いけそう。あれ?


 いやいや。そもそもジェメシスを守り切れるかどうかですけど。

 いえどの道ガンドールを止める兵力は用意しなきゃですね。となるとそこにジェメシスの兵力を期待出来るなら。あ、むしろ楽になるわ。

 防衛線を張るのは当然ジェメシスですよね。近隣への協力はその辺を軸にすれば説得も不可能じゃない?アレ、本当に全部何とかなりそう?


「如何でしょうか、グロリエル嬢。

 正直言ってこの条件は、あなたが居ないと承諾出来ない。あなたを抜きにしての契約であれば、こちらも同意しかねるとだけは明言させて頂きます。」


「そ、それなら……?」

「まあ……。」


 え?待ってコレ、皆歓迎ムード?全員私限定なら同意なの?

 何か皆姿勢を正して大人しくなり出したんだけど!


「え、えっと。流石に参戦の方は私の裁量を超えてますので明言は出来かねます。

 土の方は開拓面積に応じて購入という形を取れば、採掘量の範囲内で叶うかと。

 恐らく畑からではなく、森からの採取という形になりますが、無償では。」


「しかし、使ってない場所の土なのでは?」


「盗賊仕事の賠償費は出せないでしょう?臣従は敗戦とは違いますし。

 であれば現地人を説得する利益を約束する必要がある訳です。」


「なるほど。国だけでは駄目だと……。」


「畑を増やしても土が手に入るのは有難いですね。

 初期面積だけというのであれば、別の契約が必要でしたし。」


「連作障害と言った農業知識は私だけのものではありません。

 特に経験則は実際に農業に携わっている方の方が詳しいですからね。隣接領とは可能な限り和解すべきです。避難も条件に含めるのなら。」


「「「承知いたしました。」」」


 あれ、本当に反対意見出ないな。

 コレもう前向きに進めるしかないよね?


「では参戦以外の条件に対しては合意出来ると見てよろしいですね?

 最終的な結論は参戦の有無を確認してからという事で、現段階での交渉内容を書に記載させて頂きます。」


 紙にカキカキ。


「賜った。これで問題無い。」


 ジェメシス子爵に確認と印を貰い、私の印も押して仮合意の成立を記載。

 勿論同じものを記載し、片方は子爵に手渡しました。

 後は急ぎ帰国し、父の意思と実際に参陣が可能かどうかを確かめに戻ります。

 戻ったらクロバード卿は客人待遇に昇格し、返答と共に帰国して貰います。



 帰国道中。ジェメシスの方々と別れ、森を抜けると町を囲う壁がはっきりと。

 秘密の交渉なので、このまま裏門を目指します。


「……ねぇ。今回の交渉の流れ、絶対変でしたよね?」

 開門を待つ間にぽつり。


「「いえ。実にお嬢様らしい交渉だったと思います。」」


 よし、君らちょっと私と本音で語り合いましょうね?

※前日12/01日も投稿しておりますので、見落とし無きようご注意を。

※次回、12/08日の金曜投稿を致します。


 鬼が来ると思ってたら可憐な白百合が来た件。皆胸に注目しているのは素直に顔を褒められなかったからですw蛮族に片目とか偶に良くある案件ですので別に?

 商品の価値は人によって違うのだw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ