17.会談場所はジェメシス辺境子爵領です。
※続きは明日、12/01日投稿です。
あれから父は近隣の盗賊達を蹴散らすため、近場の町に駐屯しています。
お兄様は父に同行して今後の方針を打ち合わせ、そのまま学園へと戻って行きました。私はと言えば、父が連れてきた手勢に後を任せて表向きは次の町へ。
但し資材発注の為に若干時間がかかるという触れ込みです。
ジェメシスに関しては表向き無反応を貫くため、直接関わるのは私だけ。
交渉の方向性もクロバード卿には伝えてないだけで、合意の範囲も決裂時の対応も既に一通り決まってます。
尤も、表はともかく最終決定権は私にあるのは変わって無いんですけどね。
実際は父を代官として、私が方針を差配して許可を与えておりますので。ただ元の知識不足は間違いないので、助言役も兼ねさせてますが。
というか、裏で暗躍でもしてたら今でも切り捨てる気はありますよ?
でも何か「ここで邪魔するなんて絶対面白くないでしょ!」的な空気が父の全身から漂って来るんですよ。凄いワクワク感がもうね?
積極的に協力して来るから、切り捨てる理由が悉く消えたというのが現状です。
偶に父の顔に「あれ?何も罠仕掛けて来ないぞ?」的な表情がこのヤロウめ!
真面目にやってる人間を陥れる程暇じゃないんですよ!覚える事沢山で嘘教えてないから普通に評価するしか無いんですよ!
真面目にやった上ではしゃぐのまで罰したら、他の部下が伸びないでしょう!!
こほん。さてはて閑話休題。
本題に戻りましょう、ジェメシス辺境子爵領です。
川で船を守っていた盗賊達は、先日クロバード卿に説得して頂く予定だったのですが、ここで予想外な出来事が一つ。
『奪った物は返す。俺達が代わりの人質になる。だから伝令役は若にしてくれ。
どの道俺達の報告じゃご領主様は動かねぇよ。』
盗賊らしからぬ予想外の申し出でしたが、一理はあるんですよね。部下の手前、息子の命が惜しいとは言えないでしょうし。
まあここまで部下に言わせて見捨てる様なら将としての価値無しと、期限を七日に区切る形で承諾しました。侵攻が始まるか七日過ぎたら部下達は処刑します。
実際これ程の忠義者を返すのは厄介ですからね。
見捨てられたくらいで裏切るとは思いません。むしろ最後に少しでも故郷の役に立って死のうとするかも。その際は敵ながら天晴れと丁重に葬ると致しましょう。
とはいえ。
「どうやら約束を守る気はある様ですね。」
夜の森、国境際の川の水路前。例の侵入者を見失った場所の手前です。
下手に人手を介するより、人を使わない方が機密は守られるというものです。
現れたのは鎧を着た数名の戦士達。その中の一人は勿論クロバード卿です。
「当り前だ、と言いたいが。こっちも一旦捨てた予定だったからな。
日付は際どいが、六日目だ。人質は無事だろうな?」
「ええ勿論。相応しい身代金を払って頂ければちゃんと返しますよ。
彼らの食費だってタダじゃないですから。」
言外1。「身代金と引き換えですよ?」
「先に無事を確認させろ。」
口を挟んで来たのは顔を隠した中年騎士。兜というよりは面頬の様な防具で顔を隠した茶髭の方です。ですが、という事はまさかクロバード卿より身分が上?
「ここで信用出来ないなら交渉の意味自体無いでしょう?」
言外2。「身代金は商談の頭金、の筈ですよ?」
「我々は配下の関係ではない。そちらが一切譲歩する気が無いならこちらの利益になるとおもうかね?」
ふむ、随分直球の交渉ですね。しかし敵国の人間に信用を持ち出すとは。
「既に指揮官から部下で妥協してます。ここで信用する態度も見せられないならば交渉で提示される条件もその程度でしょう。
開戦直前に信用出来ない敵国の者と協力関係が築けるとでも?
元盗賊達を見逃す事は一切譲歩に値しないと言い切るのなら信用以前、今ここで開戦です。」
「っ!?」
ええ直球には直球で。お前達侵略者にデカい顔させるとでも?
この商談が決裂する意味を理解して貰わねばね?
咄嗟に武器を抜こうとした護衛達を、十人の護衛達を直接交渉している髭の騎士が手で制します。
ふむ。武器を構えるなら見せしめに何人か切り捨てる覚悟でしたが、そこまで自分達の所業を棚に上げてる訳でもなさそうですね。いや、というより?
「失礼した。確かにこちらは盗賊一味、国家間交渉をするのであれば悪印象を払拭するのが先であったな。我々が用意した品はこちらだ。」
髭の騎士は一振りの細身の剣を差し出して見せますが。
さっきから随分と裏の無い発言ばかりだと思ってましたが、これ身内への説得も兼ねてますね。これまさか、領主一族が強権で従わせた提案……?
まあとにかく差し出された剣は、鞘から見る限り曲剣の類。この地の文化圏では直剣しか見た事がありませんので、正直気になる代物です。
「これは……ッ!まさか、打刀?」
「ほう、まさかそこまで分かるとはな。その通り、これは古の古代文明で培われたという伝説の製法で造られた、刀と呼ばれる伝説の曲剣を再現した魔鋼剣だ。
繊細な代物故、完成品を魔導具に加工する事は出来ん。」
「まさか折り返し鍛錬と玉鋼の再現に成功したと……?!」
実のところ、現代に刀が無いと知ってからは領の職人達に作らせようとはしていたのですが。私自身が職人ではないため、経験に関わる全ては失われたままです。
失われた製法で作られた武器を譲渡する意味。基礎知識が無ければ不可能な開発も現物、完成品があれば別の話。見れば判る情報は確実にあります。
しかも刀は魔法の産物ではありません。技術力の産物です。
それを開戦直前の他国に披露する意味、決して軽くはありません。
(っ?!玉鋼まで知っているだと?!我が領の情報が漏れていた?!)
「ほう。玉鋼を知っているとは、中々に博識な御令嬢だ。
刀という武器は伝説を誇張した、創作物とすら言われているというに。」
「……そうですね。いえ、これは折り返しの回数はかなり少ない筈。
どうやら未だ完全再現には至っていない様で。」
「……!ほう、それは交渉成立の後に、是非とも聞かせて貰いたい話だ。
それで?その価値が分かるのなら、我々の本気度も分かる筈だ。」
(い、いや違う!折り返しの回数などこちらの記録には無かった!
そうか!古の記録であれば、むしろグロリエルにある方が自然だ!
つまり我々の資料は元々グロリエルからの略奪品であったのだ!)
「……いえ、流石に未完成品でそこまでの価値は。
せめてそちらの佩剣の一本くらいは加えて頂かねば。」
実際、値切るために失敗作を持ち出した可能性はあります。
さて。恐らくは唯一の護身武器、彼は即断出来ますかね?
「良いだろう。人質を返してくれるなら改めて会談の場所を決めたいところだが、生憎時間が無い。
前金代わりに明かしてしまうが、実はガンドールの侵攻予定は一月を切った。
我々の身内も一枚眼では無い。即刻方針を定めてしまいたいので君に全権が与えられているというのなら是非、このまま我々に同行頂きたい。」
佩剣を躊躇無く放り投げての提案です。残念、想定外では無かったようで。
「流石にその場合、会談中は御子息を預からせて貰いますよ。
勿論捕虜の方はお返ししますが。」
「クロバード卿、構わんな?」
「ええ、勿論です。」
残念。ブラフには引っかかりませんでしたか、大した問題ではありませんが。
後ろに合図を交わすと、彼らから死角となる洞窟の兵士が反応し、直ぐに捕虜達を連れて来させます。
若干彼らの若様が再び人質となった事に気色ばむ素振りがありましたが、今回は既に上役との意思疎通が果たされているので左程問題にはなりません。
というか私が行く代わりですからね。成否に関わらず帰って来る予定で、自分側は差し出せないとかギルティですよ。
「侍女を連れて行くつもりか?」
「あら淑女の世話を殿方に任せろと?」
同行者は護衛一人とマルガリータ。最大戦力が私なので、実は私が連れて帰れる人数なのは秘密です。正直ここでモーガンは流石に心許無いかな~?
護衛の皆はクロバード卿を連れて戻って貰いました。密かにガッツポーズしてたモーガンは戻ったらお仕置きかな~~?
「……うん。まぁ。では行こうか。」
お仕置き、確定かな~~~~?
◆◇◆◇◆◇◆
「なるほど、洞窟でしたか。確かにこれなら秘密裏に我が領に侵入出来ますね。」
アザリア・グロリエルと名乗った美少女は、まるで動じた様子も無く一同の後に続いている。その癖自然体で周囲を警戒しているのだから、油断も隙も無い。
どうにも見た目と年齢がそぐわぬ、違和感だらけの少女だった。
時に身内の失態を恥らう判り易い反応を見せたかと思えば、躊躇無く敵を切り捨てる苛烈な振る舞いを迷わない。なのに常に笑顔で、常に慎重で。
誰一人当てにせず、誰一人並び立たぬような、全てを背負う様な覚悟の眼差し。
髭の騎士ことランバードは、今回の一件を図りかねていた。
実の所、ジェメシス辺境子爵領の者は、ガンドール王都を好意的な目で見ている者はいない。何故なら彼らはいつも搾取し、上前を跳ねようとするからだ。
はっきり言えばジェメシスの者は皆、ガンドールである事を快く思っていない。
元々ジェメシスとガンドールはどちらも山岳地方に住まう部族に端を発し、平地には数で追い遣られた、どちらも辺境の蛮族と罵られた少数民族だった。
数十の部族が争い統廃合を繰り返し、平地に対抗出来る数には中々育たず。
気が付けば平地には王国が生まれ、金属を求めて侵略を受ける側になった。
外敵に対抗するために連合を組む様になり、やがて数部族になった辺りで個々の部族が平地に対抗する様に王家を名乗る様になり。
最終的に平地とは基本接しないガンドールが最も力を蓄え、支配者となった。
そして最大の問題はここにある。ガンドールはジェメシスの勢力圏に手を出さず数による恫喝で下して統一王国を名乗った。
建国以来リカルドとの国境は全て、ジェメシス領と定められている。
ガンドールが自国だけで満足出来るのなら、然程問題は無かっただろう。
だが統一王国となったガンドールが国土を維持する兵力を保つには、余りにガンドールという国は枯れていた。
ガンドールという巨大部族を維持するには、平地に活路を求めるしかなかった。
故にジェメシス領は常に尖兵であり、最初に反撃を受けるのもジェメシスだ。
そして既に、ジェメシス単独では一切リカルド王国に対抗出来ない程の戦力差が開いていた。故にリカルドの侵略を防ぎたいならガンドールに頼らねばならない。
これにジェメシスが不満を示せば、略奪先がグロリエルからジェメシスになる。
ガンドールはジェメシスになら確実に勝てる。もしリカルドに隙を狙われても、ジェメシス領を盾にすれば良い。
ガンドール兵はジェメシスの外で防戦し、全滅した後で消耗したリカルド軍を相手に圧し返せばいい。
後は新しいジェメシス辺境子爵を任命し直せば元通りだ。
だからジェメシス領の者は、一番略奪の恩恵に授かれる代わり、殆どが戦死するという運命にある。故にガンドールは常に味方に付け続けなければならない。
どれだけ理不尽に感じようとも単独でガンドールを支配する力は無く、略奪で国力を削ろうにも、ガンドールはジェメシスと同程度には枯れている。
削れる人材の対価として得られるものは、支配兼以外何も無いと言える程度には山地の者同士の戦いは不毛なのだ。
だが一方。世代を重ねるごとにリカルド王国は平地の他国と深い繋がりを得て、ガンドール王国に対する関心を失いつつあった。
リカルド王国は国境に堅牢な砦を築いて、自国への侵略を防ぐだけで満足する様になっていたのだ。
恐らくガンドールはこの頃既に、時代遅れの存在になりつつあったのだろう。
かつては総力戦だったリカルド王国は、今やガンドールが本腰を入れない限りは傍観する様になっている。
今の所はガンドールの力を借りればグロリエル相手にも五分の戦いが出来、略奪の恩恵を確保する事は出来ている。
だが先祖の頃はグロリエルを突破出来ていたと聞いている。
祖父の頃は国境をどれ程迅速に突破出来るかで略奪量が決まったという。
前回は今代のグロリエル辺境伯相手に、奇襲を受けて大敗した。
今までは盗賊仕事の小競り合いで国力を立て直して来た。
だがそれで回復するのは人口だけ。失ったもの以上を得るためには、領地を奪い死守出来なければ何も変わらない。
単独でグロリエルを防げる国力は、ジェメシスには無い。
幾筋かの分かれ道を経た天然洞窟の先は、採掘用の坑道に繋がっている。
ここを最初に見つけた時、最初は安全に盗賊仕事が出来ると思った。
けれど直ぐに冷静になった。所詮出口を発見されるまでの話だと。
「結局、動じるどころか弱音一つ吐かなかったか。」
洞窟内とは言え実質数時間の山登りだ。御令嬢には辛い道中であり、事実侍女は館に着いた時は疲労困憊で、背中に背負子で担がれていた。
だが担いでいたのは御令嬢本人だったのだから驚きだ。
護衛の騎士に手を空けさせたかったのは判る。だが結果として一番疲労したのが主人である御令嬢だ、神聖魔法で回復させていた様だが万全の筈も無い。
何より終点が分からない道中で、励ます事はあっても弱音を全く吐いていない。
「強欲伯の娘が無能とは思わなかったが、厄介な相手だ。」
坑道から目撃者無く辿り着ける洞窟を改造した館。それが今回の会談場所だ。
ガンドール地方は総じて急勾配の山脈が多く並んでおり、何より土に問題があるのか碌な木々が育たない。
殆どの家が此処の様に硬い岩肌を繰り抜いて作られているのだが、今回の様な時には都合良く働く。
「親父!グロリエルの白髪鬼を連れ帰ったっていうのは本当か!」
扉を勢い良く開け放った息子にランバードは苦々しい顔で睨み付ける。
「騒々しいぞバルベルド。御領主、または領主様と呼べと、何度も言ったぞ。」
「兄貴?!これが黙っていられるかよ!
コルネリウスを殺した女がこの国を我が物顔で歩いているんだぞ!」
「黙れと言っている!これは領主である父上の決断だ!
自分だけが敵を憎んでいると言わんばかりの貴様に父上の苦悩が解るか!!
せめて私並に戦友を失ってから言って見せろ!」
怒鳴り返したのは共に会議場を訪れた長男だ。頭では理解していても感情が納得し切れていなかった所為で、余計に激高し易くなっている様だ。
だが流石にこれ以上は不味い。内心で溜息を吐きながら
「止めよ、ランベルク。臣下を生かすのが領主の役目だ。
臣下の死を望むかに聞こえる発言など、冗談でも口にすべきでは無い。」
「っ!……申し訳ございません。」
怒りの眼差しで威圧すると、腰が引けた二人は慌てて謝罪する。とは言え次男のバルベルドは渋々と言った態度が拭えない。
継承権が弟クロバードに抜かれた所為か、最近は益々武芸以外に興味を失いつつあるという報告が上がっており本当に、頭が痛い。
「バルベルド。領主一族が屈辱に振り回されるな。
一度の戦で百の部下と全滅して雪辱を晴らす将など只の無能ぞ。
一度目に三十の犠牲で引き、二度目の戦で五十の犠牲で雪辱を晴らすのが主君の役目。貴様一人の屈辱で民が救えるなら安いと知れ。」
「何でだよ!」
「クロバードは三十人を生かして返したぞ。」
「……!…………ああくっそ!」
三人の兄弟仲は決して悪くは無い。そして弟の成果も無下にはしない。
白髪鬼ことグロリエル令嬢が来たという事は弟が再び囚われているという事だと思い出したバルベルドは、弟の身を案じて漸く自制を試みる。
バルベルドは武人としては大柄な見た目通り領内でも抜きんでており、部下からの信頼も厚いが反面、余りに直情的で策に弱い。領主たり得る器ではない。
皆と相談し、弟であるクロバードと継承順を入れ替えざるを得なかった程だ。
ランベルクも適性こそあるが、皆を勇気付ける気質に欠ける。
三男であるクロバードが最も領主に向く反面、奴が補佐をする限り兄弟は上手く回るだろう。その末子だからこそ好機を掴んだのであれば、無駄には出来ない。
口論の間にも続々と戦士長達と長老方が会場に集い、十五名程の代表者が揃う。
ジェメシスは今も氏族時代の名残を若干残しており、領主家を頂点とした半合議制というのが近い。役職は家ごとに決まっており、それぞれが旧氏族の末裔だ。
強権を振るえる程度の信用はあるが、先々の事を考えれば全員の賛同が欲しい。
(さて。出来れば御令嬢が説得に回ってくれれば良いのだがな。)
グロリエルがどの程度こちらへの飴玉を用意しているか、それを見極めねば商談も何も無い。あの油断も隙も無い強欲伯が何の用意も無く応じる筈も無い。
あの強欲伯が全権を任せた娘が、容易く譲歩してくれる等と思わない。
加えて。この場に居るのは自分を含め散々グロリエルに煮え湯を飲まされ続けた連中ばかりだ。昔なら勝者が糧を得るのは当然と思う者が多かった。
だが今の面々はグロリエルが動けないのはあくまでリカルド王国の都合だという事も概ね理解している。
理屈は判るが、感情が追い付かない。それが殆ど全員の共通認識。
「全員揃ったようだな。それでは客人に来て頂くとしよう。」
※続きは明日、12/01日投稿です。
ガンドール王国ジェメシス辺境子爵領です。
グロリエルはリカルド王国グロリエル辺境伯爵領。
どちらも命令される側、という共通点。




