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12.先ずは証拠集めと参りましょう。

※SAN値直葬注意報。犯人視点です。

 犯人が気持ち悪いので、無理な方は脳内で美男美女にでも変換しておいて下さい。

 生理的に無理という言葉の意味を魂で感じて下さい……(吐血。

代官モブーダは典型的な小悪党だ。上には全力で媚を売り、下には程々に威張り散らす。程々なのは反抗された時に抑え込めないと分かっているからだ。


 更に言えば、この辺境伯領は実力主義。B級冒険者などざらにいる。

 B級のいるパーティを抱え込まねば町を名乗れないと言われる程で、町の衛視団は引退冒険者にとって理想的な職場だと言われている。


 何が言いたいのかと言われれば、貴族に求められる武力とは自分自身とは限らないという事だ。モブーダは学園在学時にEランクの魔物を狩って以降、素振り以外で剣を振るった事は無い。腹の大きさも当時の倍くらいに膨らんだ。

 本来であれば、下級貴族憧れの代官職等になれる才覚など全く無いのだ。


 だが代官職はピンキリだ。王国の直臣は従二位とかがざらにいる中堅貴族にしか届かない高根の花だが、各領主の陪臣であれば一回りランクが下がる。

 加えて主要都市では無く小都市ならば。上手く立ち回れば従五位の底辺貴族にも採用枠が回って来る事がある。


 一応泥棒の捕縛とかで手柄自体は立てていたのも幸いした。後はコネと賄賂、同情を引く嘘でなんとか、ギリギリ。試験を真面目に受けるなんて馬鹿ですよ。


 所詮五年任期だが、上手く勤め上げれば最長十年。給料は平役人の三倍だがそれ以上に副収入がある。そう、賄賂である。見逃し賃である。


 だが辺境伯領は実力主義だ。不正に対する罪状は他より重いし、義務を怠ると不正に関係無く処罰、最悪処刑もある。あれ?これも不正扱いだったか?


 だがこれも何とかなる。要は共犯である。治安維持のために冒険者ギルドには特に予算を増やし、商売関係で気持ち増税。ギリ裁量権内で町の評判は確保した。

 後は如何に、記録を残さず私腹を肥やすかだ。モブーダは他にも随所に勘違いで済みそうな隙を作り。


『あれ?これワシが管理しなければ部下の所為で済むんじゃね?』


 コレだ!有能な部下達に仕事を振り分ける際に曖昧な支出項目を作り、如何にも目分量で勘定したかの如く見せかける。発覚しなかったので面倒になった。

 のでその辺も部下に任せる様になった。手抜き万歳。任期は未だ二年ある。


 そんな最中、領主の娘主導で公共事業を始めるという連絡が来た。

 要らん出費が増えるかと思ったが、ちゃんと対応する限り損も無さそうだ。

 曰く各地への梃入れなので、真剣に取り組めば領内全体の税収が増えるという。


 説明に現れた領主の娘は雪の様に白い長髪を細帯で飾った美しい少女で、しかし片目が潰れていたり腕を魔導具で補っていたりと、成程その美貌とは裏腹に明らかな傷物物件だった。

 夢見がちな話に対応させられるのは迷惑だと思ったが、辺境伯の娘に媚びない等男が廃る。声も良いし、何というか近くにいると凄くいい匂い。


 まあ多少の我が侭なら付き合っても良いかと話半分に聞いていたら、その実態は思いの外力技だった。

 何あれスゲェ。あの美少女が一人でアレ作ったって言われても無理あるわ。

 お嬢様の作業現場を見たって連中も基本冒険者かお嬢様の配下連中ばかりだ。

 まあお嬢様の手柄にするよう申し含められているんだろう。当然だ。


『はっはっは。お若い内は色々な事に興味をもつものですが、流石にお嬢様が見ても分からないかと思われます。』


 だが最大の問題はお嬢様が町の監査も兼ねており、現在の町の税収と諸々の内務の書類を提出するよう求められた事だ。ヤベェ去年の書類とか見た覚えねぇぞ。


『韜晦は結構。昨年の徴税記録を私が見ずに来たとお思いですか?

 何処で管理しているのかを案内するだけも出来ないのなら、あなたは代官として職務を果たす気が無いと報告させて頂きます。』


『おお、お待ち下さい!一部の書類は確認のために持ち出しているのです!

 必要な書類なら持って来させますので少々お待ちをォ!』


 何それそんな権限与えられてんの?!ていうかガチの査察かよ?!

 しょうがねえ、とにかく表向きの書類でこの場を凌ぐしかねぇ!これでも査察に備えて偽帳簿くらい用意しているのだ。清書前の仮書類という建前でな!


『……駄目ですよ?コレ必要事項全く記載されてませんよね?正規書類は?

 少し口頭で確認しましょうか。あなたの領地なら把握してますよね?』


『ぶぶぶ、部下に纏めさせているので現段階ではその程度なんです!

 報告時にはきちんとした書類が出来上がってます!』


『中間報告や月報告もありますよね?そちらも用意出来ないと?

 では去年と比べて今年はどうですか?』


 追及される度ボロが出た。アカンて、コレ正真正銘の秘蔵っ子じゃねぇか!

 絶対ワシより詳しよこの人!ていうか農業だけじゃなくて商業もかよ!

 え?畜産?自警団の練度?対費用効果?騎馬の数?全部分からねぇよ!


 小さくは無いのにイントネーションが囁く様な声音は、耳を心地良く擽って子供の戯言と聞き流せない。強過ぎない叱責が背筋をゾクゾクと刺激する。

 凛とした声量は正確に言葉を伝えて、質問の隙間に挟まれる補足は判り易く自分の無知を指摘してくれる。年下の叱責が此処まで逆らい難いのは初めてだ。


 いや待て冷静になれワシ!ぁあんお嬢様の目が何かに目覚めそうなくらい冷たくなってるちょっと興奮するぅ。ていうか何で馬鹿正直に答えてるんじゃい!

 もうちょっと取り繕えワシ!賄賂とか役得とか普通に気付くぞこのお嬢様ぁん!

 ヤベェヤベェヤベェ!正直に答えた時の表情が微妙にかぁいくて嘘が付けねぇ、ていうかもぅ素直に白状してこの微妙に純情なお嬢様の顔を堪能してりゃぅ!


『……あなたじゃ話にならないので担当者を呼んで下さい。』


『は、はぃい!ただいま!』


 あ。墜ちちゃう。この羽の生えた様な気持ちにワシ墜ちちゃう。



(うわぁ、ちょっと本気で気持ち悪い。もう少し取り繕ってくれませんかね?)


 大の大人が猫撫で声で頷く様を繰り返されて。私アザレアは今、心の底から帰りたいと思っております。凄まじく気色悪いです。くねるな。


 呼び鈴で呼び出された腹心の方も引きつった笑顔で耐えているものの、正直話に集中し切れているかと言われれば怪しいもの。

 私達は必死で執務室で椅子を温めていられないこの変質者から目を反らそうと、実務的な確認作業を進めています。


「ええ。この町の税収で一番比率が高いのは商業権ですね。次に多いのが住民税、田畑による税収は今までは三番目でした。」


「……住民税が二位?この町の定住者はそんなに多かったかしら。

 住民税は単独の税じゃないでしょう?ちゃんと内訳を説明して下さい。」


(ま、待て駄目だ思い出せ今まで接待させてきた美女達の痴態を!子供には似付かわしくない大人の曲線がワシを待っているというかメロンかな?メロンじゃろ?

 いやデカいな!お淑やかな空気に惑わされておったが今まで連れ込んだ女達すら割と霞んじゃったら抵抗出来んじゃろ!い、命の危機だ!それを忘れるな!)


「ええぇと。そ、それでですね?門の通行税はこうなっていまして。」


 聞き耳たてながら悶え続けているのは本人にとっても不本意なのか、露骨に胸を凝視して頬を赤く染めながら必死で頭を巡らせる姿は、ええ。もうかなり色々な意味でキツいです。それとなく手で胸周りを視線から庇いますが。


 腹心さんも変態代官の惨状から目を反らし切れず、語調は乱れて額に脂汗を浮かべ始めました。うん、誘導尋問し易くなって助かってるわ。

 でもキモいものはキモいし呻かないでお願い。


(や、やだぁ!ドン引きされた表情そそるぅ!無視される罪悪感が超心にクるのにもっと色々な表情がみたくなるぅ!)


「こ、この農場は全ての町で建造されるとお聞きしましたが、最初の収穫が上手く行かなかったとしても、秋には例年を遥かに上回る収穫が予想されます!

 相当な値崩れが予想されますが、その対策は考えておられますか?」


「ぜ、税収を超えた分の米と麦は量を問わず九割値で買い取ります!

 農地の六割の生産物を指定したのはその為ですから。」


「?そ、それは来年度以降もですか?一体何故ッッッ!ぅおほん!ゥオェホン!」


 漏れた呻きについ視線を向けてしまった腹心さんが恍惚とした表情で悶える主人を目撃してしまい、それでもギリギリ咽せた振りで耐え凌ぎます。

 彼の尊い犠牲のお陰で私は危うく視線を背けるのが間に合いました。


「来年は生産量を見ての判断になりますが、一番は保存食、加工食品を増やし全体の食料価格を下げる事にあります。

 現在殆どの庶民は冬場の食料をギリギリでしか確保出来ませんが、せめて半年、可能なら数年保管出来る食料が今より易く出回っているとしたら。

 飢饉の餓死者は激減する。そうは思いませんか?」


「な、なんと。で、ですが。食料価格が下がれば農民の収入は減る。

 農民はその恩恵を享受出来ないのではありませんか?」


(く、くふぅん!な、なんて凛々しくふつくしぃ!)


 机に突っ伏しながらあられもない声を上げる代官に、思わず拳を振り上げる腹心さんでしたが咄嗟に拳を両手で掴んで首を振り、彼の自制を促します。


「一家に与える耕作面積を通常より広くとって貰います。

 今いる農家を一部移住させて空いた土地を分割して現行農家達に分け与え、農園の農家は初年度の収穫を全て開墾経費として税収外とします。」


「!で、ではその分の収穫物を本領の税と一緒に売却する事は?!」


「城へ持ってきた分を量問わず、全てです。納税分以外は、誰がを問いません。

 勿論混ぜ物や低品質の作物は含まれませんので、租税と同品質を保つ様に。」


 どうやら腹心さんは私の意図に気付いたご様子。

 ええ、地元で売却すれば値崩れは確実でしょうね。つまり実際には大部分が城に持ち込まれる事でしょう。


 因みに輸送費は労役扱い、代官負担ですが初年度の収穫量が多ければ多い程輸送費のみで売却が出来、元が取れるという訳です。

 農家単位の仕事量は増えるでしょうが、冬場の蓄えに余裕が出来れば段々生活も楽になると思いますよ?


「という訳で、土地ごとの最大収穫量は事前に算出しているんです。

 増やした農園からの収穫物に対し、資金が足りないでは困りますから。」


「ぶふぅ!」


(ば、バレてる!こっそり隠田作ってるのバレてるぅ!

 エッチな賄賂どころか裏金の作り方まで色々バレてるぅ!)


「っ!い、いえ。新規分は全て出揃ってないだけで、足りない訳では……。」


「足りて無い筈ですよ?書類の数。新規開拓の届け出は報告に有りませんもの。」


 唐突に話を戻すだけであら不思議。ビクビク悶えて呻く、嘘発見器のお陰で腹心さんの努力は全て水の泡です。

 悔しいでしょうね、辛いでしょうね。でもココまで真っ黒なんですから追及は手を抜きませんよ?




「わわワ、ワシは我にぃ返ったぞぉぉぉ~~~~!!!!」


「いやアンタようやくかよ!」


「そこ五月蝿い!貴様、自分が平民だという事を忘れてはおるまいな!」


「も、申し訳ありません取り乱しました。

 旦那様はよほどあのお方がお好みだった様で。」


「ふ。思い出させるな、正直余韻でもヤバい。

 それよりも問題はワシらの悪事が大体全部バレた事だ。このままでは全て知られるのも時間の問題だ、そうなれば死刑は免れん。」


 ワシも大概自滅だった自覚はあるので、腹心の失態を詰る心算は無い。

 だがこやつも事実上の共犯なので、裏切る心配は先ず無い。

 となると問題は何処までやるかだが。


「……くぅ!兎も角証拠を全て隠せば何とかなるか?」


「いえ。そもそも帳簿の不備がバレているので無理です。書類だけの確認ならミスで誤魔化せるとしても、聞き取りまでは隠せません。

 商人なら賄賂で口を閉じるかも知れませんが、農民では……。」


「うん?金の問題なら只の失脚で済むだろう?

 隠し財産がバレなければ平謝りしながら処罰を受ければすれば済む話だ。

 問題は最近始めた密輸の黙認の方だ。こっちは死刑もあり得る。」


「は、はぁ?!聞いてませんよそれ!」


 え?何言ってんだコイツ。いやそう言えばコイツ、接待の時は見張り役で商談に立ち合わせた事は無かったか。


「む、まあ現場には居たから同じだろ。貴様も取引の傍には居たんだからな。

 それに最近この辺を騒がしている夜盗共の件、こっちにも探りを入れて来た。」


「だ、旦那様?夜盗が何故我々と関係が?」


「む?何を言っとる。夜盗共がこの町を荒らしとらんのはワシが連中の盗品売買を見て見ぬ振りしているからじゃろうが。

 お前あの商人達がどれだけワシに貢いでいるのか知らんわけじゃあるまい?」


「あ、あの連中夜盗と繋がってたんですか?!

 ていうか連中羽振りがいい理由って我々だったんですか?!」


 頭を抱える腹心だが、おかしいな。確か連中の隠蔽にはこいつも関わっていた筈なんだが。あ、もしや闇市の許可だったとでも思っていたのか?


「あ、貴様まさかアレがただの商人主導の闇市だったと思っていないか?

 アレは近隣のアホ盆共が結成していた、近くの町の商人衆と裏で手を組んで邪魔な商人達を襲うための夜盗団だぞ?

 まあワシが関わっているのは賄賂分の黙認だけだが。」


「いやいやいや!それ黙認で済む範囲じゃないですよ?!

 ていうか代官様が着任後ですよね!あの夜盗達が派手に荒らす様になったの!

 それって以前は大した規模じゃなかったって事じゃないですか?!」


「だからヤバいって言ってるだろうが!

 ていうか盗賊団が何処までやらかすかなんて予想がつかんわ!ワシの任期中さえ凌げれば何の問題も無かったんじゃい!」


「どどど、ど~~~するんですかッ!!犯罪の隠蔽なんて専門外ですよ!」


「えぇい役立たずめ!案の一つくらい出さんかい!

……いや、最早一刻の猶予もならんか。こうなればあのお嬢様には消えて貰うしかワシらの生き残る目はあるまい。

 おい貴様、今から言う所に行って夜盗団に領主の娘を襲撃させろ!

 町中なら警備の人間も最小限の筈だ!」


「い、良いんですかそんな事!」


「ダメですよ?」


「五月蝿い黙れ!ここで始末しないとワシが処分されるのは確実なんだぞ!

 貴様の意思など聞いてない!ワシがやれと言ったらやるんだ…………?」


 顔を上げると腹心が両指を自分の口に突っ込んで、ガタガタ歯を鳴らしてる。

 どうやってんだと疑問に思いながら、視線を追って後ろを振り向く。


 半開きの扉を掴んだ、()()()()()()()()()白髪美少女の顔半分があった。


  ◆◇全部自業自得だったよね?◇◆


 結論から言って絞首刑でした。

 もう全部自白済みだからね。人が退出直後に大声出すものですから、扉越しでも聞こえてましたよ。証拠以前の問題だったわ。

 目の前で犯罪計画練られたらもう、現行犯逮捕しかないじゃない。


 という訳で楽に死にたいならと全部白状して貰いました。

 拷問の必要すら無く全てベラベラ喋ってくれたので、取り敢えず父に報告をまとめる傍ら、汚職商人達は一斉検挙ですよ。


 え、そんなに役人いたのかって?証拠は揃って全員町にいるんだから、捕縛だけなら私一人で充分ですよ?自害されない様に両腕掴んで口を塞いで。

 後は十数人の捕縛役が居れば順番に牢屋に鮨詰めにするだけで十分でした。


 牢屋数足りて無かったから全員一晩立ちっぱなしになったけど、個別の尋問では一人として嘘を吐こうとしなかったのは。

 何ででしょうねぇ?

※前日11/03日投稿しておりますので、見落とし無きようご注意を。


 ミステリーかと思った?残念だったなぁッ(肺結核

 この物語は全力で勢い重視ですw

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