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11.派手に行きます開墾事業。

 最初の農園作りから早十個目。

 無数の黒く細い腕が空に伸び、次々と根っこごと引き抜いた樹木を掴んで門の傍まで運んで来ます。

 門の傍らには切断待ちの樹木の山と、分解し乾燥するまで放置する丸太の山。

 魔物の解体も一段落しており、これで農園内全ての樹木が抜き終わりました。


 流石にこれだけ繰り返すと周りも馴れて来ましたね。驚くのはあくまで現地から労役で駆り出される住民だけで、既に護衛や冒険者達も手分けして説明しつつ早々に作業に取り掛かります。

 納得するまでゴチャゴチャ話すより、仕事させた方が理解も早いと。


 勿論最初からこんなにスムーズに話が進んだ訳ではありません。

 最初の町では一旦長方形の塀と堀を固め終え、全ての木を引き抜いて中の魔物を掃討し終えてから漸く門を作って。

 概ね完成したところで父に現場を見せて。この後どの様に中を活用するかを説明して理解を得る必要がありました。


 現物を作る前に説明出来なかったのは、単純に私自身がどの程度の魔力量を有しどの程度の作業が出来るのか。実際に体験してみないと分からなかったからです。

 流石に私の全力を破壊魔法に費やすと色々危険ですから。

 こうした実用的な作業を通して魔法に慣れるのが一番安全かつ楽だった訳です。


 ただ一方で魔法で土木工事をしたのは大分驚かれましたね。そもそも攻撃魔法をこの手の作業に応用するのは本来有り得ないご様子。


 そもそも魔力は言わば、貴族の武力を示すもの。民の労力で賄える作業のために使い切る事など有り得ないというのが常識だそうで。もしかして大砲を日常で使う様な感覚なのかなと文化の違いを思い知らされたり。


『ですがこちらの方が手早く費用も少ない。

 生産量の底上げとしては十分かと思いますが?』


『ふははは、そもそもここまで派手な事が出来るならワザワザ出し惜しみせんでも格の違いを見せつけられるわい。

 税収が増えて貴様が恥と思わんのなら。ま、存分にやるが良いさ。』


 当初の予定と違う点は、家臣達に見せるために私の護衛役として同行する騎士達は毎回入れ替える様になった事でしょうか。手配は父がやってます。


 どうも私が突然一年前から後継ぎ候補に浮上した事に反発を抱いている層を中心に見せている様ですね。曰く「これを見て飼い殺しとか馬鹿だろう?」との事。

……何か能力以外の面を前面に押し出されてる気がするのは気のせいですかね?


 因みに本邸入りした前夜の拘束劇が私の仕業だともそれなりの人数気付いた様ですが、今回館に侵入した人に化けた魔族を倒す為だったと、家臣達に表向きの通達がなされました。

 建前上ですが、館内に魔族が侵入していない事が確信出来たので公表したという形になってます。


 実は一度だけ父に魔族が接触しに来てます。彼らには私に皆殺しにされ服従を強要されたと告げ、私の存命中の接触拒否と気付かれる前の逃走を要求しました。


 私も気付いたので、密かに〔遠目〕で監視してたんですけどね。

 今後の為に『警告の為に見逃してあげる』と声だけ届け、帰還中の一人を処刑し残りは逃げるに任せました。ええ、不信感バリバリだった魔族達も即座に領地外へ全力逃亡致しましたとも。以来侵入の様子はありません。


 こほん。話が脱線しましたね。

 兎にも角にもこれで開墾の障害は無くなった訳です。

 因みに住民達の反応は最初ビクビク、しかし掃討した魔物肉の大盤振る舞いと大量の引っこ抜いた樹木を解体費用として町の取り分とする事で嬉々として賛同、という流れが出来上がって参りましたね。

 あ、流石に皮や魔石等は私達の取り分です。元々討伐自体は私ですしね。


 町の住民達も私の呪いの事を聞くと大体怯みますが、実用性を見せて利益を振る舞えばまあ恐々としつつも文句を口に出す事は在りません。仮にも領主の娘です。

 不満はあるでしょうが態度に出せる身分では無いと思い出してくれますとも。


(ま。全面的に受け入れずとも、黙認するのなら大成功ですからね。)


 私に従う事に慣れて頂く。これが裏の目的です。他所で逆らわれたら流石に処罰一択ですからね。後日人前に出た時に即襲撃などされたら目も当てられません。

 瑕疵はあるのですから下手に隠すより、行動を抑止する事の方が大事です。何せ学園には必ず行かねばならないのですから。


 え?抗議して来たら?えぇ!私隠してませんでしたよ?今まで抗議して来なかったのに何言ってるんですか!散々噂になったでしょう!えぇ?他領の事なんて知らない?そんな、あなたの無知を自慢されても!教会だって知ってるのに!


 オホホホ、詭弁とはこの様に使うものですよ?他家の問題に口を挟む様な貴族は自分達の後継者問題にも口を挟んでくれと言ってるようなものですよねぇ?

 とまり。領外へ出るための下準備は概ね順調という訳です。



 この追加農園の建造は一応全ての町で行う予定です。最大の目的は生産量の向上ですが、そうすると困った問題が恐らく今年の収穫期には発生するでしょう。

 経済に詳しい方は気付きますよね?過剰供給と値崩れです。


 とはいえこの辺は長期保存食の大量生産を行うための必須事項。

 今回稼いだ魔石やらで大型工房を立ち上げ、私が把握している加工食品を生産させるので解決の目途は最初から立っております。

 まあその分。


「やる事が、多い!」


 手順の説明、試作品の実践。工房側の人材を集めるのも一苦労ですが、彼らには未知の食材加工に挑戦して頂きます。しかも開発結果だけ他領に漏れたら大損ですので引き抜き対策も重要、加えて私を侮らない人材として。

 母の実家、タムリン子爵家の人材の大量投入です。ええ農園と同時進行ですよ?


 昨日の仕事は今日と無関係。いえ厳密には半日後に壁作りしたんですが。


「お嬢様は普通に現場監督なされてますけど、一体何処でそんな知識を……?」


 この手の質問は大体モーガンと相場が決まっていますが、珍しくもマルガリータが戦々恐々とした表情で口を挟みます。


 彼女は侍女長なのにしれっと付いてきましたね。と言っても外出の度に常に同行を申し出ている彼女なのですが、今回は何故か黙っていられなかったご様子。

 打ち合わせ中の天幕の中で、当たり前の様に紅茶を出します。あれ?


「あら気付いて無かったの?あなたは私の前世を知っているでしょうに。」


「?それはどういう……。」


 何処から紅茶を出したかは忘れましょう。平常心でカステラを一摘み……。

 うん。教えた私が言うのも何ですが、多分家からの持ち出しですよね?余り長く保つお茶請けじゃない気もしますが。まさか民家の台所借りてる時間も無し。


「かつての我が領は長年の戦火を漸く脱した、言わば被災地でした。

 ですが当時の領主夫妻がどの様な性格であったかは説明したでしょう?

 では誰が復興の音頭を取ったと思います?」


 あの前世の両親が如何に幕命だろうと復興に取り組む筈が無いんですよ。

 つまり今やっている事は全て前世の私が散々あの手この手で許可を取り付けた、言わば昔取った杵柄な訳です。

 幾ら武力で屈服させたとはいえ、今の両親は本当に遣り易いのなんの。


「な、なるほど。随分多芸だとは思いましたが、そんな理由だったとは。」


「大体の産業には関わってますよ?自分が出来るかはともかく概ねの仕組みと手順を確認出来る程度には把握してます。」


 両腕を捧げた後も馬に乗れる内は現場を回ってましたからね。流石に片目になると騎乗もままならなかったので、城内で書類を扱うだけになりましたが。


 それでも足や口である程度の書き物は熟せる様鍛えました。その時の苦労を考えればこの程度の手間は……。ゴメン、やっぱり仕事量多いわ。

 当時は何だかんだと言って書類仕事を補佐出来る臣下は最初からいたので。

 今はちょぉっと分担したり覚えて貰うまで最終全部自己負担私かなぁ~~……。


   ◆◇◆◇◆◇◆


「さてと。それじゃ現場の監督は皆さんに任せます。

 後日又来るので、それまでに資材の発注量は纏めておいて下さいね。」


 何とか日が傾くまでに打ち合わせを済ませ、急ぎ町に戻ります。

 宿の手配は事前に済んでいるので、今日はこの町の税収書類の抜き打ち検査を。

 町を回るなら序でにやれと、父に命じられた仕事でもあります。


 いや分かるんですけどね?一応この領の裏の支配者は私な訳ですし、去年の内に領内の諸々を把握して、いざとなったら両親を切り捨てられる程度には辺境伯領の家臣達を掌握しておく必要もあります。

 けどコレ、父が乗り気になってるせいで普通の後継者教育になってませんか?


「あの、お姫様ちょっと宜しいですか?」


「はい。何でしょう?」


 工夫監督の一人が書類を確認しながらの質問に、即座に私は問い返します。

 侍女や護衛達は身構えましたが、今の私は現場監督でもあります。

 一応領地の姫である事は承知の上ですし、身分を気にして経験的な違和感を口に出せなくなったら逆に困るのです。


「今回の工費って御領主様の支払いなんですか?

 それとも代官様の経費から引かれているんでしょうか。

 これだと手付の額が分からないんで……。」


「「「??」」」


 監督の言葉に関係者達ははっとした様ですが、逆に私達領主側での反応は皆揃いで首を傾げてます。


 手付。主に作業前に支払われる工事の違約、解約金として預ける金銭、ですか?

 今回の場合は徴用なので違約も何もなく、税金分の労役です。請求出来るのは実費であって、資材売買を担当しない監督達には……。


 状況とは不適切な言葉に対し、工事関係者は当たり前に納得したご様子。

 これは彼らに話を合わせた方が良さそうです。となるとこの場は。


「今回の経費の事ですか?

 取り合えず普段通りのやり方でどう計上しているか見せて下さい。

 途中途中で中断しながら話すのは二度手間ですし、一旦完成したのを修正する形で説明しますから。」


「へ、へい。ええと、それだと他の部署の連中は……。」


「あ。あなたの分だけ先で結構ですよ?

 どの道そっちにも向かいますんで。順番に。」


 本来こんな事言いませんがね。数がズレますし現場単位で経費を分けてないと成立しませんし。

 というより、現場監督が即金を必要とする筈も無し、日雇いみたいな請求の仕方するのは大分変だなと思っていたら。

 ほうほう成程なるほど、これはこれは手付ってつまりはそう。



「仕事の仲介料、お礼金。でしたか。

 馬車の手配や作業用資材の発注費は未だ分かりますけど、明らかに今回の仕事で不要な項目もありましたねぇ……。」


 現場監督達との打ち合わせが終わった後、馬車に揺られる中で一休み。

 振動はクッションを増やす事で多少はマシになりますので、多少なりとも休めますとも。本音を言えば私は馬車より騎乗の方が楽なんですけど。

 警備の負担と見栄を考えると、安直に馬車を否定出来ません。


「しかし、殆ど項目の意味を解ってませんでしたね現場監督達は。」


 どうも何か変だなとは彼らも思っていた様ですが、古い職人達はどうも何かと現代官の不評を買ったとかで遠ざけられているご様子。

 彼らの半数はトラブルによって世代交代が続出したため、引継ぎが満足に行えてないのが現状でした。


 何せここ数年盗賊達の活動が活発になり、被害に遭う商人達も増えて今迄のノウハウが通じなくなる事もしばしばだとか。

 現在代官館では常に人が溢れ、業務を優先的にこなして貰うには今回の様な手付が不可欠だというお話でした。


「これって賄賂ですよねお嬢様。」


 モーガンの問いにしかし、私は首を捻ります。


「微妙な線です。明らかに不要な経費が計上されているのは問題ですが、極論それは只の不首尾と確認不足ですから。

 手が足りないだけなら後出しで修正すればセーフと言えます。」


 ええ。領主側が無条件で受けたりせず、現場を見て不首尾を指摘すれば厳重注意で終わる話なんですよ。それをするために代官が派遣されている訳で。

 ですが報告が届いてないのは問題。盗賊問題で人手が割かれて業務が滞っているというのなら、報告さえしていれば領主側の対応すべき事柄なんです。


 ただ、意図的に黙っていたのならアウト。失態隠しですし。


 そしてコレ、手付。これも単品で見るとグレーです。

 商人同士なら内容次第で白黒変わりますし。本来の意味ならともかく、礼金替わりはアウト、と言いたいところですが。


「手付がセーフになるとしたら、業務外の仕事を頼んでいる場合です。

 本来の職務では間に合わないからと、余分に仕事を頼んだならその分賃金が発生するのは当然でしょう?依頼料を兼ねている場合が厄介ですね。」


 モーガンはうんうん唸って首を捻り。


「つまり、案件ごとにセーフの場合とアウトの場合があるって事ですか?」


「そういう事です。現段階では不正かどうか分かりません。

 なので先ずは、代官に揺さぶりをかけてみる事にしましょう。」


 ま。口先でボロを出してくれるなら話が早いんですが。

 そう簡単にはいかないんだろうなぁ……。

※続きは明日、11/04日投稿です。

 事実上の前後編。

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