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夢戻リダイアル  作者: やまは
現実七日、夢六日
39/63

二章 10夢 やるべきこと、やれること、やると決めたこと

 問題を先伸ばしにするのは、日本人の特徴なのか、ユミの癖なのか、はたまた人の性なのかは分からない。そういうものなのだ。先伸ばしにすることで、どこかに救いを求めているの――でも、答えを出す時は必ずやって来る。


 受け入れなければならない――現実を。

 捨てなければならない――夢を。

 生み出さなくてはならない――未来を。


 だけどいつの日にか、その答えでよかったと思える人生を送りたい。それは誰もが持つ『夢』だろうか。分からない。分からないから楽しくて、辛くて――怒って――泣いて――喜んで――そんなことを繰り返す。人生とはそういうものだと――生きる道というのは、そういうものなのだと――。


「……メトンさんには悪いけど、私はその話には乗れないよ」


 一人残ったユミはそう呟く。その道は既に捨てたのだ。悩んだ自分が情けない。悔しい。憎い。

 ――――あり得ない!

 そう。あり得ないのだ。『魔女』などという得たいの知れない者に、ユミは一ミリも興味、渇望を抱かなかった。異世界を堪能するのにその『力』は必要なのだろうか――否、それは必要ではない。

 今、彼女に必要なのは知恵だ。知識だ。知力だ。そのためにはまず、識字力を身に付けることが優先なのだ。

 ――そう、それだ。


 ――――文字を手に入れること。

 ユミ自身、すべきことはまずそれなのだ。他を置いてもまずはそれ。そうすれば自ずと、異世界――はたまた『魔女』。そしてコウのことも理解できるはずなのだから――。


「第一、魔女って何よ! アバウト過ぎるのよ! どんな設定よ! そもそも メトンさんなんて男の人だし……魔女っていうより魔男(まだん)じゃん――なにそれ」


 自分の新たな造語に自分自身でツッコミをいれる。

 何がしたいわけでもない。ただ、気持ちを落ち着かせたいだけ。怒りは外。冷静は中に。


「……何でメトンさんは、私がフィアさんと繋がってるって、知ってるの」


 その冷静さは次なる疑問を運んできた。

 魔女である指輪を持っているわけではない。その力を示したわけでもない。

 ユミは魔女に認められた存在。仮魔女であると、知り得ているのはこの世界線では四人のはずなのに。

 まずは門番の二人。アツリとサムヤだが、二人は魔女だと信じている。

 三人目は第二王子の側近のカイ。魔女であると告げている。

 そして最後は、第一王子のシギリだ。彼には仮魔女の証を投げつけた。


「……いるかな。アツリさんとサムヤさん」


 ユミは歩み始めた。城とは真逆の門へと。無意識でもそれは避けていると捉えられる――コウとの距離を。それは、ユミが問題を先伸ばしにしようとしている証でもあった。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 降りしきる雨の中でも、門番の二人はそこに立っていた。雨に打たれながらも、今も仕事の真っ只中と見てとれる。


「はぁ~。何で雨の中、こんなとこで突っ立ってなきゃなんないんでしょうね」


「それが俺達の仕事だからだろ」


 冷たくあしらうアツリ――その直後、サムヤは勢いよくくしゃみをかました。


「うぅ~さむっ。――最悪っすよ。雨降るんだったら、マント洗わなかったのに……」


「そういえばお前、マントはどうした」


「んー、えぇ? 昨日、ユミに貸したじゃないですか。あの後、アルメリアさんが洗濯するからついでに他のも出せって……それで――」


「……よっぽど、汚かったと見える」


「んなわけ無いですからっ! ちゃんと洗ってますよ!」


「じゃあ、手抜いてるってことだな」


「それは、否定しません。めんどいのは嫌いですからね」


「……お前。よくそれで門番が勤まるな。仮にも接する仕事だぞ」


「アツリさんこそ、対応の幅が広すぎるんですよ。あからさますぎるのはどうだか」


「無駄な体力を消耗する気はない」


「それで割り食ってるのは俺ですよ!? 分かってます?」


「お前の方が若いんだから、お前が率先して対応しろ」


「はいはい。いつもそうしてるじゃないですか。何を今さら――」

「――今、暇ですか?」


「へいへい。この雨じゃ、暇を上げたいぐらい暇ですよ~……何で後ろから――」


 ――バシッ、と。一発の雷という名のアツリの拳が、サムヤを直撃したのは言うまでもなかった。


「サムヤが失礼しました、ユミ様――ず、ずぶ濡れではないですか!?」


 謝罪の頭が上がるや否や、ユミの姿にアツリは仰天した。


「えぇ!? 何してのよユミ!?」


 ずれた防止を直し、サムヤもそれに倣う。

 それもそのはずだ。彼らにとってはユミは――魔女は信仰の対象なのだ。それでなくてもずぶ濡れの状態で登場したのだ。心配もする。それだけでも彼らの心というものが窺い知れる。


「あはは、色々あったというか何というか……お暇なら少し話しませんか?」


 明るい素振りでユミは煙に巻こうとしたが、


「いやいやいや、それどころじゃないでしょ!? 何言ってんだよユミ!」


「いったい何があったのですかユミ様。そのようなお姿で……流石に見逃せません。ご説明ください」


 サムヤとアツリはそれを許さず、詰め寄る。簡単に受け入れてくれるほど甘くはないのは分かっている。それでも説明するば理解してくれるはずなのに、


「……ごめん、説明できない。これは私の問題なの。こんな姿なのも私が望んだこと……」


 全てはユミが選択したこと。ここに至るまで、全て。だからこそ、彼らには説明できない。彼らにあらぬ心配事――迷惑をかけるだけ。もうすでにかけているような気もするが、そこはいい。

 説明して何になる。コウに手を上げたことを話して何になる――何にもならない。何にもならないのなら話しても無意味。


「……分かりました。ユミ様なりのお考えがあるのでしょう。これ以上はお聞きいたしません」


「……ごめんなさい」


「でも、そんな格好になってまで俺たちと話したいことってなんだ? 殿下もいるのに、カイさんだって――」


 ――バシッと、新たな雷がサムヤへと追加される。「察しろ、サムヤ」と、アツリはよく理解している。


「いったー! 何回やるんすかっ!」


「お前の脳を機能させてやってるだけだ」


「そんなの頼んでませんよっ!」


「ふふっ。やっぱり二人は仲良しなんだね」


 ユミはその光景思わず微笑んだ。ただ純粋に、今の彼らのやり取りが楽しい。ユミの心は少しばかりのゆとりを得た気がした。繋がっていてよかったと、心からそう思えるのだ。

 彼らがユミは魔女だと、メトンに話した張本人たちとはとてもじゃないが思えない。そもそも王城に魔女がいるということは、自然とシギリ――王と会っているはずなのだ。


 ――――なぜこんな簡単なことに気づかなかったのか。

 冷静とは程遠かった。話したのはシギリ。それだ。それしかあり得ない。


 人と人との繋がりとは、不思議な力があるような気がしてならない。だからここに引き寄せられたのか。そんな都合のいい解釈でしかこれは言い表せない。求めてしまったのだろうか、異世界で今一番心の底から笑える場所を。


「それで――ユミ様。お話とは?」


「ん!? うんうん、ごめん。その話はまた今度。二人と会ったら勇気が出てきたよ」


「えぇ!? それじゃあ俺、叩かれ損じゃん!」


「ごめんって、サムヤさん。次はゆっくり話せるといいね。――それじゃあ、お仕事頑張って下さい!」


 ユミは深々と頭を下げ、城へと走っていった。それはもちろんコウの元へ。どこにいるかなんて関係ない。しらみつぶしに探せばいい。彼はそこに――城にいると分かっているのだから――。


 繋がった糸を絶やすことは簡単だ。こちらから一方的にほどけばいいだけのこと。だが、それはもう紡ぐことを許されない。まだ許されるところにいる。まだ繋がっている。まだほどけていない。

 ――――だから行く。

 アツリとサムヤ――彼らのような関係になりたい。全てを偽りなく話せる関係に。信頼し、信用できる関係に。言葉でなくても伝えられる関係に。それはもちろん、コウだけでなくカイもアルメリアも同じだ。


「何だったんですかね? ユミのやつ」


 まるで嵐のように現れては消えていったユミに対しての疑問を、サムヤはアツリへと投げ掛ける。


「さぁな。ただ――」

「ただ?」


「――魔女様はこんな一介の兵に過ぎない俺達でも、ちゃんと名前を憶えてくれるんだなって」


「……そうっすね。感慨深いですよね、あの魔女様に名前を覚えてもらえるなんて……改めてそう思いますよ」


「あぁ。そんな高貴な人達に名を覚えてもらえるなんて、コウ殿下以来か?」


「まぁ、て言ってもまだ一日しか経ってないですけどね。それで忘れてたらユミは馬――」

「――それ以上は止めろ」


 本日三発目の雷がサムヤに下ったことを、ユミは知るよしもなかった。

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